【安価SS】全7話 765プロ劇場ドラマ制作 
1 : 3流プロデューサー   2021/07/04 17:40:23 ID:aUJjsmqGmk
立ってくれよー
184 : プロデューサーさん   2021/07/27 11:47:34 ID:WJeMefXd6M
可憐「ところで、その日、まつり先生と二階堂先輩が話していた内容って……?」

このみ「それがね、9割9分9厘は記憶にないし、聞こえてすらいないんだけど、【B】っていう単語が、ぽんっと出てきたのは覚えているの」

昴「【B】?」

このみ「うん。オカルトっていうか、いかにも超常現象や怪現象なんかとつながる、そのものみたいな言葉でしょう?だから印象に残ったのよ」

可憐「………」
185 : Pたん   2021/07/27 11:47:50 ID:WJeMefXd6M
教室 放課後

昴「収穫なしかー」

可憐「さぁ、どうかしら。パズルのピースは合わせてみないとね」

昴「どういうふうに?」

可憐「どんなふうにでも、よ。私たちは最初から完成形を知っているわけではないのだから、繰り返し試すしかない」

昴「なあ、意味深なことを言って、誤魔化そうとしていない?」

可憐「まさか。ねぇ、昴、気づいた?三浦先輩も馬場先輩も知っていたわ」

昴「え?何を?」

可憐「可愛い昴のこと。やっぱり私の見立ては間違っていなかったわね」

昴「はいはい。まつり先生のところに行こうぜ。あの人、忙しいんだよ。今度はなんか、スチームパンクSF映画に出演するとかしないとかで……」

後編につづく
186 : ぷろでゅーさー   2021/07/27 11:48:16 ID:WJeMefXd6M
※【A】事件当日の朝 あずさが千鶴から聞いた話の内容
※【B】事件当日の昼 職員室でまつりと千鶴の話で出てきた単語
※【C】後編に登場する美希の立ち位置(例:写真部の後輩その2)

今回は【ID判定】は無し 
レスの有効期限は7/28 23:59:59まで
後編は7/30の朝に投下できたらいいなーって

8月初旬には完結させるぞ!
何卒最後までお付き合いください!!
187 : Pーさん   2021/07/27 12:02:38 ID:WJeMefXd6M
追記

>>175の可憐の最初の台詞は、
中庭での怪現象の犯人が歩だとわかった→でも朋花が感じた気配は歩のものではない(歩に確認済)→その人物の関心は中庭にではなくそこにいる人物に対するものなのでは?→だとすれば、一番可能性があるのは、見るからにカリスマの朋花だよね
っていう思考があってのものです。校正時に下手にカットしたら、かなりわかりづらくなってました。申し訳ないです

※LTDの話は伏線ではないです 本編に関係なしです

※美希は生徒会長以外でお願いします グラビアアイドル部所属かは任せます
188 : 兄ちゃん   2021/07/27 23:52:06 ID:4fGFkyoLms
A 学校の近くの喫茶店で季節限定パフェを発売した
B 旧校舎のファントム
C 星梨花の家の使用人
189 : そこの人   2021/07/27 23:53:18 ID:4fGFkyoLms
>>188
C については星梨花と同じクラスのという条件付きで頼んます
190 : P君   2021/07/28 18:06:55 ID:OzV/I9kjLY
定期age
自分で設定しておいて、レスの有効期限が今日中なことにビックリ
この流れ、第2回と同じやね
何が何でも書き切りますけど!
191 : Pちゃま   2021/07/28 18:08:43 ID:OzV/I9kjLY
なんかageられてなくて草
192 : プロデューサーちゃん   2021/07/28 18:38:27 ID:IE06Woqu0s
Aみんなの寝顔を撮るのに目覚めてしまったかもしれない
B旧棟の守護霊
C朋花とは違う方向でカリスマ性のある学生
193 : Pたん   2021/07/29 19:55:46 ID:hSQx9KBQVY
レスありがとうございます!!!
中編投下します
かなりコンパクトにできましたー

194 : 監督   2021/07/29 19:57:53 ID:hSQx9KBQVY
第6話 中編
目を覚ました二階堂千鶴の証言をもとに、引き続き彼女の転落の原因を追究していく可憐と昴。
可憐は、朋花から聞いた「嵐の前の中庭を見守るような気配」についてその人物を突き止めた。
それは可憐たちが和室で朋花と話をするための案内役を務めもした1年生、豊川風花であった。
当時は、5月になってまだ何の部活動にも入っていないことに焦りを感じ始めていた頃であり、偶然、中庭に朋花の姿を見初めて聖母たる彼女に心身を捧ぐ決心をしたそうである。

放課後、千鶴の交友関係を手がかりにということで、昴たちは3年生の三浦あずさ・馬場このみの2人から話を聞く。
あずさからは千鶴が学校近くの喫茶店で発売開始した季節限定パフェが気になっていることや、千鶴が昴以外にも皆の寝顔を撮る快感と喜びに気づいたかもしれないことが情報としてわかった。
パフェと寝顔、それが導く真実の深さは計り知れないが、さしあたっては昴とともに喫茶店に行く約束をする可憐だった。
このみからは千鶴が転落の当日、職員室にてまつり先生と何か会話していたのを見聞きしたという情報が得られた。その会話中に「亡霊」ないし「守護霊」という言葉が出てきたことを彼女は覚えていた。
旧棟の幽霊だなんていかにもな怪談よね、とこのみは言う。一口に霊と言ってもその在り方は多様であるが、いずれにしても最後の手がかりは、やはりまつり先生が握っているとみて間違いないだろう。
近頃はダイヤモンドのように輝くジョーカーだったり、巨大ロボだったりと忙しいらしいが、どうにか話を聞かねばなるまい。
195 : 箱デューサー   2021/07/29 19:58:09 ID:hSQx9KBQVY
かくして可憐と昴は再びまつりのもとへと向かう。

しかし、その道中で、無視するのは気が引けるような光景に出くわす2人。
なんと、あの如月千早が金髪女子を膝枕で眠らせているのだった―――!?
いったい彼女の目的とは……?眠り姫の正体は……!本編に関係してくるのか……?

