【貴音ss】帰る月の落涙
1 : do変態   2022/07/17 01:19:40 ID:RVqx/.9FtM
第二回のss祭のために書いてたものですが、完成しなかった作品です。これでss祭皆勤になるので、なんかください。
地の文あり、七千字とssにしては重いので、気の向いた人は読んで下さい。悲恋もののつもりです。
2 : 番長さん   2022/07/17 01:20:38 ID:RVqx/.9FtM
〈上〉
 中秋の名月。
 9月も下旬に差し掛かる頃、彼女が好きな星は、今年最高の輝きを放つ。思いを伝えるには、この上ない日だ。
 仕事を終えた俺は密会場所である公園へと向かっていた。事務所近くのその公園は、狭いながらも少し小高いところにあり、空を見るのに最適だった。
 到着して園内を見渡す。錆びた滑り台やブランコ、それなりに盛られた山を持つ砂場、ペンキが剥がれたベンチ、縁で生い茂る雑草から鈴虫の音…よくある公園の風景だ。そして、彼女、四条貴音は既にその中にいた。金色の明かりを反射して銀髪は妖しく光りを放ち、空を仰ぐその顔はより高貴さを示していた。
3 : EL変態   2022/07/17 01:21:08 ID:RVqx/.9FtM
こちらに気付いたらしい彼女は恭しく頭を下げ、こちらは手をあげることでそれに応えた。
「待たせちゃったな」
「いいえ、待ってはいませんよ」
 貴音の隣に座ると、微笑む目と合う。身体を寄せあい、吐息を肩に感じながら、自分の月を見つめた。
 銀色に光る月は、雲に隠されることなく、闇に包まれるはずだった世界を優しく照らす。汚れなき無垢な星が誰の物でもあってはならない。だけれど今、その光が俺のためにあることに、悔恨の思いはあれど、喜びの方が勝っていた。
4 : 兄ちゃん   2022/07/17 01:21:33 ID:RVqx/.9FtM
そんな俺の内心を知らず、彼女はやはり食べていた。山のように白いだんごが入った袋を抱え、ひとつひとつ頬張りながら月を見上げている。しばらくして、眺めているこちらに気付くと、袋の口を向けた。いや、そういうことじゃない。
 だが、俺はだんごをいくつか取り、彼女の口元に持って行く。意図を察した彼女は、こちらをちらっと見た後、目をグッと瞑り、口を開ける。手の中のものを一個ずつあげると、目を閉じたまま幸せそうに味わっている。髪の隙間から覗く耳は真っ赤だった。これは楽しい。
5 : 変態インザカントリー   2022/07/17 01:22:29 ID:RVqx/.9FtM
さらに調子に乗って袋から団子をとろうとすると、逆に団子を口に押しつけられた。貴音は、真剣な顔を少し上気させて睨んでる。しょうがないから食べてやれば、彼女の顔は綻んだ。団子の甘さより甘ったるい。
6 : おにいちゃん   2022/07/17 01:23:05 ID:RVqx/.9FtM
そうやって食べさせたり、食べたりしてると袋は空になった。当然、ほぼ貴音が平らげた。
 しばらくして彼女は口を開いた。
「今宵は月が綺麗ですね」
 鈴虫の合唱はやけに大きくなり、風が吹いて草木を擦る。鼓動が高まるのを感じた。
「……そうだな」
 彼女は少しムッとして言った。
「あなた様は夏目漱石を知っておられますか?」
「別にあれ、夏目漱石が言った訳じゃないらしいな」
「……あなた様はいけずです」
プイッとそっぽを向く。いじらしい。
7 : Pサン   2022/07/17 01:23:43 ID:RVqx/.9FtM
「そんな間接的な言い方はあんまり好きじゃない」
 驚いた顔がこちらを向く。少し濡れた瞳は空に輝くどの星よりも綺麗だった。
「俺は貴音が好きだ」
