191 : あなた様   2021/06/03 06:17:02 ID:V60j79paeo

第10話 cパート
その日の夜。小雨が降る中を琴葉は空猫喫茶店に向けて歩いた。
じっとしていられなくなった。美也と話して気を紛らわしたく思った。
美也がいつもどおりあたたかく迎えてくれた。
そしてフルートの音色。琴葉はいつもよりずっと集中して、その演奏に耳を傾けた。
不思議な音色、それはまるでこの世のものとは思えないような―――

「あの、琴葉さん」

聞き入ってしまって、ついうとうととしていた琴葉。自分を呼ぶ声は可奈のもので、彼女は気がつけばすぐ隣にいた。
近くで見れば、見るほどに、彼女の存在感がおよそ生者のそれとは異なることに気がつく。もしかせずとも、彼女は……

「えっと、そ、そんなに見つめられると、うう~、照れちゃいます」
「ご、ごめん。それで、どうかしたの?」
自然と敬語がとれていた。

「そろそろ、私の話もしておこうかなって」
「可奈さんの?」
「はい。歌織さんからもOKが出たので。結論からいうと、私は琴葉さんの持つ力を高める役割なんです」
「私の力を、高める……?」
「はい! この力を歌織さんは【D】って呼んでいます。なんだかカッコいいですよね♪」
そうかな、という言葉はなんとか飲みこむ琴葉だった。