それからの出来事()
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【SS冬祭Pドル21】P「私はナイト様になれない」
1 :
夏の変態大三角形
2021/12/16 07:39:43
ID:ZrsEL9JIZk
立ったら投下していきます
2 :
夏の変態大三角形
2021/12/16 07:40:39
ID:ZrsEL9JIZk
1.
はいほー!
溌剌とした声が室内にこだまする。メルヘンチックな自己紹介。
とめどなく空想を語るにしては、彼女の顔立ちからは少女の幼さよりも大人びた色気を感じ、それでも全体としてちぐはぐな印象を受けないのは、彼女の洗練された身のこなしのせいだろう。
お姫様。遊びじゃなくて本気で、演じるキャラクター。
ああ、こういう子もいるんだなと。「居る」のか、それともこの劇場に「要る」のか。
それを決める権限は私にはない。隣に座る、天海春香ちゃんたち13人をプロデュースしてきた先輩プロデューサー。彼が面接の合否を一任されている。事務員からも社長からも信頼が厚い。
対して、此度の新人アイドル発掘プロジェクトに先駆けて、入社してまた一カ月足らずの私。このオーディションにはただ同席しているだけ。
そのはずなんだけど……時折、隣の彼が「君から、彼女に他に何か質問あるかな?」などと不意打ちをくらう。
1度目は面食らって、首を横にぶんぶんと振って終わり。2度目は当たり障りのない、言ってしまえばどうでもいい質問。3度目の正直、と思ってした質問は的外れもいいところでその場にいる全員が苦笑い。
2度あることは3度あるってこういうことだなと。そんなこんなで迎えた4度目の振りというのが、彼女、すなわちお姫様な19歳と対面しているときにやってきた。
「あなたは…………ん、ん。えっと、徳川さんは……いつまでお姫様を続けるつもり?」
3 :
P様
2021/12/16 07:40:56
ID:ZrsEL9JIZk
我ながら意地の悪い質問だった。が、たしかに聞きたいこと、知りたいことでもあったのだ。
アイドルである限りはお姫様で在り続けるのか、もしくはそのうち女王様にクラスチェンジってのが既に念頭にあるのか。
それとも売れなきゃすぐやめちゃう?いや、でもそんなのを面接で明け透けに言う子がいるだろうか。
気になる。この子の展望が、進もうとしている道が。
「ほ?」
私の問いに、きょとんと彼女は。単なる驚きとは微妙に違う、純粋に、そう、無邪気な面持ち。彼女は不思議がってみせたのだ。
「まつりは生まれながらの姫なのです。続けるもやめるもないのですよ?」
くすっと小さく笑いさえした。可憐に。それは同性の私であっても、惹かれてしまうような微笑み。
彼女はとんだ傾奇者だ。その信念と覚悟、いったいどこからきているのか。どこまで貫けるのか見てみたい。
できることなら他の誰でもなくこの私が――――と私の視線は自然と隣の彼に。彼は肯く。私の心を見透かしたように。
後になって彼は言う。「徳川まつりのことは……うん、いいなと思った。とても。けれど、決め手となったのは、君からの熱い視線。ああ、いや、変な意味じゃなくて。つまり……まさしくプロデューサーの眼差しだったんだよ」
1週間後、私は正式に徳川まつりのプロデュースを任されることとなった。
4 :
Pさぁん
2021/12/16 07:41:09
ID:ZrsEL9JIZk
2.
