それからの出来事()
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【CPSS22】苦み【さよめぐ】
1 :
夏の変態大三角形
2022/02/16 23:53:28
ID:JsUNHBkAT2
スレ立つかな?
投稿し終わるのは日付を超えてしまいそうです。規約違反だったら無視してください。
GL要素、失恋ネタがあります。苦手なお方はご注意。
2 :
Pさぁん
2022/02/16 23:54:15
ID:JsUNHBkAT2
「ふ~、やっと戻れた~。あんなに混むことあったかな~」
行きつけのファミレス。ドリンクをミックスしてからやや急ぎ足で席へ戻った。今日は琴葉とエレナの三人で遊ぶ約束をしていて、アタシはその日何の予定もない完全オフの日だったということもあって先に待ち合わせ場所であるファミレスに来ていた。後の二人は少し家の用事があるので遅れるらしい。
「あ、連絡着てた。あー……。急がなくていいよー、と」
慌てて怪我でもしたら事だから焦んないようにメッセージを返し、一息ついた。それから、〈いつも通り〉前の席に顔を向けて話題を振った。
「さっき用事終ったから急いで来るってさ。慌てなくていいのに」
「どう思う?紗代子」
名前まで呼んでから我に返った。今日はここにいないのに、てっきりいるという前提で頭が周りを認識していたみたいだ。
3 :
Pくん
2022/02/16 23:54:30
ID:JsUNHBkAT2
「……」
周りにさっきの行動が見られていなかったか、目配せをして確かめた。誰もアタシに注目していない様子で、そのことに安堵した。
「……何言ってんだろ、アタシ」
ここのところ、一緒にいる時間が増えたということもあって意識していたみたいだ。それとも、〈あのこと〉を引きずっちゃってるのかな……。
「二人とも、まだ来ないな……」
頬杖をついて窓の外へ視線を向ける。それぞれのペースで行きかう人たちの姿を眺めながら琴葉とエレナを待った。
気持ちを切り替えるつもりだったのに、アタシの頭の中では紗代子と過ごした時間が思い出されていた――。
4 :
下僕
2022/02/16 23:54:48
ID:JsUNHBkAT2
ここ5か月くらいは紗代子と遊ぶ機会が増えていた。どうしてって聞かれたら放っておけなかったからと答えるかもしれない。何しろ、5か月前にプロデューサーが一般人の女性と結婚して、事務所の中でそれがちょっと、いやかなりの波紋を呼んでいた。アタシ自身もその波紋を作った一人という自覚はある。ただ、心のどこかで相手がいるのかとか、その時はどうにかショックを受けすぎないように心構えをしておこうとか思っていたからか、思ったより衝撃は無かった。琴葉は何でもないように取り繕ってお祝いしていたけど演技がガタガタした調子で、回復まで時間がかかっちゃっていた。エレナは「それでもプロデューサーのことは大好きだヨ!」と言ってから「でもおめでとうー!」と素直な気持ちを伝えていた。他にも、自分の家族のことのように嬉し泣きしている人や見るからにショックを受けて呆然としている人、馴れ初めを聞きに行っていたマセタ娘と様々な反応があった。
その中で一人、紗代子の反応が気にかかっていた。ほんの少しの間呆けたような表情をして、その後に笑顔を浮かべてお祝いしていた。ただ、アタシは何か胸騒ぎのようなざわめきを感じていた。
5 :
プロデューサー
2022/02/16 23:55:13
ID:JsUNHBkAT2
―
ある日の午後、ステップで上手くいかなかった部分があったからそれを改善しようと自主練に来た時、レッスンルームから音が聞こえてきた。誰か来ているんだと思いながら着替えて移動すると、紗代子が自主練していた。
「紗代子?」
「……あれ、恵美ちゃん?どうしたの?」
「ちょっと自主練をね~。紗代子は?」
「……私も、自主練」
「そっか」
アタシが教わったステップを映像で確認している間、紗代子は自主練を再開した。アタシは映像を見ながら横目で紗代子の様子を伺っていた。いつの日か感じた、ざわめきを胸の中に感じたからだ。そして、それが的中したかのように紗代子がバランスを崩して倒れた。
「大丈夫?」
「平気……、あ、あれっ」
