文香「夏目漱石がこの句を詠んだのは3月のことらしいですが……京都の冬……本当に寒いです……」

P「空気が乾いてるから気温よりずっと寒く感じるんだよなあ。雪にならなくて良かったよ」

文香「私としては……白銀に染まった京都の様子も……見てみたかったような……」

P「よせよせ。ああいうのは写真で楽しむもんだ。現地にいたら凍えて風景を楽しむどころじゃない」

文香「そういう……ものですか……」

P「まあ、寒いのも悪いことばかりじゃないけどな。人が少ないから落ち着いて散策できるし」

文香「“たださえ京は淋しい所である。原に真葛、川に加茂、山に比叡と愛宕と鞍馬、ことごとく昔のままの原と川と山である”……漱石が見た京都も、このように閑散としていたのでしょうか……」


文香「イギリス留学から帰国して……東京の景色がめぐるましく変化していく様子を目の当たりにした漱石にとって……昔のまま変わらない京都の様子はかえって新鮮だったのかもしれません……」

P「今じゃ観光客がごった返してて風情もへったくれもないけどな……繁盛してるのは悪いことじゃないんだが」

文香「でも……私は、静かな古都のほうが好きです」

文香「漱石が人生で2回目に京都を訪れたときは商業デビュー作の“虞美人草”の取材が目的でしたが……そのときの紀行文には“寒い”“風呂に入っても寒い”“布団に入っても寒い”と書かれていて……本当に、寒がりだったんでしょうね……」

P「さっきの俳句もその時に詠んだんだっけか。“春寒の――”」

文香「“春寒の　社頭に鶴を　夢みけり”ですね。……もっとも京都に鶴は生息していないので、夢の中の情景を詠ったものかと思います……」

文香「そういえば、以前読んだ本に書かれていたのですが……この俳句に出て来る“鶴”は正岡子規のことではないかという考察もあるそうです」

P「へえ？」

文香「確かに……紀行文のなかには帝国大学時代に子規と京都旅行をしたときの思い出が数多く綴られています……月夜の清水寺を歩いたり、一緒にみかんを食べたり、妓楼に呼びかけられてあたふたしていたら子規に笑われたり……漱石にとってかけがえのない思い出だったのだと思います」

P「で、久しぶりに京都に来たらその頃のことを思い出して、夢にまで子規が出てきたってことか。面白いな」

文香「“ああ子規は死んでしまった。糸瓜のごとく干枯びて死んでしまった――”うら寂しい京都の雰囲気が、漱石に憂愁をもたらしたのでしょうね……くしゅんっ」

P「おい、大丈夫か？」

文香「平気……で……くしゅっ」

P「こりゃダメだな。徒歩は諦めて車を使おう。いったん宿まで戻るぞ」

文香「しかし……今回は漱石の足取りを体感するために京都まで来たのに……」

P「体を壊したら元も子もないだろ。目的に固執して周りが見えなくなるのはお前の悪い癖だぞ」

文香「でも……」

P「俺はな、文香には漱石や子規みたいに志半ばで死んでほしくないんだよ」

文香「あ……」

P「ほれ、こっち来い」

ｷﾞｭｯ

文香「えっ……！？ちょっと、これは……！？」

P「くっついてりゃ多少温まるだろ」

文香「め、目立ちますよ……！」

P「気にするな。誰もいやしないから」

文香「う……うう～……」

ｽﾀｽﾀ


文香「……」

P「……」

文香「……プロデューサーさん。もう少し、ゆっくり歩きませんか」

P「なんだよ、さっきは恥ずかしがってたくせに」

文香「いえ、その……もう慣れた……と言いますか……」

P「早く宿に戻らないと風邪ひくぞ」

文香「それも大丈夫……だと思います……」

文香「今……とても、温かいですから……」

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【数日後】

周子「……えっ？終わり？オチないんかーい！」

紗枝「それでよう京都から帰ってこれましたなあ。ガッカリですわ」

夏美「“洒落”と“侘び寂び”を重んじる京都人としては由々しき事態ね」

雪美「期待外れ」

文香「そんな……急にオチを求められましても……」

周子「紗枝はん！ここはあたしらがなんとかしたらんと！」

紗枝「そうどすなあ。京都1200年の歴史にかけて、きっちりオチをつけてあげましょ」

文香「紗枝さん……！？あなたはこういうとき、ストッパーになってくれるポジションのはずでは……？」

紗枝「うちかてたまにはハメを外したいときがありますわあ。伊達に様子のおかしい関西人て言われとるんとちゃいますえ」

夏美「そうねえ……文香ちゃんを飛行機に縛り付けて、空の上でプロデューサーへの愛を叫ばせる、とか」

文香「イモトアヤコさんのネタですね……」


紗枝「舞妓さんのお化粧体験なんかどうでしょ。昔ながらの上等な白粉で真っ白になれますえ」

文香「鉛中毒待ったなしですね……」


周子「全身に爆竹を巻いて八ツ橋作りとか！文香ちゃんがうっかり転んでそこらじゅうを粉まみれにしてさ！」

文香「粉塵爆発ですね……」


雪美「ゴリラとタイマン勝負」

文香「もはやただ私を殺そうとしてませんか……？」

周子「あかーん！文香ちゃん知識豊富過ぎてオチが読まれるー！」

夏美「もういっそ読まれても問題ないオチにしちゃわない？」

雪美「賛成」

紗枝「ほな、あの人を呼びましょか」


文香「あの……皆さん一体なにを……」

4バカ「「「「すうう～～～～～～っ……」」」」


4バカ「「「「文香が京都でプロデューサーとリア充漫喫してきたぞーーーーっ！！」」」」

ﾊﾞﾀﾝ!

輝子「話は聞いたぜーーーっ！！」


文香「！？」

輝子「召喚！“リア充はかいばくだん”！」

ﾄﾞｷﾞｬ!

輝子「点火ァーーーーーーッ！！」

ｶﾁｯ
ﾋﾟｯ…ﾋﾟｯ…ﾋﾟｯ…

文香「え？は？ちょっと待って……」


ドカーーン！！！


文香「ア゛ッーーーー！」

【参考文献】
夏目漱石「京に着ける夕」　1907年

お　し　ま　い


漱石の著作は全てパブリックドメインになっていますが、個人的にはやはり紙の本をオススメしたいですね
文香に倣って年末年始に古本屋巡りなどいかがでしょうか

そーせきといえば、まんてつそーさいとおさななじみだったそうな

乙

京都に行ったことないけど情景が浮かびますね
会話だけのＳＳじゃなく風情があるＳＳも良きものです
乙でした

>>1
乙！
この勢い好き

漱石は胃潰瘍をこじらせて晩年はかなり苦しんだそうな
最期の言葉が「水をかけてくれ、死ぬと困るから」だっけ
文香にはそうなって欲しくないなあ

乙でした!エモい雰囲気の前半からの爆発オチがナイスな流れです!

>>25
明暗を完結させられなかったものね…

これでどうやってレギュレーション遵守するのかと思ってしまったｗ