＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝
「トンカツ……ですか？」

『そうさ。人間そんなに偉くなるこたあないんだ。トンカツをいつでも食えるくらいが偉すぎもしない、貧乏すぎもしない、ちょうどいいくらいってとこなんだよ』

「はあ……」

『つーわけで！今日はアタシ自慢のトンカツ定食で腹いっぱいになっていきな！』

ﾄﾞﾝｯ

「えっ！？でも俺、金が……」

『おごりだよ。行き倒れてた人間を腹ペコのまま帰したらウチの評判に差し障るからねえ』

「おかみさん……！」

『ほらほら、長話してたらせっかくのカツが冷めちまうよ』

「ありがとうございますっ……ありがとう……」
＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝

――――――


――――


――

≪次は終点～千葉～≫

P「う……ぐ……」

P「あれ……？俺……寝ちまってたのか……」

P「あだだ……変な姿勢で寝てたから首が…」


P（……ん？そういやさっきのアナウンス、何て言ってた？……終点？）



P「……やべっ！！」

【ウサミン星】

P「やっちまった……」

P「20連勤後とは言え……痛恨の終電乗り過ごし……」

P「しょうがない……ホテルに泊まるか……スマホで空き部屋探して……と」

ﾎﾟﾁﾎﾟﾁ

P「……え？どこも満室！？」

P「……あっ」


P「そうか……今日はクリスマスだったな……クソッ」

P「ネカフェか漫喫は……げ、隣の駅まで行かないと無いのか」

P「歩くしかない、か……とんだクリスマスになっちまったな……」

ﾄﾎﾞﾄﾎﾞ

――――――


――――


――

P（さっきは、懐かしい夢を見たな）

P（学費払うためにバイト掛け持ちして……ロクなもん食えない日々が続いて……行き倒れてたとこを助けてもらって……）

P（なんとか卒業してお礼言いに行こうとしたら、店が無くなってたんだよな）

P（……おかみさん、どうしてるかな）


『いいかい学生さん。トンカツをな、トンカツをいつでも食えるくらいになりなよ』
『トンカツをいつでも食えるくらいが偉すぎもしない、貧乏すぎもしない、ちょうどいいくらいってとこなんだよ』

P（“いつでもトンカツが食える”……か）

P（幸い、そんくらいの収入は得られてるけど……本当に“ちょうどいい”のか？今の俺は？）

P（毎晩残業続きで……休みも不定期で……クリスマスに一人ぼっちで夜道歩いてるのが、人として“ちょうどいい”のか？）

P（アイドルたちのことは好きだし、仕事にやりがいはあるけどさ）

P（それでも……ふとした瞬間に頭をよぎることがある……俺の人生、これで良かったのかなって……）


ｸﾞﾙﾙﾙﾙﾙ…


P（はあ……腹減ったなあ）

P（あんな夢見たら当然か……クソっ……こんな時間に店なんか開いてるわけねえのに……なんてタイミングの悪さ……）　

P（………………ん？）

P（向こうの通りの角、ぼんやり明るいような……なんだあれ？）

ｽﾀｽﾀ

P（“佐竹飯店”？中華料理屋……か？）


ﾜｲﾜｲ ｶﾞﾔｶﾞﾔ
ｱﾊﾊﾊﾊﾊﾊ!