ビジュアル・ボーカル・ダンス。
私たちのプロダクションにおいては、アイドルの普段のレッスンはこの3種に大別される。
無論、アイドルの能力、素質を推し量るバロメーターとしてはこの3種以外にもあるだろうし、そもそもこの3種を公正に定量化するのは難しい。うん、それはわかっている。
いずれにせよ、重要なのはそれぞれのレッスンにおいて専用のコーチと数名ほど契約しており、各々のプロの目から見てアイドルたちがどの程度の力を持っているか、向き不向き、成長等の情報を得られるということ。
新米プロデューサーで、なおかつ学生時代に3種いずれかの専門的な勉強をほとんど何もしてこなかった私。とりあえずは、レッスンに励むアイドルについてまわるしかできない。
とはいえ、ゆくゆくはプロデューサーである私自身が誰よりも担当アイドルについて詳しくなければならない。彼女のアイドルとしての技術面においても、そして精神面のおいても。
先輩曰く「場合によってはアイドル自身よりもその子のことを知っておかないといけない。さもなくば、取り返しのつかない事態に陥ることだってある。俺たちはそういう立場なんだよ」だそうだ。なるほど。
13人もプロデュースしている先輩は私よりずっと大変だ。そう私が言うと、「もう少しで、52人に増えるところだったんだけどね」と笑っていた。目が笑っていなかったので事実なのだと思う。あれ?うちってブラック?
5 :
我が下僕
2021/12/16 07:41:21
ID:ZrsEL9JIZk
さて、私の担当アイドルである徳川まつりは――――
ビジュアルコーチからは「モデルや舞台経験があるとしか思えない。新人でああも、自分の見せ方というのを心得ている子は珍しい」
ボーカルコーチからは「恥じらいがない。いい意味で。堂々としている、と言うとわかりやすいけれど、それだけじゃなくて、楽しく明るい歌を本当に楽しく、明るく、歌える子」
ダンスコーチからは「もしもあの子の卓越した身体能力のすべてをダンスに特化できたのなら、新時代を切り拓けると言ってもいい。仮に星井美希ほどにセンスがあったのなら、それは遠い未来でなかっただろう」
あれ?この子、想像以上に逸材では。
間近でレッスンを見守っていた私は、自分の驚きを隠して「レッスンの手ごたえはどう?」と彼女に声をかける。
「わんだほー!なのです。コーチさんたちは、まつりの知らないことをたくさん教えてくれて、姫、今よりもっともっときゅーと!にもぱわほー!にもなれる気がするのですよ♪」
「うんうん。ぱわほーと言えば……まつりちゃん、運動が得意なんだね。ちょっと意外かな。ほら、ふわふわっとした雰囲気があるから……」
「ほ?それはまつりというより、妖精さんのおかげなのです!」
6 :
お兄ちゃん
2021/12/16 07:41:45
ID:ZrsEL9JIZk
「よう……せい?」
「そうなのです!」
「そ、そっか。えっと、無理は禁物だからね。オーバーワーク、ダメ、ゼッタイ。いい?」
「当然なのです。Pさんこそ、働きづめはダメなのですよ?」
「うっ。ありがと、ほどほどにしておくね」
私の担当は徳川まつり1人なのだが、しかし仕事というのは彼女に直接関わることだけではない。
彼女のプロデューサーとして成長するためにも、先輩Pや社長に同行して、現場の雰囲気や我がプロダクションのアイドルたちの活躍ぶりを目にしたり、顔をどんどん売っていったりしている真っ最中なのだった。
他にも事務所内では、頼れるお姉さん事務員である音無さんの勧めで映像記録を日々チェックしている。
そういうわけで、私なりにまつりちゃんの成長を見守りつつ、自分の研鑽をしていたある日のこと。
例の彼、先輩Pと偶然飲みに行くことになった。
いや、その一晩で大人な関係になったわけでは決してない。
というか………怒られた。
7 :
Pくん
2021/12/16 07:42:02
ID:ZrsEL9JIZk
