絵理「……少し……落ち着いた？」

愛「ぐすっ……はいっ……すいませんあたし喋りっぱなしで……」

絵理「ううん。私も気になってたから……愛ちゃんと、社長さんの事……」

愛「もう、どうしていいかわからないんです。もし社長が目を覚まさなかったら、あたし……」

絵理「線路に落ちそうになったの、わざとじゃないし……事故は、仕方なかったと思う。愛ちゃんが悪いんじゃないよ」

愛「でも！」

絵理「うん。責任、感じるよね。わかる……」

絵理「……今の愛ちゃんに重ねていいのか、わからないけど……。私も、876プロを辞めてからしばらく、なにをしたらいいかわからなかった」

絵理「尾崎さんとの事……愛ちゃんや涼さんに何も言えなかったこと……なにもかも、後悔してばかりで……」

絵理「自分から飛び出して行って、こんなこと言う資格……無いんだけど」

絵理「それでも、私なりに考えて……結局、自分にできる事をやるしかないんだなって、結論になったの」

愛「自分にできる事、ですか？」

絵理「うん……リアルアイドルでは上手くいかなかったけど……また、ネットの世界で一からやり直すしかないなって」


絵理「もう、歌やダンスなんて見たくないって思いもあったけど……私は……自分の作った映像で誰かに喜んでもらうのが好きだったから……」

絵理「私自身のはじまりになった、この気持ちにだけは……ウソをつけないなって……」

絵理「言い表すなら……自分の、根っこの気持ち？」


愛「自分の……根っこ……」

絵理「愛ちゃん……876プロを辞めた私が、こんなこと言うのはおこがましいけど……」

絵理「社長さんが言った通り……愛ちゃんはもう一度、自分がなりたいアイドルになる道を歩むべきだと思う」


愛「あたしは！ただ876プロを守りたくて、それが全部ムダになっちゃって……」

絵理「本当にそれが……愛ちゃんがアイドルをする理由のすべて？私と初めて会った時から、ずっと？」

愛「それは」

絵理「初めて愛ちゃんに会った時……私、圧倒された。こんなに大きな声を出して、楽しそうに歌う人、初めて見たから」


絵理「あの頃の愛ちゃんを突き動かしてたのは……もっと、別の気持ちだったんじゃないかな……？」

愛「あたし……」


愛「…………」


愛「あたしが、アイドルになったのは……」

サイネリア「あのースイマセン、ちょっとお知らせしたいことがあるんですケド」

絵理「……何？」

サイネリア「に、睨まないでくださいよセンパイ……けっこう大事な話なんで……」


サイネリア「えっと、さっきの話に出てきた……秋月涼？でしたっけ？今テレビに出てますよ」

愛「えっ？」

サイネリア「ホラ。アタシ自慢のハイスペックタブレットにくっきりと」

≪なんということでしょう！まさかまさかの飛び入りで秋月涼君が新曲をお披露目！もちろん本邦初公開です！≫

涼『えへへ……どうも……』

≪いやー、これ番組ジャックですよ！優等生キャラの涼君がなぜ？≫


涼『えっと、ご存知の方も多いと思うんですけど、僕が所属していたプロダクションが今、大変なことになっていて』

涼『それで……色んな噂が飛び交ってるみたいなんですけど……それに対する回答って言うか……』

涼『一番は、僕のかけがえのない友達……大切な仲間に、メッセージを送らなきゃって思って、それで急速作った曲なんです』


≪なんと！これは凄い曲が聞けそうですねえ！≫

絵理「愛ちゃん、これ……」

愛「あたしの、こと？」

≪さっそく歌っていただきましょう！“羽ばたきのMy Soul”！！≫

“ぼくらが声あわせ 紡いだ世界は”

“叶えたい明日へと続くよ”

“叶えたい夢へと続いている”

愛「っ！？」

“何が正解かなんてわからないけど”

“迷いながら見つければいいんだよ”

“取り巻く世界が変わっていっても”

“自分らしくあればいいから”


“ゆけ！羽ばたきのMy Song！ 雨雲突き抜け”

“泣いてた君が思わず笑顔になるように”

愛「涼、さん……」

“ねえ”


“これからもずっと、ずっとさ、一緒に――”

愛「よかっ、た……」

愛「涼さん……876プロのこと……あたしのこと……今でも……」

愛「良かった……良かったよぉ……」

愛「うえ～ん……」

サイネリア「感極まってるとこ悪いんだけどサ、これってチャンスなんじゃないの？」

愛「ふぇ？」

サイネリア「この番組生放送でしょ。今から急いでテレビ局に行けば会えるんじゃないの。秋月涼に」

愛「……ああっ！！」

絵理「サイネリア、場所は！？」

サイネリア「日の出テレビだからここからそんなに遠くないデスよ。タクシー拾えばすぐ着きます」


絵理「愛ちゃん！行こう！」

愛「はいっ！」

愛「あ！サイネリアさんは……」

サイネリア「アタシは行かないわよ。テレビ局になんて入れるワケないし、これ以上アンタとセンパイのイチャコラ見たくないし」

絵理「もう……そんな言い方……」


愛「えっと、その、ありがとうございました！本当に！」

サイネリア「いーからさっさと行きなさいよ。アタシの耳がどうにかなっちゃうから」

愛「　は　い　っ　！　！　！　」

愛（頭の中にかかってた靄が、一瞬で晴れたみたいな気持ちだった）


愛（あたしがアイドルになった理由……ようやく思い出せたから）


愛（早く涼さんに会って、話したい）


愛（そして……）

お　し　ま　い

次回、愛はどこへ……？

ようやくタイトル回収...ここまで長かった...
そして期待通りの熱い展開だな！