「アイドルとプロデューサーの関係だからじゃない。事務所の仲間だからじゃない。貴音を女性として、好きだ」
 言い切ったことへの達成感が胸に広がる。
 彼女が胸に飛び込むので、優しく抱き締める。いい匂いがした。ラーメンのではない、女の子のだ。
 少しして貴音は顔を上げた。
「私もあなた様を恋い慕います。死が二人を別つまで」
 嬉しさで心が爆発するかのようだった。彼女の上気した顔に思わず視線を逸らすと、街灯が点滅していた。
8 : 監督   2022/07/17 01:24:05 ID:RVqx/.9FtM
目線を元に戻すと、彼女は目を閉じ何かを待っているかのようだった。真意に気付くのにそう時間はかからなかった。
 同じように目を閉じながら、彼女の顔に顔を近づける。口から飛び出そうな心臓を抑えながら。
 しかし、いくら顔を近づけても彼女とキスすることはできなかった。
 不思議に思い目を開けると、貴音の姿はない。慌てて辺りを見回す。彼女はどこにもいない。時折、気配を消して俺の後ろに立つイタズラを楽しむ彼女だが、これはそういう訳ではないだろう。
 どうしてか、月は隠れてしまった。
9 : おやぶん   2022/07/17 01:24:34 ID:RVqx/.9FtM
〈中〉
 貴音を探していると、ふと、点滅する街灯の下で女の子が立っていることに気がついた。腰まである流れるような銀髪が貴音を思わせた。しかし、背格好はいくらか幼い。
 「君!女の人見なかったかい?君みたいな銀髪で、ロングスカートの……」
 俺が尋ねがら近寄ると、女の子は俺から逃げるように遠ざかった。足を動かさずに。
 この世ならざる移動を面妖に思いながら、彼女なら幽霊だと泣き叫ぶだろうなと呑気なことを考えた。彼女といると不可思議なことに遭遇するから、慣れてしまったのだろうか。他事務所のアイドルのあほ毛の声が聞こえたこと、昴の歪んだファンばかりが集う高校に営業に行ったこと、あとセレブ生まれのTさんにお世話かけたこともあっただろうか。
10 : 5流プロデューサー   2022/07/17 01:25:22 ID:RVqx/.9FtM
思わず笑みがこぼれるが、今の状況にそんな余裕はない。貴音は消え、探すあてもない。手掛かりがあるとすれば、目の前の貴音似の少女かもしれない。俺から逃げたわけではなく、誘導しているとも言えるのではないだろうか。それを確信させるように少女はちらっとこちらを見た。少し垂れ気味の目が、来いと言っているようだ。俺は従った。
 足を動かさず、つまりスライド移動する少女は公園がある丘を降りる。俺も急な坂を駆け下りるが、日頃の運動不足が祟ってか、足をもつれさせて転んでしまった。
11 : 番長さん   2022/07/17 01:25:53 ID:RVqx/.9FtM
思ったより痛みは無かった。坂から転がり落ちるような感覚も無かった。立ち上がる俺の視界に飛び込んだのは、見慣れた机に見慣れた汚れ跡、そして見慣れた「765」のテープがある窓。不思議なことに、薄暗い事務所の中に一人で居た。さっき、俺は坂で転んだはずなのに……。
 辺りを見回す俺に人の話し声が聞こえた。テレビからだった。誰かが消し忘れたのだろう。十二単を着た貴音が五人の貴公子に何か喋っている。月見を優先したが、貴音を主演とした特別ドラマが今日放送なのは覚えていた。貴音が快く引き受けたこのドラマはきっと成功するだろう。俺はテレビを消した。
12 : P殿   2022/07/17 01:26:39 ID:RVqx/.9FtM
すると、今度は音無さんのデスクの固定電話からベルが聞こえた。思わず受話器を耳に充てる。貴音からだろうか!