早い話、私はアイドル徳川まつりを見ていたつもりだったけれど、一方で1人の女の子、徳川まつりと関わることがあまりできていなかったのだった。
「レッスンや営業外で、きちんとコミュニケーションとっていないんじゃないか」
私の近況を聞くと先輩は生真面目な口調―――それはほんの数分前のくだけたものとはまるで別人で―――でそう言った。
「いえ、そんなことは」と口ごもる私に、彼はまつりちゃんのパーソナリティについていくつか質問してきた。
促されるままに応じる私に、「けれど、こんなのはプロフィールを確認して、何度か会いさえすれば把握できる。じゃあ……」と続けて質問する先輩。
その質問には口ごもることさえできなかった。閉じたまま、むしろ唇をかみしめるしかなかったから。
「………わるい、そんな顔させるつもりはなかった」
「い、いえ、先輩が謝ることじゃないです。今の質問、きっとこれまで何度も彼女に会っている中で、ちゃんと話して、そうですよね、彼女のことを知ろうとしていれば答えられたはずですから」
徳川まつりは勝手気ままなお姫様だから。そんなふざけた理由、少なくとも彼女を担当するプロデューサーがしていい言い訳ではないのをわかっていながら、私は彼女に踏み込めていなかったのだった。彼女の、心に。
8 :
下僕
2021/12/16 07:42:14
ID:ZrsEL9JIZk
「まぁ、簡単なことじゃないってのは身をもって知っているんだけどなぁ」
うってかわって優しい口調で彼は言う。
彼が担当する多くが、いわゆる年頃の女の子で、家族以外の年上の異性を相手に胸中を容易くさらけ出せる子ばかりではない。
でも、時間をかけて彼なりに何度も試して、時には失敗もして、今の敏腕プロデューサーと他所からも認められる姿があるのだろう。
改めて私は先輩にお礼を言い、そして終電に間に合うように私たちは解散する。
よーしっ、まつりちゃんのことをよく知らないとね!
9 :
プロデューサーさん
2021/12/16 07:42:27
ID:ZrsEL9JIZk
後日、レッスン終了後。
「Pさん?まつりのこと、熱心に見過ぎなのです。そんなに見つめられると照れてしまうのですよ?」
え?まつりちゃんでも照れることあるの?という言葉が喉元まで出かかった。けれども、当のまつりちゃんは照れている素振りなど微塵もない。
ようするに、今のは「何か話したいことがあるならさっさと言ってよ」というのを彼女なりに遠回しに表現したのだった。
……べ、べつにまつりちゃんにどう話しかけたらいいのか、今になってめちゃくちゃ悩んでいたってわけじゃないんだから。
「ぅおっっほん!」
「社長さんのマネなのです?似ていないのです」
「ち、ちがうよ?ねぇ、まつりちゃん、この後時間ある?あるよね?うん」
「どうしたのです?たしかに、今日はもうレッスン終了なのです。でも、姫……」
10 :
プロデューサーはん
2021/12/16 07:42:41
ID:ZrsEL9JIZk
「今日は劇場に帰っての自主レッスンは無しにしない?」
「ほ?………ほ?」
彼女のことを何もかも知らないってわけじゃない。アイドル徳川まつりが頑張り屋ってのはこの短期間で充分にわかっている。
「え?いや、『なんのことなのです?』って感じで返されても……」
「姫のマネも似ていないのです」
「そこは気にしなくていいよ!えっとさ、お茶しない?ふ、ふたりで」
「………ナンパってやつなのです?」
「なんで!?そうじゃなくて、私さ、まつりちゃんのこと、えっと、アイドル活動以外の部分ってそんなにまだ知らないなーって」
「知りたいのです?」
「うん」
11 :
おやぶん
2021/12/16 07:43:05
ID:ZrsEL9JIZk
「まつりのお城や、通っている魔法学校のことについて?」
