？？「ｶﾞﾂｶﾞﾂ…ｸﾞｯﾁｬｸﾞｯﾁｬ…」

育「もう。あわてて食べなくたってごはんは逃げないよ」

？？「ｸﾞｯﾁｬｸﾞｯﾁｬｸﾞｯﾁｬｸﾞｯﾁｬ」

育「ふふ……この調子ならケガもすぐ治りそうだね」

育「元気になったらいっしょに事務所に行こうね。みんなびっくりするだろうなあ」

？？「……ｷｭｰ」

――――――――

――――

――

【765プロ】

P「はい。そろそろ具体的な日程の打ち合わせをさせていただければと……」

P「明日の10時に……かしこまりました。よろしくお願いします」

ﾋﾟｯ

P「ふー、やっと一息つけるな」

P（……なんか、甘いものが食べたい気分になってきたぞ）

【給湯室】

P「なにかないかな……っと」

ｺﾞｿｺﾞｿ

P「お、最中の詰め合わせがあるじゃ……なにっ」



※来客用※
つまみ食いした者は毒蛭観音開きの刑に処す　

律子

P「……」

P（見なかったことにしよう……）


ｺﾞｿｺﾞｿ

P「ん？このタッパーはなんだ？」

ﾊﾟｶｯ

P「おお、クッキーか！」

ｷｮﾛｷｮﾛ

P「……1枚だけ」

ｻｸｯ

P「う゛っ？」

P（なんだこれ……全然味が無いぞ……パサパサだし……）

育「あーーーっ！わたしのクッキー勝手に食べてる！」

P「げっ！育！？」

育「ひどいよぉ……がんばって作ったのに……」

P「て、手作りだったのか……スマン……」

育「ううう～……」

>>5
その技はやめろーっ！

P「そ、そうだ！お詫びに最中ご馳走するよ。向こうで一緒に食べよう」

育「え、いいの？」

P「ああ、けっこう高そうな店のやつだぞ」

育「やったー♪」

P（律子は今日出張だし……明日までに新しいの買い足しておけばバレないだろ）

P「せっかくだし飲み物も持っていこうか。育はジュースでいいか？」

育「うん！……ところでプロデューサーさん、さっきのクッキー美味しかった？」

P「ん？ああ、そうだな……滅茶苦茶旨かったぞ」

育「そっかあ～。プロデューサーさんって変わってるね」

P「どういう意味だ？」

育「えへへ、ナイショ！」

――――――――

――――

――

育「もなか美味しい～♪」

P「うん。ゴマ餡なのがいいな……テレビもつけるか」

ﾋﾟｯ


『さあ！今日も張り切って水を抜いていきましょう！厄介な外来種を一網打尽！』


育「あ、この番組おかあさんもよく見てるよ！」

P「最近人気だよな。ゲストの芸能人もけっこう豪華だし、ウチにもオファー来たりして」


『ライギョ発見！こんな小さな水路にも外来種が潜んでいるんですね！』

育「ねえプロデューサーさん、“がいらいしゅ”ってなに？」

P「簡単に言うと“人間が他所の土地から運んできて野生化した生き物”のことだな。もともと住んでいた生き物の生活を脅かしたり、畑や田んぼを荒らしたりするんだ」

P「ペットにしようとしたけど飼い主の手に余って捨てられたり、養殖目的で輸入されたのが逃げ出したり……いろいろな事情がある」

育「それって人間が悪いんじゃないの？」

P「まあな。とはいえ農家や漁師にとっては死活問題だし、厄介な病気の媒介になることもあるから放っておくわけにもいかない」

P「だからテレビでこういう番組を放送することに意義はあると思うんだが……人の“業”について考える観点が欠けてるというか、単に生き物を処分することをエンタメにしてしまって大事なことを忘れてる気がするんだよなあ」