後編につづく
196 : ダーリン   2021/07/29 19:59:58 ID:hSQx9KBQVY
「ファントム」は「亡霊」で処理しました

後編のあらすじは明日の夜に投下予定
さすがにここまでくると終わり方が見えてきたので安価数は少ないかもです
え?見えてない?

最後まで何卒お付き合いお願いいたします
197 : お兄ちゃん   2021/07/30 22:25:18 ID:T3fH1s6r2s
第6話 後編 投下していきます
198 : そなた   2021/07/30 22:25:33 ID:T3fH1s6r2s
第6話 後編
可憐たちの教室から中央棟1階の職員室へのルートはいくつかあるが、もし仮に最短のものを選んでいたのなら、如月千早に出会うことはなかった。
香りに招かれて、などと可憐は後になって説明あるいは自分の気まぐれに理由づけをしたのだった。
金髪少女に膝枕をしている現場をおさえられた千早の表情はというと、はじめこそ驚きと少しの恥じらいがあったが、しかしすぐに何でもないと言わんばかりのすまし顔となった。
可憐は言う。「事情をうかがっても?」愉しそうに。
199 : 貴殿   2021/07/30 22:25:44 ID:T3fH1s6r2s
千早「あなたたちに関係ないことだわ」

可憐「そうかもしれません。でも最低限、何かそれらしい状況を話しておいた方がいいのでは?」

千早「なぜ?」

可憐「このままでは生徒会総務・如月千早さんは、放課後の空き教室で人目をはばかるような逢瀬を重ねていると噂が立つだろうから」

千早「……永吉さん」

可憐とのやりとりは事態を好転させるどころかややこしくするものでしかないと千早は察して、その隣であわわとしている少女に声をかけた。

昴「は、はい?!」
200 : ごしゅPさま   2021/07/30 22:26:02 ID:T3fH1s6r2s
千早「美希が日頃、お世話になっているみたいね。こういう形で、ええ、こういうタイミングで言うのもあれだけど、ありがとう」

昴「は、はぁ。こんなところで会うとは思いませんでしたけど」

ごろんと寝返りをうったその金髪少女が、自分の知る人物であるのを今更のように昴は思い出す。

可憐「知っている子?」

昴「う、うん。星井美希――――星梨花と同じクラスの1年生で、言うなれば彼女も天空橋先輩や、篠宮さんに近い空気を持っている子だよ」

可憐「へぇ。私はその写真部の後輩ちゃんとも直接の面識はないけど……それで如月先輩との関係は?」

昴「え、えっと……?」

昴は困ったように千早を見る。千早は肩をすくめて「幼馴染よ。天空橋さんと二階堂さんの関係のようなもの、と言ったら伝わる?こっちは年の差があるけれど」と応じた。
201 : P殿   2021/07/30 22:26:18 ID:T3fH1s6r2s
普段、表立って学園内で交友することこそ少ないが、気が置けない仲であるのには違いないようだ。
それこそ、放課後に彼女の昼寝に付き合う程度には。

千早「最初は個人的に補習していたのよ」

可憐「ごくごく健全な?」

千早「もちろん。要領のいい美希でも、課題を下手にサボるとついていけなくなる、それを身をもって知ったみたいね」

星梨花と同じだから特進コースのはずだよ、と昴が可憐に言う。そしておそらくは千早もそうなのだろう。
今になって登場したコース分類だが、この後本編に関わることはないだろうなと可憐は確信するのだった。


千早「ねぇ、あなたたちまだ旧棟について調べているみたいだけど―――」

どこから仕入れたのだろうか、千早のほうからその話を振ろうとした矢先に、眠り姫が目を覚ました。
202 : 師匠   2021/07/30 22:26:34 ID:T3fH1s6r2s

美希「あれ? 昴くんなの!! あと……誰?」

目をぱちくりとさせて彼女は可憐を見つめた。

可憐「篠宮可憐。昴の相棒をやらせてもらっているわ」

キメ顔で髪をファサッとして可憐が言う。テイク3でOKが出た。

美希「ええっ!? そんなの聞いていないの! 昴くん、ちょっと会わないうちに浮気なの?」

昴「浮気も何もそんな関係じゃないだろ!」
203 : EL変態   2021/07/30 22:26:47 ID:T3fH1s6r2s
美希「ええー。つれないの。いつもみたいに『美希、オレのものになれよ』とか『オレの美技に酔いな』とか言ってほしいの」

昴「言った覚えないぞ?!」

千早「『オレも美希みたいに可愛かったらなー』と口説いた件は聞いているわ」

昴「べつにそういう気はないよ?!」

可憐「……………」

昴「篠宮さん、そこで黙られるとなんか怖いんだけど」

可憐「え? ああ、うん、大丈夫。ちょっと考え事。それより、如月先輩」
204 : 箱デューサー   2021/07/30 22:27:00 ID:T3fH1s6r2s
千早「旧棟のこと?」

可憐「ええ。前は聞きそびれましたが、何か知っているなら教えてください。噂でも怪談でも、なんでも」

美希「キュートー? 千早さん、それってあれだよね、例のユーレイ」

昴「幽霊?」

千早「声よ」

可憐「……声?」

千早「私も実際に耳にしたのよ」

昴「えっ」
205 : 我が友   2021/07/30 22:27:17 ID:T3fH1s6r2s
千早が言うには、まだ彼女が1年生であった頃に旧棟で放課後に、1人で歌っていた際に、謎の声に話しかけられたのだと言う。
以来、千早は旧棟に近づいていない。当時、相談したまつり先生からもそうしたほうがいいと言われたのことだ。
まやかしだと思うには、あまりにはっきりとした声だった。そして、もっと言うと、それは死霊よりも精霊や妖精に近い雰囲気を感じたという。

