【ミリマスss】アイドルヒーローズ リバースゼロ -黄昏色のコトハ-
1 : プロデューサーちゃん   2020/11/17 21:23:35 ID:XIaAT58Joo
アイドルヒーローズリベンジから100年経った時代のif話。
元ネタは某スレの50様より。ネタ主様に感謝。
2 : 箱デューサー   2020/11/17 21:26:26 ID:XIaAT58Joo
■登場人物■
【コトハ(田中琴葉)】
 かつてのデストルドー総帥。マイティセーラー・海美に敗れ、ヒーローズにより遺体を回収、眠りにつかされていた。カレンにより長き眠りから目を覚ます。100年前における『デストル刀』の別形態『デストレイピア』の使い手。デストル因子の適合者で強力なダークキネティックパワーを自在に操った。

【カレン(篠宮可憐)】
 現アイドルヒーローズ所属研究員。ヒーローズの変革、動向に疑問を持ち、眠るコトハと共に逃亡を図る。コトハが持つデストル因子、ダークキネティックパワーを研究していた。

【ユリコ(七尾百合子)】
 かつてのマイティセーラーズ最強のマイティセーラー。現在は肉体はなく、意志を持ったキネティックパワーのエネルギー体(フェアリーセーラー)として活動する。カレンと共にヒーローズより逃亡を図る。

【サヨコ(高山紗代子)】
 かつて『デストル刀』に取り込まれ、ダークセーラーとして破壊の限りを尽くした。100年経った今でも、その魂は未だに、この世を彷徨い続けている。デストル因子の適合者。

【オリジナルクローン・ウミ(高坂海美)】
 かつて総帥だったコトハを打倒したマイティセーラー・海美の純粋なクローン体。クローンセーラー達を従えて、コトハ捕縛を画作する。外見はオリジナルの高坂海美に瓜二つ。性格も明朗だが無邪気な残忍性を帯びている。
3 : 兄(C)   2020/11/17 21:35:59 ID:pFEOwoDeqk
■あらすじ■
 かつて世界の全てを暴力で支配すべく猛威を奮った組織、デストルドー。その日本支部総帥・コトハがデストルドーを撲滅せんとする組織アイドルヒーローズのマイティセーラー・海美に打倒されて100年の時が流れていた。アイドルヒーローズはデストルドーの完全撲滅を遂げ、平和という安寧の象徴を手に入れていた。

 世が平和を辿る中、アイドルヒーローズの組織内で、ある変革が進んでいた。戦士マイティセーラーの量産を推進し、兵器化する技術の進歩。禁忌の力であるダークキネティックパワーの研究を推進し、軍事利用する動き。

 平和であるはずの世界に、無用な力ばかりを増強するアイドルヒーローズ。その傾向に疑問符を投げつけたヒーローズに属する科学者・カレンはヒーローズ組織から逃亡を図った。フェアリーセーラー・ユリコを連れ、唯一の希望を託して100年の眠りについているコトハを呼び覚まそうとする。

 100年の眠りより目覚めたコトハは自分の名前と内に秘めたキネティックパワー以外は何も覚えていない。目覚めたコトハを脅威としたアイドルヒーローズは再び殲滅すべく物量戦力と『英雄』を送り込んだ。かつて率いていた組織もなく、従えていた部下もなく、コトハは封印から解き放たれたデストレイピアの一振で、ヒーローズが築く絶対的正義と平和による支配世界を壊していく。
4 : 変態大人   2020/11/17 21:41:52 ID:pFEOwoDeqk
THE IDOL HEROES R ZERO
-Twilight Kotoha-

 荒廃の地。
 かつて、そこは、それなりの規模の都会として栄えていた。高層のビルがいくつもそびえたち、その生え際には、蠢くような人混みが日々の常だった。都会のオアシスだった大きな自然公園では万緑が生い茂り、子供たちがいくつもの遊具を巡っては走り回っていた。

 それが今では、ビルのほとんどが倒壊を起こしていた。蜘蛛の巣のごとく伸び広がる道路は、そこかしこに亀裂が走っては、ひどい隆起と沈降が目立っていた。所々見られる自然区域だった土壌は汚染と枯渇が進み、雑草一つ生えることなく、鬱陶しい砂煙だけが巻き起こっていた。

 そんな悪環境の悪路を突っ切る乱暴なバギーカーが一台。時折、路の盛り上がりで跳ねた車体が、サスペンションの強い反動を受けると、きゃっと短い悲鳴が運転手から漏れた。

 背後には、その一台を猛烈に追う同型のバギーカーが三台と、宙に浮く得体の知れない大型ロボットが随伴していた。中心の一台、後部座席の同乗者は、左右に並走する二台にハンドサインをしきりに送っていた。
5 : 3流プロデューサー   2020/11/17 21:42:57 ID:pFEOwoDeqk
「カレン、急いで! もうすぐだよ!」
「う、うんっ。ユリコ、お、追っ手の数は?」
「バギーが3台! あと、大型が2機来てる!」

 艷やな髪が特徴の少女のような出で立ちの科学者、カレンはバックミラーを気にする余裕もなく自らが運転するバギーカーのシフトチェンジをするのも精一杯だった。

 カレンの廻りには仄かな光の玉が、忙しなく飛び回っていた。その光の玉は、よく見ると光を纏った小人よりも小さな少女だった。ユリコと呼ばれた小さな小さな少女は、背後を追走する追っ手を睨みつけていた。

 事は数時間前に遡る。

 カレンは、自分たちが潜む隠れ家をアイドルヒーローズ率いる強襲部隊に奇襲され、仲間の援護を受け、命からがら、逃げ出してきた。仲間は既に散り散りとなってしまい、合流は難しい状況だった。強襲部隊は、その何人かをカレンへの追撃に当て、つかず離れずを保っていた。
6 : プロデューサー   2020/11/17 21:44:15 ID:pFEOwoDeqk
「カレン! 見えてきたよ! 早く早く!」

 走る大道路のはるか先、カレンの肉眼ではまだ視認できない目的の建屋の姿を、ユリコはキネティックパワーの恩恵で見えていた。ユリコの纏う光が、しゃんしゃんと瞬いては眩しくなる。

「ま、待って、ユリコ。こ、これ以上スピードはだ、出せないよっ」

 120km/hを振り切るスピードメーターが視界に入るとカレンはひっ、と小さく怯えた。カレンは悪路で揺らされるハンドルをしかと掴むだけで精一杯だった。再度、跳ねた車体がドスンと地に着くと、カレンの尻が浮いてまた怯えるばかりだった。

「もうっ! この、キネティックパワー!」
「ひゃ、ひゃぁぁぁぁぁっ!」

 もどかしさが先立つユリコは自ら纏っている光を放出し、バギーカーに乱暴に投げつけた。光を受けたバギーカーは、アクセルペダルを限界まで踏めずにいたカレンを無視して、豪速球の如く、悪路を駆け抜けた。追っ手からの距離が開けると、まだポツンと小さく見えるだけの目的地に一目散だった。
7 :   2020/11/17 21:46:21 ID:4rfY.IBtKU
 辿り着いた二人の目的地は、無骨な灰色の大きな壁の施設だった。

