のり子「…………」

歩「おっ！おはよう、のり子！」

のり子「へっ！？あっ、あぁ……おはよう……」

歩「いつでも『おはよう』って最初は不思議だったけどさ、慣れるとこれはこれでいいもんだよね～。」

のり子「うん、そうだね。」

最近歩とうまく話せない。
話しかけられるとドキッとする、驚きとかそういうのとは違う感じに。
それに気が付くと歩のことをなんとなく目で追っていたりする。
アタシは歩のことを……

歩「のり子はもうお昼食べた？のり子？おーい、のり子～？」

のり子「やめやめ、アタシらしくもない！」

歩「うわぁっ！どうしたの？急に大きな声出して。」

のり子「え……？えーっとなんでもない……かな？」

歩「ほんと？悩み事とかあったりしない？大丈夫？最近いつもののり子と違うように見えるときがあるから心配だよ。」

のり子「……大丈夫、悩みもないしちゃんと元気だよ！平気だから心配しないで！」

相手に信じてもらう為には真実と嘘を混ぜるといいって前にアタシのプロデューサーがけらけら笑いながら言ってた。
だからこれは半分ウソで半分ホント、確かに悩んでいる事はあるけどアタシは元気だ。
元気だと思う、多分。
本気で心配してくれている歩相手に嘘をつくって結構心が痛む。

歩「……のり子がそう言うなら信じるけど、何かあったらいつでも言ってね？」

のり子「うん、ありがと！」

歩「じゃあアタシはレッスン行ってくるからまたね！」

のり子「うん、またね！」

かなり上手く他の子と話すときのアタシを演れていたと思ったけどやっぱり少しぎこちない。
歩には気付かれているような気がする、なんとなく。
『今は言えないことなのかな』とか『このみさんや千鶴さんの方が話しやすいことなのかな』とか色々考えたのかな。
そうだったらまだいいんだけどもしかしたら傷付けちゃったかもしれない。
だとしたら…………

Ｐ「よう、のり子。」

のり子「ん"ん"っ"…！？」

Ｐ「おわっ、どうした！？気管に唾でも入ったか！？」

のり子「えふっ…ん、大丈夫！ちょっとびっくりしただけだよ！」

Ｐ「そうか、なんかごめんな。考え事してたのを邪魔しちゃった感じか？」

のり子「あぁー……まぁ、考え事というか悩み事というか……」

Ｐ「話せそうなら聞くけどそんな感じではなさそうだな。」

のり子「そうだね、ちょっと話せないかな……あのさ、プロデューサーが前に話してた嘘と真実の話って覚えてる？」

Ｐ「覚えてる覚えてる、なんだそれがどうかしたか？」

のり子「あれってだいたいどれくらいの割合がいいとかあるのかなって聞きたくて。」

Ｐ「本当のことが8割、嘘が2割だな。関係性によって多少変わるかもしれないけど経験上はこれがベストだ。」

のり子「……そっか、ありがとうプロデューサー！」

Ｐ「まあ、あまりに近しい間柄だと上手く作用しないこともあるんだけどな。」

ベストな割合とは全然違ってた、しかも近しい間柄だと効かないかもって……もしかしたらかなり大変な状況かも。
やっぱりなんとなくしか覚えていないことをその場をしのぐために使うのは無理があったみたい、ちょっと前のことなのに何年も苦しめられているトラウマみたいな痛みと後悔が襲ってくる。

Ｐ「じゃ収録行くか、早めに来てたみたいだし準備は問題ないよな？」

のり子「もちろん、バッチリだよ！」

Ｐ「悪乗りする人が多いし特番だしで多分かなりの長丁場になると思うけど頑張れよ、送ったらすぐ別のとこ行かなきゃいけないけど応援してるぞ！」

のり子「ありがと！思いっきりぶつかってくるよ！」

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Ｐ「お疲れさま、予想通りかなり長引いたけど……」

のり子「なんとかやれた、かな？どうなるかはわかんないけど全力は出してきたよ！」

Ｐ「そうか、よかったよかった。正直今日は心配してたけど大丈夫だったんだな。」

のり子「あ……」

Ｐ「ん？どうした？」

のり子「なんでもない、ちょっとね。そうだ、特に買いたいものとかもないから真っ直ぐ帰って！」

Ｐ「……じゃあこのまま送ってくぞ。」

疲れた、今までアイドルとしてやってきたなかでも上位に入る疲労感。
もうしばらくはやりたくないと思ってしまう、オファーが来たらまた全力で頑張るけど。
ただ、目まぐるしく変わる状況についていくこと、そしてその中で自分を出すことに必死になっていたからか収録前の痛みや後悔は襲ってこなかった。

それだけはありがたかったかも、逃げてるだけかもしれないけど少し楽になれた。
そして今はそれが再び襲ってきてる。やっぱり辛い。
でもあのとき傷付けちゃったかもしれない分、アタシもこの痛みに向き合ってちゃんと全部まとめて答えを出さないといけない。