「そうじゃなくて。あ、べつにまつりちゃんがふざけているわけじゃないってのはわかるよ。でも、私ね、お姫様でアイドルのまつりちゃんだけじゃなくて、1人の女の子、徳川まつりをもっと知りたい、わかりたいなぁって。ある意味で、そうしないといけないって気づいたの。だって、私はあなたの1人目のファンであるけれど、それ以上に、えっと、プロデューサーだから!」
勢い任せだった。ロジカルに筋道を立てて、自己主張したり、人を説得したりするのに長けていないってのは自覚がある。
「ふふっ……」
「ま、まつりちゃん……?」
「Pさんは、思ったより面白い人なのです」
「それは、あれ、ピエロ的な?」
「ほ?そうじゃないのです。姫の素顔を探ろうだなんて、ふふ」
「えっ、あっ、まぁ、そう、なのかな」
「それじゃぁ、れっつごーなのです」
「へ?」
「まつりがレッスン後によく行くカフェでいいのです?」
「うん!」
12 :
Pサマ
2021/12/16 07:43:20
ID:ZrsEL9JIZk
やーりぃ!と小躍りする思いだった。
そんなわけで、私はその日、ようやくまつりちゃんに一歩踏み込めて、彼女についてのあれこれを知ることができた。
ほんの数年前であるはずなのに、既に彼女の今の身分、大学生というのが眩しい存在になってしまっている自分がいた……。
交友関係ついでに、それとなく片思い相手だったり恋人の有無だったりを確認したけれど、アイドルとしては幸い、いないようだった。
本人はやんわりと否定、というより躱していたけれど、モテるだろうから、ここは私がしっかり釘を刺しておかないとね。
プロデューサーとしてであって、嫉妬じゃないよ、断じて。
13 :
我が下僕
2021/12/16 07:43:32
ID:ZrsEL9JIZk
3.
まつりちゃんのアイドル活動が難航している。
彼女のキャラクター、強すぎる個性ゆえか、積極的に採用してくれる番組や広告ってのが現状ない。
新人アイドルである以上しかたないと割り切ってしまうには、私は彼女の魅力を知りすぎている。まだ全部とは言わないけれどね。
ただただ、もどかしいのだった。私だけじゃない、たくさんの人たちにまつりちゃんのわんだほー!を届けたいのに。
「プロデューサーの腕の見せ所だな」
先輩Pからは、しれっとそう言われてしまう。相談しに行ったわけじゃなくて、事務所内で話をしていたときに、何気なく。
ごもっともである。ぐぬぬ……。
しかしながら私ひとりで頭を抱えて解決なんてできやしない。まつりちゃん自身と対話を重ねる。何度も。
彼女はテレビ番組への出演を希望している。が、アイドル番組は何本か立て続けに落選してしまった。彼女の個性が他のアイドルを喰ってしまいかねないからだろうか。
そうか、それなら―――
14 :
P様
2021/12/16 07:43:46
ID:ZrsEL9JIZk
「はいほー!オーディションに合格したのです♪」
後日、ふふーんとしたり顔のまつりちゃんを出迎える。
「アイドル番組にこだわらずに、普通の番組に狙いを切り替えたのが功を奏したわね」
「さすが姫のPさんなのです」
「ありがとう。と言っても、まつりちゃんとしてはやっぱりアイドル系の番組に出演したかった?」
「ほ?……実のところ、そんなに強いこだわりはなかったのです。なぜなら、姫がいる場所、そこがいつだって輝く舞台なのです」
アイドルがいればそこがステージってやつかな。いや、よくわかんないぞ。こういうのはフィーリングか。
「なんか、こう、ロックね。うん?お姫様ロック……いけるかな」
「Pさん?姫は姫なのです。ロックはまた別の機会にするのです」
全否定ってわけじゃないのね。たしかにまつりちゃんには未知数の可能性がある。今回、採用された情報番組のレポーターだって、彼女の個性を活かせるに違いない。
「それはそうと、Pさん。何か忘れていないのです?ね?Pさん……ね?」
「そうだね。頑張ったお姫様にご褒美をあげないとだよね。駅前のあそこでいい?」
「ちがうのですよ?」
15 :
仕掛け人さま
2021/12/16 07:44:01