 カレンはゴーグルを脱ぎ捨てて、停車したバギーカーから、いそいそと降りると施設の一区画、入口らしき扉に近寄る。扉に備え付けられたセンサーが反応すれば、周囲のカメラ達がカレンに首を向ける。正面にホログラムキーボードが顕現し、空に触れる操作で素早くパスコードを入力する。そうして、カメラ達によるカレンの生体認証が終わると『Authorize Enter』のシステム音声と共に扉が開いた。

「ねえ、カレン。ちゃんと、目覚めるかな……」
「だ、大丈夫、だよ……! 『彼女』のキネティックパワーなら……!」

 中は暗く狭苦しい通路が続いていた。ウロウロ飛び回るユリコはカレンの髪の中に隠れた。カレンが一歩を踏み入れると照明が、一斉に点灯し、進むべき道へと、いざなってくれる。
8 : 我が友   2020/11/17 21:49:52 ID:4rfY.IBtKU
 中に入ったカレンは内側より、扉のコンソールに管理者権限でアクセスすると、閉鎖と共に認証機能を凍結させた。ついでに別のコンソールで非常時用の電動防火隔壁も下ろしてやる。これで、外部からは何人たりとも入ることはできない、はず。

 そんな気休めを胸に、狭苦しい通路を駆け抜けた。途中、軽度のセキュリティロックを解除し、いくつもの角を曲がり進む。エレベータが何かの不具合により動作しなかった為、階層移動は階段を使う羽目になった。ようやっと目当ての部屋にたどり着く頃には、カレンは肩で息をしていた。

 宙を飛ぶユリコに心配されながら入った部屋は、壁面を横走る線上の電灯しかない薄暗く、殺風景な大空間だった。部屋の真ん中には、立掛けに固定された大きな棺、もとい人一人が入れるカプセルと、それを取り囲み、幾重のケーブルで接続された機械端末のコンソールが稼働している光が、ぼんやりと佇んでいるだけだった。
9 : Pさん   2020/11/17 21:51:34 ID:4rfY.IBtKU
 カレンは、数あるコンソール画面の一つを覗き込み、システムのモニタリング状況で、稼働に異常がないことを確認すると、素早くキーボードを操作し始める。カレンの周りを、しきりに飛び回っていたユリコも、お転婆を潜めて、うずうずと待っていた。

 タイピングの電子音が静まったと思ったら、カレンが画面から顔を上げて一つ安堵の息を漏らす。

「どう、カレン? いけそう?」
「う、うん、大丈夫。い、今から覚醒シーケンスに入るよ」

 カレンが、システムからの最終確認を承認すると、様々な実行処理のプログレスバーが表示されては消えていきを繰り返していく。すると、それまで身動きしなかったカプセルは、唸るような駆動音と共に微弱な振動を帯び始めた。見守るカレンは、ごくりと固唾を飲んだ。

 ドガァァァァン!

「きゃっ! な、なに、地震?」

 突如として起きた衝撃と地鳴りが部屋全体を襲う。カレンは怯えながらもシーケンス処理状況を確認し、処理が継続されていることで、また一つ、ほっとしていた。
10 : プロヴァンスの風   2020/11/17 21:53:01 ID:4rfY.IBtKU
「カレン! あいつら、この施設を破壊して進んできてるよ!」
「そ、そんなっ!」

 キネティックパワーを用いた透視によりユリコは素早く、外の状況を掴んでいた。ユリコの脳裏には、施設外で大きな腕を振り下ろして、この施設躯体を破壊する大型機動兵器の姿が映っていた。カレンが作動させた隔壁を、その剛腕で扉もろとも抉りとっていた。更には、こじ開けられた入口の隙間から歩兵らしき姿が、続々と侵入してきた。セキュリティシステムを司る無人の中央管制室では、誰も聞くことのない侵入警報がけたたましく鳴動していた。

 ユリコは落ち着けずに、カレンの周りを激しい明滅と共に飛び回る。カレンはシーケンスの処理状況を再度確認するが、このままでは完了までにはとても間に合わない。

「まずいよ! このままじゃ、ここまですぐ来られちゃうよ!」
「し、シーケンスのフェイズを、い、いくつか省略するわ!」
11 : 下僕   2020/11/17 21:54:00 ID:4rfY.IBtKU
 カレンは再度、コンソールキーボードに指を走らせる。若干、焦りが指を震えさせていたが何かを間違えるカレンではなかった。最低限の起動シーケンスを再構築し、より早く処理が完了できると思ったも束の間、進捗状況90%まで進んだシステムが突如、エラー警告を発した。思わず目を見開き、エラーの詳細を見たカレンは、わなわなとまた震えていた。

 システムブザーが響く中、カレンが棒立ちでいるものだからユリコは彼女の正面に回り込んで光を、チカチカと明滅させた。

「カレン、どうしたの!?」
「……『彼女』のキネティックパワーが覚醒するのに不足してる……。こ、このままじゃ覚醒できない……。100年も眠っていたから……?」

 ドガァァァァァァァン!

 追い込まれるか如く、新たな衝撃がカレンを揺さぶった。ここから近くのドアを弾き飛ばしたのか。振動の伝わりが強く感じられた。
12 : der変態   2020/11/17 21:55:55 ID:4rfY.IBtKU
 カレンは硬直したまま、エラー警告のメッセージを見続けるだけだった。手が小刻みに震え、その甲に落ちた自分の汗に、びくりと怯えた。不足している『キネティックパワー』の補充ができれば事は片付く。だが、当の自分は神秘の力を操れないただの科学者だった。このままではカプセルの中の『彼女』は目覚めはしない。『彼女』の覚醒が頼みの綱だったが故、万策尽きた。

 かつては、神秘の戦士『マイティセーラー』と謳われたユリコも今では肉体はなく『フェアリーセーラー』としての活動が限界だった。『キネティックパワー』をある程度、発現することが出来ても戦闘に転用できる程ではない。震えるカレンを横目に、ユリコはぎゅっと自身の光の拳を握り締めていた。

「カレン……キネティックパワーがあればいいの?」
「そ、そうだけど……。あっ! だ、ダメ! ダメだよ、ユリコ! あなた、じ、自分のキネティックパワーを『彼女』に渡すつもりなのねっ」
13 : 我が友   2020/11/17 21:57:33 ID:4rfY.IBtKU
 カレンは当然、知っている。フェアリーセーラー・ユリコがどのようにして、この現世に存在できているのか。今のユリコの全ては彼女が持つ多大なキネティックパワーによるものだ。そんな事はユリコも自覚している。唇を噛み締め、ユリコはキッとカレンを見据える。

「でも、そうしないと覚醒できないんでしょ!」
「だ、ダメ! キネティックパワーを使い過ぎたら、ユリコは消滅するかもしれないんだよ!」
「で、でも、このままじゃ、二人とも……!」
「……ユリコ。あなただけでも逃げて……フェアリーセーラーなら、ここから脱出することも容易なはずよ……」
「な、何言ってるの! なんの為にここまで来て……!」

 激を飛ばすユリコも何のその、カレンは観念したように首を振る。カレンの目は伏せがちで、それは諦めを認めた絶望の色だった。

「私の見込みが甘かったの……。『彼女』がヒーローズの手に渡るのは、どうしても阻止したかったけど……年貢の納め時かしら……」
「カレン……」

 ドガァァァァァァァァン!