育「……」

『この赤いボディ……いましたっ！今年から特定外来生物入りするアメリカザリガニです！』


育「とくていがいらい？」

P「外来種の中でもとくに被害が大きい生物のことだな。日本では現在100種類近い動植物が指定されていて、飼育・輸入・生きた状態での運搬が禁止になっている」

育「飼っても持ち運んでもダメなの？もともとペットになるために連れてこられた子だっているのに……」

P「だよな。ホントに人間って奴は身勝手で……お、ちょうどテレビに特定外来生物の一覧が出てきてるぞ」

育「ブルーギル、ヌートリア、アカミミガメ……こんなにたくさん……」


育「……えっ！？」

P「どうした？大声出して」

育「な……なんでもないよ……知ってる動物がいっぱいいたから、ちょっとびっくりしちゃって……」

P「まあ、アメリカザリガニなんかは飼ってる人も多いしそこらじゅうに生息してるから驚くよな。育も注意しろよ」


育「うん……」

――――――――

――――

――

育「たぬきち、ごはんだよ」

？？「ﾊﾞﾘｯﾎﾞﾘｯﾊﾞﾘﾊﾞﾘﾊﾞﾘ……」

育「ふふ……かわいいなあ」

ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ

？？「ｸﾞｳｯ!!」


育「きゃっ！？……ごめん、ごはん中に触られたくないよね」

？？「ﾎﾞﾘﾎﾞﾘﾎﾞﾘ」

育「大丈夫。わたしが守ってあげるから。こんなに小さい子を放っておくなんてできないもん……」

――――――――

――――

――

【765プロ】

P「ハイパー・バトル？あの格闘技世界一を決める大会にウチのアイドルを？」

P「確かに格闘技ができるタレントは何人かいますが……開催時期がネックですね。勝ち進んだ場合かなりの期間になるでしょうし」

P「……わかりました。スケジュールも確認して、改めてご連絡させていただきます」

ﾋﾟｯ

P「なんか最近、変な仕事のオファーばかり来るようになったなあ」

P「仕事が多いのはいいんだが……世間からトンチキアイドル事務所だと思われてやしないだろうか」

響「プロデューサー、ちょっといいか？」

P「なんだ？急にあらたまって」

響「その……育のことなんだけどさ。最近自分が料理してるのを見るとやたらと手伝いたがるんだ」

P「いいことじゃないか。そういやこの前育が焼いたクッキーを食べたぞ」

響「えっ？それ、どんなクッキーだった？」

P「うーん、妙に薄味というか……ぶっちゃけると不味かったな。本人の前では言わないようにしたけど」

響「自分、ちょうどクッキー焼いたとこなんだけど……1枚食べてみてくれないか？」

P「？いいけど」

ｻｸｯ

P「あ、そうそう！育のクッキーもこんな感じだったな。薄味でパサパサ」

響「やっぱり……」

P「というか、響が料理で失敗するなんて珍しいな」

響「別に失敗じゃないぞ。それ動物用のクッキーだから」

P「ああ、それで味がついてないのか」

響「育のやつ、料理の手伝いしながらこそこそメモ取ったりして、なんだかずっと様子がおかしいんだ」

P「確かに……いつもの育だったら素直に教えてくださいって頼みそうだけどな」

響「自分の思い過ごしならいいけど……もしかしてこっそり犬か猫でも飼ってるんじゃないか？」



P（そういえば……この前テレビを見てた時の育の反応……）

P「わかった、これから育を探してくる。教えてくれてありがとな」

響「うん。もし手に余るようなら自分も協力するから」

P「助かる。……せめて犬か猫ならいいんだがな」

響「えっ？」

（嫌な予感がする）


（もし俺の予想が当たってるなら……育にとってかなり辛い結末になるかもしれない）


（……急ごう！）

――――――――

――――

――

育「うん！たぬきちのケガ、すっかりよくなったね」

たぬきち「ｸﾙﾙ……ｸﾙﾙﾙﾙ……」ｶﾞﾘｶﾞﾘｶﾞﾘ

育「お外に出たい？そうだよね、ずっとせまい所にいたんだもんね……本当は森に帰りたいよね……」

育「でも、たぬきちを他の人に見られると大変だから……夜になってから抜け出そうか。わたしが安全なところまで連れてってあげる」

P「そんなことできるわけないだろ」


育「！？」

P「育……お前、なんてことしてるんだ」

育「ま、待ってよ！たぬきちは悪いことなんてしてない！ずっとケガしてて……」

P「なにがたぬきちだ！そいつはタヌキじゃない、アライグマだ！特定外来生物だぞ！」

育「知ってるよ！だけどかわいそうで……ほっとけなかったんだもん……！」

育「お願い……たぬきちにひどいことしないで……わたしがちゃんと森まで送っていくから……」

P「それは一番やっちゃいけないことだ。食べ物の味を覚えて人間を怖がらなくなったアライグマが野生に戻れると思うか？そいつは必ず人里に戻って来るぞ。そして社会不適合超危険生物として排除される。そもそも野生のアライグマなんて日本にいちゃいけないんだ」

育「そんなの勝手すぎるよ！アライグマを連れてきたのは人間なのに！！」

ｶﾞﾊﾞｯ!