ID:ZrsEL9JIZk
「え?もしかして回らないお寿司とか、そういう……?」
「そこじゃないのです。頑張った姫『たち』へのご褒美なのです♪」
「まつりちゃん……うう」
「涙目なのです」
「だって、やっとプロデューサーらしいことしたなーって」
「Pさんはもっと自信を持つべきなのです。じゃないと、姫のナイト様にはなれないのですよ?」
「そ、そうかな。自信かぁ。私もまつりちゃんっぽい恰好をしてみればいいかな。ほら、形から……」
「ほ?」
「なんでもないです」
冗談だったのに、後日、本当にまつりちゃんに姫っぽい服を着させられた。
彼女がオフの日だった。「どうぞなのです!」ときらきらとした笑顔と共にルンルンと事務所にカチコミ……もとい、やってきた。
体型がわりかし近しいことがまさか仇になるとは。まつりちゃんのほうが出るところは出て引っ込むべきところは引っ込んでいるが。
「これでPさんもお姫さまの仲間入りなのです♪」なんて嬉しそうにするものだから、下手なこと言えないし……。
音無さんはうんうんと頷いているし。美咲ちゃんは一心不乱に衣装作っているし。先輩や社長が外回りだったのが幸いか。
終わってみれば、それなりに楽しかったからよし。でも、街中を歩くのは、その……まだ勇気がないので勘弁してもらおう。
16 :
Pちゃま
2021/12/16 07:44:20
ID:ZrsEL9JIZk
4.
まつりちゃんは妹さんと軋轢があるらしい。
アイドル活動が軌道に乗り始めた頃、2人でファンレターの整理をしたときのこと。
加えて言うなら、私があるニュースを発表するタイミングを見計らっていた日のことだ。
今はまだこれだけしかないけど、いつかはなんて話をしていた。
そして私が手にとった封筒、差出人の部分に「徳川」の文字―――っと、刹那、封筒はまつりちゃんの手中に移動していた。
また腕をあげたな、この子。などと思ったのはそれこそ一瞬、どうも表情が暗くなる。まつりちゃんだから露骨にということはないけれど、ほぼほぼ毎日顔を合わせて、見て、聞いて、理解しようとしている側からすればその表情の変化を察せないわけもなく。
「家族や親戚の方から?」
まつりちゃん自身のパーソナリティはともかく、ご家族についてはその構成を把握しているのみで、どういった関係なのかまでは知らなかった。
私の問いかけにまつりちゃんは曖昧にうなずくと、ぺりぺりと封を切り、手紙を読む。敢えて声に出して。その手紙の内容というのが、前もって見当がついているふうに。
『この前、バラエティ番組に出てたでしょ。見てて、すっごく恥ずかしかった。アイドルとか向いていないんじゃない?早く辞めたら?』
「……妹からなのです」
私が訊ねるより先に、まつりちゃんから差出人の身元を明かしてくれる。
17 :
兄ちゃん
2021/12/16 07:44:42
ID:ZrsEL9JIZk
「ファンレターとは言えないね。妹さんとは、仲が悪いの?」
ストレートに。まつりは手紙を読み上げてくれた、それは私への信頼があってこそだと思ったから。変に回りくどい訊き方は好まないだろう。
「昔はこうではなかったのです。いつもまつりの後をついてきて……。でも、近頃は口もきいてくれないのです」
「反抗期ってやつだね」
「妹が理由なくまつりを嫌うなら、まつりはどうしうようもないのです。……寂しいけどね」
まつりちゃんの口から出た「寂しい」という言葉。普段の彼女を見ている分、重さが増す。かと言ってその重さに引きずられてはいけない。私は彼女を支える立場なのだから。
「そっか。でもさ、アイドルって、辞めろと言われて簡単に辞められる程度のものじゃないでしょ?」
なるべく朗らかに、確信をもって彼女に訊ねる。私の気持ちが通じたのか、まつりちゃんの表情がぱっと明るくなる。
「そうなのです!むしろ、いつか妹に『お姉ちゃんは最高のアイドルだ』って言ってもらえるように、頑張るのです」
「そんなまつりちゃんに朗報なのです☆」