 また一際激しい揺れも、今のカレンには差したる動揺も誘えなかった。
14 : そなた   2020/11/17 22:00:28 ID:4rfY.IBtKU
 立ち尽くすカレンを前に、ユリコが動揺していた。自分の持つキネティックパワーを『彼女』に渡せば、覚醒の見込みは充分につく。だが、どれ程のキネティックパワーが必要なのか想像もつかない。それをすれば自分がどうなるかも分からない。そんな揺れる天秤にユリコは踊らされていた。

 バンッ!

 一時の沈黙もいずこへか。部屋の扉が、けたたましく吹き飛ばされ、通路から続々と少女の集団が押し入ってきた。そのなりは、白の戦闘服を纏い、ユリコとよく似ていた。ただ、ユリコと違うのは少女たちは、カレンと同じような人間体であることだった。『クローンセーラー』。それが少女たちの兵器名称だった。

 リーダー格のクローンセーラーが前に出る。

「アイドルヒーローズ第6研究所所属、カレン・シノミヤ。あなたが取った行動は反逆行為とみなさています。あなたを拘束し、本部に連行します」
「……はい」
「カレンっ!」
「ごめんね……ユリコ……」

 十数人もいるクローンセーラーを前に、カレンは消え入る声を最後に、枷のかかったような足で歩み出した。
15 : ボス   2020/11/17 22:01:48 ID:4rfY.IBtKU
「ブラボーを捕縛します。アルファも確認。回収します」

 どこか遠方と通信回線を開いたリーダー格は顎で合図をすると、部下たちがカレンとカプセルを包囲する。後ろで取り残された小さなユリコは俯きながらも両の拳を握りしめたままだった。やがて、弾かれたように上げた彼女の面は戦士の如く、凛としていて闘争心を露わにした強張り様だった。

 宙で棒立ちだったユリコは、戦闘姿勢を取るとカレンとクローンセーラーの間に飛び込んだ。思わず両者は水を差される。

「はぁぁぁぁぁっ! キネティックパワー解放!」

 ユリコは全身を巡るキネティックパワーを錬りに錬り、その光は辺りの者たちの目くらましになるほどの輝きを放っていた。その場の全員が目元を覆い隠す。

「ゆ、ユリコ!?」

 カレンは、指の隙間から見たユリコの背中姿に、かつてのマイティセーラー・百合子のそれが重なったように思えた。でも、それはいけない。
16 : der変態   2020/11/17 22:03:24 ID:4rfY.IBtKU
 ユリコはもうカレンを見ていなかった。その視線の先は『彼女』が眠るカプセル。ユリコは背中を奮わせた。

「ダメだよ、カレン、諦めたら! カレンは最後の希望なんだからっ」

 ユリコは覚悟を決めた。カレンを失うくらいなら自分が消えてもいい。この世界をヒーローズの好きにさせてはいけない。カレンは、それを止める唯一の希望の火なのだから。そして、カプセルの中の『彼女』も認めたくはないが、カレンには必要なのだ。

「や、やめてっ! ユリコ!」

 カレンは眩い彼女に手を伸ばすが、勇むフェアリーセーラーを止めることはできなかった。

「後は……お願い……。いっけぇぇぇぇぇぇっ!」

 錬り上げたキネティックパワーはスパークを巻き起こし、痛くなるような輝きを放っては周囲を圧倒する。クローンセーラーたちも目を伏せる。ユリコは小さな体ごと、強力なキネティックパワーと共に『彼女』が眠るカプセルに飛び込んだ。ユリコの輝きが、カプセルを包む。システムエラーを起こした覚醒シーケンスは進行を再開し、瞬く間に処理完了となっていた。がこっとカプセルが鈍い音を立てては、己が扉を開放していた。

 カレンもクローンセーラーたちも、その様をただ呆然と見守っていた。
17 :   2020/11/17 22:05:44 ID:4rfY.IBtKU
「く……」

 小さな呻き声と共に、カプセル内で『彼女』を縛る固定具も解放され、よろめくように現れた真白の足が、この世界に初めて踏み出した。豊かな長髪を靡かせ、一糸纏わぬ姿で、しなやかでいて白の肌がよく似合う一見、可憐な少女ではあった。

「コトハ……」

 カレンが零した言葉に、カプセルの少女はピクリと反応し、その凛とした黒目を向ける。コトハと呼んだ少女の正体を知るカレンは、一瞬ビクリと震えるが、その目に邪気がないことを察すると怯えはすぐに消えた。

「誰ですか、あなたは……。私を……知っているのですか……?」

 痛みを抑えるかのように頭に手をやり、よろめくコトハ。

「わ、私はカレンです。科学者で、ある事情で、あなたのことを調べていたんです」
「ほう……。それで、この烏合の衆は……なんですか?」

 コトハは鬱陶しそうにクローンセーラー達をギロリと一瞥する。クローンセーラー達から発するキネティックパワーの波動が、コトハには所謂、雑魚であることを教えていた。なんとも美しくないキネティックパワーなのか。クローンセーラー達は蛇に睨まれた蛙の如く、仲間内でざわめく程度で、前に出れずにいた。
18 : 箱デューサー   2020/11/17 22:07:33 ID:4rfY.IBtKU
「アルファが覚醒した。取り押さえろ、取り押さえろ!」

 リーダー格の合図で、その場のクローンセーラーが全員で、丸腰のコトハに飛び掛かる。その各々は光るキネティックパワーを手の内に携え、すかさず放つばかりだった。裸体の少女は、的にされた雑兵たちに侮蔑の睨みを効かせる。

「はぁっ!」

 気合一閃。とでも言うべきか。コトハの怒号は凄まじい輝く衝撃波となって襲い来るクローンセーラーたちを逆襲する。ある者は壁に叩きつけられ、またある者は天井を突き破り、そして、またある者は衝突しそうになったリーダー格に邪魔者扱いされて、また弾き飛ばされていた。いずれも、再起することはなかった。

 十数人といた部下を一瞬で失い、リーダー格は後ずさる。

「想定外の事態。態勢を整える」

 無機質な弱腰の合図に、残った二人のクローンセーラー達は蜘蛛の子を散らすが如く、部屋から退散していった。
19 : 変態大人   2020/11/17 22:10:54 ID:4rfY.IBtKU
 裸で取り残されたコトハは嘆息する。そうして、衝撃波を免れ、事態に腰を抜かしているカレンを冷淡に見下ろした。

「カレン、と言いましたね。何か着る物はありませんか?」
「は、はいっ。こ、こっちにあります」

 カレンは小走りに隅っこに駆け寄り、床に手をかざすとタイルの一面が、ぼんやりと光りカチッと音と共に表面が開放された。隠し棚である床底からカレンが取り出したのは、真空圧縮パックで保存された真紅の衣服が目立つ内容だった。丁寧に下着まで揃えてある。パック表面のミニコンソールを操作すると、中に空気が流入された後、仄かな香りの蒸気で満たされ、ヨレヨレだった衣服はシワ一つなくなっていた。

「ど、どうぞ」

 コトハは差し出された衣服に手を伸ばした時、一瞬何かを躊躇うようにピクリと震えては、何事もなかったように受け取った。恥ずかしげもなく下着を身に着けては、整ったシャツ、ジャケット、スカートを纏った。他人が用意した衣服なのに、サイズがピッタリだったのは何か違和感を感じる。
20 : バカP   2020/11/17 22:12:52 ID:4rfY.IBtKU
 靴は、素材が皮ではなく見慣れない板金のような装甲で覆われていた。足首を通すと、内包される生地の繊維が伸縮し、装甲が若干の変形をしたことで、すぐさま自らの足に最適化された。

