それからの出来事()
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【百合注意】雪歩「秋めく夕風、香りに近づくハイヒール」
1 :
番長さん
2021/01/14 20:54:23
ID:YFd038UQYs
立ったら投下します。
2 :
レジェンド変態
2021/01/14 20:55:40
ID:YFd038UQYs
4度目の正直かー 荒らしちゃってすみません
※百合注意です。いつものゆきかれSSです。直接的な描写は今回、皆無ですが、苦手な方はブラウザバッグお願いします。
※キャラ崩壊というか独自設定?注意です。今更ですが念のため。
※ハイボールじゃないです。
3 :
EL変態
2021/01/14 20:56:01
ID:YFd038UQYs
夕風が香る。
ほんの一週間前は涼しいと感じた覚えがあるのに、今日は冷たさを感じる。肌寒さと言えばいいのか、少なくとも心地よい風ではない。
優しくない風が優しく香る。いい香り。私の好きな香りだ。どうしてだろう?
「もうすっかり秋ですね。いつの間にか、夏、終わっちゃいました……」
隣を歩く女の子がぽつりと言う。
風に靡くその綺麗な髪。名前のとおり、可憐な横顔。その瞳はどこか郷愁の色があって、きっと過ぎ去った夏を想っているのだろう。
そっか。納得する。むしろ、なんで気づかなかったかな、とさえ。夕風が運んだ香りは他でもなく、この子の香りだった。
「あっという間だったね。忘れられない思い出、たくさんできた気がする。可憐ちゃんは?」
「わ、私もです……! これまでの人生のなかで、一番濃い夏……でした」
にこりと。その微笑みは香りに負けないぐらいに魅力的で。
4 :
我が下僕
2021/01/14 20:56:16
ID:YFd038UQYs
人生のなかで一番、か。大袈裟とは思わなかった。
だって、可憐ちゃんがアイドルになって初めて迎えた夏で、そこにはきっとそれまでの夏とは違うきらめきが溢れていたから。
たとえば学校のお友達と一緒に行く海とも、家族と共に登る山とも違うし、恋人たちが眺める星空とも違うはず。
あのステージの熱気。歓声。汗と涙はそう容易く手にできるものではなくて。普通じゃ届かない、そんな場所に私たちは立ったんだって。
ファンのみなさんにも、そういう輝きを、私たちが経験した眩い夏の結晶の一部でも、味わってもらえたら、伝えられたら、感じてもらえたらなって思う。
あの場にいた全員にとって忘れられない思い出になるといいなって。そういう話を思いつくままに可憐ちゃんにしてみたら―――
「雪歩ちゃん……す、素敵です! アイドルの鑑というか、えっと、とにかく私、感動しました…!」
「そ、それは大袈裟だよ……えへへ」
まっすぐに褒められると、さすがに照れますぅ。
そんなこんなで夏を振り返りながら歩いていく。
ラジオ収録の帰り道。都会の夕暮れは閑静とはほど遠く。それでも私は隣を歩く可憐ちゃんに集中していて。夢中になっているだなんて言うと、恥ずかしさが優ってしまうけれど、あながち間違いでもなくて。
5 :
魔法使いさん
2021/01/14 20:56:31
ID:YFd038UQYs
「秋はどんな季節になるんでしょう」
愛しい夏の出来事を一通り語り合った後で、可憐ちゃんが口にする。すぐ横にいる私にというより、宙に投げかけるように。
「うーん……開催できるイベントの数からすると、夏よりは忙しくないかも。……ううん、もしかしたらライブイベントの代わりに、ドラマだったり舞台だったり、CMだったり、てんてこ舞いになるのかな」
「それは、う、嬉しいことですけど、大変ですよね…?」
「うん。可憐ちゃんは、秋らしく何かこういうお仕事がしてみたいっていうのはある?」
「えっと……秋は、その、実りの季節ですから、果物に関わるお仕事がいいなぁ、なんて。……な、ないでしょうか」
「そうだなぁ、たとえばぶどう狩りや梨狩りのレポートとか?」