「二度とマネしないで」
「はい」
「ん、ん。それで朗報ってなんなのです?」
「まつりちゃん――――次の公演、センターはあなたよ」
きりっと。発表する。ファンレターの整理が済んだら、と企んでいたことを。
「!! まつりが、センター公演……?」
18 :
ハニー
2021/12/16 07:44:59
ID:ZrsEL9JIZk
「そう。社長から打診があったわ。まさに私からもお願いしようと思っていた矢先にね」
「Pさん……」
「まさかとは思うけど、徳川まつりとあろうものが、センター公演に抜擢されたぐらいで怖気づいてなんて、」
「わんだほー!!」ギュッ
「サバ折り!?」
「Pさん!どうしてそれを早く教えてくれないのです!?まつり、心待ちにしていたのですよ?」
「わ、私の方が怖じ気づいてしまっていたというか……」
「ほ?Pさんは、まつりのことが信用できないのです?」
「それはないわ。社長に先手を打たれたのが悔しいってぐらいだもの。私はまつりちゃんなら、もう充分にセンター公演できる力が持っているってわかっているわ」
「だったら、胸を張るのです!まつりは……Pさんが育ててくれたアイドルなのですよ?」
「まつりちゃん……そうだね、うん、わかった。まつりが信じてくれている私を、私も信じたい。センター公演、いっしょに頑張ろう。妹さんが『はいほー♡』ってとろけちゃうように!」
「妹はそんな感じじゃないのです」
「そっかぁ……」
こうして私はまたひとつ、まつりちゃんのことを知ることができた。
大切に想っている妹さんの反抗期。妹さんに認めてもらいたい、それも一つの原動力となってアイドル徳川まつりはより大きな、輝くステージへと駆け上がっていくのだと思う。
思う、ってまるで他人事だけれど、そうじゃないよね。私は私で、彼女のプロデューサーとして尽力するのです!
19 :
Pたん
2021/12/16 07:45:18
ID:ZrsEL9JIZk
5.
センター公演を終えてからというもの、徳川まつりの快進撃は留まるところを知らない。
進撃の姫とでも言えばいいだろうか。少女漫画に限らず、少年漫画にも詳しい彼女のことだから、怒られそうだ。
なんにしても、アイドル活動の本格化ってのを迎えることができた。売れずにそのままひっそりといなくなるような、そんなアイドルではもはやない。
新人アイドルは先輩アイドルと共演して、その顔を売っていくというのも多いが、まつりちゃんの場合、その個性あってか、これまではさほど共演らしい共演もなかった。
「今後は複数人でのユニット活動もあるだろうな」と先輩は言っていた。
その流れで、まつりちゃんに劇場で注目しているアイドルについて聞きもしてみた。
「みんな、注目しているのです。興味深い子ばかりなのです。たとえば天空橋朋花ちゃんに宮尾美也ちゃん、それから北上麗花ちゃん」
記憶が正しければ北上さんはまつりちゃんより年上だった気がする。それにしてもまず出てくるのかその3人かぁ。
「へぇ……なるほどね、その子たちはまつりちゃんに負けず劣らず、マイペースだって聞くわ。あっ、いい意味で!」
「とってつけたような『いい意味で』なのです」
「ははは……。先輩アイドルに言及しないのはあえてかな?」
「あんまり考えないようにしてきたのです。……みんな、すごい人ばかりだから」
芸歴がすべてではないが、しかし先輩Pが担当し続けてきているあの子たちはたしかに新人のまつりちゃんからしてみれば、なかなかに手強い相手だ。裏を返せば心強い味方にもなってくれそうな子たちだ。ようはライバルであり仲間。
「なかでも貴音姫の纏うオーラはまつりをもってしても真似できないのです」
20 :
そこの人
2021/12/16 07:45:33
ID:ZrsEL9JIZk
バトル漫画か何かかな、とつい口に出しそうになったのを堪える。事実、四条貴音の凄みというのは私自身、何度か経験している。あの宇宙を思わせる胃袋も……!
