プロフェッショナル~白石紬、探偵への道~
1 : 情熱大陸P   2020/02/21 19:00:13 ID:wsfzMHZUcI
BGM:Progress
脳内に紬が降りてきたからTB振り返り企画を今さら実行
設定に合わせるための多少の演出あり
ミスあったら紬で罵倒するかなんやいねしてくれ
じゃ、ゆっくり行きます
2 : ザ・ノンフィクションP   2020/02/21 19:02:59 ID:wsfzMHZUcI
『THE@TER BOOST』
 2017年12月16日より始まった、39プロジェクト始まって以来の大規模ファン参加型イベント。
 数々の名勝負と伝説を残したそのイベントの中でも一際異彩を放ったある新人アイドルがいた。
 白石紬(17)
 石川県から不意打ち気味もとい彗星のごとくやってきた彼女は、当時まだアイドルになって半年程度の垢ぬけない少女だった。
3 : 熱闘甲子園P   2020/02/21 19:04:06 ID:wsfzMHZUcI
「もしかして、あなたは……バカなのですか?」
 ――深読みしすぎては失敗し。
「なんなん!?」
 ――芸能界の勝手の違いに困惑し。
「もう、やめてくださいっ!」
 ――仲間との衝突も経験する。
 右も左もわからない中で、手探りで夢を追い始めた彼女。
 これは、そんな少女の戦いの記録である――
4 : der変態   2020/02/21 19:18:40 ID:S8XsU7uSEg
複雑!でも期待!(百合子P)
5 :   2020/02/21 19:29:38 ID:wsfzMHZUcI
 2017年12月半ば。
 伝説の始まりはこの一言だった。
「紬。今回のイベント、15役同時にアピールしてくれないか?」
「もしかして、あなたは……バカなのですか?」
 無茶苦茶なPの言葉に心配気味の声を返す紬。しかし、続く言葉にその表情が固まる。
「いやそれがな、紬が全役でランクインしてるんだ。複数当選が見えてきてる。まあ一人一役ルールなんだが、話題にもなるしどうせならこのまま突っ走ろうかと」
「!?」
6 : あ、名前ネタ忘れてたP   2020/02/21 19:30:54 ID:wsfzMHZUcI
 紬の得票は誰もが想定しなかった形だった。
 同じ新人アイドルの桜守歌織が自然と一本化していったのとは正反対に、全役にランクインするという人目を惹くスタートを切ったのだ。
 当時『15冠王』『15兎を追う女』とネタにされたその出来事は、当時の紬に大きな負担を与えた。
 役を絞れなければどうアピールすべきかもわからない。他のアイドルならまた違ったかもしれないが、自分は新人。アピールの経験自体に乏しい。そもそも15役も同時にアピールするなんて新人アイドルの自分にできるのだろうか?
 元来自己評価の低い面がある紬が出した答えはある種予想通りのものだった。
7 : つむつむつむってる   2020/02/21 19:59:23 ID:wsfzMHZUcI
「うちには……」
 15役もできない――しかし、その弱音を吐きかけた紬の脳裏に同僚アイドル永吉昴の言葉が蘇る。
『三冠王っていうけどさ、盗塁とか二刀流とか、全部極めれば十冠王もいけるよなー』
「!」
 それはたわいもない雑談。BCリーグしかない石川県出身の彼女にプロ野球を布教していた昴がなんとはなしに言った言葉。
 しかし、今の紬には天啓に思えた。
 野球というプロ競技でもできるなら、アピールでもできるのではないかと。
 なお、プロ野球でそれをするのは事実上不可能だと明記しておく。
9 : つむつむつむってる?   2020/02/21 20:29:58 ID:wsfzMHZUcI
 しかし野球に詳しくない紬は昴の言葉を『実際にできる』という意味だと勘違いし、勝手に勇気づけられた。
 前を向いた心に、かつてPが言っていた言葉が浮かんでくる。