P（やってる……！こりゃ渡りに船だ！）

ｶﾞﾗｯ

女の子「いらっしゃいませー！空いてるお席にどうぞ！」

P（えっと……カウンターしか空いてないな）

ﾄﾞｻｯ

女の子「おしぼりどうぞ！お冷もすぐお持ちしますねー！」

P「ああ、ありがとう」


P（高校生くらい、か？遅くまで頑張ってるんだな）


ﾌｷﾌｷ

P（はあ……あったけえ……生き返るわ……）

P（さて、なに食おうかな……気分的にはガッツリいきたいんだが……）

P（……ん？）


おじさん「ﾊｸﾞ……ﾓｸﾞ……ﾑｸﾞ……」


P（あれ……カツ丼、だよな？……中華料理屋で？）

P（ちょっと場違いな気もするが……これは僥倖っ！……カツだ！俺は今猛烈にカツが食いたいんだっ……！！）


女の子「お冷お待たせしました～」

P「すいませんカツ丼ください！大盛りで！」

女の子「はーい！少々お時間いただきますね～」

P（時間がかかる……と言うことはカツを揚げるところから作るのか。期待が持てるな……！）

客1「美奈子ちゃーん！ビールお代わりー！」

客2「あと酸菜燉排骨追加ね！」

女の子「はいはーい！」


P（ふうん……美奈子ちゃんって言うのか）

P（明るくて、ハキハキしてて……もしかしたらアイドル向きかもしれないな）

P（って、なに考えてんだ俺は……飯の時ぐらい仕事忘れろよ……）

P（でも、ああいう常連客と看板娘のフランクなやり取りっていいよな）

P（見ているこっちも気がほぐれるし……地元で長いこと愛されてる店なんだな、ってわかるし……）

P（かと言って一見客の俺が居心地悪いってことも無いしな）

P（規模は段違いだけど、アイドルのライブもこうあるべきだよな……固定ファンにも新規ファンにも楽しんでもらえるようにしないと……）

ｷﾞｭﾙﾙﾙﾙﾙ

P（ぐっ……考えてたら余計腹が……カツ丼まだかな……）

美奈子「お待たせしました！カツ丼大盛りでーす！」

P「おお、待ってまし……」


ズ　ド　ン　！


P「……は？」

美奈子「ソースやマヨネーズも用意してるので味変したいときは言ってくださいね！」

P「いや、その……これ……何？……洗面器……？」

美奈子「なーに言ってるんですか！ご注文通りのカツ丼大盛りですよ～」

P「はあ！？」

P（いやいやおかしいだろ！なんだこの……圧倒的量っ……！）

P（上に乗ってるカツが1、2……13枚！？つーか米が見えねえ！）

P（あのオッサンが食べてるのが並盛りで……大盛りがこれ……？）

P(バカッ……！刻むだろっ！普通もっと……！段階をっ……！)


P「……あっ！」


P（そういえば俺……メニュー見てなかったっ……！）

ﾊﾟﾗｯ…

P「！！！」

P（そうかっ……この店……刻んではいるんだっ……）


・キッズ（杏仁豆腐つき）……食べ盛りのお子様へ！他店の並盛りくらいです
・レディース……カロリーを愛する方へ！成人男性1日分の消費カロリーを召し上がれ！
・小盛り……カロリーと結婚したいあなたへ！お相撲さんに人気です！
・並盛り……踏破するのは命がけ！さながらトン（t）カツ！
・大盛り……Thank you forようこそ新しい世界へ


P（並より下にっ……！！）

P（ぐっ……！つまりあのオッサンのは……）

P（バカっ……！頼むなっ……その図体で……キッズサイズ……！！）

P（作るのに時間かかりますってこういうことかよ……！）


ｸﾞﾙﾙﾙﾙﾙ…


P（……まあいいや。腹減ってるし……絶対食いきれないけど……）

ﾊﾟｸｯ


P（！！？！！？）

P（がっ……なっ……なんっだっ……これっ……！？）

P（う……旨　す　ぎ　る　っ　！　！　）


ﾊﾞｸﾊﾞｸﾊﾞｸ


P（このカツ……揚げたてじゃない……たぶん作り置き……それを出汁でじっくり煮込んでいる……）

P（丁寧に引いた出汁が、肉の中心まで滲みて……たっ……たまらん……）


ﾊﾞｸﾊﾞｸﾊﾞｸ


P（そういや聞いたことがあるぞ……カツ丼は元々……蕎麦屋が売れ残りのトンカツをそばつゆで煮込んで出したのがはじまり……と……）

P（揚げたてのカツにさっと出汁を絡めて作る今どきのカツ丼もいいが……本来の作り方に近いのは……たぶん……こっちっ……！）

美奈子「どうですか？ウチのカツはサツマイモをたっぷり食べて育った種子島産の黒豚で作ってるんですよ～」

P「なるほど……旨いわけだ……おまけに脂がしつこくなくて……どんどん食べられるっ……」

美奈子「植物油じゃなくてラードで揚げてますからね！お母さんが昔働いてた店で習ったやり方なんです！」

P「旨いっ……旨いよ……」

ﾊﾞｸﾊﾞｸﾊﾞｸ

美奈子「ウチのお母さん、結婚して中華の道に進んでからもトンカツには拘り続けたらしくて……“トンカツはちょうどいい人生の指標だ”って、口癖みたいに言うんですよ」

P「……え？それってもしかして、偉くなりすぎなくていいとか、そんな感じの話？」

美奈子「ですね～。“いいかい美奈子、人間そんなに偉くなるこたあないんだ。トンカツを”……」

P「トンカツを……いつでも……」


美奈子「“トンカツを　い　く　ら　で　も　食えるくらいが偉すぎもしない、貧乏すぎもしない、ちょうどいいくらいなんだ”……って！小さい頃から聞かされてきました～。名言だと思いません？」

P「……ん？」


P「“いくらでも”？“いつでも”じゃなくて？」

美奈子「い・く・ら・で・も！ですよ！だって美味しい料理は無限に食べなきゃ損じゃないですか！」

P「あ、そう。そうだね……うん……」

P（人違い、か？それにしてはあのおかみさんの言ってたことにそっくりだが……）

美奈子「ほらほら！遠慮しないでどんどん食べてください！喋ってるとカロリーが逃げちゃいますからね！」

P（だな……！細かい話は後でいいっ……！今はとにかく……食えっ……！）


P「　う　お　お　お　お　お　お　お　お　お　お　お　お　お　お　お　お　！　！　」


ﾊﾞｸﾊﾞｸﾊﾞｸﾊﾞｸﾊﾞｸﾊﾞｸ!!