「カレン。あなたは私を知っているようですね。私は……」

 最後に身につけた黒のマントを翻すコトハが振り返ると、妙に暗い面持ちの彼女が俯いていた。半ば呆然としているカレンの肩を掴みかけると、揺れる瞳から伸びる水筋が反射していた。コトハの眉が、ひそまる。

「何を、泣いているのですか?」
「ご、ごめんなさい……。あなたを目覚めさせるのに……大きな代償を払ってしまって……」
「代償……。私にキネティックパワーを与えた者ですか?」
「え? わ、分かるのですか?」

 カレンの涙を、掠め取るように拭ったコトハは、その手を胸にやると自分の鼓動が、妙に高鳴るのを違和感として捉えていた。
21 : Pちゃん   2020/11/17 22:14:55 ID:4rfY.IBtKU
「私とは違うキネティックパワーをこの身に感じます。この落ち着きようのない力強さが、ちと鬱陶しいですが。それで、その者が、どうしたというのですか?」
「その、ユリコって言うんですけど、自分のキネティックパワーをあなたに捧げて消滅して……」
「消滅? そこに転がっているのは、違うのですか?」

 冷淡に、コトハが見やる部屋の角の床で、ぼんやりとした光が瞬いていた。

「……え?」

 ユリコの力がコトハの中で生きている、等と妙な感傷に浸っていたカレンは、ハリセンで頭を殴られたように現実に戻された。ハッとして駆け寄ると、それは地に伏せたフェアリーセーラー・ユリコだった。ユリコは、きゅ~とよく分からない鳴き声で目をぐるぐる回していた。カレンは、そっと光ごとユリコをすくい上げる。
22 : ダーリン   2020/11/17 22:16:31 ID:4rfY.IBtKU
「ユリコ、ユリコっ。しっかりして」
「……う、ううん……。私が全部やっつけて……ヒーローに……」
「やれやれ……むっ」

 コトハが、睨みつけると、瞳から発せられたキネティックパワーの波動がユリコとカレンに、襲いかかる。カレンは尻もちをつき、ユリコは空に放り出された所でようやく目を覚ました。手足をバタバタと暴れさせ、カレンの廻りを飛び回る。

「な、何!? 何が起きたのっ! カレン、あいつらは!?」
「だ、大丈夫だよ、ユリコ。コトハが、やっつけてくれたの」
「そう、コトハが……って、ぎゃぁぁぁっ!」

 真紅の制服を身にまとい凛とした佇まいであるコトハ。そんな彼女の姿を目の当たりしたユリコは何を思ったのか大声を張り上げて、カレンの髪の中にさっと逃げ込む。事の進行が全く進まない状況に、コトハはこめかみの震えを雑な足踏みで誤魔化していた。
23 : Pさぁん   2020/11/17 22:22:25 ID:eHK7xitmRc
遺体なのに冷凍睡眠?完全に倒せないから冷凍睡眠じゃなくて?
24 : プロちゃん   2020/11/17 22:32:25 ID:Uv/Jd32HcM
サヨコって単に操られてただけだから彷徨うほど未練ないんじゃないかな?
普通に無印最終話で開放されてたし、記念アニメでは一般人として普通に生活してるっぽいし
25 : P様   2020/11/17 22:55:47 ID:a3XWG0q5.I
「だ、大丈夫よ、ユリコ。彼女は私たちの味方よ」
「……いつ私が、あなた達を味方すると言ったのですか」
「え、ち、違うの?」
「……ジョークです。少なくともカレン、あなたからは敵意は感じない。一先ずは、あなたを頼ります。そこの羽虫は知りませんけど」
「羽虫って言うなーっ!」

 カレンの髪から顔も出さずに声だけ張り上げるユリコは、バチバチと自身のキネティックパワーを小さく弾けさせる。カレンは髪がまとまらなくなるので、やめてほしかったが乾いた笑いしか出せなかった。
26 : 番長さん   2020/11/17 22:59:24 ID:a3XWG0q5.I
 コツコツコツコツ……

 カレンはコトハの背中を見守りつつ、規則正しい歩調についていく。ユリコは相変わらずカレンの髪に隠れては、コトハの後頭部を睨んでいた。

 カレン達のいる施設区画は先の侵攻により半壊状態に見舞われた。入口に近づくにつれ、その有様は露骨に見えた。セキュリティゲートは扉ごと破壊され、近くの電灯も巻き添えを食っていた。ふとした所で、コトハが振り返るとカレンは、びくりと足を止めてしまった。

「カレン。あなたは私を調べていたと言いましたね。私は何者なのですか?」
「き、記憶がないんですか……?」
「名前と、このキネティックパワー以外は、よく分かりません」

 何の気なしに発現させた淡い光球をコトハは泳がす。紙風船が跳ねるか如く、ふよふよと宙を漂った光球はカレンの目前で儚く散った。カレンは綺麗な光だ、と思っては綺麗すぎる、とコトハの凛とした黒の瞳に引き込まれつつ、訂正した。
27 : 変態大人   2020/11/17 23:07:09 ID:a3XWG0q5.I
「な、なんで、あなたが光のキネティックパワーを使うの? ダークキネティックパワーじゃないの?」
「ゆ、ユリコ!」

 野暮だと思っていたのに変な先手をユリコに打たれて、カレンは、おろおろと、コトハを見やる。コトハは溜息を一つと、ついでに手も振ってやる。

「なんの話ですか。羽虫は一々、小煩いですね。はたき落としてあげましょうか?」
「なにをーっ!」

 潜んでいたカレンの髪から飛び出たユリコがコトハを睨みつける。あかんべーと舌を出す光の小人に、コトハはまた興醒めしていた。目の前にまで迫るユリコを宣言通り、はたいてカレンに向き直る。小さな四肢を壁に叩きつけられ、ユリコは額をさすっては、ぐぬぬとコトハをまた睨みつつ、カレンの髪に戻っていった。
28 : あなた様   2020/11/17 23:09:26 ID:a3XWG0q5.I
「それでカレン。あなたは私の何を知っているのですか?」

 嘆息ついでに腕組みするコトハは、苛立ちを絵に描いたよう。一歩後ずさるカレンは彼女の言われるがままだった。

「だ、ダークキネティックパワーと……デストル因子について……です」
「そのダークキネティックパワーというのは何ですか? それに、デストル因子というのも……何か聞き覚えがあります」

 目を細めては一歩と迫るコトハに、カレンは思わず押し黙る。

 この真紅の制服を纏う少女、コトハは数十年前に滅んだ『デストルドー』という歴史に存在した組織の長、総帥に間違いなかった。今より100年前に、伝説のマイティセーラー・海美によって打ち破られた、かつての故人、だった。それが、あの特殊なカプセルで100年という長き眠りにつかされていた。しかし、覚醒したコトハの記憶の欠如は著しかった。それが悠久の流れのせいなのか、乱暴な目覚ましのせいなのかは定かではなかった。
29 : Pチャン   2020/11/17 23:11:40 ID:a3XWG0q5.I
 カレンは、眠るコトハをアイドルヒーローズの手に落ちる前に、無理を承知で覚醒させた。目覚めさえすれば、逃げるなり戦うなりとコトハは自由の身になれるはず。例え、モルモットにしていた自分が、怒りを買い消されたとしても、それは覚悟の上だった。所が、目覚めたコトハは記憶喪失も同然。闇の存在を忘れた、キネティックパワーを操る戦士の一人に過ぎなかった。