「ユニット活動していくとなったら、誰がどうスケジュールとかを管理していくんだろうね」
「それをまつりに訊くのです?」
少し呆れ気味に彼女は。いけない、いけない。
「……こほん。私は、えっと、これからまつりちゃんがどんな活動をしていこうと、必ず傍にいる、支え続けるってのを今一度宣誓したかったんだよ」
「当然なのです。ナイト様は姫をちゃんと見守っていないとダメなのですよ?」
「ナイトって柄じゃないけど……うん、わかったよ」
まつりちゃんはさっき『考えないようにしてきた』と口にした。これからは違う。先輩アイドルに遠慮なんてしていられないぞ。
彼女は自らの成長と活躍を実感して、次のステップを踏み出そうとしている。だったら、それを理想的な形で実現させる手伝いを、ううん、いっしょに実現するのがプロデューサーだ。
21 :
せんせぇ
2021/12/16 07:45:53
ID:ZrsEL9JIZk
6.
小中高生たちの夏休みが終わる頃に開催された、まつりちゃんのソロライブは大成功を収めた。
まつりの夏祭り、夏祭りのまつり。蝉さえもはいほーと鳴いている……こともないけど、そんな雰囲気だった。
屋外の特設ステージ、すぐ近くから聞こえる大歓声、アンコールの声に涙をほろりと流したまつりちゃんにつられて泣いてしまった。
「いってきなさい! まだまだこんなものじゃないでしょ!」という言葉はまともに発声できなかったが、まつりちゃんに伝わってくれて、力強くうなづいた彼女は目を拭うと、ステージに舞い戻った。
ちなみにライブ会場には、如月千早ちゃん、エミリー・スチュアートちゃん、ジュリアちゃん、豊川風花ちゃん、その他数名の同事務所アイドルが関係者席で観にきてくれていた。
先日、共に『Eternal Harmony』を歌った、そのままエターナルハーモニーのメンバーだ。あの日の光景も素敵だったけど、今日だって負けていない。私の一生の思い出になるライブだった。
来てくれた1人でも多くのファンが同じ想いだといいな。まつりちゃんもそう思っているに違いない。
そして終演後。空の色がすっかり赤く染まり、それからしだいに暗くなりつつある時刻、私とまつりちゃんは、ライブ会場から数百メートルほどの距離にある神社にいた。
他でもなく一番疲れているはずのまつりちゃんからの提案だった。若いってすごい。
浴衣の準備なんてしていなかったので、普段着での参加。髪型のアレンジや伊達眼鏡、あと帽子でまつりちゃんに変装を施す。
「Pさん、面白がっていないのです?」
「ぎくっ。い、いやぁ、まつりちゃんも今や有名アイドルだから、変装しておかないとだよ!」
22 :
兄(C)
2021/12/16 07:46:14
ID:ZrsEL9JIZk
「じゃあ、Pさんもするのです!」
「え?」
そんなわけでまつりちゃんに髪をいつもとは違うふうに結ってもらった。
いやいや、私のことはどうでもいい。それよりも、ステージできらきらしているまつりちゃんもいいけど、セカンドヘアスタイル……じゃなくて、変装中のまつりちゃんもこれはこれでありだなと。
疲れがあるのは間違いないので無理は絶対にしないことを約束して、私たちはふたりでお祭りへ。
一時間後、人気のないベンチで私たちは並んで座り、一息つく。
「ねぇ、まつりちゃん」
「どうしたのです?」
「……見つけた?妹さん」
ソロライブが決定して、私はまつりちゃんに彼女の妹を招待するのを提案した。
これまでだってまつりちゃんは輝いていたのは確かだけれど、今回のこのライブは紛れもなく、誰がなんと言おうとアイドル徳川まつりの晴れ舞台だと信じられたから。
