【ミリSS】夏、姫とセレブ 控え室でのワンシーン
1 :   2022/08/14 07:19:54 ID:FLlJO.dXNI
立ったら投下します
地の文あり 中盤以降は会話中心
2 : おやぶん   2022/08/14 07:20:07 ID:FLlJO.dXNI
マシュマロがどろどろに溶けちゃうほどの炎天下、ゆらめく陽炎から逃れるように早足で最寄りの駅から劇場へと向かった。
幼い頃、雲一つない青空の下で傘を差す人を見て不思議がったこともあったかな、なんて。今では折り畳みの日傘を持ち歩いている私。
屋外ステージでのライブだったり、映画やドラマの撮影のために野外に出たりするのは嫌いじゃない。でも、ギラギラとした太陽にずっと見守られるのは勘弁願いたいところだ。
劇場のエントランスに着くと、ふわっと全身で涼しさを感じて、思わず小さく声が漏れた。一歩進むごとに額の汗がすーっと引いていくのを感じもする。
時刻を確認すると、レッスン開始まではまだ十分に時間がある。控え室で、今度出演させてもらうドラマの台本をチェックする予定だった。
でも、収録までにはまだ日があるから、誰か部屋にいたらその人と話すのもいいかもしれない。台本チェックは家でもできる。
誰かしらいるだろう。夏休みも始まっている。普段はなかなか時間の合わない子とも会えるかも?
巡り合いを期待して胸躍らせながら、廊下を進み、控え室に入った私を迎えたのは二階堂千鶴さんだった。
3 : おにいちゃん   2022/08/14 07:20:17 ID:FLlJO.dXNI
迎えたと言っても、彼女は私が来たのに気づいていない。テーブルにつき、アパレル雑誌を広げて読み、そして眉間に皺を寄せていた。むむむ、と。そんな唸り声だって聞こえるよう。
いつものアイドル二階堂千鶴と照らし合わせてみれば不恰好と言ってもいい。噴飯しそうなるのを私は堪える。
存外、千鶴さんは表情豊かだ。とても。平凡な雑誌を読むことに集中している彼女を、ファンの人たちが見たらどう思うんだろう。やっぱり喜ぶのかな。
思い返してみて、私にとって千鶴さんの第一印象、それはたぶん春に皆一様に顔合わせをした時だったはずだけれど、彼女に抱いたそれは凛々しさであった。
セレブらしい高貴な雰囲気や身のこなしの洗練ぶりに惹かれつつ、そのすました綺麗な横顔を遠くから見つめてしまったのを覚えている。
私が演じると覚悟を決めたお姫様とは違う、本物。その時は圧倒される心地さえあったのだ。そんなわけで、その後の自己紹介のときの、わざとらしい高笑いには肩透かしを喰った気もしたんだけれどね。
アレクサンドラとも孤島の館の女主人ともまるで異なる面持ちで、千鶴さんは雑誌と対峙している。ううん、もちろん雑誌のほうは千鶴さんを睨んでなんていない。
そんな千鶴さんを正面から黙って眺めていると悪戯心がわいた。雑誌に夢中になっている彼女に声をかけず、むしろ気づいていないのをいいことに、抜き足差し足で背後へと回りこむってのはどうだろう。
それで真後ろから耳元に息をそっと吹きかける、そんなことを思いついた。失礼が過ぎるから、さすがに実行はしないけれど、考えてみるだけでも楽しくなった。
気づかれずにどこまで近づけるかは試してみたくなった。忍び足でそーっと距離を詰めていく。正面から移って横まできて足が止まった。
4 : 兄(C)   2022/08/14 07:20:27 ID:FLlJO.dXNI
あの日、遠目からしか望めなかった横顔。なんだか妙な気分になったのだ。
言うまでもなく、これまでのレッスンやお仕事で一緒になることはあって、場合によっては千鶴さんの息遣いを感じられる距離まで近づいた経験だってある。けれど、こうも一方的に彼女を見る機会はなかったと思う。
距離感だけなら、たとえばメイクさんは普段から私たちと文字通り触れ合える近さでお仕事する。でも、こんなふうに緊張することって少ないだろうなって。
緊張? そう思ってから、変に緊張している自分に気づいた。それは千鶴さんを一方的に見つめていることに対する背徳感らしきもののせいなのか、それともより単純に千鶴さんが美人なのを再認識するに至ったからなのか、どうも両方な気がする。ドキドキする。
たとえ雑誌相手に頭を抱える素振りをしていようとも、やはり彼女は二階堂千鶴なのだ。
また一歩近づいた私にようやく彼女が気づいて「きゃぁっ!?」と驚いた。
素っ頓狂な声。緊張が一気に緩まった。私の勝手な第一印象のままの彼女でないのを今更嬉しく思いもする。
ステージ上でばっちりきまった彼女はかっこいいし、それはそれで好きだけど、やっぱり親しみやすさのある千鶴さんも好きだなって。
5 : 番長さん   2022/08/14 07:20:41 ID:FLlJO.dXNI
「ま、まつり?いつからそこに!?」