『できないと思ったら千鶴さんみたいに胸を張れ。アイドルだって(自分に)見栄を張るんだ。気高くあれば、(心は)本物になれる』
 ……できないかもしれない。でも、もしできるなら。
 自分は、本当のアイドルになれるんじゃないか。
 紬は、覚悟を決めた。

「15役同時アピール……うちはやってみせる」
10 : つむつむつむってる!   2020/02/21 20:32:25 ID:wsfzMHZUcI
(トゥーン……)※全画面黒地白抜き文字のアレ
 "15役だって、やってみせる"

 決意を固めた紬にPからの声がかかる
「紬、やっぱり一つに絞ろうってことで探偵狙いに決まったぞ!」
「もう、なんなん!」
11 :   2020/02/21 21:15:23 ID:SDfygoEPpY
何だろう、このドタバタコメディ感
12 : つむつむつむつむ?   2020/02/21 21:31:33 ID:wsfzMHZUcI
 ばらけていた白石陣営は探偵狙いに決まった。
 勝算は、あった。
 15役ばらけてもランクインしたということは、それほどまでに票数が多かったということだ。
 迷探偵南々の勘違いミラクルショットもとい援護射撃を受け、探偵役への集約は一週間足らずで成功した。
 一点集中させれば勝利は十分に見込めるはずだった。
 ──探偵役でさえなければ。
13 : つむつむつむつむ!   2020/02/21 22:08:54 ID:wsfzMHZUcI
 探偵役を争う相手の内、松田亜利沙とみち…ロコは早々に脱落、別の役に照準を合わせた。
 真壁瑞希はある程度まで粘っていたが、紬の本格参戦と入れ替わるように髭もとい支配人に狙いを絞る。
 しかし、一人のアイドルは探偵役に狙いを絞った。
 そのアイドルは、七尾百合子。
 前回の最多得票者、今回誰もが挑戦を躊躇った最有力候補の一人。
 彼女の票田はさながら国会図書館の蔵書の如く。無尽蔵とは言わずとも、並大抵の力では抗しきれない。前回はあの望月杏奈すら押し切った物量の持ち主だ。
 前評判の時点で百合子に票田で勝てるかもと思われたアイドルなど、それこそ今回猫役で宮尾美也と伝説に残る大激戦を繰り広げた北沢志保くらいのものだろう。
14 : つーむつむつむ   2020/02/21 22:26:56 ID:wsfzMHZUcI
 そんな最強の勇者への挑戦。
 傍から見れば無謀としかみられなかったのも仕方のないことだった。
 まして当時の紬は新人アイドル。15冠王からわかるように、皆の中のイメージすら一致していなかった。
 一方の百合子は読書好きで推理小説も嗜むことから(ポンコツ)探偵というイメージにぴったりと嵌まっている。
 イメージすら固まらない新人アイドルが、この悪条件で前回の伝説に挑んだのだ。
 探偵役は百合子で決まり――そんな空気が早々に漂い始めた。
 よりにもよって探偵役を選んだ白石陣営の選択は愚策と笑われてしまう。
 その愚策が大激戦を生み出すことになるとは、まだこの時は誰も想像していなかった。
15 : つむ、つむつむ!   2020/02/21 22:41:46 ID:wsfzMHZUcI
 話は変わるが、白石紬にはある口癖がある。
 取材班も何度か耳にした、非常に印象に残る言葉だ。
 Q.『あなたの口癖はなんですか?』
 紬「急になんなん!?」
 彼女は、ちょうどお気に入りのあんみつを食べようとした瞬間を狙った取材班の質問にも快く答えてくれた。
16 : つむ、つむ。つむ?   2020/02/21 23:49:55 ID:wsfzMHZUcI
 彼女の代名詞『なんなん』
 白石陣営は、それに目を付けた。
 ミリオンライブも連載されたゲッサンの同系列週刊誌に連載している、超有名な少年探偵の姿に身をやつして事件を振り撒く米花町の死神を思わせるそのフレーズに合わせたアピールに打って出たのだ。