起こそうと駆け寄ったアタシに紗代子は苦笑いで対応するけど、力が抜けてしまったのか上手く立てない様子だった。なので二本持ってきていたスポーツドリンクのうち一本を渡して休憩をとらせた。
6 :
プロデューサー殿
2022/02/16 23:55:43
ID:JsUNHBkAT2
「どう?」
「リラックスできたかも……。ごめんね?」
「いいっていいって。というかさ、そんなに疲れるまで練習してたんだね。どれくらいやったの?」
「えっと、九時にここに来てからだから……」
「そんなに!?ちゃんと休みながらやった?」
「……ほとんど取ってなかったかも」
「そりゃ疲れるよ!」
片手の指を全部折りきった紗代子の自主練のハードさに目を丸くした。それに加えて休憩をほぼ取らずにって発言に嫌な予感がした。
「あのさ紗代子。お昼ご飯はどうしたの?」
「えーっと……」
「?」
「……食べてない」
「なおさら疲れるって!もう、しょうがないなあ!」
努力家なところは尊敬できるけどこういう体を壊しそうなところは心配だ。だからアタシは決断した。
7 :
Pちゃま
2022/02/16 23:56:15
ID:JsUNHBkAT2
「ご飯食べに行くよ!」
「え。でも恵美ちゃん、練習は?」
「うるさくしなかったら家でも出来る!さあさあ!着替えるよ!」
「あーっ、ちょ、ちょっと待ってー!」
戸惑う紗代子を立たせて背中を押し、更衣室で着替えてからファミレスに向かった。
「えっと、本当にいいの?」
「いいのいいの!行き倒れかける友達を放ってなんておけないし!」
「行き倒れって……」
「いいからいいから!早く食べる!」
「じゃ、じゃあ、いただきます」
ファミレスに着いてから紗代子が好きそうな料理を注文し、有無を言わさず食べてもらっている。かなり遠慮しているけどこちらの勢いに押される形で紗代子は食べ始めた。
8 :
ぷろでゅーさー
2022/02/16 23:56:35
ID:JsUNHBkAT2
「あの、恵美ちゃん」
「なに?」
「そんなに見つめられると食べにくいんだけど……」
「まあまあ、気にしない」
「……」
ちょっと気まずそうにしながら紗代子は食事を続けた。それから数分後に完食したのを見計らって、アタシは気になっていたことを聞いた。
「ところでさ紗代子。何であんな熱心に自主練してたの?」
「え?なんで、って?」
「だってさ、いくら練習熱心でも休憩忘れてぶっ続けなんてそうそうないじゃん。どこかでいったん止めて調子整えるだろうし」
「……」
「それなのに疲れてダウンしちゃうくらい続けちゃうのって、ちょっとやり過ぎなんじゃないかなって思ってさ」
努力家の紗代子が自主練にも熱心なところはこれまでに何度か見たことはあったけど、ここまで調子を崩しそうになるほど打ち込んでいたのは初めて見た気がする。だからアタシは引っかかっていたのかもしれない。
9 :
プロデューサー君
2022/02/16 23:57:52
ID:JsUNHBkAT2
紗代子は少し目を伏せてから、ゆっくり顔を上げた。
「場所、移ってからじゃダメかな?」
「なにが?」
「練習していた理由を話すの」
「……分かった。じゃ、お店出よっか」
代金を支払ってからファミレスを出た。ちなみにアタシが食べさせたかったからということでお金を払うと、すごく申し訳なさそうな紗代子の律義さがちょっとおかしかった。
10 :
我が友
2022/02/16 23:58:15
ID:JsUNHBkAT2
完全に人気が無いわけじゃないけどそれでも人影がまばらだったということで公園のベンチに二人で腰掛けた。一応話してくれると言っていたけど、何かきっかけというか促した方がいいかと思って言葉を選んでいると紗代子が話し始めた。
「あのね、本当は何度かこけそうになったの」
「練習しすぎで?」
「ううん。練習を初めて五分も経たないうちからちょくちょく」
「そ、そんなに……?」
思わずそう言ってしまった。不意打ちで想像していなかったことを聞いて、少し動揺していたのもあった。
「何度も体勢を立て直して仕切り直したんだけど、今度は集中力も続かないって状態にもなったの」
「珍しいね、紗代子がそうなるのって」
「……私も、自分のことなのにビックリしてるよ」
11 :
Pサン
2022/02/16 23:58:31