「もしもし!」
『お姉様をとらないで』
女の子の声に驚く。
「…どこの子か知らないけど、君のお姉ちゃんを盗ったりは…」
『嘘です』
ぴしゃりと切り捨てられた。その言い方は貴音を思い出させた。
 瞬間、脳内で結びついた。貴音には妹がいると前に聞いたこと、公園から追いかけていた貴音似の女の子、そして、この電話。
13 : Pさん   2022/07/17 01:27:04 ID:RVqx/.9FtM
「君は、貴音の妹さんだね?」
『……』
無言。肯定だと捉えた俺はあやすように弁明した。
「確かに君のお姉さんとは恋仲になったばかりだが、別に君からお姉さんを盗る訳では…」
 喋っている中で不思議に思ったが、貴音曰く妹とは別居中だそうだ。その妹にとらないでと言われる程、彼女と妹はべったりじゃないはずだ。やはり、血のつながりは重要ということだろうか。
14 : ごしゅPさま   2022/07/17 01:27:29 ID:RVqx/.9FtM
『いいえ、私からではありません。』
「……?」
『ふぁんからです』
 ドキッとした。隅に追いやっていた罪悪感が心に湧き出た。
 傍のパソコンがうなりだした。普段は音無さんの妄想ばかりを映すモニターが出す光に、少し目が眩む。
 モニターに映し出されたのは、とある電子掲示板だ。貴音メインのスレらしい。
 胸と尻の大きさを称えるレスや、ラーメンに関するレスなどの他に、恋人がいたら最悪だよなぁというレスがあった。
15 : 番長さん   2022/07/17 01:27:51 ID:RVqx/.9FtM
顔をしかめる俺に、少女は追撃をかけた。
『日本という国では、あいどるが恋人を持つのは禁忌とされているとか』
「に、日本では確かにアイドルの恋愛は御法度だが、欧米では別に…」
 狼狽える俺に怒るように爆音がわいた。しかし、それは受話器からではない。事務所のドアからだ。音に合わせて色んな光が、すりガラスを透過していた。歓声も聞こえる。まるでドアの向こうでライブをやっているみたいだ。
16 : 彦デューサー   2022/07/17 01:28:14 ID:RVqx/.9FtM
気付くとドアノブを回していた。開けた先は、やはりライブ会場だった。大勢の観客の視線の向こうには、銀髪を靡かせて貴音が踊っている。あの衣装には見覚えがある。今週、貴音がトップアイドルになった際に行ったソロライブの衣装だ。つまり、これはそのライブの幻影とでも言うのだろうか。
 貴音の妹との電話を思い出す。ファンから取ったら悪いだろうか。別にそういう訳ではない。そのはずだ。あの時に聞いた歓声は、トップアイドルになったことへの祝福の声だった。しかし、今は違う。俺達の恋路を邪魔するノイズにしか聞こえなかった。
17 : ぷろでゅーさー   2022/07/17 01:28:41 ID:RVqx/.9FtM
一番彼女を見てきたのは俺なんだ!貴音に向かって熱心にサイリウムを振るうファン達を睨む。
「俺は…俺達はこの時のために一生懸命やってきたんだ!」
 怒声を発した瞬間、会場中のファン達の歓声が止まる。恐怖を感じた。ライブを楽しんでいたさっきまでとは打って変わって、空虚な目で観客がこちらを見ていたからだ。貴音は誰ひとり舞台を見ていないこの状況に気づいていない。
 思わず、俺は走り出した。俺は貴音の側に居なくちゃならない。相変わらず踊る貴音を目指して走る。空虚な視線は、怒りに変わった。そう見えた。恐怖心から目を瞑り、必死に走った。罪悪感はどこまでも広がった。
18 : Pしゃん   2022/07/17 01:29:51 ID:RVqx/.9FtM
〈下〉
 あの怒りの観客が俺を襲うことはなく、無事にステージの左側から上ることができた。不思議に思い会場を見渡すと、客席には誰もいない。貴音もいない。訳が分からない。俺一人が壇上で突っ立っている。
 突然、音と同時に光線が俺にぶつかり、思わず顔を背けた。スポットライトの点く音がまたひとつ聞こえた。
「アイドルを盗られるファンの気持ちを少しは気付いて頂けたでしょうか?」
 少し皺がれた声の方向から、カツカツと上品そうな靴が鳴る。一人の品のよさそうな老人がライトの光を浴びて、舞台の右側からこちらに歩いてきた。
19 : プロヴァンスの風   2022/07/17 01:30:40 ID:RVqx/.9FtM
「これは一体何なのです?」
「世間の総意ですよ」
「俺と貴音は恋仲になっちゃ駄目なんですか」
「貴音様に貴方はふさわしくない」
 俺はキレた。
「なんの権利があって、そんなこと!誰だよ、アンタは!」
「申し遅れました。私は村木と申します」
 老人はこちらの怒声を気にしない、むしろ喜んでいるようだった。
「貴音様からは、じいや、と呼ばれています」