P「なっ……！？やめろ！アライグマから手を放せ！」

育「やだっ！ぜったいに渡さない！」

P「アライグマは人に懐かないんだよ！もし噛まれたら……！」

育「そんなことない！わたしとたぬきちは友達だもん！」

たぬきち「ｷﾞｲｰ!」


ガ　リ　ッ


育「いたっ！？」

P「育っ！！」

たぬきち「ｷﾞｷﾞｯ!」

ﾀﾞｯ

育「たぬきち……まって……」

P「追うな！それより手を見せろ！」

ｷﾞｭｯ

P「爪でひっかかれたのか……くそっ。急いで病院に行くぞ」

育「でも……」

P「口答えするな！！もし狂犬病になったら死ぬんだぞ！！」

育「ひっ」

P「……たぬきちのことは、俺が決着をつける」

P「確かにアライグマに罪は無い。育が生まれるずっと前から人間が重ねてきた間違いのとばっちりを受けてるだけだ」

P「だけどな……今を生きる俺たちが守らなきゃいけないのは、今ある人間の生活なんだよ」

P「それだけはわかってくれ……」

――――――――

――――

――

【スーパーマーケット　“レインボートレイン”】

店長「おまわりさんよう、さっさとアライグマをなんとかしてくれよ。俺の店が滅茶苦茶になっちまう」

警官「ですから我々は勝手に動物を駆除できないんですよ。許可を持った専門業者でないと……」

店長「はーっ、そのほうが絆が深まるってか？なめてんじゃねえぞこらあッ」

警官「人が襲われてる状況なら話は別ですが、店内にいた人たちの避難は済んでるわけですし……これ以上はどうにも……」

ｶﾞｼｬｰﾝ!

警官「なにっ」



たぬきち「ｷﾞｲｲｲｰｰｰｯ!」

店長「ほら、店から出て来たぞ！さっさと撃ち殺せ！」

警官「だから無理ですって……！こんなに凶暴なアライグマは見たことがない……！」

P「すいません。ちょっと通してください」

警官「えっ」

警官「あ、あんた！勝手に近づいちゃダメだよ！」

P「中に子供がいるんです。助けないと」

警官「んなわけあるか！避難はとっくに終わって……」

P「たぬきち！俺が相手になってやる！かかって来い！」

たぬきち「ｷﾞｷﾞｷﾞｷﾞ……」

P「怒ってるな。その怒りは正当だ。だがお前はもう死ぬ運命にある」

P「社会に牙をむいたお前を人間は決して許さない。いかなる理由があろうとも一方的にお前は殺されるんだ。悔しいだろうが仕方がないんだ」

P「せめて怒りをブチまけ……闘って死ねっ！」


たぬきち「ｷﾞｷﾞｬｰｰｰｰｯｯ！」

P「　う　お　お　お　お　お　お　お　お　お　お　お　お　お　お　お　！　！　」


ゴ　ッ　！

――――――――

――――

――

【警察署】

警官「まったく……素手で野生動物に挑むなんて無謀にも程がある。人間は刃物無しでは猫すら殺せないと言われてるんですよ。運よく無傷だったとはいえ……」

P「……すみません」

警官「スーパーの店長さんは感謝してましたが本来なられっきとした法律違反ですからね。二度とこんなことをしないでください」

P「はい……失礼します」

ﾊﾞﾀﾝ

育「プロデューサーさん……」

P「……来てたのか」

育「……ごめん……なさい……」

P「もう終わったことだ。俺こそキツく言い過ぎたよ」

育「わたし……まちがってたのかな……」

育「道端でケガしてるのを見つけて……お世話してくうちに……友達になれるって……」

育「でも……こんなことになるから……」


P「“人はタフでなければ生きていけない。優しくなければ生きていく資格が無い”」

育「えっ？」

P「俺の好きな小説家の言葉だ。ケガをした動物を可哀想だと思う気持ちは間違いなんかじゃない。それは育のすばらしい才能だと思う」

P「だけどな……優しいだけじゃ人は生きていけないんだよ。いろんなことを知って、考えて、タフにならなきゃいけない。そうでないと、親切心がかえって誰かを傷つけてしまうことになるかもしれない」