6 :
プロデューサーちゃん
2021/01/14 20:57:00
ID:YFd038UQYs
「いい香りがしそうですね……!」
「うん、おいしいお仕事だね。ふふっ。アイドルらしいかと言えばそうではないかもだけど」
「雪歩ちゃんは何かありますか?」
「そうだなぁ、私は―――」
そうして今度はこれからの秋、その先について話しながら歩いた。
気がつけばもう劇場がすぐ目の前。日はまだ完全には落ちていない。
この後はダンスレッスンが一時間あって、終わる頃にはすっかり暗くなっているだろう。
可憐ちゃんとの楽しいおしゃべりも一旦はストップ。
散々、未来のことを話したくせに、ついつい、このまま時が止まってしまえばいいのになんて思いもして。でも、そんなのわざわざ口にはしないで秘めておく。
7 :
我が友
2021/01/14 20:57:16
ID:YFd038UQYs
不意に強い風がふきつけて、気を抜いていた私はふらっとしてしまう。「あっ」と間抜けな声。
ぽすっと。隣の可憐ちゃんが「だ、大丈夫ですか?」と体で受けとめ、支えてくれた。
ふわりと。香りが強まる。とても柔らかな感触と共に。
なんてことのない日常の一部でも、こんな風にして、不意打ちされちゃうともうたまらない。
顔が熱くなるのがわかる。心臓の鼓動がひどく喧しくて。
「雪歩ちゃん…!? あ、あの……顔、赤いですよ? もしかして風邪を引いたんじゃ……急に冷えてきたし……」
そんな台詞まで含めて少女漫画の一コマめいていて。あわわ、と慌てる様も可愛らしいものだから。もうなんて言ったら、どうしたらいいんだろうって。
平気、平気と私はどうにか離れて深呼吸。………よし、大丈夫。たぶん。
改めて可憐ちゃんの隣に立って歩きはじめる。横目で彼女を何度も見やって、思い当たることがあった。
8 :
P殿
2021/01/14 20:57:30
ID:YFd038UQYs
私ってほんとちんちくりんだなぁと。
もはや可憐ちゃんと胸囲を比べるのは虚しいからやめておくけれど、でも身長だったらプロフィール上はたった4㎝しか違わないはず。
それなのに、どうしてこうも差を感じるのだろう。
うーん……と考える。劇場内、レッスンウェアに着替えるためにふたりで更衣室までの道のり。
と、到着し、着替える段階になって、ようやっと気がつく。「これだ!」って喉まで出かかった。
だって、ほら、可憐ちゃん、ハイヒール履いているからっ!
単純な話だった。ごくごくシンプルな事象だった。
ずるい、だなんて言いはしないが、なるほど、この手があったのかと。
いつか私も、桃子ちゃんを見習って(?)踏み台を用意しようかと真剣に検討したこともあったのを思い出す。
それさえあれば、ちんちくりんでなくなるから。むしろビッグ。四条さんなんかも目じゃない。ジャイアント雪歩、いぇい!
とはいえ―――桃子ちゃんにとってあの踏み台がどういったものであるかはさておき―――11歳の子がするのと、17歳の子がするのとではまるで違う。
実行に移さなくてよかったと今では思う。
9 :
プロデューサーちゃん
2021/01/14 20:57:49
ID:YFd038UQYs
「雪歩ちゃん……? ほ、ほんとに大丈夫ですか」
可憐ちゃんがハイヒールを入れたロッカー。それをめらめらと見つめていた私に可憐ちゃんはおそるおそるといった調子でうかがう。
「あのね、可憐ちゃん―――」
と、思い直す。いや、待ってと。今、私、何を言いかけたの?
『可憐ちゃんのハイヒール、ちょっと履かせてくれる?』
変態かっ。………うう、脱ぎたてじゃなかったら、あり、なのかなぁ。
何はともあれ策は見つかった。ふむふむ、と。
可憐ちゃんに物理的に近づく手段。同じ景色を目にする方法。
そうやって同じ目線に立てたのなら、きっと心的にも距離が縮まるのでは?
明日はオフ。天気は晴れ。お家でまったりと過ごすつもりでいたけれど、予定変更ですぅ!