 こうして生まれたのが『名探偵ナンナン』
 これが、ヒットした。
 まっさらだった紬に(ポンコツ)探偵というイメージが定着し、百合子優位の状況が揺らぎだす。
 広まったアピールが一気に票を引き寄せ、12月23日、紬が探偵役一位に躍り出る。
 見上げていた百合の花を、瑠璃色金魚が飛び越した。
17 : つむつむー!   2020/02/21 23:51:35 ID:wsfzMHZUcI
今日はここまで
続きは明日
読んでくれてる人ありがとう
18 : つむ?   2020/02/22 16:48:50 ID:sp0S6i9aLE
再開します
19 : つ、つむー!?   2020/02/22 16:49:45 ID:sp0S6i9aLE
 一位を取った紬は12月終盤までその座を維持。それどころか少しずつ二位の百合子との差を広げていく。
 しかし、最強の勇者がいつまでも黙っているはずがない。
 十分な票田がありながら引き離されるということは、ここぞという一撃のために溜め込んでいるということ。
 2018年の初めも初め、年越しのまさにその時。
 他の役と比べても早期に行われた大規模一斉投票企画が実行された。
 まさに年越しのその瞬間を狙って打たれた作戦は見事に決まる。
 この時に七尾陣営が見せた風速は凄まじく、猛烈な勢いで差が詰まっていく。
20 : つ、つむ…   2020/02/22 16:54:17 ID:sp0S6i9aLE
痛恨のミス!
一斉投票1/1の0時からだと思ってたけど12/31からだった!
お詫びに投票企画の画像張ります。百合子が可愛いから持っといたんだけど、残してて良かった。
あとで訂正版張ります
21 : つーむーつーむー   2020/02/22 17:08:32 ID:sp0S6i9aLE
 一位を取った紬は12月終盤までその座を維持し、12月26日にはなんと全役最速で10万票に到達。その話題性も後押しして紬の票がさらに伸び、この頃からそれまでぴったりついてきていた百合子との差を少しずつ広げていく。
 しかし、最強の勇者がいつまでも黙っているはずがない。
 十分な票田がありながら引き離されるということは、ここぞという一撃のために溜め込んでいるということ。
 2017年最後の日、大晦日に突入したまさにその時。
 七尾陣営による大規模な一斉投票企画が実行された。
 他の役と比べても早期に行われたそれは、狙っていたのか偶然か前回大激戦を繰り広げた望月杏奈とほぼ同じタイミングで発動され、見事に決まる。
 この時に七尾陣営が見せた風速は凄まじく、猛烈な勢いで紬と百合子の差が詰まっていった。
22 : つーむ、つむつむー!   2020/02/22 17:45:54 ID:sp0S6i9aLE
 しかし、これはマズいかと白石陣営が焦り始めたところで、何故か風が止んだ。あれだけ勢いのあった増加が突然緩やかになる。
 票が尽きたのか? 時間で区切っていたのか? 追う方が有利と踏んで追いつかない程度で止めたのか?
 状況がわからないまま、白石陣営は不気味な無風状態を享受するしかなかった。
 一斉投票の影響か、年明け後は元のようにじりじりと紬が引き離していく展開が続く。
 これで終わりなのか? あの百合子がこの程度なのか?
 そんなわけはないと誰もがわかっていた。しかし、次に何をしてくるかがわからない。
 そして『それ』は全く想定していなかった方向からやってきた。
  CMの後『風の戦士が波乱を巻き起こす!?』
23 : Pたん   2020/02/22 18:11:21 ID:FtNUKqJZRQ
プロフェッショナルなのにCM?
24 : cv若本規夫   2020/02/22 18:20:52 ID:sp0S6i9aLE
『今回のォ、アイドルマスタァミリオンライブゥは、このォ、二チームゥ!』
(♪遠い輝きがー!)