 そんなコトハに、デストルドーに連なる事を思い出しては欲しくなかった。今の彼女は私たちを味方してくれる。そうでなくてもデストルドー総帥などという恐怖でしかない記憶など忘れたままでいてほしかった。

 不自然な沈黙が、コトハの眉を若干、吊り上げた。

「気に入りませんね。私に言えないことでも?」
「そ、それは……」

 視線を泳がすカレンが、コトハの琴線に触れる。静かな圧力を持ってしてまた一歩と迫るコトハは、表情を変えず、唐突に視線を天井に向ける。その視線は天井を透き通り、空の彼方を睨みつける。その姿に、ユリコも、ハッとして神経を研ぎ澄ませた。
30 : 番長さん   2020/11/17 23:14:50 ID:a3XWG0q5.I
「話は後で聞きましょう。今は、ここからの脱出を優先させます」
「え? え? ど、どうしたんですか?」
「何か……強いキネティックパワーが、こちらに近づいています」
「ウミだ……」

 マントを翻しつつ出口を目指すコトハは、ユリコの淀んだ呟きに目線だけを注ぐ。

 カレンの髪に隠れつつも頭を垂れるユリコから陰々とした波動をコトハは感じていた。心なしか、カレンも伏し目がちで面持ちが暗い。

「知り合い、のようですね。強いのですか?」
「英雄って呼ばれてる。今は私たちを捕まえようとしているけど……。仲間だよ……」

 そんなものは敵というのだ。冷ややかな視線でユリコに訴えると、コトハは、コツコツと歩き出す。ちかちかと電灯が明滅する通路で響く軍靴の音は、カレンの背に悪寒を走らせる。動く気配のないカレンだが、コトハは振り向くことなく冷厳に言い放つ。

「……後手に回るのは厄介です。こちらから打って出ます」
「は、はいっ」

 遠ざかるコトハの姿に引っ張られるようにして、カレンは小走りに駆け出した。ユリコはただただ、カレンの髪の中で蹲っては、唇を絞るばかりだった。
31 : 我が下僕   2020/11/17 23:21:21 ID:a3XWG0q5.I
「目標が覚醒した?」

 カレンとユリコを追い詰めた廃墟街の外れには、アイドルヒーローズの指揮車として機能する大型のコマンドトレーラーが鎮座していた。いくつかの居住空間に加え、作戦司令室も備え、その上座では指揮官たる『彼女』が、火急の伝令として舞い戻ってきた部下のクローンセーラーには興味もくれずに、頬杖任せに体を傾けては、窓の荒野景色を手持無沙汰に眺めていた。

 指揮官の彼女はオリジナルクローン・ウミ。かつての英雄、マイティセーラー・海美の純粋なクローン体。

 ウミは、頭を垂れ、跪くクローンセーラーを一瞥するや、仰いだ天井に溜息を投げかけた。クローンセーラーは、ウミのキネティックパワーの波動が自分への印象を、代弁しているのを悟った。一見、平静なウミの外見とは裏腹に、彼女の周囲を漂うキネティックパワーは攻撃的にクローンセーラーを纏わりつこうとしていた。感情のないクローンセーラーから汗が一滴、床を濡らした。
32 : P殿   2020/11/17 23:22:48 ID:a3XWG0q5.I
「はい。一瞬で、十数人のクローンセーラーを戦闘不能にされてしまい……」
「それで、むざむざ逃げ出したということだね……だめだねー」

 無作為に続けていた足組を、解いたと思ったウミの足は座面を踏みつけ、軽やかな跳躍でクローンセーラーの眼前に降り立った。その着地は跪く部下の揺すりを誘う。

 部下を見下ろすウミの視線は侮蔑のそれだった。

「い、いえ、只今は迎撃に備えて体勢を整えて……」
「へえ。そんな中途半端な報告をしに、きみ、来たんだね」
「そ、それは……」

 ウミの抑揚のない声が重りとなり、深々と下げる部下の頭にのしかかっては喉を詰まらせる。やがて震えは消え、身動き一つ取れなかった。

 片足を軸としてその場でくるりと一回転するとウミは、そのまま飛び上がり、元の椅子の肘掛に片足で着地する。ポーズを決めると、彼女は満足気に頷いた。その視界には部下は映っていない。
33 : プロデューサークン   2020/11/17 23:24:19 ID:a3XWG0q5.I
「まあ、いっか。じゃあ、取りあえず私も様子を見に行こうかな。逃がしたら怒られちゃうし」
「で、でしたら、私がご案内を……!」

 部下がここに来て、頭を上げた時、目の前には輝きを帯びた掌底が見えた。またいつの間にか部下の前に降り立っては、ウミは侮蔑に見下ろしていた。この輝きが何を意味するのか。部下の思考は凍り付いた。輝きは集束を重ねて、あっという間に部下の体を包み込む程に膨れ上がる。部下は悟った。

「勝手に頭を上げるおバカさんはもういいよ。ごくろうさま。もう来ないでね」

 溜息交じりの乾いた声。部下に目をくれることもなく、ウミの掌底より放たれた強烈な光が部下に襲い掛かった。光が静まった時には、そこには、床に染み付いた僅かな土汚れしかなかった。指令室の端に控えていた側近に周囲の清掃を命じ、ウミはくすくすと笑いだした。

「この波動……間違いなく、総帥だ。あ、そうだ。さっきの子の部隊、どこか調べておいてね。お仕置きしないと」
「かしこまりました、ウミ様」
34 : プロデューサー様   2020/11/17 23:31:28 ID:a3XWG0q5.I
「も、もうすぐ1階のフロアです。そ、そのまま外に出ますか?」
「奴らが侵入したという入り口以外で、他に外への出入り口はありますか?」

 施設区画を進むにつれ、損壊の有様は悲惨さが見て取れた。足元の危うさによろめくカレンは道案内役で先導し、間も無く屋外という手前でコトハに振り返った。 

「ほ、他に一カ所、出入り口があ、あります。回り道になりますけど、そこから……出ますか?」

 いえ、と首を横に振るコトハ。たった二カ所の出入り口など包囲されるのも容易いというもの。

「ならば止めておきましょう。奴らが侵入してきたという入り口から瓦礫を吹き飛ばして意表をつきます。所で羽虫」
「羽虫って言うな」

 カレンの髪からぴょこんと飛び出たユリコは、電灯が破壊された薄暗い空間を飛び回る。

「あなた、戦えるのですか? 一見、キネティックパワーを操るようですが」
35 : 高木の所の飼い犬君   2020/11/17 23:33:43 ID:a3XWG0q5.I
「そ、それはダメですっ。ユリコのキネティックパワーは戦闘では使用できません。今のユリコは、体を持たないキネティックパワーのエネルギー体です。下手に、戦闘で消耗しすぎると、しょ、消滅にしてしまうかもしれなくて……」