ID:JsUNHBkAT2
でもねと、一旦区切ってから話を続けた。
「理解も納得もしてるんだ。私の弱さが招いたことだから」
「……」
寂しそうに笑う紗代子と弱さという言葉で‘あの日’に見た光景が思い出された。それで本当は紗代子が話すまで待とうと思っていたけど、口が勝手に言葉を発していた。
「プロデューサーの結婚のことが引っ掛かってた?」
少し驚いたような表情で紗代子は黙った。それから一度目を瞑ってから口を開いた。
「……分かるんだ」
「まあ、勘違いだったらごめんだけど、アタシも同じ気持ち抱えてたし」
「勘違いじゃないよ、きっと」
「そっか」
どこかで紗代子がプロデューサーに送る視線が好きな人へ送るそれになっているのを見たことがあった。初めはアタシの思い込みだと思ったけど、何度かそういう場面に遭遇してからはほぼ確信に変わっていった。アタシも同じ気持ちだったからすぐに分かったとも言えるだろうし。琴葉とか他の人たちのそれも同じ要領で何となく察していた。
12 :
ダーリン
2022/02/16 23:58:48
ID:JsUNHBkAT2
「ダメだよね……。好きな、好きだった人の幸せなのにお祝いする勇気がなかなか持てないなんて。ううん、それ以上に気持ちを伝えることすら出来なかったのに……」
「紗代子……」
「そんな自分が情けなくて、少しでも気持ちを切り替えたくて自主練に集中しようとしたけど、体が言うこと聞いてくれなくて。私、ダメなアイドルだよね……」
声を震わせながら紗代子は気持ちを吐き出していた。目じりには涙が溜まっていて、今にも零れてきそうだった。アタシはただ、傍にいることしかできないでいた――。
13 :
そこの人
2022/02/16 23:59:03
ID:JsUNHBkAT2
「ごめんね、せっかくのお休みなのに振り回しちゃって」
「気にしないでいいよ。振り回されたなんて思ってないし」
本心を吐露してからどれくらいベンチにいただろう。俯いていた顔をこちらに向けてまた申し訳なさそうにしている。あの時溜まっていた涙は結局零れなかった。アタシはそれがやけに引っ掛かってて、このままでいいのかと思っていた。
「それじゃ帰るね。また明日……」
「あ、待って!」
「えっ」
そのまま帰ろうとした紗代子の腕を掴んで引き留めていた。細かい理由なんてない、このままじゃ良くないって気持ちが体を突き動かしていた。
14 :
EL変態
2022/02/16 23:59:23
ID:JsUNHBkAT2
「め、恵美ちゃん?」
「……このまま帰ったらダメだと思う」
「どうして?」
「とにかく来て」
「あっ」
戸惑う紗代子の手を引いてアタシは劇場へ向かった。到着してから中へ入り、奥へ進んで行く。そして、ステージの上に出た。
「どうしてここに?」
「紗代子、ここでなら思いっきり泣けるよ」
「泣くって、どうして?」
聞き返す紗代子だけど言葉を発する少し前に動揺したのをアタシは見逃さなかった。
「まだ我慢してるんだもの。だったらさ、思いっきりここで吐き出しちゃわないと」
「……でも」
「このままだと、紗代子が潰れちゃうと思ったんだ。紗代子だってきっと、どこかで後悔するかもしれないから」
「……後悔」
意見の押し付けになってしまっていたけど、アタシとしてはどう思われたってかまわなかった。だってあの時堪えた涙は流すべきものだと直感が告げているから。アタシはカバンから予備のハンドタオルを取り出して渡した。
15 :
ぷろでゅーしゃー
2022/02/16 23:59:39
ID:JsUNHBkAT2
「ヤバくなったらこれで拭いて」
「……泣いた方がいいのかな」
「アタシのクラスメートにもさ、フラれちゃったりしたら目いっぱい泣く子がいるんだよ。その後スッキリした顔になるんだ」
「そっか。そう、だよね……」
表情が歪み、泣こうとしているんだと分かった。
「泣き止むまで出とこうか?」
「……ううん、近くにいて」
「オッケー」
少しだけ距離をとり、背中を向けた。そして聞こえてくる紗代子の泣き声。ハンドタオルを顔に当てているのか声がくぐもっていた。
そんな状況でアタシは、琴葉も泣いた時のことを思い出しながら考えていた。一個か二個年上なだけで二人とも恋する女の子だったんだなって。アタシもその括りに入るけど。