昴「それってどう違うんだ?」

千早「つまり、悪いものには思えなかったってことよ」

可憐「先輩の歌に反応して現れた妖精さんってところだったわけですか?」

千早「さぁ……徳川先生は何か知っているみたいだわ」

美希「zzzz……」

可憐「声はなんと? 先輩の歌を褒めたんですか?」

千早「【A】って」

昴・可憐「………」
206 : プロデューサーちゃん   2021/07/30 22:27:34 ID:T3fH1s6r2s
千早と美希と別れ、職員室に到着した可憐と昴。
まつりは浜辺でビーチバレーをしてきた帰りのようだった。
シアタートークパーティ、何気に私服SDの更新が素晴らしい。

まつり「ふたりにはすべてを話さないといけないみたいなのです」

可憐がここまで聞いていたことを整理し、追及すると、まつりはしばらくしてからそう口にした。
もはや誤魔化しとおすことはできないと観念した様子であった。
207 : プロデューサーちゃん   2021/07/30 22:27:52 ID:T3fH1s6r2s
まつり「結論、ううん、まつりの推論を先に言ってしまうのです」

昴「というと?」

まつり「千鶴ちゃんの転落、その真相なのです」

可憐「犯人をまつり先生は知っている……見当がついているということですね?」

まつり「そうなのです」

可憐「けれど、それは本人や家族、学園関係者、警察諸々に明かすことができる『存在』ではない、と」

まつり「そこまで察しているのなら話は早いのです」

昴「それは――――?」

まつり「百聞は一見に如かず。と言っても、見ることがかなうか、わからないけど……とにかくついてくるのです」
208 : 変態インザカントリー   2021/07/30 22:28:04 ID:T3fH1s6r2s
まつりに連れられて2人がたどり着いたのは、旧図書室に他ならなかった。
旧棟の他の部屋に比べるといやに厳重に施錠がなされている一室で、可憐も昴もそこに入るのは初めてだ。

可憐「この香り……これまでに嗅いだことのない、まるで異世界のようだわ」

足を一歩踏み入れて、ゆっくりとドアを閉める。

まつり「あながち間違いではないのです」

昴「ど、どういうことですか?」

まつり「周囲を見回してみるのです。気を確かに」

昴「…………。な、なぁ、篠宮さん」
209 : プロデューサー君   2021/07/30 22:28:41 ID:T3fH1s6r2s
可憐「なに?」

昴「ここ、広すぎないか?」

図書室に入る前に確認できたはずだが、そのとき見受けられたものと比べて何倍もの空間が縦にも横にも広がっていた。

可憐「空間が歪んでいる?」

まつり「それは不正確なのです。出入り口の部分でわんだほー!なことが起きているだけで、歪な空間というわけではないのですよ」

昴「まつり先生っていったい……?」
210 : 箱デューサー   2021/07/30 22:29:37 ID:T3fH1s6r2s
まつり「平たくいえば魔法使いなのです」

可憐「おとぎの国のマリーということですか? ってことは昴がステラ?」

まつり「おとぎの国の物語は関係ないのです!」

昴「魔法使いってマジ……?」

まつり「とはいえ、限定的なものなのです。この学園の、旧棟とその近辺でちょっとした魔法が行使できる、力を授けられているのですよ」

可憐「旧棟の解体を阻止するために?」

まつり「よく調べているみたいね。でも39点かな」
211 : おやぶん   2021/07/30 22:34:48 ID:T3fH1s6r2s
昴「赤点だ」

可憐「なるほど、『旧棟』という言い方は曖昧かもね。つまりは、学園の前身である私立図書館、その残された部分がこの旧図書室だとすれば、ここを、あるいはここにある何かを護るために力を持っているってことでしょうか?」

まつり「うん、72点」

可憐「くっ。では、別の方面から。ここ30年で学園が大きく発展を遂げた理由はここと関係しているのではないですか?」

まつり「うーん……それもすこーし、ずれているのです。というのは、ここを残し続けるために学園を援助しようとした結果、無駄に施設が拡大してしまったのですよ」

昴「本当だったらここさえ残っていれば、新棟を次々に建てる必要はなかったってこと?」

まつり「そう。おじい様の意向とそぐわない、まあ、何にも知らない人たちがそのへんはグイグイ推し進めたわけなのです」

昴「おじい様?」

可憐「徳川の名前はやはり……。この国を実質的に牛耳る大組織の1つ、あのトクガワ財閥とまつり先生は関係が尾張……じゃなくて、おありなんですね」

昴「どひゃぁーーっ」

まつり「ほ? 姫は姫と最初から言っているのです」
212 : プロデューサーちゃん   2021/07/30 22:35:01 ID:T3fH1s6r2s
昴「な、なぁ、トクガワ財閥の件は、伏線一切なかったけどいいのか?」

可憐「こ、細かいことは気にしちゃダメ……ですよ?」
213 : 高木の所の飼い犬君   2021/07/30 22:35:27 ID:T3fH1s6r2s
まつり「下手に目立ってしまって、妙な連中に嗅ぎまわられるのも嫌だから、資金の流れは巧妙に隠しているようなのです。ようはトクガワ財閥とこの学園の関係はあくまで裏にあるのですよ」

昴「へ、へぇ」

可憐「数年前の旧棟解体の提案、消えた生徒会役員……」

まつり「ほ? それはべつに裏で誰か生徒を始末したとかではないのですよ? その生徒こそまつりなのです」

昴「は? ど、どういうこと??」

まつり「反抗期だったのです。というのは冗談でも、まつり、まだそのときはここの力を継承していなかったのです。その時はまだ彩花お姉様が……」

そうして可憐と昴はまつりからトクガワ財閥とその歴史、そして図書室(学園)との関係を聞くのだった。
214 : プロヴァンスの風   2021/07/30 22:35:46 ID:T3fH1s6r2s
可憐「にわかには信じ難いことですが、じゃあ、ここにある書物はこの世界の行く末を左右する、と?」

