絵理「………？」

真「ほら、レッスン場で初めて会ったとき。ボクが覗きに来た男だって勘違いして通報しようとしたじゃないか」

絵理「………………」

真「…まあ、覚えてないならいいよ。ゴメンね古い話して」

絵理「うん。そもそも真さん、あのときは“慣れっこだから気にしない”って言ってたのに、いまさら蒸し返すなんて、みみっちい」

真「バッチリ覚えてるじゃないかっ！」

絵理「ふふっ。ジョークジョーク」

真「もう…」

真「それでさ、あの頃と比べるとボクもだいぶ変わったと思うんだけど…どうかな？絵理の目から見て」

絵理「………変わった？」

真「髪形も変えたし、体つきも…女の子っぽくなってる…よね？」

絵理「…………」

絵理「……………………」

絵理「………そう？」

真「ええ～っ？そんな反応～？」

絵理「ごめんなさい…。でも、私にとって真さんは真さんだから」

真「なんだよそれ…。別にいいけどさ…」

絵理「あ…次のバス停で、降車？」


ﾋﾟﾝﾎﾟｰﾝ
ﾂｷﾞﾄﾏﾘﾏｰｽ

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【デパート】

絵理「真さん、これなんかどう？」

真「へえ、綺麗なグラスだね……。でも、尾崎さんってアメリカでもあっちこっち飛び回る予定なんでしょ？割れ物は避けたほうがいいんじゃないかな」

絵理「そう？」

真「割れ物を割れないように持ち運ぶのって案外神経使うからね。絵理からのプレゼントを割っちゃったら、立ち直れなくなるぐらい落ち込みそうな人だし」

絵理「…たしかに。じゃあ、やめとく」

真「もう少し色々見て回ろうよ。他にもオシャレなテナントがあるみたいだし」

絵理「うん」

真「しかし驚いたなあ。尾崎さんがアメリカ行きだなんて」

絵理「私も…びっくり。かなり前から向こうのプロダクションと交渉してたらしいけど、全然そんな素振りなかった」

真「ボクが口挟むことじゃないかもしれないけど、絵理は良かったの？あんなに離れたくないって言ってたのに」

絵理「私を海外に売り込むための渡米だから…。ネットも進歩してるし、完全に離れ離れになるわけじゃない」

真「ふうん…」


真（絵理も変わったな…。前に尾崎さんがいなくなった時、あんなに泣いてたのが嘘みたいだ）

絵理「それで、どう？真さん的にピンとくるもの、ある？」

真「う～ん……個人的に欲しいな、と思うものはあるし、貰ったら嬉しいだろうな、みたいなのもいくつかあるけど…」

絵理「…けど？」

真「何度も言うけど、ボク尾崎さんの趣味とかよく知らないからね。参考になるかどうか…」

絵理「いい。真さんのオススメが知りたい」

真「じゃあ……これとか？」

絵理「……木の…コースター？」

真「うん。組子細工って言って、釘も接着剤も使わない日本の伝統技術なんだって」

絵理「綺麗…」

真「見た目は繊細だけどかなり丈夫だし、軽くて持ち運びやすいし、向こうでこういうの使ってれば現地の人たちと話が弾むんじゃないかな」

絵理「真さんは、持ってるの？」

真「いや…こないだ、ＴＶの仕事でこれを作ってる職人さんのとこに取材に行ってさ。お土産にいくつか貰えたんだけど……一緒に来てたやよいにねだられて、全部あげちゃったんだよね」