 驚いた。普段から話に聞いてた『じいや』に会えるとは。その驚きは俺に少しの冷静さを与えた。
20 : 師匠   2022/07/17 01:31:18 ID:RVqx/.9FtM
「ふさわしくないとは?」
「いちアイドルのプロデューサーには無理ということです。それに貴音様にはやらなければならないことがあります」
「トップアイドルになったんだ。これ以上に成すべきことなんて…」
「貴音お嬢様が王位継承権をお持ちのことは存じていると思いますが」
黒井社長がそんなことを言っていた気がする。反応を待たずに村木は続けた。
「その時が来たのです」
貴音が女王になる。その想像は容易だった。
「そしてつまりは、あちらの星に帰還する目途がついたということです」
「星?」
「どうやら、あちらの事情が好転したようでして。それで、迎えがきたのです」
「なんだ、それ…」
21 : ダーリン   2022/07/17 01:31:44 ID:RVqx/.9FtM
意味が分からない。貴音が宇宙人、そんなファンの世迷い言が本当に…
「そんなわけが…どこにあるんだ?その星は」
 彼は黙って上を指した。見上げると、何故かステージに屋根が無い。漆黒に浮かぶ黄金の星が見えた。
「月?」
「いえ、違います。そもそも月に生命が住めないこと自体、この星の科学力でも分かることです」
「だけど、貴音はいつも月を…」
「…見ておられるのは、私共がそう教えたからです。月はこの星での宇宙の象徴ですから」
 老人は、「太陽は眺めるのに向いておりません」と続けた。
22 : Pはん   2022/07/17 01:32:50 ID:RVqx/.9FtM
「…それで貴音が宇宙人だとして、俺達を捨ててこの星を去るのか?」
「ええ、去りますとも」
「どうして!」
「この時のために生涯を費やしたからでこざいます」
 そうだ。そもそも貴音がトップアイドルを目指したのは、この地球に散らばる同胞達を励ますためだった。しかし…
「だけど、貴音はそれを重荷に感じていつも泣いていた!」
「ええ、知っていますとも。だから、月を見させることで励みにさせたのです。それにトップアイドルにもなられた。克服もしたでしょう。どうです?貴音さまを諦める気になりましたか?あの方は本当は我々とは住む星が違うのですから」
23 : 番長さん   2022/07/17 01:33:22 ID:RVqx/.9FtM
そんな簡単に諦められるものではない。
「いや、俺が貴音を支えていたからトップになれたんだ。…そ、そうだ。俺も連れてってくれ」
「は?」
自分でも驚いていた。しかし、貴音を引き留めれる自信はない。彼女の頑張りを近くで見ていたのは俺なんだ。それぐらいは分かる。ならば…
「あっちの星に行っても貴音を支えたいんだ。そうすれば、貴音は立派に女王を務めるだろう。」
「王になりたいと?」
「滅相も無い。貴音を支え続けたい。それだけだ。」
アイドルと恋仲になるのと、女王と恋仲になるのは、どちらがより叩かれるのだろうか。いや、今はどっちでもいい。貴音から離れ離れになるのだけは避けなくてはならない。
24 : P君   2022/07/17 01:34:10 ID:RVqx/.9FtM
「なるほど、そうおっしゃるとは…意外でしたな」
 村木はちらっと振り返った。誰かに合図しているように見えた。すると、一人の少女がスポットライトの光をまとってこちらに来た。今度は足で歩いている。公園から追いかけていた少女、貴音の妹だ。
「ご機嫌よう。この星で四条貴音と名乗る者の妹です。名はヤガエと言います」
「ご、ご機嫌よう」
スカートを持ち上げて挨拶する様は、姉に似て可憐だった。
「私達の星に行きたいということですが、それにはそれ相応の覚悟を見せて貰う必要があります」
「覚悟?」
25 : 兄(C)   2022/07/17 01:34:56 ID:RVqx/.9FtM
少女の言葉を繰り返す。ヤガエの目線に村木は頷いて、俺にL字型の物体を手渡した。
「これであなたには自決して頂きたい。」
「じ、自決!?」
思わず悲鳴をあげる。渡されたものをよく見れば、拳銃に見える。再び悲鳴をあげて、それを放り投げた。
「あなたは、貴音様に手を出したとはいえ、トップアイドルに導いて下さった方。その方の頼みなら、叶えたいのは山々でございます」
 あまり綺麗とは思えないあごひげをいじり、嘲笑しながら、村木は続けた。
26 : 高木の所の飼い犬君   2022/07/17 01:35:43 ID:RVqx/.9FtM
「されど、あなたを乗せる場所はかの方たちの船には無いようです。ですが、骨だけになってくれれば貴音お嬢様と共に行くことも容易いでしょう?」
容易い?自分の命を消すのが?