16 :
プロデューサーはん
2022/02/17 00:00:01
ID:9TIod/iSd2
何分経ったかは分からないけど、ひとしきり泣いてから紗代子はアタシの肩を叩いた。
「これ、洗って返すね」
「そんなこと気にしないでいいって」
「でも」
「いいから。泣いた後なんだし、そんなことでうるさく言う人なんていないよ」
持っていたらまた何か言いそうだったので紗代子の手からスッとハンドタオルを抜き取り、カバンにしまった。紗代子の目元は泣きはらした後だからか赤くなっていた。
「それにしても、赤くなっちゃったね」
「そう?」
「うん。はい鏡」
「ほんとだ……」
「流石にすぐには引かないかもだし……。軽くメイクしたげる」
「え!?そこまでしてくれなくても」
「いいんだよ。そのままだと電車の中でジロジロ見られちゃうかもしれないよ」
17 :
ID変わりましたが作者です
2022/02/17 00:00:35
ID:9TIod/iSd2
またもや何か言う前に紗代子の手を引いてステージを出た。エントランスのどこか適当な場所に紗代子を座らせて腫れ隠しにメイクを施した。
「よし、これで大丈夫っと。これなら泣いた後だってバレないと思うよ」
「……何から何までごめんね」
「謝んないでよ。というかアタシ、謝られるようなことされてないし」
「それじゃ……、ありがとう」
「どういたしまして」
アタシがおどけながら返すと紗代子は笑った。
それから少しだけ雑談をしてからアタシ達は帰った。ちなみに「恵美ちゃんは泣かないでいいの?」と聞かれたけどアタシはメイクが崩れるから家で泣くよと返した。紗代子は何それと苦笑いしていた。
18 :
箱デューサー
2022/02/17 00:00:56
ID:9TIod/iSd2
帰りの電車の中、昼間のことを思い返した。休日、紗代子と一緒という滅多にない出来事を体験したというのもあるんだろうけど、それ以上に紗代子の内面に触れた事実が頭の中で引っ掛かっていた。
家に帰ってアタシも失恋の涙はどう流すのかとふと考えたけど、どういうわけかそこまで悲しい気持ちにならず、そのことへの困惑しか出来なかった。
―
19 :
ボス
2022/02/17 00:01:17
ID:9TIod/iSd2
紗代子が泣いた日のことを思い返し、何となく考える。あの日、紗代子を引き留めたのがきっかけだったのかなと。もしくは紗代子の涙を見たのがきっかけだったのかなと。どちらにしても、その日より前の日々と比べて紗代子と遊ぶ日も増えたのは事実だった。
「……あ」
と、窓をぼんやり眺めていると琴葉が通りかかった。見るからに早歩きだ。そしてアタシを見ると更に歩調を早めた。続けてエレナも来た。こちらはアタシの顔を見るや否や大きく手を振って走ってきた。
「お待たせメグミー!」
「ごめんなさい、遅くなっちゃって」
「大丈夫だって!ほらほら、二人ともドリンク注いで来なよ」
待ち合わせていた琴葉とエレナが到着し、賑やかな席になった。アタシは二人を自然と促しており、また一人になる時間を作ってしまっていた。
20 :
おにいちゃん
2022/02/17 00:01:34
ID:9TIod/iSd2
―
紗代子とも遊ぶようになった理由は深くなんてない。あの涙を見てから放っておけないって気持ちが芽生えたというのが最初だった。だから気分転換の時間を作れたらとそう考えた。
遊びに行く場所は、アタシがよく行くアクセサリーやコスメのお店だったり、紗代子が気に入っている鯛焼き屋さんやペットショップだったりと、お互い行くお店の方向性が見事に違っていた。というか、紗代子も琴葉と同じくらい真面目だから参考書とか見に来るのかなと思っていたことがあってそのギャップに驚いたというのもある。つい本人に聞いたときは、「地元の書店で買うよ?」とキョトンとした顔で返された。ただ、必ず行く場所が‘あの日’に立ち寄って、アタシが紗代子の涙を見た公園だった。紗代子が言うにはいっぱい歩いた時の休憩にいいとのことだけど、アタシはちょっと落ち着かなかった。
一緒にお出掛けする日、アタシは必ず紗代子とツーショットを撮る。初めはちょっとした思い出のためだったけど、回数を重ねるうちに意味が変わっていった。
21 :
おやぶん
2022/02/17 00:10:56