まつり「ざっくり言えば。より適切には、この世界を左右するのに有用な、高位妖精さんたちの授け物なのです」

昴「いやー、まさか江戸時代初期にそんなことが、すっげーなぁ」

トクガワ財閥と妖精さんたちの馴れ初めの詳細を描くと100万字でも足りないのでここでは割愛するのです。

可憐「……こほん。何はともあれ、この不思議空間の維持に、まつり先生が不思議な力を得ていることはわかりました。如月先輩に話しかけた声というのも、ここから漏れ出た力……妖精さんたちの仕業によるものなのでしょう。で、私たちが知りたいのは、」

昴「部長のことだよ!」

まつり「千鶴ちゃんは………うん、千鶴ちゃんには運悪く、見られちゃったのです。まつりがはいほー!と妖精さんたちと戯れているその場面を」

昴「そ、そんな、だから部長を突き落としたのか!?」

まつり「?! ち、ちがうのです。まつり、千鶴ちゃんを突き落すなんてしていないのです!」

可憐「話を聞きましょう」
215 : 兄ちゃん   2021/07/30 22:36:02 ID:T3fH1s6r2s
まつり曰く、千鶴にまつりの祭り(意味深)が目撃されたのは、あの嵐の日直後のことだそうだ。
しかも千鶴はその現場を写真に収めていた。そしてまつりに、(図書室の)秘密を共有することを求めた。
まつりは千鶴のスタンスというのが脅迫からはほど遠い、生徒としてのお願いであり、ついつい彼女の要望に応じてしまう。

可憐「まつり先生と秘密を共有していくうちにまつり先生のことをもっと知りたくなって、禁断の関係をも迫るように……」

まつり「ではないのです。千鶴ちゃんは一通り知ってしまうと満足してくれたのです。なんだったら、不要な記憶は消してほしいと」

昴「記憶を?」

まつり「そうなのです。日常を楽しむうえで、魔法や妖精は刺激的すぎるものだから、と。部分的な記憶の操作は正直、このまつりにしても難易度の高い、アクセルレーションOMをノーツ速度50%でperfect100%程度の芸当だったのです」

昴「全然ピンとこない喩え!」

可憐「うまくいったんですか?」

まつり「それが……魔法をかける前に、あの事件が起こったのです」
216 : 高木の所の飼い犬君   2021/07/30 22:36:22 ID:T3fH1s6r2s
昴「それって、あの転落ってことだよな? え、どういうことなんだ、それ」

まつり「千鶴ちゃんはこの場所の秘密、ひいては旧棟に住まう妖精さんたちの秘密を誰かと分かち合うつもりだったかもしれないのです」

可憐「それって――――」

まつり「当然、まつりではないのですよ? あの日、千鶴ちゃんは、忙しいまつりより先に旧棟に誰かと訪れた……そのはずなのです。そして、どういういきさつがあったのか、千鶴ちゃんは階段から転落して意識不明となってしまった」

昴「最初に倒れている部長を見つけたのはまつり先生なんだよな?」

まつり「そうなのです。実はあのとき、この旧棟に魔力の乱れを感じたのです。だから急いでやってきて、そして発見したのです」

可憐「そのとき近くに誰か?」

まつり「いなかったのです」

昴「うん?じゃあ、どうして部長が誰かといっしょだったなんてわかるんだ?」
217 : 彦デューサー   2021/07/30 22:36:37 ID:T3fH1s6r2s
まつり「意識を失っている千鶴ちゃんの記憶を魔法でのぞき見たのです」

可憐「あの……二階堂先輩はけっこう重体だったんじゃ……」

まつり「ほ?それは(魔法ではない)情報操作、統制なのです。まつりが駆けつけたからには外傷らしい外傷は消し飛ばしたのです」

昴「そういえば、病室での部長、話しで聞いていたような(打撲等の)怪我はしていなかったな……」

可憐「待って、まつり先生が二階堂先輩の記憶を覗き見ることができたのなら、」

まつり「ごめんなのです。犯人はわからないのです」

昴「ええっ?! ここまできて!?」
218 : あなた様   2021/07/30 22:36:54 ID:T3fH1s6r2s
まつり「魔法は万能じゃないのです。というか、犯人がわかっていれば、それ相応の行動に出ているのです」

可憐「たしかに……」

まつり「千鶴ちゃんの記憶の断片と現場での魔法の痕跡から、わかったことは2つなのです」

昴「2つ?」

まつり「1つは、千鶴ちゃんと一緒にいたその誰かは、妖精さんに魅入られてしまったようなのです。」

可憐「魅入られるとどうなるの?」

まつり「思考や感情が支配され、最もひどい状態となると身体そのものに憑かれてしまうのです」

可憐「そこだけ聞くと、悪質な妖精ね」

まつり「妖精さんたちに悪気はないのです。ただ、可愛い子と遊びたいというだけなのです、きっと」

昴「ふつうに迷惑な話だな……」
219 : Pちゃん   2021/07/30 22:37:15 ID:T3fH1s6r2s
まつり「妖精憑きの状態の人は、まつりでもちょっとやそっとじゃ識別できないのです。旧棟を離れてしまうとなおさらなのです」