『クレシェンドブルゥゥゥ! レッスンに超集中したい志ィ保ォと、チーム内の調和を、頑なに守りたい静香が、GE☆KI☆TO☆THU!』
静香「でも、そういう言い方ってないんじゃない」
『そして・・・』
(♪ARE YOU READY? LOVE!&SOUL! 届けたいよー)
『エターナルハーモニー!』
『ぶぅれることのない信念を貫くジュリアを横目に、リーダーとしての自らの存在感に、激しく動揺する千ィ早ァ』
千早「私は、リーダーをやめます」
『果たして、プラチナスタァァライブの幕はァ、開くのかァ?! プロデュゥサー諸くぅん、今すぐアクセスゥぅ』
25 : 言われてみればそうやいね!   2020/02/22 18:23:21 ID:sp0S6i9aLE
>>23
言い訳の余地のない突っ込み…
うん、ミスやいね。ごめんなさい。
あれだ、N○Kがデストルドーに脅されてミリオンのCMを流しているってことにしよう。
26 : プロデューサー   2020/02/22 18:28:34 ID:hBhAEkL8V2
またしてもデストルドーの仕業か!許さん!
(歌織フィギュアを下から覗き込みながら)
27 : cv千葉繁   2020/02/22 18:47:05 ID:sp0S6i9aLE
『アイドルマスター! ミリオンライブウウウ!』
(♪こうやって色んなスナップショットを)
『シーズン3を迎え、新たなユニットが誕生。名前はぁ、リコッタァ!?』
『そいじゃあ、11歳の桃子ちゃん、カメラに向かって一言』
桃子「みんなプロ意識低すぎ」
『ヴァあああああ!』
奈緒「大変や! 桃子が、桃子が!」
『一体何がリコッタ!? あいやいや、起こったのだあ!?』
『ちょっとストップストップゥ』
テロップ(しばらくお待ちください。)
『もっとさあぁ、強い名前のユニットはないのぉ? クラァァッシュデビルズとかさあ……ん?』
28 : cv千葉繁   2020/02/22 18:48:33 ID:sp0S6i9aLE
『次は強そうなユニット名だぞお?』
『灼熱少女!』
(♪アツいアツい情熱が)
『個性燃え滾る灼熱の少女達! それぞれの特技で天下を取る時、来たる!』
『ねえねえ、リーダーの琴葉ちゃん、こっちは大丈夫だよね?』
琴葉「恵美! 逃げるの?」
恵美「別に。好きなように思ってくれていいから。じゃあね」
『おいおい! すれ違ってちゃ天下は取れんぞお!?』
『世紀末もひっくり返る大騒ぎアイドル伝説! どおおおーにもこうにも、どうなっちゃうのこれええ!?』
奈緒「これは、波乱の予感やで」
『ほんまやで!』
29 : cv阿澄佳奈   2020/02/22 19:10:57 ID:sp0S6i9aLE
『宇宙一のストーリーテラーと名高い私が、この日のために書き下ろした究極のストーリーをお届け』
『それじゃ、張り切って? 行ってみよー!』
(♪クールも カワイイも 叶えてゆける)
『ついに765回目を迎えたプラチナスターライブ!』
歩「え? いきなり何言ってるんだよ」
『菊池真率いる悪の軍団が、世界征服を企む!』
真「ちょ、ちょっと待ってよ」
『しかぁーし! 地球を守るためにやってきた謎の少女は宇宙人だった!?』
雪歩「それこそ絶対だめぇ!」
可奈「バカバカ、バカかなー!」
『バカあ!? 今バカって言ったあ!?』
あずさ「で、では、失礼します」
真「BIRTH! レディー、ゴー!」
30 : cv阿澄佳奈   2020/02/22 19:13:04 ID:sp0S6i9aLE
『かなって…ああーそっちの可奈ちゃんね。まいっか、気にせず行ってみよー!』
真美「待ってましたあ!」
(♪ハチャメチャを まるっと 楽しんじゃってー)
真美「共倒れの覚悟は出来てるっしょー!」
『え、共倒れ? え、ちょっとどういうこと!?』
ひなた「きっとファンのみんなも、びっくりするべさー」
『私がびっくりだよ! 共倒れは嫌! ボケさせてぇ!』
