【ss】幽谷霧子「あ、だめ……」
1 : Pくん   2019/07/30 22:05:29 ID:gZWlqJhF2w
その言葉が届く前に摩美々ちゃんは事を終えていました。

「さっきから誰と話してるのー?」

聞いてしまったのです。
2 : プロちゃん   2019/07/30 22:06:34 ID:gZWlqJhF2w
いくつも子供用のお布団が並び、みんなそこでお行儀よくお昼寝をしてくれています。さっきまでは仲良くテーブルを囲み給食を食べていたのに、その光景とは打って代わり静かな時間が流れています。わたしも食べた後だから、頭に行くべき血液が消化を行うためにお腹に集まって瞼の重さに少しばかり耐えられそうにありませんでした。
そんな時です。その一言で目が覚めました。靄がかった思考が途端に晴れて、この後起きるであろう可能性に少しばかり寒気がしました。
3 : プロデューサーはん   2019/07/30 22:07:31 ID:gZWlqJhF2w
だから答えて欲しくありませんでした。

「お姉ちゃんと」

摩美々ちゃんの問いにどこからか、ここにいる誰かの幼い声でそう聞こえてきました。ほとんどの子は静かに寝息を立てて、いびきといういびきは聴こえませんでした。その中にわずかに、けれど成り立っているから異様に大きく聴こえたかもしれない。だから摩美々ちゃんは話しかけてしまったのでしょう。

寝言に。
4 : プロちゃん   2019/07/30 22:08:14 ID:gZWlqJhF2w
「摩美々ちゃん……話しかけたらだめだよ……」

「えー、どうしてですかー。さっきからずっと一人で話してるから面白いと思ってー」

椅子に座っている彼女はテーブルに肘をついて頬を手で支えています。誰かの寝顔を眺めながら少し意地悪に目を細めて言いました。けれどそれはいけない事でした。この時間の前にわたしが伝えるべきでした。そして、これからを願うばかりです。

「ろくなことにならないから……」
5 : プロデューサーちゃん   2019/07/30 22:09:23 ID:gZWlqJhF2w
寝言に話しかけてはいけない。昔から伝わる話で、各地色々といわれがあります。寿命が縮む、話しかけられた人の魂が帰って来られないなどと伝えられて来ました。そしてこの病院にも。ここで働く人間のその殆どが言います。話し相手は目に見える人間だけじゃないよって。邪魔すると嫉妬されるよって。
6 : お兄ちゃん   2019/07/30 22:09:46 ID:gZWlqJhF2w
また誰かの寝言に混じって、誰かの幼い女の子のような声がします。

「お姉ちゃんが羨ましいって」
7 : 下僕   2019/07/30 22:12:00 ID:gZWlqJhF2w
摩美々ちゃんと目が合って、その大きな瞳がトクトクトクと揺れているから、わたしの周りの音をかき消すくらい収縮と膨張を繰り返す心臓と同じだって思って、生を感じました。

少し汗ばんだ肌にシャツが張り付いて、エアコンもかけているせいで余計に寒さを感じさせます。

摩美々ちゃんはわたしから目をそらすと、少し考えた様子でした。それからわたしの目には少しの好奇心と摩美々ちゃんの意地悪が入り混じった横顔が映りました。微笑んで見えました。

だから、凄く不安で。自分がどうとかじゃなくて摩美々ちゃんが危ないものに恐る恐る手を伸ばしているから、取り返しがつかなくなったらどうしようって事で凄く不安で。
今度こそ止めたいから声をあげようとするけれど、喉奥が乾いて張り付いたみたいで、首を横に振ることしかできませんでした。
8 : 師匠   2019/07/30 22:12:33 ID:gZWlqJhF2w
「それって霧子?……まみみ?」
9 : 変態大人   2019/07/30 22:13:38 ID:gZWlqJhF2w
その問いが聞きたくて一生懸命に耳を澄ませます。
けれどどうしても自分の鼓動がうるさくて仕方がありません。

せっかくわたしに付き合って来てくれたのに摩美々ちゃんだったら嫌だなって。こんな事今日が初めてだったから、今までいい噂は聞いたことがなかったから、胸騒ぎがするから、全部、全部がわたしだったらいいのになって思ったのに、いくら待っても答えが訪れません。ほんの数秒が長く感じてるかもしれないけど、鼓動はけたゝましく早くなっているものだから、おかしくなりそうです。

