559 : そなた   2021/11/04 11:29:34 ID:cpS5s6NA1Q

雪歩は思い出す。百合子が最初はまだ異世界に来たのを信じられなくて、パニックになっていたのを。
春香と雪歩とは異なるふうに、しかし紛れもなく百合子もまた窮地にあった。
もとの世界にいた家族、友人、知人、すべてから切り離された少女。
見知らぬ世界に惑う彼女を、どうして雪歩たちが放っておくことができただろうか。
かつて彼女たちの師匠がそうしたように、救うことができるのなら、そうしたい。
かくして百合子を家族に迎えた雪歩と春香。それは2人で寄り添い、絶望を分かち合っていたのが、3人で寄り添い、支え合うことで、新しい日々を紡いでいく活力を彼女たちにもたらしたのだった。

春香は思い出す。初め、百合子は春香を「春風さん」と呼び、雪歩を「白雪さん」と今なお呼び続けていることを。
春香はくすぐったくて、呼称を改めるように百合子に望んだ。雪歩は……反対に白雪と呼ばれるのを望んだのだろう。
そうすることで弱い自分を捨てた。捨てようとした。
でも、と春香は考える。自分がずっとそばで見てきた雪歩。たしかに弱い部分もあるけれど、それは強さでもある。
もしもすべてが終わった、そのときは「白雪」を捨て、雪歩としてまた新たな一歩を踏み出せるのかもしれない。

春香(もちろん―――そのときは私も隣にいるつもりだけどね)

春香は見つめる。愛しい姉を。今までもこれからもずっとずっと支え合うはずの存在を。