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のり子「どうしようクラウザー号……」

クラウザー号「……」

1人では向き合う自信がなかった、だから今こうしてクラウザー号といるんだけれどやっぱりバイクは言葉を発せない。
アタシはなんとなく「調子悪いな～」とか「機嫌良さそうだな～」とかはわかるけどその逆はやっぱりダメだった。

のり子「こういうことでクラウザー号に頼ってもどうにもならないよね……」

自分のことなんだから自分でケリをつけなきゃ。
最近アタシは歩と上手く話せなくてそれで今日もまた悩んでた、それでいきなり歩に話しかけられてまた自分の想いに気付きかけたところでアタシらしくないって……


のり子「……逃げてたんだなぁ、アタシ。」

自分でも『わたしらしさなんてわたしだってわかんない』って歌ってるのに向き合うのが怖くて『らしくない』ってことにして逃げた。
何が『らしさ』かはわからないけど後ろ向きな理由に使うのはダメ…だと思う、たぶん。


のり子「向き合わなきゃ、歩にもアタシの気持ちにも。」

覚悟決めろアタシ。
いや……でも、急に言われても向こうも迷惑かもしれないな、うん。
……とりあえず話しかけるだけ話しかけよう。


のり子「明日のことは明日のアタシがなんとか……してくれるかなぁ……」

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歩「へぇーワサビってWASABIで通じるんだぁ、すごいなぁワサビ……」

のり子「あ…歩っ…！」

歩「あっ、のり子！おはよっ！」

のり子「お、おはよう、歩に話したいことがあるんだ。……いいかな？」

歩「うん、いいよ。ちゃんと聞くね。」

のり子「あのね、アタシ昨日歩と話したときに嘘をついちゃって。ほんとは悩みがあったんだけど『ないよ』って。」


話しかけてみたら意外と言葉はすらすら出てくるなぁ……なんて他人事みたいに思う。
多分このままだとマズいだろうなぁとも。

のり子「それでその悩みは歩に関することで、あのときは歩には言えなくて。『元気だよ！』とか『心配しないで！』って誤魔化そうとして。その……ごめんね？」

歩「謝んなくてもいいよ、この人には言えないけどあの人には言えるってこと、アタシにもあったからさ。」

のり子「そっか、そうだよね。考え過ぎだったかな。」

歩「うんうん、考え過ぎ。でものり子がアタシのことそんなに大切に思ってくれてたって考えると嬉しいかもなぁ。」


あぁ、これはもうダメかもしれない。
ブレーキが利かなくなる。

のり子「……大切に思ってるよ、歩のこと。すっごく大切に思ってる。」

歩「えぇっ、どしたののり子。」

のり子「アタシさっき歩のことで悩んでたって言ったでしょ？」

歩「うん、でもそれはアタシには言えないって。」

のり子「……あのときは言えなかった、言える気がしなかったけど今はもう大丈夫なの、……言わせてほしいの。」

のり子「……アタシ、歩のことが好きなの、友達としてとかユニットの仲間としてとかアイドルとしてとかじゃなく。前向きで、自己管理を徹底してて、たまにへにゃへにゃになるけど、決めるときはしっかり決める、そんな歩のことが好きなの。」

のり子「昨日歩に嘘をついてから色々考えて、『らしさ』を盾に逃げてた自分に向き合って、正面からぶつかって、やっと答えを出せたの。だから……その……ずっとアタシのそばに……いてほしい……です……」

伝えてしまった。


声はどんどん細く小さくなっちゃったけど好きだって。

歩「そっか、ずっと悩んでたんだ……そっか……」

のり子「ごめんね急にこんなこと言われても迷惑だよね、やっぱり忘れ」

歩「迷惑じゃないし絶対に忘れない。のり子が勇気を出して伝えてくれた言葉だもん、忘れたりしないよ。」

のり子「あぁぅ…」

歩「……アタシものり子のことは好きだよ。だけどのり子がアタシに感じてるのと同じ種類かは、正直に言うとわかんない。」

歩「それに、これからのことはわからないからずっとのり子のそばにはいられない。」

のり子「そう……だよね……」

歩「でも、アタシさ。のり子に好きって言われていつもと違う何かもあってさ。」

歩「だから、この気持ちがなんなのかわかるまで、それまででもよかったら、のり子のそばにいてもいいかな？」

あぁ、アタシはこの優しくてふにゃっとした笑顔が大好きで歩のそばにずっといたいなって思ったんだ。

Fin

スマホからなんで長くなっちまって申し訳ない

こういうタイプのは書いたことなかったんで生暖かい目で見てくれると嬉しいです

乙
やっぱのり子が彼女側やね

乙
今どき珍しいドストレートな百合でたまげた
でも甘くていいっすね

王道のためらい葛藤よかった

ふにゃハマン