「ほ?実はもう一時間前から千鶴ちゃんの傍にいたのですよ」

「そんなわけないですわ!わたくしが来てからまだほんの15分ちょっとだというのに!」

「何を読んでいたのです?」

「え?ああっ!えっと、これは、ただのアパレル雑誌ですわ!ええ!」

そのとおりだ。別段、千鶴さんが読んでいておかしくない雑誌だと思う。中学生だとまだ早いかなってふうだけれど、高校生から大学生あたりの女の子が読むものとしてはメジャーな部類の雑誌だ。
もっとも、メイン読者層がもう少し上の雑誌であっても千鶴さんであれば自然な気はする。大学生向けのファッションよりは、落ち着いた大人の装いが様になるだろうから。
それはそうと――――こうも反応が面白……慌てていると、気になってしまう。何か隠し事でもしているのかなって。
6 : P君   2022/08/14 07:20:54 ID:FLlJO.dXNI
「千鶴ちゃん」

「はい?どうしてそんな急にかしこまった表情をしますの?」

「姫は全部お見通しなのです」

「な、何をですの?」

「さぁ、白状するのです。千鶴ちゃんは、何か隠しているのです。その雑誌が証拠なのです」

当然、かまをかけているに過ぎない。なんだったら戯れていると言ってもいい。
私だって誰振り構わず、困らせるつもりはなくて、千鶴さんであれば包容力というか対応力があるから、多少じゃれてもいいかなと。
決してここぞとばかりに見せた年上への甘えや、慌てふためく千鶴さんの表情を愉しんでいるのではない、断じて。
7 : せんせぇ   2022/08/14 07:21:12 ID:FLlJO.dXNI
「なっ。まつり、あなた……」

「ほ?」

「いえ、そんなまさか。卓越した膂力を有していると朋花も賛美していた記憶はありますが、しかし……」

それはきっと賛美ではないと思う。
ふわふわお姫様アイドルと卓越した膂力とを結びつけることが賛辞であるならば、自他認める聖母とすやぷぅと眠りこける体たらくをつなげることも褒め言葉である。

「まつりは読心術まで使えますの?」

「本当に何か隠し事をしているのです?」

さらりと質問に質問で返す私に、千鶴さんは鳩が豆鉄砲を食ったようになった。ああ、この顔はファンの人たちに見せるべきではないかも。ううん、というよりは私たち劇場の仲間の役得であるべきかな。

「はぁ。もういいですわ。ほら、こちらに座りなさいな。ええ、それでいいですわ。これも運命ということなのでしょう」

「急に大袈裟なのです。いったい全体、その雑誌がどうしたのです?」

「ん、ん。まつり―――改めて先週はありがとうございました。助かりましたわ」
8 : そなた   2022/08/14 07:21:26 ID:FLlJO.dXNI
「……ほ?」

今度は私が面食らう番だった。誰がこの流れで感謝されると予想できるだろう。盤上で何手先も読む美也ちゃんにだって難しいに違いない。
先週、というと。私は記憶をたどる。たしかに千鶴さんと一緒のお仕事があった。とはいえ、彼女を助けた覚えはない。私はいつもどおりのことをして、彼女もまたいつもどおりにお仕事をこなした。それだけ、だったような。
知らず知らずのうちに、命を助けていた?えっ、そんなことないでしょ。

「あまりピンときていませんわね」

千鶴さんこそお見通しだった。ひょっとして顔に出ていた?