10 :
P君
2021/01/14 20:58:07
ID:YFd038UQYs
お仕事が予定よりもずいぶん早めに終わって、昨日よりもいっそう冷たさを増した風から逃れるように劇場へと戻ります。
何か温かいものが飲みたいな――――たとえば、そう。雪歩ちゃんの淹れてくれるお茶。
てきぱきと慣れた手つきで、でも真心のこもった、あのお茶の味と香りを思い出します。それから、雪歩ちゃん自身のことも。
……今日はオフで、お家でゆっくりするつもりだと昨日話していたから、劇場にいないのはわかっていますが。
しーんとした劇場の廊下。雪歩ちゃんのことを考えていたせいなのか、控え室のドアの前を通り過ぎる際に、微かに香ったのは雪歩ちゃんの匂い。
ううん、気のせいだよね?と自問しながらも、ほとんど無意識にドアを開いていました。
すると。
見慣れた背中がひとつ。
椅子に腰かけ、丸めた背中。何か落し物でもちょうどしたのか、足元へと注意が向けられているみたいで。
そんな姿勢であっても、見間違いはしませんでした。あるいは嗅ぎ間違い?
この優しい香りは……紛れもなく雪歩ちゃん。
11 :
そこの人
2021/01/14 20:58:24
ID:YFd038UQYs
「……雪歩ちゃん?」
「どひゃぁっ!?」
椅子から転げ落ちそうになる雪歩ちゃん。むしろ半分、落ちてしまいました。
後ろから声をかけた私が悪いのだと思います。けれど、いくらなんでも、あまりに素っ頓狂な声をあげられて、私までもが驚き、慌ててしまいます。
「す、すみません……! その……」
「可憐ちゃんっ!? えっ、もうそんな時間……じゃないよね。ど、どういうこと」
体勢を立て直した雪歩ちゃんがきょろきょろと。
「私のお仕事のことでしたら、あの……予定よりも早くに済んだので」
「そ、そうなんだ」
目をぱちくりさせて雪歩ちゃんは。
12 :
夏の変態大三角形
2021/01/14 20:58:38
ID:YFd038UQYs
「雪歩ちゃんこそ今日はオフ――――って、どうしたんですか、その足……!」
そのときになって、雪歩ちゃんが裸足であることに気がつきます。その左足。踵付近に大きな絆創膏。
「け、怪我をしたんですか……!?」
「あっ、いや、これは、その……」
言葉を濁す雪歩ちゃん。きまりが悪い顔をして。
「ただの靴擦れなの。……うう」
一呼吸置いて、雪歩ちゃんは恥ずかしそうにそう口にしました。
……靴擦れ? そうして私の視線は雪歩ちゃんの素足から、その近く、床にきちんと揃えて置かれた一足の靴。
ハイヒール。高さが7,8㎝ほどのピンヒール。そのつややかさからして、新品なのでしょうか。
13 :
Pさぁん
2021/01/14 20:58:52
ID:YFd038UQYs
「め、珍しいですよね……雪歩ちゃんがハイヒールを履くなんて」
お仕事を通じた、衣装の一部としてはともかく、普段の私服に合わせている印象はありません。
そ、それとも私が知らなかっただけで、実は履いていたのでしょうか……?
「う……そ、そんなこと、あるかもだけど」
私の指摘に、返ってきたのは、なんとも歯切れの悪い肯定。
もしかして余計なことを言って困らせちゃった……?
「えっと――――そうだ、お茶飲む? 今、帰ってきたんだよね? 外、寒かったんじゃない? 淹れてくるね!」
「え、あ、はい。でも……」
裸足のままで給湯室へと向かおうとする雪歩ちゃんを引きとめます。
14 :
ボス
2021/01/14 20:59:08
ID:YFd038UQYs
「今日は私が淹れますからっ……ちょ、ちょうど雪歩ちゃんにおすすめのハーブティーがあるので」
嘘ではありません。おすすめのハーブがあるのは。1人で飲もうと、給湯室へ向かう途中でこの控え室の前を通ったんです。
「そ、そう? じゃあ、お願いしようかな……あはは」
「座って待っていてくださいね…?」
そんなわけで私は小走りで給湯室へ。
お湯が沸くのを待ちながら、想うのは当然、雪歩ちゃんのこと。どうして劇場に?
いえ、そんな深い事情なんてないのかもしれません。お家でいても、退屈だったから。
あのハイヒールは?