可憐「妖精憑き、ね。その状態に陥った誰かさんが、二階堂先輩を突き落したってことですよね」

まつり「そこにどういう気持ちがあったかはわからないけどね。必ずしも悪意じゃない、妖精さんの戯れだったかもしれない」

昴「でも、部長は現に意識不明にもなっているんだ」

まつり「……ごめんなのです、まつりがもっとしっかりしていれば」

可憐「…………。それで、その人物を突き止める何か手立てはあるんですか?もし仮に今の推測がすべて合っていたとしたら、誰か学園の生徒が妖精に憑かれているままってことでは?」

まつり「そうなのです」

昴「憑かれたままだとどうなるんだ?」
220 : 師匠   2021/07/30 22:37:28 ID:T3fH1s6r2s
まつり「わからないのです」

可憐「え?」

まつり「前例がないのです。もしかすると【B】なんてことに……」

昴「ええっ!?」

まつり「妖精さんは本質的には自分を持たない、言い換えれば存在感が希薄なのです、ゆえに憑くのです。憑いていることさえ自分で忘れちゃうかもなのです」

可憐「犯行を無自覚な犯人になり得るってことですよね」

昴「やっぱり普通に迷惑な話だ……」
221 : P殿   2021/07/30 22:41:10 ID:T3fH1s6r2s
※【A】旧棟の妖精さんの、千早(の歌)に対する反応とは?
※【B】妖精憑きは放っておくとどうなるの?


レスの有効期限は7/31 23:59:59まででお願いします
8/1が副業休みなので後編の清書を処理後、その日中に最終話書き上げる予定です
222 : 高木の所の飼い犬君   2021/07/30 22:47:07 ID:T3fH1s6r2s
情報整理(簡易版)

・学園の発展関係はすべてトクガワ財閥が秘密の書庫を維持するためにしていたことだったんだよ!
・千鶴はあの日、誰かと共に旧棟にいて、そしてその人物は妖精に憑かれてしまったのでは?
・まつりの魔法は万能ではないので、妖精憑き(=犯人)捜しは難航しているのです
・成り行きで美希が千早とキテるけど、そんな関係ないと思う

真相(今回のオチ)を察した方もいるかと思います。
推理レスをすると、たぶんマジで当たっちゃいます。そこは遠慮していただいて、本編終了後に「思っていたとおりだったわ」みたいなレスお願いしたいです

最後の最後まで何卒お付き合いください!
223 : 貴殿   2021/07/30 23:04:00 ID:T3fH1s6r2s
>>221
大事な大事なことが抜けてました

【C】まつりが、千鶴の記憶の断片と現場での魔法の痕跡からわかったもう1つの事実は?ふわっとした感じでかまいません
224 : プロデューサー   2021/07/31 08:53:00 ID:QlhNVrDO3E
A 「もう少し遊びのある歌い方でもいいんじゃない?」
B 人格を乗っ取る
C 千鶴は転落させられたこと自体は恨んでいない
225 : Pちゃん   2021/07/31 21:12:31 ID:ucLM8jDs0g
A:「素敵…引き付けられていくみたい」
(千早「何を引き付けているの⁉︎」)
B:いくつかあるが、幼児退行が最も多い(ふざけて大惨事を引き起こすことも)
C:千鶴は自ら落ちた(これ以上の事態悪化を防ぐためか?)

前回来れなかったから焦る焦る……
作者には落ち着いてラストまで持って行っていただきたいなーって
226 : Pはん   2021/08/01 03:05:22 ID:cCXjBTz5ZM
レスありがとうございます!!!
第6話 後編清書 投下します
227 : プロデューサー君   2021/08/01 03:06:06 ID:cCXjBTz5ZM
第6話 後編
職員室に向かう途中、空き教室で金髪美少女を膝枕する千早に巡り合った可憐と昴。
少女の正体は1年生特進コース所属で、写真部の後輩である箱崎星梨花とも同じクラスである星井美希であった。
彼女と千早は年の離れた幼馴染であり、2人は姉妹のように仲がいいみたいだ。
一方で美希は星梨花を通じてなのか、昴とも仲がいいらしい。目を覚ました美希は「昴くん」とじゃれついた。
千早曰く、昴は『オレも美希みたいに可愛かったら』と自嘲気味に口説いた事実もあるとのこと。
1年生の頃に千早は、旧棟で気晴らしに歌を歌っていた時に、人ではない何者かの声を耳にしたのだという。
「素敵……ああ、この歌に引きつけられてしまう……でも、もう少し遊びがあってもいいんじゃない?」
その不思議な体験を経て、歌い方を変えたかはわからない。ただ、相談したまつりは旧棟に近づかないようにと千早に忠告した。
まつりが旧棟の秘密を握っている、そう確信できた可憐たちは千早と、再び眠り出した美希を後にして職員室へ。
228 : ハニー   2021/08/01 03:06:17 ID:cCXjBTz5ZM
果たしてまつりは旧棟の秘密を知っていた。というより、彼女は旧棟の秘密を管理し、維持する立場の人間であった。
400年以上前にまつりの血族と妖精たちが交わした契約について話を聞くふたり。旧図書室は異空間に等しかった。
結論として、旧棟に限定して魔法使いであると言えるまつりは、千鶴の転落が妖精によって引き起こされたものではないかと推測していた。
旧棟に住まう妖精たちは得てして好奇心旺盛であるようだ。易々と一般の生徒と交流させていい結果をもたらすことはない……。
嵐の前、偶然にもまつりの秘密を目撃した千鶴は、以来、まつりと旧棟の神秘を共有していたが、日常に戻るために記憶を消す予定でもあった。
あの転落の日、まつりがいないうちに、千鶴が誰かといっしょに旧棟を訪れていたことは間違いない。
そしてその誰かは千早とは別の形で、妖精に関心を持たれて、またその人物自身も妖精に魅入られてしまったのだろう。
まつりが転落現場で千鶴の外傷を癒しながら、その記憶をのぞき、また現場での魔法の痕跡を探ることでわかったことは2つ。
1つはその人物は今、妖精憑きとなっているということ。まつりは実例を目の当たりにしたことはないので、もし仮に当人に出会っていてもすぐにそれだと判別できないそうでもある。
妖精憑きとなった場合、はじめこそ頭が冴え冴えとして普段以上の思考力を持ち合わせさえするも、やがて精神バランスに支障をきたし、幼児退行が引き起こされる―――文献にはそうあるらしい。
そしてわかったこととして2つ目は、千鶴は転落について恨みを持っていないということ。
もしかするといっしょにいた人物との諍いの末に……というわけではないのか?
229 : Pたん   2021/08/01 03:06:35 ID:cCXjBTz5ZM
まつりたち3人は旧図書室を出た。
すべての真相が明らかになることを期待していた昴としては、もやもやが残っていた。
部長といたその人物とは誰なのか、魔法や妖精まで登場したとなると、もはや解決は普通の糸口からではたどり着けないのでは……?
可憐の表情をうかがうと、彼女もまた難しい顔をしていた。