ID:9TIod/iSd2
「メイク?」
「そ。こないだのとは違って、単純なおしゃれ目的のやつ」
ある日、事務所でアタシはメイクを施したいって話を持ち掛けた。‘あの日’にしたのは泣き顔を誤魔化すためのものだったから今度は紗代子をもっと可愛くするタイプのメイクをしたかった。紗代子は謙遜するけど綺麗な顔しているからメイクしたらどうなるのか興味があったからだ。
「おしゃれかー。そういえば、前に海美が恵美ちゃんにネイル教わったことを嬉しそうに話していたよ」
「あー、あれかー。海美、自分でやってみたんだけどちょっと苦戦しちゃっててさ」
「想像できるかも」
メイクしやすいように軽く準備をしながらそんな会話を交わしていた。ただ、その会話をしている時のアタシは内心穏やかじゃなかった。ほんの少しだけモヤモヤした感触があった。今ではそのモヤモヤは嫉妬からくるものなんじゃないかと思っている。
22 :
おやぶん
2022/02/17 00:11:21
ID:9TIod/iSd2
「それじゃ、目を閉じて」
「うん」
アタシに言われた通り紗代子は目を閉じた。瞼の上にアイシャドウを滑らせる。軽くチークも着ける。そしてリップに塗ろうとしたところで少し塗り難いことに気付いた。
「ごめん紗代子。ちょっと口動かしてくれる?少し細めるだけでいいからさ」
軽くすぼめるように動かされた唇。リップを塗ろうとしたけど、ふと手を止めた。
「……」
少し距離をとって顔全体を見る。何故か、心臓が高鳴ってきた。
「恵美ちゃん?」
眼を閉じたまま紗代子がアタシの名前を呼んだ。
「な、なにっ?」
「何もしないからどうしたのかなと思って」
「ご、ごめん。塗る色に迷っちゃって。すぐ塗るから」
目を開けていたらキョトンとした表情だったかもしれない紗代子は、唇の形を整えて待機してくれた。アタシは平常心を保つのに苦労しながらリップを塗っていった。
「はい、終わり」
鏡を見せて紗代子に感想を伺う。
23 :
そこの人
2022/02/17 00:12:25
ID:9TIod/iSd2
「どう?」
「……上手く言えないんだけど、私じゃないみたい」
「にゃははは、言うと思った!でも、まぎれもなく紗代子だよ」
「こんなに変わるんだね……」
紗代子の元々の良さを台無しにしないことに注意しながら施したメイクは、本人を驚かせながらも好評みたいだ。それからアタシがスマホで写真を単独で撮り、せっかくだからツーショットも撮った。
紗代子は営業が控えているのでメイクを落としに行き、アタシはさっき撮った写真を眺めていた。我ながら上出来!と思わなかったわけじゃないけど、それよりもずっと心に引っ掛かるものがあった。その引っ掛かりの正体は何なのか考えていると紗代子が戻ってきた。
24 :
バカP
2022/02/17 00:17:13
ID:9TIod/iSd2
「おかえりー。ありゃりゃ、すっかりメイク落ちちゃったね~」
「ごめんね、せっかくしてくれたのに」
「まあこの後お仕事だから仕方ないって」
「それはそうだけど……」
ここまで言葉を交わしてから紗代子は少し黙り込んだ。どうしたのかなと思っていると、紗代子はアタシの目をまっすぐ見ながら会話を再開した。
「……あの、恵美ちゃん」
「なに?」
「恵美ちゃんが良かったらでいいんだけど、またメイクとかしてもらえるかな?」
「え」
予想外のお願いにアタシはちょっと間抜けな声が出てしまった。
25 :
下僕
2022/02/17 00:17:27
ID:9TIod/iSd2
「迷惑、かな?」
「そ、そんなことないって!紗代子が良かったらいつでもやったげる!」
「本当?」
「ホントホント!」
「ありがとう、恵美ちゃん」
今までクラスメートとかにもメイクをお願いされたことはあったけど、どういう訳かメイクをお願いされたことがかなり嬉しいと感じたのは初めてだった。顔に熱が集まって、頬が綻んでいるのもよく分かった。
26 :
我が友
2022/02/17 00:23:05
ID:9TIod/iSd2
「そういえば、途中で手が止ってたみたいだけど何かあったの?」
「へっ!?あー、えっとね、くしゃみ出そうだったからあっち向いてた」
「風邪ひいた?」
「ううん、急に鼻がムズムズしちゃって」