……買ったはいいけれど、履いていなかったものだから、気分転換に履いてみた。そんなところでしょうか。
靴擦れしちゃったのは、単に雪歩ちゃんの足に合わなかったのか、もしくは履き慣れていないせいなのか。
15 :
せんせぇ
2021/01/14 20:59:22
ID:YFd038UQYs
「はぁー……癒されますぅ」
再び控え室。私の淹れたハーブティーを飲んで、雪歩ちゃんの表情が緩みます。
そのふにゃっとした可愛い顔に、私も和まされて。
「あ、あの……雪歩ちゃん」
「待って。私から話をさせてもらえるかな?」
きりりっと。急に。そんな雪歩ちゃんにどぎまぎしてしまいます。「ど、どうぞ」と小声で私は促します。
「季節の変わり目はファッションの変わり目だよね」
「え? は、はい」
16 :
我が下僕
2021/01/14 20:59:37
ID:YFd038UQYs
「おしゃれは足元からって言うよね」
どことなく得意気な雪歩ちゃんです。あ、こういう表情も好きだなって。
「それで……ハイヒールを?」
「そう。そういうことなの。季節が変わって、私も文字通り新しい一歩を踏み出したいなって……!」
うんうんと頷いて。その勢いでハーブティーをもう一口啜るはいいですが、「……っ」と熱そうにしていて。
「他意は……深い意味はないの、まったく」
「…………」
これって――――振り、なのでしょうか。明らかにそわそわとした素振り。ど、どうしたらいいんだろう?
17 :
Pサマ
2021/01/14 20:59:53
ID:YFd038UQYs
「ん、ん。それはそうと可憐ちゃん。よかったら、教えてくれる?」
わざとらしい咳払いをして、改まった態度の雪歩ちゃん。
「教えてって…な、何をですか?」
「ハイヒールの履き方のコツ。ほら、可憐ちゃんって履き慣れているよね。今日もハイヒールだし」
「それはそうですが……。わ、私が教えられることなんて、あるのかな、なんて……。私はその……地味な自分を、臆病な自分を見た目だけでもどうにかしたくて、履いているっていうのもあるんです」
「へ?」
「いつもよりちょっぴり高い視線で、大きくなれた気がしますし、自然と膝も背筋もぴんっと張って、顔もあげなきゃって気持ちになって……そ、そういうのってべつにハイヒールでなくてもいいんでしょうけれど、私の場合、形から入るというか、その……実際に背丈を伸ばせば、目立てるかなって、前向きになれるかなって……」
18 :
EL変態
2021/01/14 21:00:07
ID:YFd038UQYs
「可憐ちゃん………」
「す、すみません、私の個人的なことをべらべらと……」
「ううん、可憐ちゃんのことをまたひとつ知ることができてよかったよ」
そう微笑みかけてくれる雪歩ちゃんは、月並みな表現だけれど、天使みたいでした。
話してよかったな、なんて思うことさえできて。
「ふふっ、なんだろう、複雑な気分。私なんか、ただ、可憐ちゃんにもっと近づきたいっていう、ある意味下心でハイヒールを――――あっ」
「私に……えっ?」
「あっ、ち、違うの! いや、違わないけど!」
19 :
監督
2021/01/14 21:00:21
ID:YFd038UQYs
瞬く間に雪歩ちゃんの顔は真っ赤になっていきます。
「あ、あ……」
もう止められません。
「穴を掘って埋まっていますぅ~!」
ザクザクと。どこかから取り出したスコップで。
そんな雪歩ちゃんを、不思議と落ち着いて眺めながら私は思います。
ちゃんと聞こう……聞きたいなって。雪歩ちゃんがハイヒールを履く理由。
それからちゃんと話さないといけません。教えてあげないといけません。
ハイヒールの履き方……いえ、それよりも―――――
20 :
Pサマ
2021/01/14 21:01:20
ID:YFd038UQYs
私が雪歩ちゃんから勇気を、変わるための一歩をもう何度ももらっているってことを。
隣をどんな気持ちで歩いているかってことを……えへへ。
お、おしまいです……!
21 :
ぷろでゅーしゃー
2021/01/14 21:01:38
ID:YFd038UQYs
以上です。
距離の縮め方っていろいろあるよね。
当初は、もう少し踏み込んだ話になるはずでした。
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