【876プロ】

愛（朝からいろいろあったけど......挨拶だけは、元気よく！）

ｶﾞﾁｬ

愛「おはようございまーーす！！！」

？？「うおっ！？」

愛「え？」

ﾄﾞｰｰｰﾝ!

愛「い、いたたたた……」

？？「大丈夫かね？勢いよく飛び込んで来たものだから避けきれなかったよ」

愛「す、すいません……私は大丈夫です。あはは……」


愛（このおじさん、誰だろう？どこかで見たような気もするけど）

石川社長「高木社長、どうかなさいましたか？大きな音がしましたけど」

？？「やー申し訳ない。この子と衝突してしまってね」

石川社長「愛……元気なのはいいけど前はよく見るようにって、いつも言ってるでしょう」

？？「いやいや、アイドルはこれぐらいでちょうどいいんだよ。ウチの事務所にも同じくらいのやんちゃがわんさかいてねぇ」

愛「……たかぎしゃちょう？」

愛「もしかして、765プロの？」

高木社長「おお、知っていてくれたかね。いかにも！私が765プロ代表取締役、高木順二朗だ」

愛「ええええええええええっっっっっっ！？な、なんでそんなスゴイ人がウチにっ！？」

高木社長「石川君とは昔同じ事務所に勤めていたことがあってね。今でもたまに親睦を深めているんだよ」

石川社長「愛、あなたが天海春香さんの紹介でウチに来たのも、私と高木社長のツテがあったからなのよ」

愛「そうだったんですか……」

高木社長「君の活躍はよーく存じているよ。天海君や松田君がしょっちゅう話を聞かせてくれるものでね」

愛「あはは……ありがとうございます……」


愛（春香さん、か）

愛（なんだか久しぶりに名前を聞いた気がする）

愛（歌わなくなってずいぶん経つし、だんだん歌の世界が遠く感じられるようになっちゃったんだな）

石川社長「高木社長、そろそろ……」

高木社長「おおそうだった！つい本来の目的を忘れてしまうところだったよ」

石川社長「愛、私はこれから大事な話があるから現場まではタクシーで行ってちょうだい。さっき呼んどいたから」

愛「あ、はい。ありがとうございます……」


愛（なんだろう、大事な話って）

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【タクシー車内】

愛（春香さん……）

愛（落ちこぼれだったあたしに手を差し伸べて、デビューのきっかけをくれた人）

愛（アイドルを目指してから初めて、あたしの歌を好きだって言ってくれた恩人）

愛（でも……今のあたしは……その歌を、ほぼ捨ててしまっていて……）

愛（好きだよって、才能あるよって、あんなに期待してくれたのに）

愛（合わせる顔、ないよ……）

愛「う、ううっ……」

運転手「あの、大丈夫ですか？具合悪そうですけど」

愛「へ、平気です！ちょっと朝ご飯食べすぎちゃってお腹痛くて！あはははは」

運転手「はあ。ならいいですけど」


愛（泣いちゃ、ダメ）

愛（約束……涼さんとの……これだけは……）

ﾌﾞﾛﾛﾛﾛﾛ……

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【とある里山】

愛「釣れましたーっ！ザリガニー－っ！」

ディレクター「よーし！そんじゃツーショット撮るから顔の前に持ってきて」

愛「はい！こんな感じでしょうか！」

ディレクター「ちょ、そんなに近づけたら……」

ﾑｷﾞｭ!

愛「あだだだだだだ！！は、は、鼻がっ！！！」

ｹﾞﾗｹﾞﾗｹﾞﾗ

ディレクター「いやー、相変わらずのドジっぷりだねえ。撮れ高バッチリだよ」

愛「えへへ～それほどでも！」

ディレクター「まあ、ちょっとアイドルがしちゃいけない顔になってたけど……石川社長にチェックしてもらって、ＯＫ出たら使いたいかな」

愛「いいですよそういうの。せっかく面白い画が撮れたのに使わないなんてもったいないですし」

ディレクター「いや、歌の仕事に差し障るといけないから一線は超えないようにってキツく言われてんのよ。イメージ大事でしょ？アイドルは」

愛「そんなの気にしないでください！あたし歌はもう諦めましたから！」

ディレクター「……え？」

愛「そのー、“天職”って言うんですかね？もうバラエティのお仕事が楽しくて楽しくて！トップアイドルよりもバラエティ・プリンセスになりたいなーって！本気ですよ？」

ディレクター「そ、そうなの……？なんかとんでもない爆弾発言だけど……」

ディレクター「ちなみにだけど、今の言葉とかもカットしなくていい……のかな？」

愛「はい！876プロは“アイドルの自主性を最優先”がモットーですから！あたしの決断には社長も口を挟まないと思いますよ！」

ディレクター「ふぅん……まあ、愛ちゃんの事だから視聴者もいつもの自虐ネタくらいに思ってくれるだろうし……問題になったらその時はその時、か」


ディレクター「ふふふ……これはなかなかいい映像ができそうだ……」

愛（不意に口をついて出た、ステージとの決別宣言）


愛（あんなに憧れた歌の世界に、あっさりと見切りをつけてしまえるなんて、自分でもびっくりしてしまった）

愛（でも……胸の奥にぶら下がっていたモノが外れたような、不思議とすっきりした感覚を覚えて……）

愛（正直、ほっとした。本音が言えてよかった、これでいいんだって、本気でそう思った）

愛（でも）


愛（この発言が、その後どんなことを引き起こすことになるのか）

愛（あの時のあたしは、考えもしなかった――）

お　し　ま　い　

次回、この発言とは……？

この発言とは？って思いっきり文中に書いてあるだろうがえーーっ！