 ずいっと一歩迫るカレンに、コトハの眉がピクリと動く。

「そんな芸当ができるとは。後で詳しく聞きたいものですね」
「ふふーんっ。これでも私、すごーくすごーいんだからっ」
「あなたが役立たずというのは分かりました。カレンの髪にでも隠れていなさい」
「な、なにをーっ!」

 コトハは天狗鼻をへし折るついでに、騒ぐユリコを見るともせずにまた、はたいて壁にぶつけさせた。負けじとキネティックパワーの光を弾けさせて飛び回るユリコが並べる文句も右から左へと、コトハは涼やかな顔でカレンに小さく頷いた。

「カレン。出口への先導をお願いします。入口付近にまで来たら、私が先行します」
36 : バカP   2020/11/17 23:36:03 ID:a3XWG0q5.I
「わ、分かりましたっ。こっちにある階段で下に降りられます」

 カレンがコトハを追い越し、先頭に躍り出る。ユリコはコトハにまた、あかんべえと挨拶し、カレンの髪に潜り込んだ。

 瞬間、何かごくごく小さな軋みが床に走り伝わるのを察知したコトハは眉をひそめ、はっとする。

「カレン、止まりなさい!」
「え? きゃあっ!」

 コトハの鋭利な声は一歩遅かった。カレンが進んだ先の床が崩れ、階下に飲み込まれる。

「はっ!」

 コトハは駆け出し、大きく開いてしまった穴に素早く念を送る。コトハのキネティックパワーが光として顕現し、それは落下するカレンを素早く包み込んだ。後、数センチで床に激突するところでカレンの体は静止し、羽毛が降るかのようにゆっくりと着地した。
37 : ご主人様   2020/11/17 23:38:32 ID:a3XWG0q5.I
 髪の中のユリコ共々、カレンは胸を撫でおろし、改めて周囲を確認すると、瓦礫にまみれた外への出入口は、もう目と鼻の先だった。瓦礫の隙間から光が差し込め、人一人くらいなら通れる広さはあった。階上のコトハに、カレンはハンドサインを送る。

「コトハ―っ。で、出口はもうすぐそこですっ。こっちに来てくださいっ」
「なに? カレン! すぐに、そこから離れなさい!」

 ズガァァァァァァァァン

 コトハの叫びは、唐突な衝撃音に掻き消された。カレンの指し示す出入口より粉塵の突風が吹き込まれると共に、出入口の瓦礫が粉砕された。

 階下のカレンは、晴れた外からの逆光に目を覆い隠した次には、一本の巨大な腕が五指を広げ、迫っているのに恐怖した。

「カレン! 逃げなさい!」
「きゃぁぁぁぁぁぁっ!」

 慌ててコトハが階上より穴を伝って飛び降りるも、カレンは出入口から伸びた剛腕に捕まり、無理矢理、外に連れ去られた。コトハは外に逃げる腕を追いかけ、陽光の眩しさに一瞬、目元を覆った。
38 : 仕掛け人さま   2020/11/17 23:40:50 ID:a3XWG0q5.I
 外は一言で言えば、廃墟だった。周囲に大きな建物こそあれど、窓ガラスが全壊しているその中に人の気配は一切しない。いくつもの亀裂が走る車道と思わしき地面も、その機能を果たしてはいない。ここはなんだ、と視線を走らせれば、前面に巨大な2体の像と、それに群がる集団がいた。5メートルを越す巨体と、あらゆる攻撃に備えた鉄壁の装甲が特徴の『アーマードゴーレム』と、新たなクローンセーラーの集団だった。そして、カレンは、一体のアーマードゴーレムの剛腕に掴まれ、藻掻くこともできずに拘束されていた。

「やっと捕まえたよ、カレン。勝手に本部を出て行っちゃダメでしょ」

 緊迫した雰囲気に不似合いの明朗な声。それはアーマードゴーレムの肩に立った白の戦闘服の少女のもの。クローンセーラーにはない純白なマントを靡かせ、やれやれとさして重くない溜息一つにカレンを見下ろしていた。

「う、ウミ……」
39 : 兄(C)   2020/11/17 23:42:17 ID:a3XWG0q5.I
 怯えるカレンも気にならず、次いで姿を現した真紅の制服姿を目にすると、ウミはまた溜息一つに巨人の肩から、ふわりと地に降り立つ。正面には、さざ波一つ立てないで佇むコトハが自分を見据えている。その瞳は落ち着きのある黒だった。

「あの総帥まで目覚めちゃってるし、もう仕方ないんだからー」

 誰に言う訳ではなく、ウミは明後日の方向を向きつつ、また嘆息する。

 コトハは、ウミから滲むキネティックパワーの流れを汲み取っていた。ユリコの言う通り、只者ではない。加えて、ウミの後ろには2機のアーマードゴーレム。更には、出てきた入口に包囲網を張る大勢のクローンセーラー達。そして、巨人に捕らえられたカレン。カレンの周りをくるくると飛び回るユリコ。

 この状況、打破は容易ではない。
40 : Pくん   2020/11/17 23:43:56 ID:a3XWG0q5.I
 無言の対峙を続けながらも、コトハはあらゆる可能性を模索していた。ただ、自分一人だけ逃げる、という思考は無自覚のうちになかった。風に煽られ、頬に当たりそうになったマントを振り払い、コトハが一歩を踏み出した。

「私はコトハ。あなたは何者か。名乗りなさい」
「あれ、覚えてないの? 私はウミだよ。マイティセーラーのウミだよ」
「マイティセーラー……ウミ……?」

 ただの自己紹介が、コトハの中で、記憶の波を揺らめかす。

 コトハが見つめるウミの姿。長く伸びた茶髪の一部を編み込んだ毛束が、ぷらぷらと揺れている。くりくりとした大きな瞳の揺れようは仄かな無邪気さを醸し出す。絶えず腕をぐるぐると回しては唐突に片足を上げるなど、何かと落ち着きのなさがコトハには鬱陶しい。

 奴のペースには合わせたくない。

「では、ウミ。そこの木偶の坊が掴んでいる娘を解放させなさい。あなたの命令なら聞くのでしょう?」
41 : おにいちゃん   2020/11/17 23:48:55 ID:a3XWG0q5.I
「えー、やだよ。カレンもコトハも捕まえてこいって言われてるし。コトハも捕まえるから大人しくしててね?」

 ろくに目線を合わせず、欠伸をするウミにはコトハは静かな嘆息で自制心をなんとか保っていた。

 やれやれ。ユリコといい、こいつといい、あの戦闘服を纏っている者は、点で話が出来ない。持ちかけた交渉を数秒で決裂させた無邪気さは一々、癇に障る。コトハは流れるように構えを取る。脇を閉めた腕には、輝く光の収束が始まっていた。

「あれ? 捕まってくれないの?」

 腰に手をやるウミは小首を傾げる。

「これが私の返答です。キネティック・スラッシュ!」

 横薙ぎに払ったコトハの腕から光の刃が放たれる。空を裂く斬撃光の獲物はカレンを捕らえているゴーレム。僅かな放物線を描き迫るそれをウミは動くこともなければ、目で追ってもいない。その口元に歪んだ笑みが乗っていたのをコトハは見逃さなかった。

「なに……」
42 : P様   2020/11/17 23:51:09 ID:a3XWG0q5.I
 ウミ同様、宙に佇むだけのゴーレムの寸胴を切り裂くはずの斬撃光は獲物の直前で四散した。掻き消された、とコトハの思考が刹那に止まる。