美奈子「ほらほら、険悪になったらだめですよ」
育「私もできることがあったら、お手伝いするよ!」
『あ、じゃあ突っ込んでもらって、ってちっちゃくてかわいいいいいい!』
このみ「それって一体誰のこと(怒)」
『はっ、こっちもちっちゃくてかーわーいーいー! ちょっと、ファミレスで働いてみない?』
31 : cv阿澄佳奈   2020/02/22 19:15:09 ID:sp0S6i9aLE
真美「こうして、二人の間には仄かな恋心が芽生えたのだった」
『芽生えてないよ!』
このみ「さあ、ミックスナッツ! アダルティに決めるわよ!」
「「「「おー!」」」」
『ハラハラドキドキ! 彼女達に這い寄る危機!? シーズン4も見逃せない!』
『え? 本当のストーリー? それは、プレイしてからのお・た・の・し・み!』
このみ「みんな、期待して待ってなさい!」
『やだかわいいー! あ、でも私にはやよいたんがっ! あ、もうみんなかわいいー!』
32 : つむーつむ   2020/02/22 19:17:04 ID:sp0S6i9aLE
CMネタで疲れたのでちょっと休憩。
次からCM明け。
このCM今見てもロックすぎる。なんでこの時期のCMだけこんな弾けてたんだ。
33 : つ、つむ!?   2020/02/22 20:45:55 ID:sp0S6i9aLE
 2018年1月3日。
 この日付けだけでティンときたPも多いだろう。
 この日、風と一つになったたった一人の戦士が全国のPの背中と指を押した。
 白石陣営にとってそれは晴天の霹靂に他ならなかった。
「まずいぞ、紬! 百合子の方に凄腕のPが現れた!」
「それは、仕事を取ってくるのが上手い方ということでしょうか?」
 深読みしがちな紬にしては素直な解釈──しかし、そういうときに限って現実は斜め上を行く。
「いや、長距離を走るのが物凄く速いPだ」
「それは陸上選手ではないのですか!?」
 もっともな突っ込みだが、驚いても結果は変わらない。
 平塚から戸塚へ吹いた一陣の風は、さながら箱根駅伝八区で区間賞を獲得するかのように大きく離れていたはずの紬と百合子の差を記録的な勢いで詰めていく。
34 : つむ…つむ…   2020/02/22 21:32:39 ID:sp0S6i9aLE
 年明け直後というタイミングも百合子の追い風となった。
 区切りとなる2017年が終わる頃には新ヒロインが田中琴葉に、支配人が真壁瑞希に、スタアが周防桃子に、右腕クイーンが横山奈緒に、先輩が高山紗代子に、長女は桜守歌織に、それぞれ当確という空気が流れていた。
 そうなると彼女達を含め該当の役で争っていたアイドルに行くはずだった票が浮くことになる。持て余した票の行き先を決めるのにこれほど美味しい出来事はなかった。
 誰もが構えていなかった方向からやってきた2018年最初の旋風は大量の浮動票を一気に巻き込み、百合子の背中を強く推す。
 区間記録こそ後の北沢志保による30分6万票という驚異の大火力が持っていったものの、P以外にまで広まった話題性は今イベント最高のものだっただろう。当時の時点での瞬間最大風速は比べようもないものだった。
35 : つむつむ、つむつーむ!   2020/02/22 22:19:50 ID:sp0S6i9aLE
 これほどの大旋風、追われる側のプレッシャーはどれほどのものか。
 白石陣営はカウンターを敢行せざるをえなかった。
 この風は長くは持たない、今を凌ぎきれば、追いつけると思わせなければ票の供給が枯渇するはず──そんな、希望的観測が混じった反撃の決断。
 不確かな推測でも動かざるをえないほどに、この時の百合子の勢いは凄まじかったのだ。
 ここで票を溜め込めば一気に押し切られると誰もが思った。
 ここで票を放出しても本当に逃げ切れるのかと誰もが不安だった。
 白石陣営がカウンターに踏み切ってなお、票の勢いは圧倒的に百合子が上回る。この勢いがあと数時間続けば、あっさりと逆転されてしまうだろう。
