【876プロ】

石川社長「愛。なんで呼び出されたかわかる？」

愛「いいえ」

石川社長「こないだのロケの放送を見たわ。どうしてあんな事を言ったの」

愛「あ、その話ですか」


愛（正直、完全に忘れていた。撮影から日が経っていたし、とくに話題にもなっていなかったし）

愛（でも、この時の社長は……今まで見たことが無いくらい深刻な顔をしていて……）

愛「えっと……その場のノリと言うか……笑いが取れると思ったからです」

石川社長「軽率ね。よりにもよって全国ネットの番組で」

愛「でも、別に騒がれてたりしてないですよ？」

石川社長「それが問題なの！あなた、もう歌の世界の人間じゃないと思われてるのよ！これがどういうことかわからないの！？」

愛「あたし、正直に自分の気持ちを話しただけです！歌よりバラエティのほうが向いてると思うし、事務所のためにもたくさんお仕事しなくちゃいけないし！」

石川社長「愛……あなた……」

石川社長「……それなら私も本音を言うわ。あなたには才能がある。少しブランクができてしまったけど、もう一度歌の世界に挑戦するべきよ」

愛「でもそれじゃ事務所が」

石川社長「もうそんなことを気にしなくていいのよ。この事務所、畳むことにしたから」



愛「………………えっ」

愛「なに……いってるんですか……？」

石川社長「この前高木社長がウチに来たでしょ。あの時にね、あなたを765プロに移籍させて貰えるよう頼んだの。快くOKして貰えたわ」

愛「そんなこと聞いてません！なんで！？なんで876プロが無くなっちゃうんですか！？赤字なら、あたしがもっとバラエティの仕事して……」

石川社長「それがいけないのよ。ウチにいる限り、あなたは自分の才能を腐らせていくだけ」

愛「じゃあ涼さんはどうなるんですか！？涼さんの帰る場所は！？」

石川社長「……涼との契約なら、ずいぶん前に解消したわ。公にはしてないけどね」

愛「そん、な……」

石川社長「女装アイドルから男性アイドルへの再デビューなんて前代未聞だったから、一応はプロダクション掛け持ちということにして少しでもファンの反感を抑えられればと思っていたのだけど……完全に杞憂だったわね。昔からのファンも新しいファンも虜にして、あっという間にトップアイドルになったんだから」

石川社長「もう、涼がウチに帰ってくることに意味はない。あなたにもわかるでしょう？」

愛「でも……あたし……やくそく……涼さんと……」


石川社長「そもそも涼が女装アイドルをしていたのは、私が無理強いしたからなのよ。そのために随分無茶をさせて……結局私は、あの子の才能を見誤って、無駄な時間を使わせただけだった」

石川社長「それなのに、今度はあなたの才能まで潰しかけている……これ以上こんなことを繰り返してはいけないと思ったの」

石川社長「愛。あなたにはなんの責任もないわ。悪いのは人を育てる力が無かった私。だから、765プロでもう一度新しいスタートを……」

愛「――なんですか、それ」


石川社長「え？」

愛「まなみさんも、尾崎さんも、社長も」

愛「力が無いとか、資格が無いとか、勝手に決めつけて、どんどんいなくなって」


愛「誰も……あたしの……」


愛「あたしの気持ち！考えてくれないじゃないですか！！！！！！」

石川社長「落ち着いてちょうだい。私は……」

愛「聞きたくない！！もう知らない！」

ｶﾞﾝｯ!


愛「社長の……バカー―――っ！！」

石川社長「愛！待って！」

ﾊﾞﾀﾝ!

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【駅】

愛（なんで……なんでこうなるの……）　

愛（765プロに移籍だなんて……あたし、もう春香さんに合わせる顔がないのに……）

愛（今までしてきたこと、全部ムダだったの？876プロは無くなって、涼さんは帰ってこなくて）

愛（じゃあ、あたしは……歌えなくなって、ママにも勝てなかったあたしは……いったい……）

≪電車が通過します。線路から離れてお待ちください≫

ｺﾞｵｵｵｵ……


愛（あたしがアイドルになった意味って……なんだったの……）

ﾌﾗﾌﾗ

男性「おい！そんなに近づいたら危ないぞ！」

愛「え？」


ｽﾞﾙｯ


愛（あっ……）


ｺﾞｵｵｵｵｵｵｵｵ!!!