「逃げて……コトハ……。これには……キネティックパワーが通じないの……」

 ゴーレムの腕に締め付けられながらもカレンが呻く。今の己の全てであるキネティックパワーが通じない。く、と焦りの声色がコトハから漏れるとウミはくすくすと肩を震わせた。

「ごめんね~。あなたみたいに逆らうキネティック戦士を捕まえる兵器なんだ、このゴーレム」
「ならば、指揮官を潰すのみっ!」
「遅いよっ! ジャマー展開!」

 拳を振りかぶり突進するコトハに、ウミの号令に、もう一体のゴーレムのカメラアイが素早くコトハを捕らえる。瞬間、ゴーレムから放たれた妙な波動を感知した時、コトハは速度を殺され、地面に叩きつけられた。何か異様なる重みが、自分の体にのしかかる。違う。のしかかってはいない。自分の内に流れる力が、自らを押さえつけている。
43 : レジェンド変態   2020/11/17 23:54:23 ID:a3XWG0q5.I
 必死と膝を着いてコトハは起き上がるが、一歩も踏み出せなくなってしまった。途端に吹き出る脂汗に、呼吸が保てなくなる。全身に重りが巡りに巡るこの感覚。

「バカな……。私のキネティックパワーが重い……」

 そうだ。全身を巡るコトハのキネティックパワーが鉛に変わったよう。己が身体能力を向上させる恩恵が、我が身を縛る鎖となった。何をした、と言いたげにウミを睨みつけ、抵抗するコトハは傍から見れば小鹿を思わす震えぶりだった。

「そ、そんな……あれが……Kジャマーが完成していたなんて……」

 呆然とつぶやくカレン。その傍では小人のユリコが、歯を食いしばりふるふると震えている。

 キネティックパワー妨害装置。通称、Kジャマーはキネティックパワーの発現を無効化すると同時に、キネティック戦士の体に重大な作用を引き越す。それはユリコもコトハも例外ではない。コトハは四肢を封印され、ユリコもジャミング波を浴びてしまえば、キネティックパワーの作用を止められ、消滅するかもしれない。無力なユリコは静かに打ちひしがれるしかなかった。
44 : 夏の変態大三角形   2020/11/17 23:57:58 ID:a3XWG0q5.I
 コトハに展開したジャミング波を緩めず、ゴーレムはゆっくりとコトハに近寄っては、その剛腕を彼女に伸ばした

「だから言ったじゃない。キネティック戦士を捕まえる為だって。さあ、ゴーレム、捕まえちゃって」
「く、お、おのれ……」

 なす術もなくコトハは剛腕に捕まれ、カレン同様に拘束される。重りが激痛となり意識が飛んでしまいそうだ。

「ウミ! やめてよ! 二人を放して!」
「ん? ああ、なんだ、ユリコか」

 耐えきれずユリコは、カレンの元を離れ、ウミの眼前に飛び込んだ。突然として現れたフェアリーセーラーにウミは、ひらひらと手を振るばかりだった。

「あっち行ってよ。私はマイティセーラーの仕事で忙しいんだから」
「何がマイティセーラーだよ! こんなのマイティセーラーなんかじゃないよ! 間違ってる!」

 馬鹿馬鹿しいと背を向けたウミが止まる。そして、振り返ったウミの瞳から無邪気さが消えていた。その視線が針の如く、ユリコを貫く。

「なんだって? マイティセーラーじゃない?」
45 : P殿   2020/11/17 23:59:34 ID:a3XWG0q5.I
「う……。そ、そうだよ! マイティセーラーはこんな事しない!」

 食い下がるユリコに、つかつかとウミが寄ると目にも止まらない腕の速さでユリコを握り捕まえた。そうして、ユリコを眼球の真ん前に迫らせる。血走るウミの瞳にユリコが小さく怯えた。

「お前がマイティセーラーを語るな……! 私のマイティセーラーは正しいんだ!」
「な、何するの、ウミっ」
「お前も一緒に苦しめっ!」

 ウミはユリコを弾丸速でコトハを拘束するゴーレム向かって投げつけた。ユリコがジャミング波の影響下に落ちるのはすぐだった。

「ぎゃあああああああああっ!」

 身を裂く苦痛だった。断末魔にも近い叫びで、ユリコも四肢を封じられた。それ所ではない。意識が、キネティックパワーが消えてしまう。ユリコの体の煌めきが霞んでしまう。
46 : 高木の所の飼い犬君   2020/11/18 00:02:14 ID:Bpvy1.1fyM
「ゆ、ユリコ……! や、やめて……! やめさせてっ!」

 カレンが必死に藻掻こうにも指先一つ動かせない。ただただ、苦しむユリコを傍観することの残酷さ。カレンの目に雫が滲む。しかし、それがいくら落ちようともユリコの苦しみは続いていた。

「ふん、そのまま消えちゃいなよ」

 犬にでも噛まれたような小さな不機嫌を露に、ウミは撤収を命じた。包囲網が解かれ、クローンセーラーの陣形が変わる。

 コトハはゴーレムの腕の中で既に朦朧としていた。呼吸の荒さはひどく、もう油汗がどれだけ滴ったことか。見えない磔にかかったユリコを横目にして、ふと空に妙な光点を見た。赤い光。それが針の孔から照らされたように小さく瞬いた。
47 : 師匠   2020/11/18 00:03:31 ID:Bpvy1.1fyM
誰が気づいただろうか。突如として、一筋の紅の流星が空から降り落ちた。隕石やもしれないそれは、ジャミング波を放つゴーレムの土手っ腹を貫通すれば大穴を開け、突き刺さった大地を揺さぶっては突風と砂塵を巻き起こす。

 誰もが遅れて振り返れば、ゴーレムが煙を吹きながら倒れるのを傍観していた。ウミすらも呆然としていた。ジャミング波が消え、ユリコは気を失いつつも、仄かな光を保ち、砂煙へと、ほろほろと儚く落ちては見えなくなった。

「ユリコ! コトハ!」

 難を逃れたもう一体のゴーレムの腕の中でカレンが巻き起こる砂塵に向かって叫ぶ。見えない二人の姿がカレンの不安を煽る。

 流星による衝撃で剛腕から放り出されたコトハは、地面を転がりつつも受け身取りから、よろよろと顔を上げると目の前には赤黒く光る棒があった。それは降り落ちた紅の流星だ。
48 : P殿   2020/11/18 00:04:55 ID:Bpvy1.1fyM
『コトハ……コトハ……』

 聞き覚えのない声が、砂塵立ち込める地で蠢く彼女を呼ぶ。クローンセーラーもウミにも聞こえたが、この悪視界のどこから発するのか見当がつかない。ヒーローズ組織員たちがきょろきょろと周囲を警戒するも声は構わず続いた。

『コトハ。それを……デストル刀を……手に取って……』

 静かだが鬼気迫る声。光る棒は、纏った輝きを収め、その姿をコトハの前にさらけ出した。それは黒艶の柄と鍔に、剃りのかかる刃は漆黒ながらも陽光を受けては、ぎらりと怪しく光る。さながら、闇に沈む刀。

