ｼﾞｰｼﾞｰｼﾞｰｼﾞｰ


透「んー……」


ｼﾞｰｼﾞｰｼﾞｰｼﾞｰ


透「あ、死んでるやついる」

円香「教えなくていい」

透「踏まれるぞー、そんなとこいたら」

円香「………」



透「…あ、よく見たらセミじゃなくてゴキブリだわこいつ」

円香「―――っ！」ﾋﾞｸｯ

透「ふうん…なるほど…」

円香「ちょ、なにジロジロ見てんの」

透「うん…いま気づいたんだけど、ゴキブリの体内ってさ」

円香「聞きたくない」

透「いや聞いてよ」

円香「置いてく」

透「えっ」

円香「仕事に遅れるから置いてく」ｽﾀｽﾀ

透「………」

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透「う～ん…」

円香「………」

透「う～ん…」

円香「…………」

透「う～ん…」

円香「……………」ｲﾗｯ

円香「で？ゴキブリの体内がなに？」

透「あ、聞いてくれる気になった？」

円香「聞かないと永遠に横で呻き続けるでしょ」

透「ふふっ」


透「さっき気づいたんだけどさ、ゴキブリの体内って液状なんだよね。筋肉じゃなくて」

円香「…それで？」

透「前にテレビで見たんだけど、ゴキブリの走る速度って人間サイズに換算すると時速270キロくらいになるんだって」

円香「ふーん」

透「すごくない？そんなパワーがあるのに体の中はどろどろの液体なんだよ。ということは…」

円香「ということは？」

透「私も体内を液状化すればできるんじゃないかな。ゴキブリダッシュ」



円香「………………………………………………は？」

透「もちろん本当に溶かすのは無理だけどさ、自分が液体になったイメージでこう……極限まで力を抜いて、だらーんってなった状態から一気に加速すれば、270キロ出せるんじゃないかなって」

円香「………」

透「どう？いい線いってない？」

円香「…………仮にできたとして、さ」

透「うん」

円香「使いどころがないでしょ。そんな力」

透「え？そう？」

円香「浅倉はどこで使う気なの。そのゴキブリダッシュ」

透「そりゃ、学校に遅刻しそうなときとか…」

円香「街中を270キロで走るの？障害物や他の歩行者がいるのに？危ないだけでしょ」


透「じゃあ、新幹線の線路を走って色んなところにタダで行く、とか」

円香「フツーに犯罪。1年以下の懲役または5万円以下の罰金」


透「ライブのパフォーマンスで使うのは？」

円香「誰も目で追えないでしょ」

透「………」

円香「………………」

透「いらないかぁ～～～ッッ」

円香「うん。いらない」

透「悪くないアイデアだと思ったんだけどな…」

円香「ま、暇つぶしにはなったでしょ。いつの間にかもう事務所の近くまで来たし」

透「ホントだ」

円香「さっさと行くよ。プロデューサーと小糸は先に待ってるはずだから」

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透「…さっきの話だけどさ」

円香「まだ続けんの？」

透「たとえどんなに危険な力であっても…大切な人を守るためなら…私は迷わず使うよ」

円香「え？」

透「私にとってかけがえのない、大切な人がピンチになったら…。もし、私が危険を冒すことで助けられる可能性があるのなら…。どんなことでもする。それが私の信条」

円香「………ふーん」

透「嬉しい？」

円香「別に。私はそもそもそんなピンチに陥ることなんてないし」

透「あれ？なんでそういう話になるの？“大切な人”が樋口だなんて一言もいってないけど？」

円香「…………あっそ」

透「がっかりした？」

円香「してない」

透「じゃあ…」

円香「しつこい。事務所の入り口くぐったら仕事モードに切り替えて」

透「はーい」

円香（まったく…）


ｶﾞﾁｬ

円香「お疲れ様です。今着きましｔ―――」






Ｐ「グフフフ、よいではないかよいではないか」

小糸「ぴゃ！？ぷぷぷぷプロデューサーさん、いくらなんでもこんな紐みたいな水着着るのは恥ずかしいですよお…」

Ｐ「なにをいうか、この程度の露出で尻込みしてたらトップアイドルなんて夢のまた夢だぞ！恥ずかしいならオレが着替え手伝ってやるから、な？さあ脱げ！今すぐ脱げ！」

小糸「ぴえぇ…だ、誰か助けて…」

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【後日、樋口円香（17歳）は当時の様子をこう語っている】


円香「浅倉がプロデューサーに飛び掛かるまでの時間ですか？」

円香「いや…もうホント、2秒か3秒かそこいらで…ええ」

円香「横目で見ただけなんですけど、隣にいたはずの浅倉の姿が急に消えたんです。こう、どろっ…て溶けるみたいに」

円香「次の瞬間にはもう、弾丸みたいに飛び出した浅倉がＰに激突して…。ものすごい音がしましたよ。ちゅどっ！っていう感じの」

円香「はい。2人とも事務所の壁に叩きつけられました。時速270キロで」

円香「前にプロデューサーから聞いたんですけど、空手の試し割りで石を割るときは石と鉄床の間に隙間を空けて叩くんだそうです」

円香「そうすると素人でも割れるそうですよ。結局鉄で叩いてることになるわけですから」

円香「しかし…それを“事務所の壁”と“自分の体”でやることになるなんてねェ…。プロデューサーも予想してなかったんじゃないでしょうか」

円香「ええ。浅倉は立っていましたよ」

円香「はい。プロデューサーと同じくらいの衝撃を受けていたことは確かです」

円香「アイドルの私がいうのもなんですが…チョット憧れちゃいますね。女として」

円香「………え？“死んだと思ったか”って………プロデューサーがですか？」

円香「………………」

円香「ん～～～～～～」ｺﾘｺﾘ

円香「やっぱり、あなた達はワカってない。ウチのプロデューサーという人物を―――」


円香「そりゃ、普通は即死でしょうね。“普通は”」

円香「だけどこれはウチのプロデューサーのハナシでしょ」

円香「ええ。生きてますよ。体から色んなものが飛び出しちゃったんで、まだ入院中ですけど」

円香「実はこれから浅倉と一緒にお見舞しに行く予定になってて…。一緒にどうですか？取材ついでってことで」

円香「さっき浅倉からメールが来たんですけど、“途中でセミの死骸を集めて持って行ってあげようかな”ですって。笑っちゃいますよね」

円香「………え？浅倉の話をしてるときの私、生き生きしてる？すごく嬉しそう？」

円香「…………ふふっ」

円香「まあ、仕方ないですね。浅倉は――」



円香「私の、かけがえのない――大切な幼馴染ですから」

お　し　ま　い

言うまでもないですがゴキブリの体内にある白い液体はエネルギーを蓄える脂肪体であって、運動能力とは一切関係ありません
肢の中にはちゃんと筋肉が詰まってますよ

乙
まさかバキネタとは…
インタビューまで完璧に

乙でーす
そうか、流石の浅倉も大切な幼馴染が不埒な目に遭わされそうになるとキレるか

乙です...ってか貴方Pドル杯のときにもいなかった？