石川社長「愛―――――っ！！！」


ド　ン　ッ


愛「えっ」
　


グ　シ　ャ　ッ　！　！　！

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『手は尽くしましたが……全身を強く打っていて、予断を許さない状況です』

『残念ですが、目を覚ますかどうかは本人の気力次第かと』

『面会も厳禁です。とにかく安静にしなければ』

『医師として、こういう言葉を使わざるを得ないのは大変心苦しいのですが……あとは、奇跡を祈るしか……』

『えーっと、何度も同じ話をしてもらって申し訳ないんですが、最後の確認を。線路に転落しそうになったあなたを社長さんが庇って事故に遭われたと。間違いありませんか？』

『すみませんねえ。これが仕事なもんで。はい』

『お気持ちはよーくわかりますよ。ショッキングな場面に出くわしてすぐ聴取なんてね、私だってしたくないです。でも規則なんですよねえ』

【876プロ】

ｶﾞﾁｬ

愛「……」


愛（無人の事務所は、暗かった）

愛（なんでここに来たのか、自分でもわからなかった。とにかく誰にも会いたくなかったのかもしれない）

愛（駅での出来事が頭から離れなくて……体の震えが止まらなくて……）

ﾁｶｯ　ﾁｶｯ

愛「……？」

愛「なにか、光ってる……」

ﾋｮｲ

愛「社長のスマホ……」


愛「え？このメールって……」

From: 石川実
Sent: Friday, September 16, 13:26 PM
To: 高木順二朗
Subject: RE: 愛の件について


高木社長

今日、愛にすべて話そうと思います。

先日の打ち合わせで色々とアドバイスをしていただきましたが、私の決意は変わりません。
「本物のアイドルなら、自分で考えて行動をして、自分の手で頂点を掴める」
876プロを立ち上げる際に掲げた理念は結局、年端もいかない子供たちを大人の世界に放り込んで不幸にしただけでした。
もう、私にアイドル育成に携わる資格は無いと確信しています。

涼に無茶をさせたことはもちろん、絵理に対しても私はなにもできませんでした。
どこかでフォローしていれば、あの子が尾崎さんと決別することも無かったかもしれないのに、くだらない理念に囚われて、傍観して……待っていたのは最悪の結果でした。

その後も、絵理への私怨で暴走する尾崎さんを止められず、結果的に彼女まで失うことになりました。
間違っているとわかっていても、彼女が稼いでくるお金に目を奪われて……。
いつの間にか、私は876プロというちっぽけな事務所を守りたいだけの人間になっていたんです。

それに気づいたのは、愛がきっかけでした。

あんなに歌が好きだった子が、自分のことより事務所のことを心配して……仕事の数ばかり優先して、どんどん歌から離れていってしまって……。
バラエティの仕事が楽しいと本人は言いますが、目が輝いてないんです。
このままじゃいけない、どうにかしなきゃと思っているのに、出口が見つからずにもがいている。

だから、私が出口を用意しなければいけないんです。
あの子には本物の才能がある。トップアイドルになって、大勢の人に夢を与える存在にならなくてはいけないんです。
そのために876プロを終わらせる決断をしました。


昔、何度も生意気なことを言ってしまった私の願いを聞き入れてくださって、本当に感謝しています。

愛を……私の大切なアイドルを、よろしくお願いします。

愛「しゃ、ちょ、う……」


愛「うあ、あ、ああああ……」



愛「うわああああああああああああああああああああああああああん！！」

愛（1年ぶりに流す涙は、火傷しそうなくらい熱くて）

愛（胸も喉も張り裂けそうなのに、止められなくて）


愛「うあああああ！！あ、あああああああああああああああああああああああ！！！」


愛（社長は真剣にあたしのことを考えてくれてたのに、信じてくれてたのに）

愛（あたしは、社長を……）


愛「うわああ！あああああ！うわあああああああああああああああああああああああああああああああん！！！！」

愛（泣いて、泣いて、泣き続けた）


愛（その後のことは、覚えていない）

お　し　ま　い　

次回、この涙の意味するところは……！？

タイトルに反して涼が全然出てこないし絵理はどっか行っちゃってるし愛はボロボロになってくしでどうなるのよこれ…

これで涼が来て、何か声をかけて愛が復活する王道だけどワンパターンか





堕ちるとこまで堕ちた愛が、最後狂ってしまい関係者をコロコロするor自害する最後になるか

楽しみですなぁ