誰がなんと言おうと、っていうのは違うかな。私は………お節介かもだけれど、やっぱり妹さんにもまつりちゃんのことを認めてもらいたい。
ひょっとすると私やまつりちゃんが考えているのとは別に、妹さんはまつりちゃんを大切に想っているのかもしれない。
それでも、そういうのって形にするのがいい。アイドルたちが歌や踊りでその気持ちを、夢にかける憧れや情熱、歌詞や劇に込められたすべてを精一杯表現しようするように。
23 :
彦デューサー
2021/12/16 07:46:39
ID:ZrsEL9JIZk
「―――ううん、見つからなかったのです」
涼やかな夕風に相応しい口調でまつりちゃんは応えた。
「来てくれていたかもしれない。だって、あんなにもたくさん人がいたんだもの」
「ふふっ、そうだね」
まつりちゃんの綺麗な横顔、澄んだ瞳は多くを語らない。
「姫……今、とっても晴れやかな気分なのです。あんなに大きな会場でソロライブをやり遂げて、それからお祭りで遊んで、はしゃいで……素敵な夏の思い出になるのです」
「うん……」
「Pさん、まつり、どうだったのです?あの広い、広い、会場で一番輝けていたのです?」
「そうね、太陽がふたつあるんじゃないかと思ったわ」
「くすっ、大袈裟なのです」
「眩しすぎて、なんていうか………もう私がいなくても大丈夫なんじゃないかって、」
「Pさん」
私の言葉を遮ったまつりちゃんが、こちらに顔を向き直して、ずずいっと近づける。
24 :
仕掛け人さま
2021/12/16 07:47:45
ID:ZrsEL9JIZk
「そういうのは……悲しくなるからダメなのです」
「えっ………ご、ごめん」
「今日、楽しかったのは、あなたのおかげだよ。本当に、ありがとう」
優しげな微笑みで。まっすぐな感謝の想い。
「まつりちゃん……うう」
「ここで泣くのです!?」
「いや、だって、なんていうか、それズルくない?不意に素顔っていうか、そういうの見せてくるの、もうたまんない……私が男だったら、プロデューサーだろうが、この場の勢いでたぶんキスとかしちゃうもん」
「そ、そういう台詞は反応に困るのです」
「私はナイト様になれない」
「ほ?」
「けどね、まつりちゃん………あなたをトップアイドルにする。必ず。だからこれからもずっと一緒よ」
「……………ふふっ」
「ええっ、笑うところかなぁ」
25 :
P君
2021/12/16 07:48:21
ID:ZrsEL9JIZk
「ちがうのです、えっと、なんだかプロポーズみたいだって」
「…………たしかに」
たった今の自分の台詞を反芻すれば。
「照れているのです?顔赤いのです」
「ほ?気のせいなのです……あっ、ダメ、鞭打は洒落にならないよ!ぎゃぁぁあああ」
かくして、まつりちゃんと私のアイドル道は続いていく。
ナイト様でなくても、白馬の王子様でなくとも、私は彼女を一番近くで見守り、支え続ける。
まだお祭りは始まったばかりだ。
26 :
ぷろでゅーさー
2021/12/16 07:49:52
ID:ZrsEL9JIZk
以上です。
マシュマロをめぐるやりとりだったりその他諸々書きたいシーンはまだまだありましたが、時間と体力がないんでこれで尾張です。
27 :
ぷろでゅーしゃー
2021/12/16 08:02:53
ID:nzwSeRb6XI
乙乙
おもしろかった
そしてこの後輩Pは雰囲気的に美咲ちゃとも仲良くなれそうね
28 :
おやぶん
2021/12/16 11:51:12
ID:rEc87FFLM2
おつ
シリアスな流れだったのに
>>17
のやり取りで草生えたわ
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