電話が鳴る。まつりのようだ。不意になされる英語でのやりとり。
「ふたりともごめんなのです。知り合いの外交官からの依頼で、ちょっと怪物退治しに行かないといけなくなったのです」
そう言ってまつりは足早に行ってしまった。旧棟に限定しての魔法使いなのでは……?と思う2人であったがあえて追及はしなかった。

「ねぇ、昴」

これからどうしようか、今日はとりあえず帰ろうか、そう考えていた昴に可憐が声をかける。

「なに?」

「もしかしたら私………わかったかもしれないわ」

「え―――?」

いつもの自信ありげな口調はどこへやら、声を震わせ、可憐は言う。
230 : Pたん   2021/08/01 03:07:00 ID:cCXjBTz5ZM
可憐「謎はすべて解けた………ううん、そうじゃない、きっとこう言ったほうがいいのかしら」




可憐「魔法を解く時間がやってきたんだってね――――」


最終話につづく
231 : Pサマ   2021/08/01 03:11:48 ID:cCXjBTz5ZM
※清書の原則と外れた字数やレス数となりましたが、クライマックスということでご容赦ください

※真相を察した人もいるでしょうが……ド直球なネタバレレスはお控えください

>>227訂正ありました 「昴くん」→「昴くん♡ 昴くん♡」 


最終話はこれまで同様(?)、あらすじ投下というより最終安価をとるだけの実質的な清書投下をすぐにする予定
今日中に終わるかも!
232 : あなた様   2021/08/01 22:08:15 ID:cCXjBTz5ZM
フレグランスは写らない 最終話投下します
書き切れなかったので途中まで(安価なし)

233 : 番長さん   2021/08/01 22:08:33 ID:cCXjBTz5ZM
季節外れの転校生・篠宮可憐。
思えば、昴は彼女のことを多くは知らない。転校してきたのには何か事情があるのか、初めての転校なのかそれとも慣れているのか。
前にいた学校では何部に所属していたのか、友達はどれだけいて、恋人はいたのか、どこで誰とどういうふうに過ごしてきたのか。
中庭での怪現象と二階堂部長の気になる振る舞い。
あの日、写真部にふらりと現れた篠宮さんに何も話さなかったら、彼女が自分の香りに興味を持つことがなかったら。
彼女と友達になることはなかったのだろうか。歩の秘め事にも気づかずにいたのだろうか。
まつり先生や旧棟の不可思議にも触れず、天空橋先輩や如月先輩といった生徒会の人たちと面識を持つことがなく、じめじめとした梅雨を雨音に耳を傾けるようにでも過ごしていたのかな―――。
234 : プロデューサーちゃん   2021/08/01 22:08:52 ID:cCXjBTz5ZM
窓から夕明かりが差し込む。一時的だろうが、雨が止んでいる。
厚い雲間を裂く光の梯子が遠くに臨む。
可憐と昴は旧棟の空き教室の1つにいた。まつりか、あるいは妖精たちが掃除をしているのか、埃っぽさがない。
今すぐにでも授業を始められる。

可憐は教壇に立ち、そして昴をすぐ目の前の席に座らせた。

「さて――――」

それは教師のようでもあり、探偵のようでもあり、しかし結局は篠宮可憐という少女その人でしかなかった。
その瞳はあの邂逅を思い出させるように爛々としている。昴はそう思った。
甘美なる謎と秘密、人の心の光と闇とが擦れて散る火花、その焦げつく香り
あのとき、可憐はそう口にした。レスを読んでみたから間違いない。昴に、というよりほとんど独り言で、うっとりと。
235 : Pサマ   2021/08/01 22:09:11 ID:cCXjBTz5ZM
可憐「まつり先生は言った。『妖精さんは本質的に自分を持たない、言い換えれば存在感が希薄なのです、ゆえに憑くのです。憑いていることさえ自分で忘れちゃうかもなのです』ってね」

昴「すっげー……似ていたよ、今の」

可憐「でしょう?」※テイク5

昴「なぁ、篠宮さん、それで『魔法を解く時間だ』ってのは?これは篠宮さんの言葉なわけだけど」

可憐「慌てないで、昴。初歩的なことから考え直してみましょう。私たちはそうするだけの手がかりを得て、人物と会って、情報を知り、ここにいる」

昴「う、うん」

可憐「二階堂先輩の転落。これが起きたのは中庭での怪現象から数日が経ってのこと。そうよね?」

昴「その時系列が逆になることはないよ」

可憐「そう。そして昴は怪現象が起きた後で、二階堂部長の様子が変、そわそわしていると思った」

昴「部長は何か知っているんじゃないか、そう考えたんだ」
236 : おにいちゃん   2021/08/01 22:09:29 ID:cCXjBTz5ZM
可憐「けれど、事実は違った。中庭での怪現象は舞浜歩によるもので、二階堂部長のそわそわは実はべつにあった」

