キリオ「有馬温泉といえば、愛媛の道後温泉、和歌山の白浜温泉と並ぶ日本三古泉として知られてるでにゃんすね」

キリオ「京都・大阪からのアクセスが抜群で腕の良い大工たちが集まったため、当時はまだ珍しかった3階建ての温泉宿が次々に建てられたそうで……」

キリオ「しかし、大きな建物にはいろいろと問題が生まれるもの。今回はそんなお噺でにゃんす」

愛『すっごーい！あたしこんなお宿初めてですー！』

絵理『本当に泊まれるの……？お金、大丈夫……？』

涼『この街の親分さんからの招待だからね。私たち“晩南無一座”も名が売れてきたってことさ』

愛『涼さん絵理さん、早く温泉行きましょう！』

涼『いや、私は部屋に荷物を置いてからにするよ。二人のぶんも預かるから先に行ってて』

愛『えー？涼さんいっつもそう言って一緒に入ってくれないじゃないですか』

絵理『この前も私たちがお風呂から上がったタイミングで来た……避けられてる？』

涼『た、たまたまだよ……なるべく早く行くから、ね？』

愛『ぶー。絶対来てくださいね！』

ｽﾀｽﾀ

涼(……はあ)


涼(さすがにそろそろ遅刻の理由をでっちあげるのが難しくなってきたな……今日は酔っ払いに絡まれたことにしようか)

涼(二人には悪いけど、一緒にお風呂に入ったりしたら絶対にバレちゃうよ)

涼(あーあ、おっきな手ぬぐいを体に巻いてお風呂に入れないかなあ。そんなことしたら三助さんに怒られちゃうけど)

キリオ「今でこそタレントが体にタオルを巻いて温泉に入るシーンがよく放映されますが、タオルが本格的に輸入されるようになったのは明治時代からと言われております。いや～、いい時代になったもんですにゃ～」

キリオ「あ！テレビの取材でもないのにタオルを湯船に入れるのはマナー違反ですぞ！」

～一刻(2時間)後～


涼『愛ちゃん、機嫌なおしてよ……』

愛『ぶう～』

涼『あのおじさんしつこくてさ……“なにか芸を見せやがれ！”って放してくれなかったんだよ……』

愛『ぶっすぅ～』

絵理『涼さん……将棋盤と駒、借りてきた……』

涼『ありがとう！ほら愛ちゃん、一局勝負しようよ。将棋好きでしょ？』

愛『……わかりました。約束破った涼さんなんかボコボコにしてやりますから！』

～四半刻(30分後)～


愛『あははは！涼さん弱すぎ～！』

涼『相変わらず強いね……うっ』ﾓｿﾞﾓｿﾞ

絵理『もしかして……厠？』

涼『うん……ごめん愛ちゃん、ちょっと行ってくる』

愛『逃げたらダメですよ？』

涼『わかってるって』

ｶﾞﾗｯ

キリオ「さて、この時代の厠、つまりトイレは基本的に建物の1階にしか無かったでにゃんす。今で言うボットン便所が主流なので数を増やすことも難しく、大きな旅館であっても1つ2つが限界。となれば……」

涼『うう……人が多すぎて行列になってる……我慢できないよお……』


？？『……ん……しょん……』


涼『あれ？窓の外から変な声がするぞ……？』

ｶﾞﾗｯ


？？『しょんべ～ん。しょんべん屋はいかがかね～』

涼『あの、すいません！なにしてるんですか？』

男性『聞いてのとおりしょんべん屋だよ～。ほれ、この長～い竹の筒を渡してあげるからそん中にしょんべんすれば2階3階からでも用を足せるって寸法さ～。1回十六文だよ～』