 果たして──白石陣営は凌ぎ切った。
 箱根駅伝の中継が終わり、徐々に投票の勢いが落ち込んでいく。
 その日いっぱいは加速した勢いの残滓があったものの、日を跨ぐ頃には元の勢いに戻った。
36 : つむ?   2020/02/22 23:31:50 ID:sp0S6i9aLE
「やったぞ紬! 逃げ切った!」
「……それは、私が逃げるしか能がないと言いたいのですか?」
 今回ばかりはいつもの深読みにも照れがあった。
 窮地を凌ぎきった紬にも照れ隠しで素直でない言葉を返すだけの余裕が生まれていた。

 安堵は、あっただろう。
 もうこれ以上の勢いはないだろう、と。
 これすら凌ぎきれたのだから大丈夫、向こうも票が尽きている、これ以上の追撃はない…
 実際、心が折れずとも実弾が途切れれば戦いはできない。もう大方決まったと、心のどこかで思っていたPも多かったのではないだろうか?

 そんな平凡な展開を、あの死闘となった勇者決定戦を勝ち抜いた風の戦士達が許すわけがなかった。
37 : つむ!   2020/02/22 23:33:36 ID:sp0S6i9aLE
最大の山場の前だけど今日はここまで
明日で終わらせるやいね
全然関係ないけどつむつむスレ面白いやいね。ちゅるやさんの出現過程を見ている気分やいね
38 : つーーーーむ!   2020/02/23 15:54:35 ID:idegRf5al6
投下再開します
39 : つむむ!?   2020/02/23 15:56:34 ID:idegRf5al6
 1月10日、プラチナスターシアター『HOME,SWEET FRIENDSHIP』終了。
 それと同時に、百合子に猛烈な勢いで票が入り始める。
 慌てて逃げ切りを図る白石陣営だが、透明な暴風はそれすらも上回って近づいてくる。
 誰もが気づいていた。
 明らかにプラチナスターシアターで溜め込んだ票を即座に叩き込んできている。
 これは、今までとは風速が違う、と。
 暴走特急も上手く嵌まれば一気に陣地を食い破る疾風の槍となる。
 風の戦士による見事な電撃戦はこれまでにない規模で周囲の票田を制圧し始めていた。
40 : つむ…つむ…っ!?   2020/02/23 16:45:40 ID:idegRf5al6
 ここまでの経験で紬、百合子のみならず各アイドル陣営はある傾向に気付き始めていた。

『票が伸びていると浮動票が集まりやすくなる』

 空気の流れが周囲のものを引き寄せるように、30分速などで明確な勢いがあるところには票が集まってくる。派手に動くところには注目が集まりやすいということだろう。
 プラチナスターシアター終了直後という浮動票層が最も票を持っているタイミングに、箱根ストームで得た知名度、追う側という有利な立場。
 七尾陣営が用意した完璧なシチュエーションに、百合子本人による猛アピールが重なる。
 追い風を受けた最強の勇者が、本領を発揮した。
41 : つむむ、つむ…   2020/02/23 17:47:12 ID:idegRf5al6
 明けて1月11日深夜。
 百合子、逆転。
 ついに紬が探偵一位の座から陥落した。
「すまない、紬…」
「あなたが悪いわけではありません」
「ああ、そうなんだが…向こうは凄いな。凄すぎる」
「……それは、私のファンが凄くないと言いたいのですか? ……っ」
「そ、そんなことは言ってないだろ──」
 Pの弁解を紬は聞いていなかった。
 胸の中で繰り返されるのは自分で言ったこの言葉。
「うちの、ファン……」
42 : つむむ、つむつむつむ、つむつむ   2020/02/23 18:34:37 ID:idegRf5al6
 誰もが無謀だと思った百合子への挑戦。
 勝てるわけがない、勝負にもならないとまで言われ、自分でもどこか諦めていた。
 しかし、実際はどうだろうか?