怖くなって摩美々ちゃんに少しでも近づきたくなったから、椅子から立ち上がろうとすると––––不釣り合いな鈴の音。
わたしの目線の先––––摩美々ちゃんの後方にお行儀よく座っていたお人形が棚からポトリと落ちました。
10 : 3流プロデューサー   2019/07/30 22:16:41 ID:gZWlqJhF2w
摩美々ちゃんは振り返ります。人形を見てどんな顔をしているのかわかりません。ですがわたしと同じに恐怖を胸に秘めているはずです。頬についていたその手の行き先が物語っています。

だって、そこに落ちたのは人形の首から上だけだったから……
11 : 兄ちゃん   2019/07/30 23:55:54 ID:gZWlqJhF2w

あの時間から摩美々ちゃんとは一言も話していません。あの後すぐにお昼寝の時間が終わったのもあります。けれど一番大きかったのは、目が覚めた子の中に一人だけ特別おかしな事を摩美々ちゃんに言ったからでした。

「お姉ちゃんがずっと見てるよ。何かしたの?」

って。

わたしは摩美々ちゃんを度々見ていましたがわたしではありません。
ブロックや積み木で遊ぶ子がいる中、紙からはみ出して絵を描く子がいる中、わたしに絵本を読んでってせがむ子がいる中。その誰もいないであろう絵本を置いているその棚の上、一つの人形がある方向を指差したのです。
12 : 夏の変態大三角形   2019/07/30 23:58:22 ID:gZWlqJhF2w
それは四角いショウケースに入っている毛糸やフェルトで作られたお人形さんです。若草色した西洋の民族衣装みたいなワンピースを着た、赤毛のデフォルメされた女の子です。テディーベアーのクマさんみたいにちょこんと座っていて、みんなを眺めているような気がしてきます。
そしてわたしは今までこの人形に興味を示した子を見たことがありません。
だから、この瞬間からお姉ちゃんと呼ばれ始めたことが理解できませんでした。
13 : プロデューサー君   2019/07/31 08:25:35 ID:ymZyURBFXU
>>4 訂正

「摩美々ちゃん……話しかけたらだめだよ……」

「えー、どうしてー。さっきからずっと一人で話してるから面白いと思ってー」

椅子に座っている彼女はテーブルに肘をついて頬を手で支えています。誰かの寝顔を眺めながら少し意地悪に目を細めて言いました。けれどそれはいけない事でした。この時間の前にわたしが伝えるべきでした。そして、これからを願うばかりです。

「ろくなことにならないから……」
14 : ぷろでゅーさー   2019/07/31 22:57:26 ID:HeGlPyxRCY
「そこには誰もいないよー。私にはよくわかんないんだケド」

「見えないの?こんな女の子だよ」

そう言って赤いクレヨンと緑色のクレヨンを使い画用紙に向かいます。けしてこれ以外の色がここになかったわけではありません。肌色もちゃんと揃えていました。けれどその2色だけをグリグリと塗りつぶして髪の長いヒトガタを描いてみせました。
赤く塗りつぶされたその顔には表情はありません。そもそも顔のパーツが書かれていません。ただのヒトガタです。
15 : 仕掛け人さま   2019/07/31 22:57:56 ID:HeGlPyxRCY
「少し怒った顔してるの。ごめんなさいしてね」

女の子は摩美々ちゃんに絵を手渡すとみんなの元へ戻って行きました。

「はぁ、小さい子ってよくわかんないだケド」

ようやく一人になった摩美々ちゃんがため息とともに呟きます。

「わ……幸せが逃げちゃう……キャッチ……!」

「なにそれー。……はぁ、まみみは幸せだから霧子におすそ分けー」

幸せとともにあの画用紙を受け取りました。
16 : Pーさん   2019/07/31 22:58:15 ID:HeGlPyxRCY
「あ、あのね……摩美々ちゃん……。ふ、不思議な事はたまにしか起きないから、安心して……」

「……これが霧子の言う、ろくなことにならないってことでしょ」

「う、うん……」

「あんまり信じてないけどお化けとか見たくないなって」

「何かあったら、わたしが摩美々ちゃんをまもるから……」

「本当に?」
17 : プロデューサーくん   2019/07/31 22:59:22 ID:HeGlPyxRCY
病院に常備してあるお札をおでこに貼って寝ると効き目があるかもしれません。上京する前にもらった御守りを摩美々ちゃんに渡そうかな。塩を振ったりお酒をかけたり対策は思いつくけれど本当に効果的なのか、自信はたいしてありません。でも摩美々ちゃんの手前、精一杯強がって言うのです。

「大丈夫だよ……。だから……」

だから一人暮らしのわたしも少しだけ怖いから

「今日はうちに泊まってね……摩美々ちゃん……」
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