 確かに、俺は貴音をトップアイドルにするため身を粉にして働いてきた。しかし、本当に粉にしろと言われるとは…。
 村木は、へたり込む俺に、どこかに放り投げたはずの拳銃を差し出す。
「さあ」
ビクッと体が反応する。
「引き金を引けば、永遠にお嬢様の愛を一身に受けられるのですよ」
 告白したときの貴音の顔が思い浮かぶ。彼女と一緒いる、そう決めたはずだ。震える手で銃口と思われる方を口の中に突っ込む。金属の冷たさは死のイメージを想起させ、吐き気を促す。程なくして、耐えきれなくなった俺は吐いた。吐瀉物には、白玉の欠片が混じっていた。
「無理のようですね」
彼のその言葉に安堵した。俺が死ぬことは無い。
 視界がにじむ。涙が頬をつたい、白玉の上に落ちた。
27 : Pサン   2022/07/17 01:36:06 ID:RVqx/.9FtM
景色が変わったのは、その一瞬だった。舞台の床は土に変わっていた。彼女と密会した公園だった。
 顔を上げた先で、貴音がベンチに座って、こちらを見ている。
「たか…」
 いや、俺ではなく吐瀉物を見ているのだ。それに気付いた時、俺は慌てて土をかぶせて隠そうとした。が、すぐに意味の無いことだと思い、手についた土を払った。口の中は胃酸で気持ち悪かった。
「見ていたのか?」
俺が尋ねると、貴音は肯定した。
「ずっとここにいました」
「そして、プロデューサーの幻覚をを見ておりました」
28 : プロデューサーさん   2022/07/17 01:36:43 ID:RVqx/.9FtM
魔法か科学か知らないが、幻覚を見せられていたようだ。貴音はいなくなっておらず、俺は実際にここから事務所、事務所からライブ会場とワープした訳ではなかった。しかし、吐いたことだけは本当のようだ。
「プロデューサー」
彼女の顔から感情は読めない。
「私はアイドルを辞めます。社長には明日伝えます」
「そうか…」
 口の中に吐き残した白玉があったので、ペッと飛ばした。唾をまとう白玉の欠片が、月明かりを反射して、砂山のてっぺんに落ちた。
 貴音は白玉の欠片の行方を見送った後、表情を変えぬまま別れを告げた。
「それでは、ご機嫌よう」
貴音は俺を避けて公園を出ていく。こんな娘だっただろうか。声をかけて止めることはできなかった。
29 : Pたん   2022/07/17 01:37:07 ID:RVqx/.9FtM
※※※※※※※

 あの方の醜態は、この星を出る決意をさせるのに充分でした。じいやと妹への怒りが無いわけではありません。しかし、死をもたらすような女が、あなた様の側に居ていいわけがありません。
 それに、あなた様を無理難題を達成した貴公子だと勝手に思っていた私が間違いなのです。プロデューサーは翁です。未熟な私をトップアイドルまで育てて下さったのは、私のためではなく仕事だっただけなのです。だから、あの物語のように私は羽衣を被り、あなた様が見限るのを望んでいるのです。
※※※※※※※※

 彼女はかぐや姫なのだ。無理難題を課し、男を試し蔑ろにする。彼女にその気は無くても、周りは分からない。思い返せば、あれは幻覚だから、俺が死ぬことはない。二人に泣かされた俺はあの五人の貴公子と同じというわけだ。
 月はこれからも満ち欠けを繰り替えし、地上を照らすだろう。だが、俺の月はもう無い。この先の道を、どこまでも付いてきたり、照らしてくれたりはしない。もう…いないのだ。

完 
30 : ぷろでゅーしゃー   2022/07/17 01:41:24 ID:RVqx/.9FtM
これで終わりです。このssに関しては長い間考えてきたので、戒めと教訓とをいつか書きたいです。それでは、おやすみなさい。
31 : 魔法使いさん   2022/07/17 16:20:00 ID:URZi4W/lE6
おつ
貴音のPへの二人称が幻覚前後で変わっているのに気づいて泣いた
皆勤賞の褒美は、次の祭を企画する資格をどうぞ
32 : Pーさん   2022/07/18 01:40:51 ID:Iz1Q7.wExc
>>31
貴音の独白部分だと思ってたから、あれ?そうだっけ?となったけど台詞部分でしたか。すっかり忘れてたから、うおお俺凄となってしまいました。
次のss祭はdsなんですよね。あんまり詳しくないですが、愛ちゃん辺りで思いつければ書きたいです。べ、別にアンタから褒美を貰ったからじゃないんだからね。勘違いしないでよね、ふんっ!(cv釘宮理恵)
33 : ダーリン   2022/07/25 00:16:28 ID:mqPItFEVMk