 勇者を抜き去り、追撃をかわし続け、こうして捕まった今も自分のファンは必死に支えてくれている。
 それなのに自分が、アイドルがそんな気持ちでいていいのか?
 紬の脳裏に先日の取材班とのやり取りが浮かんでくる。

 Q.『どうしてアイドルを目指したんですか?』
 紬「幼い頃のたわいもない夢を思い出したからです」
43 : つむ──つむ!!   2020/02/23 19:02:43 ID:idegRf5al6
(トゥーン……)
 "幼い頃の、たわいもない夢"

 それが言葉ほど軽いものではないことは表情が物語っていた。
 ──負けられない。
 追い込まれて初めて、紬から闘志が溢れ出していた。
 池の中で華を見上げるだけだった自分を応援してくれる人がいる。土の下の真実を知りながら美しく咲く姿を信じて支えてくれるPがいる。新人である自分を侮らず真剣に戦ってくれる仲間がいる。
 ここで諦めるようなら、アイドルにはなれない。
 紬が凛と背筋を伸ばし、視線に力を宿す。
 一歩も引かないと強く根を張り、瑠璃色金魚が空を見上げて咲き誇る。
 ここから、白石紬が真価を発揮する。
44 : つむ……っ!   2020/02/23 19:27:11 ID:idegRf5al6
 1月11日、この日が探偵役を決める分水嶺となった。
 逆転を受けて紬がアピールを強化、各方面に投票を呼び掛ける。
 プラチナスターシアター終了後最初の激戦は他担当の耳目も集めており、紬と百合子双方に大量の他担当からの票が注がれ、抜きつ抜かれつの熾烈な競争が始まった。
 午前を駆け抜け、午後も戦い続け、夜になっても決まらない。
 丸一日に渡る壮絶な殴り合いは翌12日早朝頃に決着がついた。
 その時点での探偵役一位は──白石紬。
 軍配は、紬に上がった。
45 : つむつむつむむ、つむむつむつむ   2020/02/23 19:50:31 ID:idegRf5al6
 紬の再逆転後も各所で名勝負が繰り広げられていた。
 ミリオンライブを象徴するパワーワードを宣伝に組み込み多くの票を集めたたど…最上静香のありがサンキュープロジェクト
 それまでの常識を粉砕する全役全期間で最大の瞬間火力を叩き出した北沢志保の誕生日一斉投票、しほあつめ
 今イベントMVPの呼び声も高い、どう考えても絶望的だった9万票差を引っくり返した奇跡と執念の集大成、宮尾美也の38時間一斉投票
 1月も中盤に差し掛かると各役で大きな出来事が増えていく。うどんと中華の壮絶な並走が続く最激戦区となった次女、大火力と大逆転のド派手な動きで注目を集めたネコ、争う二者が協力して一斉投票を行い39プロジェクトの粋の極みを魅せた元大女優、担当アイドルが提唱した通りの(脳筋)走法を実行した新入生と特筆すべきどころは枚挙に暇がない。
 そんな中、探偵役でも熾烈な追撃戦が続いていた。
 このままでは終わらないと紬を追いかける百合子に、もう負けないと泥臭くも美しい必死の粘りを見せる紬。
 勝負は紬がリードを保ったまま、しかし百合子の射程から逃れてもいない状態で最後の日にもつれ込む。
46 : つむつむー!つむつむ!   2020/02/23 20:21:18 ID:idegRf5al6
 1月22日、最も票が集まる最終日。前日終わりから一足早く最後の一斉投票に踏み切った七尾陣営に呼応し、白石陣営も手持ちの全てを注ぎ切る。
 僅か一日で得票数10万票を超えた苛烈な最後の戦いは、1月23日午前0時に終わりを迎えた。
 実に38日間に渡った『THE@TER BOOST』終了。
 最終結果は――

   白石紬 109万5469票
 七尾百合子 102万8649票

 ――探偵役、白石紬に決定。
 最有力候補に、紬は勝利した。
47 : つむつむつむつむつむむむむー!   2020/02/23 21:10:55 ID:idegRf5al6