昴「……旧棟の秘密、まつり先生の『魔法』を目撃していたってことだよな。写真まで収めていた」

可憐「ええ。証拠を見せてもらってはいないけれどね。まつり先生が処分したかもしれない。二階堂部長は秘密について記憶を消してもらうつもりだったみたいだし。もしかすると、もう消してしまっているのかも?転落で意識を失ったついでに」

昴「それはどうかな……二階堂部長の状態が長期化せずに目を覚ましたのだって、運が良かったって聞いたぜ」

可憐「あのまま目を覚まさない可能性もあった、か。怖いわね」

昴「うん。ま、なんにしても中庭の一件に部長は絡んでいなかった、それはわかるよ」

可憐「二階堂先輩が旧棟を訪れた理由ってなんだと思う?」

昴「うーん……本人ははっきりと覚えていないって病室で話してくれたんだよな」

可憐「まつり先生の予想では、記憶を消す前に、誰かとこの不思議な空間、旧棟のことを共有しておきたかったんじゃないか、だったわよね」
237 : 監督   2021/08/01 22:09:46 ID:cCXjBTz5ZM
昴「部長らしいと言えばらしいかな。写真で残すわけにもいかないし。話だけじゃ信じられないようなものなわけだし、一緒に誰かとやってきたんだろうな」

可憐「私たちは二階堂部長の交友関係も調べたわよね」

昴「家族関係は全然だけどな。状況を考えれば、部長が外部の人間をわざわざ入れるとも思えないけど。あくまで学園関係者だろうな」

可憐「親友である天空橋先輩に、親しい間柄の三浦先輩、馬場先輩。あと病室にきた菊地先輩も」

昴「他にも部長を慕っていた人はいるだろうけど、旧棟にいっしょに行くってなったら限られるよな」

可憐「そこよ」

昴「え?」

可憐「もう一度、その点について考えてみると、必然的に候補に上がる人物がいる」

昴「それって………」
238 : プロデューサーさま   2021/08/01 22:10:01 ID:cCXjBTz5ZM
昴「もしかして、星梨花か? 同じ写真部だし。星梨花が日常の疑問をどんどん口にして、部長がそれを説明するってのは部の日常茶飯事なんだ」

可憐「そうなの?」

昴「ああ。とくにBBSにおいてはセレブ知識を披露している部長は、物知りなんだよ」

可憐「なるほどね。星梨花ちゃんとはそう言う意味で相性はよさそうね」

昴「………でも、星梨花じゃない」

可憐「というと?」

昴「確認したからだよ。部長が転落したその日、星梨花は学校外の習い事があるかだかで早々に下校しているんだ。そのときは、えーっと、たしか大神さん、望月さん、木下さんっていう星梨花の同級生と4人で下校したらしいから証人にもなると思う」

可憐「………」

昴「加えて言うなら、帰路で『トイレはドコドコ?』ってきょろきょする不審者に出くわして通報もしているみたいだし」

可憐「世も末ね」
239 : 我が下僕   2021/08/01 22:10:17 ID:cCXjBTz5ZM
昴「あとは、そうだな、部長と親しいとすれば、生徒会メンバー? ほら、天空橋先輩、話していただろ?部長は生徒会の仕事を手伝っていたって」

可憐「…………」

昴「生徒会長とかどうなんだろうな。歩の件があるから、あまり話したいとは思えないんだけど」

可憐「…………」

昴「し、篠宮さん? どうしたのさ、黙りこくって」




可憐「大事な人を忘れているわ」

昴「えっ」
240 : 兄ちゃん   2021/08/01 22:10:36 ID:cCXjBTz5ZM
昴「えっと、大事な人? いっしょに孤島に行ったっていう、北沢さんや島原さん、それに、」

可憐「ちがうわ。さっきも話したとおり、二階堂先輩がいっしょに旧棟に行くとしたら、それはかなり親しい人物に限定される」

昴「あ、ああ」

可憐「そう、たとえばそれは――――同じ部の寝顔の素敵な可愛い後輩とかね」

昴「へ?」

可憐「どう?」

昴「ど、どうって、何言ってんだよ、篠宮さん。だって、それ、えっ、そんなこと……」

可憐「ねぇ、昴。確認していい?」
241 : プロデューサー殿   2021/08/01 22:10:57 ID:cCXjBTz5ZM
昴「!」

可憐「思い出して。当時、つまりは二階堂千鶴が階段から転落したとされる日のその時間帯、あなたがどこで何をしていたのか。私に教えてくれるかしら?」

昴「それだったら―――――」

図々しくも沈黙が横たわった。そのことに一番驚き、うろたえているのは、他ならぬ永吉昴だった。
口をパクパクとさせる。何も出てこない。すんなりと出てくるはずの答え、簡単に説明のいくもの。あの日の記憶。
部活動がなければ自分はいつものように1人で家に帰って、レモンの蜂蜜漬けでも、作るなり食べるなりしていたのではないか。

思い出せない。
中身が入っていると思って持ち上げた薬缶が空だったかのような、浮つき。
あるはずの記憶が、探してみれば、そこにはなく。

次に迫りくるのは「なぜ?」という感情。
ううん、そうじゃない。

昴「篠宮さん、もしかして、あの日、部長といっしょにいたのは、そして階段から転落させた人物ってのは―――」
242 : ごしゅPさま   2021/08/01 22:11:12 ID:cCXjBTz5ZM
昴はゆっくりと、昴自身を指差した。
信じられない、そんな顔をしてもなお、彼女の可憐ぶりに目の前の転校生は微笑んでみせるのだった。