紗代子の顔に見惚れていたなんて恥ずかしくて言えなかった。だからあからさまな嘘をついてしまったけど紗代子は心配してくれるだけだった。
27 :
Pーさん
2022/02/17 00:25:40
ID:9TIod/iSd2
その日の晩、自室で紗代子が目を閉じていた時のことを思い出す。
「……あの口の形、あれって……」
き、まで出かかって悶えた。何を意識しているんだと。でも、それでも抑えられない気持ちが一つだけあった。
「可愛かったな、紗代子……」
本人は容姿に自信が無いらしいのを聞いたことあったけど、謙遜とかしなくていいのにと思う。それに、あんなにメイクで変わるなんて……。思考がなかなかまとまらない。次メイクする時は何の色を塗ってあげようかと考えて落ち着こうとした。
28 :
そこの人
2022/02/17 00:28:36
ID:9TIod/iSd2
それからも紗代子と遊ぶ機会は増えた。もちろん琴葉やエレナと遊ぶのだって続いているけど、紗代子と遊ぶ時間は二人と遊ぶそれとは別の意味で楽しくなっていた。楽しそうな表情を見るたびに気持ちが膨れてきて、一緒の時間が終るのが名残惜しくて。いっそのこと時間が止まってくれたらいいのにと考えたりもして……。
アタシは、紗代子に友達以上の『好き』を向けていた。
―
29 :
Pちゃま
2022/02/17 00:33:00
ID:9TIod/iSd2
ドリンクバーから戻って来た琴葉とエレナを改めて迎えつつ、メニュー表を眺めていると、ふと何かに気付いた琴葉がアタシに声をかけてきた。
「恵美、飲まないの?」
「なにを?」
「ドリンク。氷がほとんど溶けてるけど」
「あ、ホントだ」
考え事をしていて飲むのを忘れていた。グラスにそこそこ入れていた氷もみんな小さくなっている。
「メグミー、何か悩みでもあるノ?」
「何でそう思うの?」
「ずっと何かを考えているじゃない」
「そうかな」
悩みというわけじゃないけど色々考えることがあるのは事実。でも、言うのを憚られたので誤魔化してしまう。
30 :
プロデューサー
2022/02/17 00:39:16
ID:9TIod/iSd2
「まあ、何かあったら相談するかもだからさ。心配しないでよ」
「恵美がそう言うならいいけど……」
申し訳ないと思いつつ、アタシはストローでドリンクを啜った。
「ん゛!?苦っ!」
「大丈夫?」
「へ、平気……。何混ぜたっけ……」
ドリンクの色を確認して考える。まさか、コーラとコーヒー間違えて入れた?
「変えて来ようカ?」
「……いいよ。もったいないから全部飲む」
残したらお店に迷惑だとも思った。それに、‘あの時’が来た日もこの味があった。
31 :
プロちゃん
2022/02/17 00:43:54
ID:9TIod/iSd2
―
紗代子と遊ぶ機会が増えて四か月以上経っていたと思う。それから、アタシの紗代子に対する気持ちもどんどん強くなっていった。この気持ちは伝えるべきかどうか悩んだ。伝えたことで関係に亀裂が入ってしまうのを懸念した。一方でずっと押し込めることでパンクしてしまうことが怖かった。
悩んで悩んで、アタシは伝えてみることを決断した。ただ、いつ伝えるべきかそこでもまた考えた。そんな時、紗代子から連絡が入った。お出掛けの誘いだった。チャンスと思ったし、一方で伝えるには早いかもしれないと慎重に考え、OKの返信をしてから考える羽目になった。
32 :
3流プロデューサー
2022/02/17 00:55:58
ID:9TIod/iSd2
紗代子と会う当日、アタシは駅近くのコーヒー店でアイスコーヒーを飲んでいた。思ったより早く待ち合わせ場所に来てしまったので時間つぶしを兼ねて、告白について考えを練るためだった。なかなか考えがまとまらない中、駅に到着したという連絡を受けてお店を出た。合流し、色々な場所を回る中で更に考えていった。
例によっていつもの公園に休憩がてら立ち寄った。今日は人影がまばらで静かだった。
「思い出すね」
「なにを?」
「自主練の後のこと」
「……あ~」
‘あの日’のことを懐かしむように紗代子は話し始めた。
33 :
Pサマ
2022/02/17 01:00:20
ID:9TIod/iSd2
「ここで、本音を聞いてもらって、その後劇場に行って泣いて。あの時、恵美ちゃんについてもらってなかったらどうなってただろうって思うんだ」