一週間経ってやっと読み直す気になったので、何かしら書いていこうと思います。アイマス関係なくこのssの話をしたいのでsage進行したいと思います。まあ、このあとがきを読むのは未来の自分ぐらいでしょうけど。しかし、不特定多数が読んでくれている体で書きます。その方が書きやすいかんね。
34 : 兄ちゃん   2022/07/25 01:01:13 ID:mqPItFEVMk
この話を考えたきっかけは勿論、第二回ss祭です。第二回は、秋に関する題材がテーマで、自分が書けそうなのが、お姫ちんで「中秋の名月」をテーマにするくらいしかありませんでした。そして、月を見上げながら考えた時、夜に人を追っていたら、知らない場所に来てしまうというホラー的シーンを思いつきました。この追われる者を貴音の妹にしてみることにしました。また、個人的に女の子が男に見切りをつける感情を知りたい、そして表現したいと思い失恋ものにすることになりました。こうなったら、お姫ちんの宇宙人要素を拾って月に帰る話になるのは当然でしょう。
こうして、考え込むうちに、以下の要素を入れることを決めました。

・貴音の妹を追っているうちに別の場所に連れていかれる。
・失恋で悲恋
・Pがクソ
・貴音を月に見立てる
35 : おにいちゃん   2022/07/25 01:01:24 ID:mqPItFEVMk
このPがクソと言うのは、伊織漫画のPみたいな感じです。(ティアラを売る話が個人的に一番畜生だと思いました。しかし、あの人の漫画で伊織を虐めて流れる涙に興奮するようになってしまったのも事実です。訴訟)というのも、貴音が真っ当な人間と別れるというのは可哀想だと書く際に思ってしまい、クソ人間なら別れても書く身としては喜劇かなと思ったからでした。しかし、貴音がそもそもクソPを好きになる理由が分からないという矛盾を抱えてました。これは失恋ssに関するスレでも書きました。当然ながら、俺はまともなPで書くけどね、みたいなレスを貰いました。当たり前ですね。なので最終的にシタPな感じに落ち着きました。
また、貴音を月に見立てるというのは、上のssでも残ってますね。考えついた時はいい案だと思ったのですが、書いてみると、書き手の悪さか陳腐に見えてつらいです。
とまあこんな感じで書きたいことを決め、ss祭投稿開始日に書き始めましたが、当然ながら間に合わず終了日の時には中編のおわりまでしか書くことが出来ませんでした。
そこで、貴音の誕生日までの完成を目指し、実際に完成しましたが、このPと別れても悲恋にならないのが不満でした。なので、さらに煮込むことにしたのですが、これは恐らく間違いだったのでしょう。
36 : 我が友   2022/07/25 01:25:10 ID:mqPItFEVMk
ところで、自分は投稿した自作を読むということはしたことがありません。恥ずかしいからです。ですが、このssに関しては、読み返した後の感想をあとがきに書きたかったので、読みました。
感想としましては、結構読みづらいですよね。このあとがきもそうですが。地の文ありはこのssが初めてなのですが、うまく書けた部分もあれば駄目な部分もあると思います。精進していきたいです。
さて、前レスの最後で間違いだと書いた理由に読みづらさがあります。なぜなら、時間をかけて推敲したせいで、ツギハキな感じがするんですよね。書き手だからなのかもしれませんが、読みづらいのは書き手読み手関係ないと思います。
だから、推敲のしすぎはよくないです。文には書いている時のリズムが合って、それが部分部分の推敲で駄目になってしまう。となると、書き手としては、とりあえず読みづらい。
なので反省として、推敲はほどほどにしようと思いました。(小並感)いつか続き書きます。
37 : プロデューサーさん   2022/07/25 10:20:25 ID:T8Rm9FB0IQ
月が綺麗ですねのくだりはまさに貴音とPがしそうなやりとりで引き込まれて、まさかこんな展開になるとはなあって感想
美味しい匂いにつられてラーメン屋に入ったら顔面に右ストレート食らわされたような感じというか
いやー面白かった
38 : ダーリン   2022/07/25 23:09:05 ID:mqPItFEVMk
>>37
そう褒めて下さるのなら、少し捻った告白シーンを書いた甲斐があったというものです。ありがとうございます。
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