「く……」

 武器か。眉間の皺寄りも強く、まだ絡め着く苦痛を感じながらも、よろめくコトハには闇に沈む刀、デストル刀の姿が霞がかる。これを手にすれば勝機はある、と無意識に考えては無自覚に手を伸ばす。
49 : 我が友   2020/11/18 00:08:33 ID:Bpvy1.1fyM
「デストル刀だってっ!」

 デストル刀、という言葉にウミは目の色を変えた。すかさずキネティックパワーの波動で巻き起こる砂煙を無闇矢鱈に吹き飛ばせば、コトハに寄り添うかのように佇む漆黒の一振を見つけた。

 重要危険指定物として、今も尚アイドルヒーローズが行方を追っている武器だ。これを持ち帰れば、また英雄になれる、と嗤うウミがデストル刀に飛びかかった。

 開いた距離も一瞬で埋まり、コトハよりも早く、ウミの手が伸びる時、デストル刀は開眼するように刀身を閃かせ、赤黒い稲妻を異物に放った。

「うわぁぁぁっ!」

 予想打にしない反撃を受け、ウミは蹴鞠のように弾き飛ばされ、地面をごろごろと転がる。電撃はちっぽけなものだが、起き上がろうとしたウミの体を麻痺させていた。ギリギリとデストル刀を睨みつけるのが、地に伏せたウミには関の山だった。
50 : バカP   2020/11/18 00:10:12 ID:Bpvy1.1fyM
『さあ、コトハ。デストル刀を……手にして……。これは……あなたの……あなたの為の剣だよ』

 痙攣したままの腕を必死に伸ばすコトハ。やっとの思いで柄を握った時、一瞬世界が暗転した。それは、すかさず現実に戻されたが、それまで見えてはいなかった黒衣をまとった黒髪の少女の幻影が、デストル刀と共に佇んでいた。

「あなたは……何者ですか……」

 いつの間にかジャミング波の余波も消え、すくりと立ち上がり、コトハは呟く。少女の幻影は柄を握るコトハの右手を、透き通る両手で包み込む。

『私は……サヨコ。今、封印を解きます……』

 物寂し気な声で重なるサヨコの両手から光が発した。
51 : そなた   2020/11/18 00:12:51 ID:Bpvy1.1fyM
瞬間、デストル刀から赤と黒の禍々しい光が溢れ出さんばかりに放出された。それはその場の全員をも巻き込み、コトハを中心に広範囲な暗黒の竜巻と化した。漆黒のマントが耳障りに、はためいては真紅の制服もそれにつられて、ばさばさと落ち着きようがなかった。

 だが、それでもコトハは静かだった。冷静を極めるのではなく、どこか呆然としたままで、デストル刀を握りしめては、闇の暴風に晒されては、空虚な視線を泳がすばかり。

 ふと、光の手が離れ、サヨコの儚げな身体が、ふわっと浮き昇る。その姿を見たか否か、コトハとサヨコの眼差しが重なった。

『剣を……お願い……』

 サヨコは淡い笑顔と共に、暴風にゆっくりと飲み込まれ姿を消した。
52 : プロデューサーはん   2020/11/18 00:13:43 ID:Bpvy1.1fyM
 するとどうだろうか。ドクンと大仰な程の心音がコトハの身を鳴らすと、彼女の世界が静止し、現実の刹那が悠久と化した。鼓動が、脈動が、秒を重ねる毎に速く、重く、全身を駆け巡る。全身の血潮が溶岩のように熱く、体内で迸る錯覚に陥る。錯覚ではない。熱い、熱い。自分の中に蠢き、そして暴れ回る強大な殺意と敵意が、この身を寄越せと訴える。

 踊らされるようにコトハの膝が笑い、武者震いのように腕が奮え、空いた左の五指が鉤爪のように鋭利に曲げられては不気味に蠢いていた。苦痛で四肢が歪められているはずのコトハは、眉一つ動かさず、安らかに瞳を閉じては空を仰ぐだけだった。
53 : レジェンド変態   2020/11/18 00:14:53 ID:Bpvy1.1fyM
 この剣から何かが自分に押し入っている。それは、意思も意識も力も、赤き闇の底へと突き堕とす。脳も、心も、掻き乱す赤き闇の衝動は、正気を押し潰しては精神崩壊を誘い、コトハという自我を呑み込むばかりに幾度とない衝撃を打ち与える。そうだ、これだ。これがデストル因子だ。私が辿り着いた強さの源。

 この身が苦痛に晒される程に、強大な闇の巡りが実感できる。それはコトハの四肢から漏れていた光のキネティックパワーの粒子を赤黒く、闇色に染めていく。散りばめたように漂う闇の粒子たちは互いに干渉するかのように迸り、バチバチと弾け合っていた。
54 : ダーリン   2020/11/18 00:16:03 ID:Bpvy1.1fyM
「私に従いなさい、デストル因子」

 暴風に掻き消される程度のコトハの囁きが、縦横無尽に駆け巡る衝動に水を打った。それは嘘のように静まり返り、最後にドクンと一際、大きい心音が響くと、コトハの足や腕が、真っすぐにしなやかに伸ばされる。

 赤き闇のやんちゃを見送ったコトハは閉じられた瞳はそのままに、腕を振るい、流れるように引き抜いたデストル刀を天に掲げた。
55 : プロデューサーちゃん   2020/11/18 00:17:28 ID:Bpvy1.1fyM
「目覚めなさい、デストレイピア。今一度、私の手に収まれ」

 瞬間、周りを渦巻いていた闇の暴風が、凍りついたかのように不気味に静止した。すると、それらが全て一束となってデストル刀に集約する。

 漆黒の刀は、瘴気の如く深淵たる闇の波動で包まれ、その形状が歪むように変化していく。しなやかに剃った刀身は、鍛えられたかのように細く真っすぐに伸び、切っ先は鋭くなる。刃元には美しくも残酷さを象徴する棘の装飾をあしらったそれは『デストレイピア』へと変容したデストル刀の真の姿だった。
56 : 5流プロデューサー   2020/11/18 00:19:24 ID:Bpvy1.1fyM
 荒ぶる暴風の全てがデストレイピアに吸い尽くされると、元の静寂が訪れ、天の群青が姿を現した。

 剣を降ろすコトハの瞼が開かれれば、凛とした黒の瞳が、血塗れた赤に染め堕ちる。しかし、暴虐の衝動を秘めた赤眼はコトハという芯の強さを残したままで落ち着き払っていた。

「ダークキネティックパワー……解放っ!」

 澄み渡る青天の下、誰からも忘れ去られた廃墟の中、たった一つの真の闇が、この世界に舞い戻った。黒衣のマントを靡かせ、真紅の制服を纏い、デストレイピアを手に、赤き闇の粒子が全身より放たれる姿は、かつて、この世の恐怖とされた組織『デストルドー』の総帥コトハそのもの。

 アイドルヒーローズの誰もが恐れを成した破壊と暴力の化身は赤の瞳でもう一度、空を仰いだ。
57 : EL変態   2020/11/18 00:21:04 ID:Bpvy1.1fyM
読み切り的に、ここで終了です。
失礼しました。
58 : せんせぇ   2020/11/18 06:41:18 ID:STp6PJDU8.
おつー
59 : 師匠   2020/11/18 12:21:20 ID:9ybMDaQAbI
>>23
鋭いね。単に死んでたら『眠りにつく』なんて言わないしね

>>24
サヨコ自体に未練はないよね。ないと思う
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