「アタシはお節介だったかなって思ってたよ」
「そんなことないよ。恵美ちゃんの優しさに助けられたもの。……ありがとう」
「お礼言われると照れるな……」
泣いてスッキリした後紗代子は謝ってきた。謝られるようなことじゃないってその時は言ったけど、改めてお礼を言われるとすごく照れる。そんな大したことしてないって思っているから余計に。でも、好きな人の役に立てたならと思うと、嬉しさも感じる。
「だからね、恵美ちゃんが何か困っていることがあったら私も力になりたいんだ。少しでも恩返しができるように」
「恩返しなんて大げさな……」
「ううん、全然大げさじゃないよ。それほどのことをしてもらったんだもの。それに、私たち仲間だから」
「……そうだね」
紗代子の気持ちは嬉しいけど、やっぱり仲間で止まってるのかなってこの時のアタシは変に捻くれた捉え方をしていた。
34 :
Pチャン
2022/02/17 01:12:06
ID:9TIod/iSd2
だからなのか、アタシは腹を括っていた。ただ、すぐに行動には移さずにゆっくりと。
「アタシさ。あの時紗代子に付き添ったのは大事な仲間だからというのがあったよ」
「……うん」
「辛い気持ちを抱えているのが伝わってくるし、紗代子って結構抱え込むところがあるからどうにかしなきゃなって、そう思ったんだ」
「私、そう思われてたんだ……」
「結構長い付き合いだからさ。……たださ」
話題を切り替えると紗代子は少し表情が変わった。何を言おうとしているのか様子を窺っているのかもしれない。
「今みたいにこうして一緒に出掛けるのは仲間だからというだけじゃないよ」
「……うん、友達でもあるから」
「……それ以上だよ」
「えっ」
「友達以上だよ。アタシにとっての紗代子は」
35 :
do変態
2022/02/17 01:12:19
ID:9TIod/iSd2
考えつきもしなかったことを言われた、そんな感じの表情で紗代子はアタシを見ている。アタシは、なるべく堅苦しくならないように言葉を続けた。そうした方がアタシらしいと思ったから。
「紗代子、アタシは紗代子が好き。だから、付き合わない?」
ただただ驚いている紗代子の目をアタシはまっすぐ見つめる。これでも真剣だ。
紗代子は驚きのあまり開いた口をゆっくりと閉じ、少し息を吸った。そして、息を小さく履いてからアタシの目を見て、それから……。
―
36 :
兄ちゃん
2022/02/17 01:20:58
ID:9TIod/iSd2
「め、恵美?」
「どしたの?」
「泣いてるヨ!?」
「え、嘘……」
目元に指をやると涙が流れていた。
「どこか痛いの?」
「え、ああ~……。ドリンク、ドリンクが苦かったからかな」
「苦くて泣くって……」
「しばらく苦いもの口にしてなかったからさ」
「じゃ、じゃあワタシ新しいドリンク持ってくるヨッ」
「大丈夫だって。今から飲むから」
ストローで一気に啜り、ドリンクを飲みほした。苦味が口の中を支配するけど、今はそれがありがたい。
「じゃあ、新しく注いで来るね~」
心配する琴葉とエレナに笑顔を取り繕ってからアタシは席を離れた。
37 :
プロデューサー君
2022/02/17 01:27:46
ID:9TIod/iSd2
―
「……ごめんなさい。恵美ちゃんとお付き合い、出来ない」
アタシの告白を受けて紗代子は頭を下げた。やっぱりと思った気持ちが半分、ショックが半分の精神状態でアタシはどうにか明るく振舞った。
「あ~……、女の子同士だもんね……。アタシの方こそごめんね。変なこと言って」
「……そういうわけじゃないの。気持ちはどうなのかと言ったら、嬉しいよ」
「だ、だったら」
「でもっ。でも、私は恵美ちゃんの‘好き’に応えられない。ううん、相応しくないから……」
「相応しくないって、どういう……」
言葉の真意が分からず、アタシは尋ねていた。
―
38 :
do変態
2022/02/17 01:31:49
ID:9TIod/iSd2
「……気持ち悪いって言われなかっただけ、マシなのかな」
ドリンクを注ぎながらアタシは紗代子の返事を思い返していた。
「いや、そう言われた方が何倍もマシだったよ」
かぶりを振って考えをかき消した。アタシの質問に紗代子はこう答えていた。