育「……うん」

ｷﾞｭｯ

P「手に持ってるの、なんだ？」

育「サンドイッチ。たぬきちの……今日のごはん……だったの……」

育「……ねえ、いっしょに食べてくれる？」

P「いいのか？」

育「うん。もう、命をそまつにしたくないから」

P「……そうだな」

ﾓｸﾞｯ

P「旨い。いい出来だ」

育「うそつき。味つけしてないのに美味しいわけないでしょ」

P「そんなことないぞ。素材の味が出てるって言うか」

育「見え見えのおせじ言ってもダメだよ。子ども扱いしないで」

ﾓｸﾞｯ

育「……」


育「ホントだ……味……あるね……」


育「すごく……しょっぱい……」

育「しょっぱい……しょぱいなあ……」

育「こんなんじゃ……たぬきちにあげられないよ……ぐすっ」


P「育……」

育「ううっ……ううううっ……」


育「うわああああああああああああん……！」

――――――――

――――

――

～3ヵ月後～

【レッスン場】

育『みんなあつまって～！いっしょにあそぼ～！』


育『ワン！ニャン！ブー！でワンダフール！』

響「なあ、ホントに次のライブであの新曲歌うのか？あんなことがあったばかりなのに」

P「本人の希望だからな。“動物たちと仲良くできる世界を諦めたくない”そうだ」

響「すごいなあ……自分も動物好きだけど、そんなふうに切り替えられる自信ないぞ」

P「切り替えたんじゃなくて、向き合ったんだよ。現実に。綺麗ごとだけじゃ通用しない世界を見て、それでも理想を追い続ける道を選んだ……そんな感じがする」

響「なんかよくわかんないけど……要するにアレだな！“諦めたらそこで試合終了”ってやつ！」

P「そういうことだ。響は賢いな」

響「へへーん！自分、カンペキだからな！」

P（今この瞬間にも、数多くの外来生物が問題になっている。そして、人類は自らのあやまちの解決策を見いだせていない）


P（お互いが幸せになる道なんてないのかもしれない。なにも考えずに外来種を駆除し続けることのほうがずっと気楽で、効率がいいのかもしれない）


P（それでも……考えることを止めてはいけないと育は言った。俺もそう思う）


P（育。少しでも良い道を一緒に探し続けよう。その先にお前が望む世界が開けることを信じて）

育『いこうよみんな！ゆめのくにへ！』


育『こころがつうじあうってステキだよね！』

お　し　ま　い


中谷育というキャラクターを一言で表すと「ミリオンライブで一番優しいアイドル」だと思います。
同年代の友達にも年上の先輩にも気遣いができる優しさ、それが年相応の純真無垢さと相まって見ているだけで癒される、応援したくなる……そんな魅力が持ち味です。

しかし、残念なことに世の中は無菌室ではない。
どんなに優しい人間でも、それだけでは生きていけない現実を突きつけられる日が必ず来る。それを乗り越えて大人になっていかなければならない。
育にその時が訪れた時、彼女はどうなるのか……。そんな考えを巡らせながら文章を綴りました。
『人はタフでなければ生きていけない。優しくなければ生きていく資格が無い』……レイモンド・チャンドラーの遺した名言は現代社会でも息づいていると思います。


余談ですが、今回のお話を書くきっかけになった「アニマル☆ステイション！」が収録されているLIVE THE@TER HARMONY 08は他にも「SUPER SIZE LOVE!!」「WOW! I NEED!!」といった元気になれる曲が多数収録されている名盤です。
ミリオンに興味がある人はぜひ手に取ってみてください。

乙

http://www.google.co.jp/search?ie=Shift_JIS&q=%83A%83%89%83C%83O%83%7D+%95a%8BC&btnG=%8C%9F%8D%F5

恐ろしい病気持ちなんですね

乙です！
なかなかハードな問題ですね
10歳の育さんどころか大人にも重い人間社会の罪…
たむきちの怒りを受け止めつつ
育さんがやったことの後始末をきっちりするPはとても格好良かったです

たぬきちでした
失礼しました

乙

筋肉の話と思ったら…良い意味で裏切られた
ｲｲﾊﾅｼだったよ

ブルーギルとかは泥抜きする為に水槽に入れるのも禁止なんですかね

もしかしてこのSSはタフスレなんじゃないスか？

>>57
「生きた状態での輸送及び飼育」が禁止なのでアウト
食べるなら釣り場で締めて持ち帰ってね

>>58
なんか途中からそんな感じはしたが・・・ｗ

狸…？

社会不適合超危険生物で笑ったのは俺なんだよね
真面目なストーリーなのにタフ語録まみれじゃないかよえーっ

>>58
なぜ味付けしないのが当然かのようにドヤ顔してるんですかね…

タフマスで育が主役…ということでこの人が出てくるんじゃないかとハラハラしながら読んでました
平和に終わって良かったです

>>58
このシーンは意味不明だったけどそれに「動物用の料理だから」と理由づけをして話を広げられる発想は見習いたいっスね

味付けがないのは腎臓を片方取られたガルシアを思いやってのことなんだ…多分

TOUGHの序盤で似たようなの食べてたし格闘家としてストイックな食事を…って感じじゃないスかね
まあ差し入れに渡すようなもんじゃないって言われたらその通りなんやがなブヘヘヘヘ

タフネタならスレタイか>>1にそう書いてもらえませんかね

やたら詳しく社会問題について語られるのも猿先生みを感じるんだ
立派なリスペクトなんだ

>>68
マネモブなら「もちろん味付けなしで」の一言でタフスレだと理解するんだ
タフマスに慣れるとタフ読んだこと一切ないのにタフスレだと分かるんだ
悔しいだろうが仕方、どういうことだよえーっ！