絵理「………ホントは欲しかった？」

真「本音を言えばね。でも、“弟たちにプレゼントしたいんです～”って言われちゃったらね…断れないよ」

絵理「そう……」

絵理「…………………」

絵理「…………うん。これにする」

真「よかった。柄がいろいろあるけど、どれにしよっか？」

絵理「これとこれと…これ。2つずつ」

真「2つ？」

絵理「私も使いたいから。尾崎さんとお揃いで」

真「ああ、なるほどね」

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【デパート屋上】

絵理「いい天気でよかった。風、気持ちいい…」

真「うん。それは素晴らしいことなんだけどさ」

絵理「どうかした？」

真「どうかっていうか………これ、なに？」

絵理「……私の、手作り弁当？」

真「うん。そこまでは理解できてるんだ。解せないのはこのボウリング球みたいなサイズのおにぎりについてでさ」

絵理「私考案、特許出願中の“マトリョーシカ・おにぎり”」

真「マトリョーシカ…？」

絵理「ほら、おにぎりを割ると…」

ﾊﾟｶｯ

絵理「中から、おにぎり。そのおにぎりを割ると…」

ﾊﾟｶｯ　ﾊﾟｶｯ　ﾊﾟｶｯ

絵理「おにぎり、おにぎり、おにぎり、おにぎり…」

真「…これ、尾崎さんにも食べさせてるの？」

絵理「うん。最初はソフトボールサイズだったけど、改良して大きくすると、その度に尾崎さんが褒めてくれるから」


真（尾崎さん…この子、ブレーキかけないとどこまでも滑ってくタイプですよ…）

絵理「最終目標はキンボールサイズ…」

真「へ、へえ……」

絵理「冷めないうちに、召し上がれ？」

真「いやとっくに冷めてるよね。お弁当なんだから」

絵理「ふふっ。ジョークジョーク」


ﾓｸﾞﾓｸﾞ

真（まあ、味は良いのが救いだな…）

真「…そうだ。ひとつ聞きたいことがあるんだけどさ」

絵理「…なに？」

真「先週のオーディション、また伊織と当たらなかった？」

絵理「うん。勝ったのは私だったけど…」

真「やっぱりね。どうりで伊織が荒れてたわけだ」

絵理「…荒れてた？」

真「うん。事務所に帰ってくるなり“飲まなきゃやってらんないわーっ！”ってオレンジジュースがぶ飲みしてさ。お腹壊して次の日の仕事に行けなくなったからPが顔真っ青にして代役探して…」

絵理「そう…。会場では“また最高の勝負をしましょうね！にひひっ♩”って言ってたのに」

真「あはは。きっと奥歯ギリギリさせながら言ってたんだと思うよ。クラシック・トーナメントで負けて以来、絵理には全戦全敗だもんね」

絵理「クラシック・トーナメント…か…」

真「今思い出してもすごい勝負だったよね。どっちが勝ってもおかしくなかったけど、まさか本当に伊織に勝っちゃうなんてなあ…」

絵理「む。…その口ぶりだと真さん、私が負けると思ってた？」

真「いや、そこまで確信してたわけじゃないけどさ。いくらなんでも絵理のほうを応援するわけにはいかないじゃないか」

絵理「ひどい…自分が手塩にかけて育てたアイドルを応援してくれないなんて…しくしく」

真「あのさ、ボク765プロの所属だからね？伊織の仲間だからね？プライベートで仲良くしてても仕事では敵だからね？」

絵理「わかってる…今のはウソ泣き」

真「バレバレだよ…」

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絵理「今日はありがとう…。すごく、楽しかった…」

真「ボクもいい息抜きになったよ。プレゼント、尾崎さんに喜んでもらえるといいけど」

絵理「それは大丈夫。尾崎さん、私がプレゼントするものなら何でも喜んでくれるから」

真「それなら安心かな。………ん？」

絵理「どうかした？」

真「いや……それだったら、ボクのアドバイスなんて必要なかったんじゃ…」

絵理「そんなことない。もう1人にあげるプレゼントもあるから」

真「もう1人？」

ﾋｮｲ

絵理「…はい。真さん、いつもありがとう」

真「え？これ、自分用じゃ？」

絵理「こっそりもう1セット買っておいたの。今日真さんを誘ったのはこのためだから」

真「え？」

絵理「尾崎さんにはなにをあげてもOK。なら、真さんが欲しいものを知れれば、2人ぶんのプレゼントを買える」

真「え？」

絵理「…一石二鳥？」

真「……絵理」

絵理「なに？」

真「回りくどすぎ」

絵理「…嬉しく、なかった？」

真「いや嬉しいよ？すっごく嬉しいよ？こんな小っ恥ずかしいことよく考えたねって思うけど」

絵理「ふふっ…それなら、大成功」

絵理「さっきも言ったけど、私にとっての真さんは、昔も今も変わらない。見ず知らずの私に親切にしてくれて、色々なことを教えてくれた、大切な先輩。」

絵理「私だけじゃない。愛ちゃんも、涼さんも、みんな真さんに感謝してる」

絵理「だから…これからも、よろしくお願いします？」



真（…ああ、そうか）

真（こういうところなんだな。ボクや事務所のみんなが不思議と絵理に惹きつけられるのは）


真（いつも大人しくて、考えが読めなくて、なのに突拍子もないことをすることもあって……だから放っておけないように思えるんだな）


真（それがこの子の…絵理の生まれ持った魅力なんだ）

真「…絵理」

絵理「なに？」

真「…ありがとう。こちらこそ…よろしく？」

絵理「…私のパクリ？」


真（照れ隠しだよっ！！）

お　し　ま　い

Pドル杯で出そうとして間に合わなかったおざえりSSを手直しして書きました
DSでは絵理のシナリオが一番好きです

乙
涼は救われたし、絵理と愛もどこか拾わんかな

乙
DSは詳しくないけど面白かったよ

乙
絵理って伊織より強かったのか（アイドルの強弱ってなんだよって話だけど）

>>30
強かったというか絵理編は伊織がラスボスで、倒さないとトゥルーエンドに行けないからね…

乙です
素直で直情型の真と、婉曲的で理知的な絵理が好対照に書き分けられていて、二人の魅力が引き立てあっていたと感じました
尾崎さんへのお土産選びと同時に真の欲しいものを知るのに成功する知略者の絵理好きです
絵理ちんのプレゼントで喜ぶ尾崎さんも見たくなりました
おざえりも気が向いたらぜひ