『恵美ちゃんには、私よりもいい人がきっと現れるから』
ただその一言だけ。相応しい相応しくないの意味を聞いたのに帰って来たのがこういう答えだった。理解も納得も出来なかったけど、それ以上にアタシはこの言葉の方がショックだった。
39 :
do変態
2022/02/17 01:40:24
ID:9TIod/iSd2
告白した日の後、アタシと紗代子はどうしたのかって?変わらず、仲間として友達として交流は続いている。もちろん、一緒に遊ぶことだって。だけど、どこかで距離を感じてしまっている。
琴葉とエレナが待つ席へ戻ってからもう一度告白した時のことを思い返す。紗代子の声は震えていた。それもプロデューサーへの気持ちを吐き出した時よりも。紗代子は優しいから断ることの申し訳なさを感じていたのか、それとも……。都合のいい方向へ考えが傾きかけた。
でも、アタシもなんだか変だった。プロデューサーへの失恋以上に紗代子にあんなことを言わせてしまったことの方が悲しくて、涙が出てくる。
どこで何を間違えたのかな。こんな苦い経験って、そうそう無いよ。
40 :
プロデューサーさん
2022/02/17 01:45:13
ID:9TIod/iSd2
恵美ちゃんから告白された時はすごく驚いた。恵美ちゃんからそんな風に想われていたなんて知らなかったし、何より嬉しさもあった。でも、それじゃダメなんだってずっと言い聞かせていたから、断らざるを得なかった。
プロデューサーに失恋してからずっと、気持ちを抑えつけながら物事に打ち込んでいる毎日から引っ張り出してくれたのが恵美ちゃんだった。彼女にとって私は事務所の仲間だから放っておけなかったのだろうと思っていた。
41 :
あなた様
2022/02/17 01:46:24
ID:9TIod/iSd2
だけど恵美ちゃんと遊ぶ機会が増えて考えが揺らいでいった。自分でも単純だと思う。事務所でも一緒になることも増えていって、お互い歩み寄ることが必然と多くなった。その交流の中で私は恵美ちゃんに惹かれていったんだと思う。
このことを自覚してから私は気持ちを抑えなければと思った。このままじゃ、恵美ちゃんに寄りかかるだけの、迷惑をかけるだけの自分になってしまう。だけど、恵美ちゃんとお話したり触れ合ったりすることで気持ちが膨れ上がっていく一方だった。
42 :
Pサマ
2022/02/17 01:49:19
ID:9TIod/iSd2
迎えた告白の日、恵美ちゃんから気持ちを告げられた時は驚いた。両想いだったんだと知って嬉しかった。だけど、私はその気持ちに甘えてしまうことはダメだと自分に言い聞かせた。
でも、告白を断る時、自分でも分かるほど声が震えた。目頭に熱が集まって視界が揺らぐんじゃないかと気が気でなかった。
「……私は弱いなぁ」
独り言が出てきた。自分の本当の気持ちを言わずに一方的に断るのは、卑怯だとあの日からずっと後悔している。でも、今更そんなことを伝えて何になるのか。私は、自分の取った行動を後悔しながら、それでも貫き通さないといけない。
恵美ちゃん、私と友達でいてくれてありがとう。それから、私よりもいい人と出逢って、私に抱いていた気持ちを忘れて……。
43 :
せんせぇ
2022/02/17 01:51:57
ID:9TIod/iSd2
終わりです。考え無しに書いた結果、こんな時間になってしまいました。
紗代子も恵美も、人に対して情が深い一面があるように感じたことがあり、その解釈に基づいて書きました。
前作ですが、今作と繫がりはありません。
【CPSS22】気持ちも包む【ことさよ】
http://imasbbs.com/patio.cgi?read=24186&ukey=0&cat=ml
それではお目汚し失礼しました。
44 :
夏の変態大三角形
2022/02/17 03:19:43
ID:mav6xoumys
乙
こういうのも好き
45 :
プロデューサー君
2022/02/17 18:47:35
ID:9TIod/iSd2
ことさよでガールズラブ系を書くとなると、どちらも情が深いゆえに擦れ違い事故を起こしそうだと感じましたね。
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