(BGM:Progress)
「よく頑張ったな、紬」
「プロデューサー……うち……うち……っ!」
 百合子を破っての探偵役当選、その上全アイドル最多得票のおまけつき。
 無謀と思われた挑戦は、最高の奇跡となって還ってきた。
 逆風にも根を張って耐え、逆流を泳ぎ切り、美しく、凛と咲き誇る。その泥臭くも壮麗な戦いぶりは、彼女に瑠璃色の祝福を与えたのだ。

「みんな……あんやと……っ!」
48 :   2020/02/23 22:06:34 ID:idegRf5al6
 あの激戦から約10ヶ月後。
 スタジオには、探偵役を演じる紬の姿があった。

(♪ずっと探していた 理想の自分って)
Q.『あなたにとって、アイドルとはなんですか?』
紬「私にとって、アイドル……」
(♪もうちょっと カッコよかったけれど)
紬「(私には)まだわかりません。……わからないと、言えるようになりました」
 そうどこか恥ずかしそうに続けた紬は、アイドルのように笑った。
(♪ぼくが歩いてきた 日々と道のりを)
 彼女がいつ気づくのかはわからない。
 しかし、我々にとって、彼女はもうアイドルだ。集まったたくさんの票(思い)がそれを証明している。
(♪ほんとはジブンっていうらしい)
49 :   2020/02/23 22:29:14 ID:idegRf5al6
百合子「紬さーん、どこにいるんですかー、スタッフさんが呼んでますよー。……はっ、これはサスペンスドラマを取っていたら本当に事件に巻き込まれるという定番のアレ……!」
このみ「百合子ちゃん、縁起でもないこと言わないで……」
桃子「そもそも紬さんそこにいるじゃない。ちゃんと探してよ」
まつり「紬ちゃん、取材を受けていたみたいなのです」
琴葉「いたいた紬ちゃん。探したよ」
瑞希「白石さん。時間です。行きましょう」
(♪あと一歩だけ前に)
瑞希「髭です。えいっ」
紬「わっ、なんやいね!」
 スタジオに響くのは鎧を脱いだ少女の、年相応の明るい笑い声。
 アイドルに憧れ、輝けないと自分に悩み、それでもその夢を目指すことを決めた39番目のアイドル、白石紬。
 彼女は、これからも輝き続ける。
(♪進もう)
50 :   2020/02/23 22:40:02 ID:idegRf5al6
 終わり
 お粗末なものでしたがお付き合いいただきありがとうございました。
 クオリティはあれだ、後続の人へのハードルを下げたということで許してください。
 プロフェッショナルでも何でもなくなってた気もするけど全部デストルドーが悪い。最終的にデストルドーを倒したから最後だけプロフェッショナルになったってことにする。
 脳内にしずしほorみやみなこが降りてきたら猫と次女もやるかも(やらない)。
 (誰か代わりにやってくれても)ええんやで
 アイマスドキュメンタリー流行れ
51 :   2020/02/23 23:03:03 ID:idegRf5al6
オチ、ドラマ収録後につむつむから一言
「この探偵、結局犯人捕まえてないやいね……ていうかうちが主人公かと思ったら田中後輩が全部持ってったやいね……なんなん」
52 : ごしゅPさま   2020/02/24 01:03:58 ID:PL36ZSeZpw
おっつおっつ
15兎を追う女ってフレーズ好き
53 : ダーリン   2020/02/24 01:13:13 ID:eIkV34X8ew
これは目の付け所がシャープ
さあ、次は情熱大陸風TC千鶴さん陣営だ
54 : 師匠   2020/02/24 19:12:01 ID:WSQuEjEd0A
>>52
教訓
二兎を追っても一兎も得られないが15兎を追えば一兎くらいは得られる
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