涼『有馬にはスゴイ商売があるんだな……でもこれで助かった！1回お願いします！』

男性『そんじゃこの桶に金を投げてくれ……ってアンタ女の子か！突っ込むものが無いとちょっと難しいんじゃないかい？』

涼『もう我慢できないんです！早く！』

男性『しょうがねえなあ……こぼさないようにやってくれよ？』

涼『わかってますから！おじさんこそ絶対に見ないでくださいね！』

男性『はいはい、下向いてるから終わったら声かけてくれ～』

涼(ふう……危なかった……)

涼(まったく、男に生まれて良かったよ……早く済ませて部屋に戻らないと……)

涼(やば、我慢してたからなかなか終わらない……)




愛『……涼さん？』

涼『！！！？』

愛『なに……してるんですか？それって……』

涼『いやっ！そのっ！これはっ！』

絵理『……なるほど……ね』


涼(お……終わった……)

愛『……ぷっ』

絵理『ふふっ……ふふふっ……』

涼『え？』

愛『ごめんなさい！あたしたち薄々気づいてたんですよね。涼さんが男の人だって』

絵理『いろいろと変な言動が多すぎたし……ばれないほうが、不自然？』

愛『でも全然気にしないです！ずっと一緒に旅をしてきて、涼さんが信頼できる人だってわかってるから！』

絵理『男の用心棒さんがいたほうが……道中安心？』

涼『二人とも……！』

愛『でも、思ったより……ぷぷっ』

涼『なに？どうかしたの？』

愛『その……涼さんって、“カワイイ”なって♪』

涼『！？』

絵理『そうだね……とってもカワイイ……ふふっ』

涼『あ……あ……』

涼『ぎゃおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん！！！』

キリオ「いやいや、秘密を隠し通すのは大変なことですにゃ～。涼クンのプライドが砕け散ったところで、アイドル版“有馬小便”はお開き！おあとがよろしいようで……」

ﾊﾟﾁﾊﾟﾁﾊﾟﾁ

一希「なるほど、古典落語をこうアレンジしてきたか。いい出来だ」

大吾「江戸時代の暮らしの解説もあってためになる話じゃったわい！」

キリオ「落語は笑って学べる歴史の授業でにゃんすからね～。人気アイドル達が登場することによって親しみやすさもアップ！これはバカウケ間違いなしですな～！」

涼「……ねえ。僕はともかく愛ちゃんと絵理ちゃんを巻き込む必要はあったのかな？」

キリオ「実を言うと、今回の噺の参考にするために876プロまで行ってお二人に取材して来たでにゃんす！涼クンの正体がバレたときにあれこれしちゃった時のこととか、いろいろと興味深いお話がきけましたぞ～」

涼「へえ……そっか……あの時のこと……聞いちゃったんだ……」


ﾌﾟｯﾂｰｰﾝ


一希(お、久しぶりに涼の何かが切れる音がしたな)

一希「大吾、ちょっとトイレに付き合ってくれ」

大吾「おお！ちょうどワシも行きたかったとこじゃ！」

一希「せっかくだし、今の噺に則って1階のトイレまで行こうか……なるべく距離をとったほうが安全だからな」

キリオ「にゃ？」

一希「キリオさん。とある映画に“科学者はできるかどうかだけ考えて、やるべきかどうかを考えない”という台詞がある。落語家の世界でも同じかもしれないな」


ﾊﾞﾀﾝ


キリオ「いったいどういう意味……」

涼「出て来いっ！エアロスミスっ！！」

ｽﾞｷﾞｭｳｰｰﾝ!

涼「ボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラボラーーッ！！」

ｽﾞﾄﾞﾄﾞﾄﾞﾄﾞﾄﾞﾄﾞﾄﾞﾄﾞﾄﾞﾄﾞ!!

キリオ「ヤッダーバァアァァァァアアアアア！！？」


涼「ボラーレ・ヴィーア！」

ﾄﾞｯｷﾞｬｱｱｱｱﾝ!

（燃えるごみは月・水・金）

お　し　ま　い

上方落語はけっこうお下劣なネタがあって面白いですよね