――――――


――――


――

P「ふ～っ……」

P「まさかの……完食っ……！自分でも信じられん……！」


P（さらに信じられないことに……“こんなに旨いなら毎日でも食べに来たい”と思っている……！食べた直後にも関わらずっ……！）

P（カツ丼に……カロリーに魅入られた……？それとも、俺自身がカロリー……？思考が……混乱する……）

P（……そうだ……美奈子ちゃんに……お母さんの話、聞いとかないと……）



美奈子「お待たせしましたー！トンカツ定食特上でーす！」

ドガッ！　バギャッ！　メキメキメキ！

P「え？……いやいや！頼んでないよ！？」

美奈子「あれ？でもさっき……」

？？「ごめんごめん。アンタこれ気に入ってたからさ。間違えて作っちゃったよ」


P「あっ……」

美奈子母「ま、今日はクリスマスだからね。サービスサービス」

P「おかみ……さん……俺っ……おれっ……！」

美奈子母「ほらほら、長話してたらせっかくのカツが冷めちまうよ。昔話は食後にゆっくりしようじゃないか」


P（ああ……同じだ……20年前と……！俺の事、覚えてっ……！）


P「くぅっ……！」

ﾊﾟｸｯ

P（まさかっ……思いもよらなかったっ……！20年ぶりの……学割適用っ……！）


ﾊﾞｸﾊﾞｸ


P（うっ……うううっ……）


ﾊﾞｸﾊﾞｸﾊﾞｸﾊﾞｸ


P「うまああ――――――――い！！！！」

――――――


――――


――

P「……と、いうのが俺と美奈子の出会いだったんですよ」

美咲「はあ……」

美奈子「まさかプロデューサーさんとお母さんが知り合いだったなんて思いもしませんでしたよ～。これぞ聖夜の奇跡！ですね！」

美咲「まあ……よかったですね」

P「なんか青羽さん、リアクション薄くないですか？」

美咲「いえ、全体的にはいいお話だと思うんですけどね。いかんせん料理の描写がマジキチすぎて素直に感動できないと言いますか……」

P「ははは、確かに俺も最初は面食らいましたね。今じゃ週28回は佐竹飯店に通ってるんで慣れっこになりましたけど」

美咲（……ツッコまないほうがいいのかな、これ）

美奈子「はい！喋ってるうちに完成っ！カツ丼大盛りでーす！」


ドカーン！　ズドーン！


P「よっ、待ってました！」

美咲「……あの」

P「ん？どうかしました？」

美咲「なんで、二人前あるんですか？」

P「なんでって、青羽さんのぶんに決まってるじゃないですか」

美咲「は？？？？？？」

美奈子「前々から思ってましたけど美咲さんにはカロリーが足りてなさすぎます！サービスするんで頑張って栄養付けましょう！とりあえず体脂肪率80％目標で！」

美咲「それもう人間の体じゃないですよ！？」

P「大丈夫ですって。俺が今92％くらいですから」

美咲「ウソでしょ……私ただの脂肪の塊と会話してたの……？」

P「青羽さん。カツ丼をさ、カツ丼をいくらでも食えるくらいが偉すぎもしない、貧乏すぎもしない、人間としてちょうどいいくらいってとこなんですよ」

美奈子「その通りです！さあご一緒に！カロリー！」

P「カロリー！」

P＆美奈子「カロリｲｲｲｲｲｲｲｲｲｲｲｲｲｲｲｲｲｲｲｲ！！」



美咲（……誰か、助けてっ！！！）

お　し　ま　い

誤解の無いよう言っておくと実在のJR千葉駅周辺はネットカフェが5件くらいあるので終電逃しても寝泊まりする場所には困らないと思います

面白かったけど、美味しんぼにトネガワにハンチョウでコッテリ系だな

ちょっとお兄ちゃん！？未成年の深夜バイトは違法だよ！美奈子さんがタイホされちゃう！

>>36
実家の手伝いなら法には触れないんだよ！

たとえカロリーが多くても美奈子と結婚したいなぁ。

乙
良い話のはずなのに「体脂肪率92%」とかオチで台無しな感じが…

乙
ｲｲﾊﾅｼﾀﾞﾅｰ…???

効果音がいちいち食べ物のそれじゃなくて草
原作だとカツ丼のカツ3枚くらいだったよね

>>41
確かに3枚だな…

>>42
なおアニメでは増量

乙、美咲ちゃ生きろ

おつ
佐竹飯店のオムライスはハンチョウに出てきたオムレツ定食みたいな味付けなんだろうか

>>43
これ(日本橋某店のカツ重並盛)に比べたらカワイイもんよ

なお、下は超ミニミニ

しれっと愚弄されるウサミンに哀しき現在...

元ネタ？ではミニチャーハンなのをクソデカ定食にしてるあたりが最高に美奈子してて笑うんだよね

乙
一応ツッコんでおくと終点千葉まで行ったらウサミン星は乗り過ごしているんだ