「まぁ、それもしかたないことですわ。まつりにとっては特別なことをしたわけではないでしょうから」

「どういうことか教えてほしいのです」

「よろしくてよ」

なぜか得意気な顔になった千鶴さんはそう言うと、また咳払いを挟んで、説明してくれた。
千鶴さんは先週、私と共にゲストで出演したバラエティ番組の最中、別の共演者から話を振られるも、それは返答に困る内容であった。
なぜ困っているのかはさておき、私は困っている事実を理解し、助け舟を出した。ようするにフォロー。司会者がしっかりしていてほしいな、なんて思わなくもない。
まとめてしまうと、なんてことない。週をまたいで感謝の意を述べられるような大それたことではない。
私はそのままその旨を千鶴さんに伝える。
9 : おにいちゃん   2022/08/14 07:21:47 ID:FLlJO.dXNI
「べつにその時の件だけではないのですわ」

「そうなのです?」

「ええ。わたくしは、近頃はあなたの評判をよく耳にします」

「ほ?姫の評判を?もしかして諜報活動なのです?国家機密ビームなのです?」

「ちがいますわ!というより、まつりは国家機密に相当しますの!? いえ、そんなことよりも」

「姫の評判というと?」

「たとえば……朋花からは、ご当地名物PR企画の際の白熱した一騎打ちの件であったり、桃子ちゃんからは、新人司会をさりげなくサポートしていたって話であったり、育からは雑貨屋さんの1日店長をしたときに、いつ覚えたのか、まつりが商品知識などをよく知っていたことであったり、他にも瑞希からは演技力の高さに驚いて思わず休憩中に本人であるか訝しんでまつりの頬をつついてしまった、なんてことであったり……」

「ふむふむ。照れるのです」

「無論、そうしたお仕事のことばかりではなく、レッスンに真剣に取り組む様子はわたくしも直に見聞きしていますわ」
10 : 彦デューサー   2022/08/14 07:22:00 ID:FLlJO.dXNI
「まつりの、わんだほー!な活躍はよくわかったのです。自分のことだから、よーくわかっているつもりなのです」

「それはそうですわね」

「でも、千鶴ちゃん。そのことと雑誌がどう関係しているのです?」

話が見えてこない。
控え室にいた千鶴さんに忍び寄って、気づかれたと思ったらいきなり褒めちぎられる。白昼夢めいた出来事の中にいる私だった。

「雑誌は直接関係ないのですわ。わたくし、思ったのです。あなたを見倣おうと」

「千鶴ちゃんがまつりを?」

「そう。あなたの堂々とした立ち居振る舞いに、素直に感心して、それで学び取れるものがあればと思ったのですわ。遅ればせながらも」

「そういうのは……本当に照れちゃうのです」

少し目を逸らしてしまう程度には。
褒め言葉を周囲から贈られることに慣れているのはたしか。けれども、その相手というのが千鶴ちゃんで、しかも突然かつまっすぐにぶつけられると、ふわりふわりとうまいこと対処するのも容易ではないのだった。
11 : 兄ちゃん   2022/08/14 07:22:14 ID:FLlJO.dXNI
「それで、同時に思ったのですわ」

「何を?」

「わたくしとまつりって、言うほど接点ありませんわよね」

「………」

それはそうなんだけれど。そういう話の流れだった?

「朋花からはよく話を聞きますわ。一筋縄ではいかない相手であると」

「もっと、びゅーりーほー!だとか、きゅーと!って話は朋花ちゃんからは……」

「え?え、ええ、聞きますわよ、稀に」

朋花ちゃんはお年頃だからしかたない。
敢えて言葉にせずとも分かり合えることってある。
自分を励ましつつ、千鶴さんに話の続きを促す。
12 : ぷろでゅーさー   2022/08/14 07:22:28 ID:FLlJO.dXNI
「わたくしはそれほどまつりのことを知らない、関わり合っていないと気がつきました。そしてそれをもったいなく思ったのですわ。早い話、あなたと仲良くなりたいのですわ」

「直球なのです」

仲良くなりたい、そんなストレートな言葉、今になって劇場の仲間から言われるとは予想外だった。
少女漫画だったら壁にドン!顎をクイッ!で、そのままキュンッてノリだ。
そんなのを千鶴さんにされたら困ってしまうけれど。あ………想像しちゃった。

「ん、ん。わたくしとしては、このタイミングでこういう形で話す予定はありませんでしたわ」

「うん?それってつまり、じゃあ、あの雑誌は……?」

「何かプレゼントでも、と思いましたの。先週、フォローしてくれた件も口実にして。べつにまつりが現金な性格をしていると判断したのではありませんが、古今東西、贈り物で親睦を深めるのは常道ですから」

やや気恥ずかしそうに微笑む千鶴さんだった。
話を聞くと、事前に軽く雪歩ちゃんに相談した際、雪歩ちゃんが可憐ちゃんに最近プレゼントして喜んでくれたという話を聞いて、それならばと思い立ったそうだ。
13 : プロちゃん   2022/08/14 07:22:41 ID:FLlJO.dXNI
「けれど、まつりの好きそうなもの、気に入りそうなものがわからなくて」

「それでその雑誌の中で探していたってことなのです?」

「そう。前に読んでいたでしょう?ちょうどこの控え室で」

私は肯く。控え室で先月号を読んでいた記憶はある。
それはそうと複雑な心情だった。千鶴さんのことだから、生真面目にプレゼントを探してくれていたのだろう。ただ、どういう贈り物であっても喜ぶと思う。私だって千鶴さんのことを敬慕しているから。
いや、マシュマロケーキなんて作ってこられたら、大変だけれどね。
気遣いができて器用な千鶴さんであるから、本来は私への贈り物というのはまったくのサプライズに等しいものとなるはずだった。少なくともここ数日、千鶴さんが私の好きなものを嗅ぎまわっている様子はなかったし、誰かに訊かれもしなかった。
なるべく千鶴さん自身で選びたかったのだろうか。
なんにしても、込み上げてくる気持ちは――――

「嬉しい」

「えっ?」
14 : 魔法使いさん   2022/08/14 07:23:20 ID:FLlJO.dXNI
「嬉しいのです。仲良くなりたい、そう思ってくれた、その気持ちだけでも十分に」

「それは気持ちだけは受け取っておくと言う、遠回しな拒絶ですの?」

「そんなわけないのです!!」

ありのまま、本心を晒したというのに。急に鈍感になった千鶴さんに呆れてしまう。
そして今日何回目かの困り顔をする千鶴さんに私は提案する。

「デートするのです」

「は?」

「それが仲良くなる確実な手段なのです!われながら、わんだほー!なアイデアなのです♪」

「では、プレゼント作戦は……?」
15 : 監督   2022/08/14 07:23:45 ID:FLlJO.dXNI
「千鶴ちゃん?目的と手段をはっきりさせないとなのですよ?プレゼントは手段に過ぎないのです。仕事外でも同じ時間を過ごして、たくさんおしゃべりすれば仲良くなれるのです!ね?千鶴ちゃん、ね?」

「なるほど。本人が言うなら間違いなさそうですわね!」

なんとも間の抜けた台詞であったので、今度は我慢できずに笑ってしまう。
首をかしげる千鶴さんに何か言われる前に、さっさとデートの日取りを決めることにする。
なるべく涼しい場所がいい。ただ、うん、2人なら少しぐらいお日様の下を歩くのも悪くないかもね、なんて。


おしまい

16 : 変態インザカントリー   2022/08/14 07:27:00 ID:FLlJO.dXNI
以上です

まつちづで長めのを一本書こうとしていたんですけど、まとまらないどころか全然進まなくて
短くても一本仕上げて出しておきたくなりました 
次はべつのカプを試すのもありかなと思いつつ、いや、でもまだ書きたい展開あるんよなー、なんて気持ちもあります
時間と体力しだいっすね

17 : 変態大人   2022/08/14 09:32:15 ID:ghjHqZV1yI
スペアリブでも贈れば喜んでパクついてそう



18 : ぷろでゅーさー   2022/08/14 09:40:07 ID:eeQLKBD4Vc
シャウエッセン食べて高級セレブウインナーですわ!な千鶴さんといつものやつと変わらないなーと内心モヤモヤするまつりの心の距離は縮まるのだろうか

19 : Pさぁん   2022/08/14 10:02:47 ID:H.Yf4W0RCc
この二人はコミュちからが高くてまとめ役が多いから、本編で絡むことが少ないやいね
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