可憐「昴、きっともうあなたしか候補はいないのよ。消去法、こんな形で決着するのもどうかと思うけど」

昴「そんな………」

可憐「妖精は自分を持たない、か。ねぇ、昴。ついでにもう一つ教えて。美希ちゃんが言っていたことは本当?」

昴「は? こ、このタイミングで美希? え、なんのこと」

可憐「『オレも美希みたいに可愛かったらなー』って。本当にそう言ったの?」

昴「………うん。それは覚えているよ」
243 : プロデューサークン   2021/08/01 22:11:34 ID:cCXjBTz5ZM
可憐「私、うん、あの場にいた私だけびっくりしちゃった」

昴「そんなに? べつに深い意味なんて、」

可憐「あった。なぜなら私は一度も聞いたことがなかったの」

昴「??」






可憐「昴が『オレ』だなんて一人称を使うのを、私は出会ってから今日まで一度だって聞いていないのよ」
244 : Pしゃん   2021/08/01 22:11:56 ID:cCXjBTz5ZM
可憐「まつり先生も知らない、ううん、今回だけの方法なのかもしれないわ」

昴「ほ、方法……って」

可憐「永吉昴、あなたが妖精憑きかどうか判明させるためのね。さぁ、言える?永吉昴本来の一人称、あなたは使えるかしら」

昴「そんなの、ただ言うだけ……」

可憐「そうよ。簡単なこと。だから、お願い――――昴、私と会う前に、あなたが自分自身を指し示すのに用いていた『オレ』を、今ここで使って」

昴「オ………オ……」
245 : そなた   2021/08/01 22:12:22 ID:cCXjBTz5ZM
可憐「………」

昴「……オ―――オォォォォオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!」



空気が震える。いや、空間がと表現すべきか。
教室の窓がカタカタと軋む。心なしか机も椅子もガタガタと。
永吉昴の身体から灰色の靄が立ち込めている。
異様、異質、異常。
可憐は息を呑む。覚悟はあった。が、この光景は、この真実は――――




可憐「この香り、へぇ、妖精って思ったより獣みたいなのね」
246 : プロちゃん   2021/08/01 22:12:37 ID:cCXjBTz5ZM
昴「………」

可憐「まぁ、Nカードみたいな表情。あの宣材写真で昴を勘違いしている人もいるんじゃないかしら」

昴「この子は最高よ」

可憐「CV変わった?」

昴「ふふ……らしくないわね、篠宮可憐。あなた、怯えている。強がってもわかるわ」

可憐「どうして、って聞いていいかしら」

昴「私がこの子に憑いた理由?」

可憐「そう。まさか本当に一目ぼれ?わかるかわからないかで言えば、わかるけど」
247 : 箱デューサー   2021/08/01 22:12:53 ID:cCXjBTz5ZM
昴「お得意の推理で当てて見せればいいんじゃない?」

可憐「捜査は私主体に行っていたけど、言うほど推理してきたわけではないわよ。さっきのだって、推理ってわけじゃない。そうよ、私はただ、昴に確認がとりたかった、それなのに……」

昴「悲しげな顔。でも、私にはわかる。あなたはこの状況下をどう切り抜けるか考えているわ。賢い子。あの子と同じ」

可憐「まつり先生……じゃないか。あの人はどちらかというと強かっていうタイプ。脳筋って言ったら怒られちゃうわね。そもそも原作だとフィジカル面は強調されているけど、それよりも年下への面倒見や気遣いができるアイドルとしてって―――ううん、今はそんなことよりも」

昴「閃いた、って顔ね」

可憐「ええ。わかった。二階堂先輩ね。うん、よくよく考えなくてもそれしかない。あなたは、つまり妖精さんは二階堂先輩がお気に召したのね。けれど、彼女はあなたたちを、この無機質な秘密の花園を忘れ去ることに決めた。だから、あなたは昴の身体を借りて抗議した。ちがう?」

昴「お見事」
248 : あなた様   2021/08/01 22:13:06 ID:cCXjBTz5ZM
可憐「さて、では2つに1つね」

昴「つまり?」

可憐「あなたが昴の身体を借りて二階堂先輩を突き落としたのか、それともあなたが脅迫のつもりで昴の身体で階段から自ら落ちたのか」

昴「すごい、冴えきっているわね。……後者に近いわ。べつに本気で落ちようとは思っていなかったけれどね」

可憐「慣れないことをするからよ」

昴「まったくね。千鶴ちゃんはこの子をかばって一緒に階段を転げ落ちるし、入れ替わりでもするかと思ったわ」

可憐「あなたが二階堂先輩の手に、あの紙片を握らせたのね」

昴「他にいないわよね」
249 : プロデューサーさま   2021/08/01 22:13:23 ID:cCXjBTz5ZM
可憐「書かれた請求記号に応じた本、図書室で探すのをすっかり(書き手が)忘れていたわ。何に関する本なの?」

昴「なんだと思う?」

可憐「ヒントはくれる?」

昴「わがままね」

可憐「それが人間よ。知りたくなって、知っても、深く知りすぎるのは躊躇うことがある。深淵を何百年にもわたって引き受けることになるかもしれない」

昴「そうね、そのとおりなのでしょうね。………私は妖精で、千鶴ちゃんは人間。めぐりあえたのは奇跡で、ほんの短い時間であっても私が彼女に魅了されるには充分な時間だった。でも、どうしたってずっとはいっしょにいられない、記憶を持ったままであってもね」

可憐「普通の方法では、かしら。ひょっとしてあなたが場所を示した本、そこには妖精との契約についてでも書かれているとか?」

昴「悪くない答えね。概ね正解」

可憐「ふふ、ありがとう」
250 : Pしゃん   2021/08/01 22:15:18 ID:cCXjBTz5ZM
昴「もう一つ、問題出してあげるわ」

可憐「―――――『なぜ、ここまで私があなたに打ち明けるのか』かしら」

昴「たいしたものね。私としてはもう少し『裏方』として力を蓄えておきたかったけれどそうもいかないみたい」
251 : おやぶん   2021/08/01 22:15:36 ID:cCXjBTz5ZM
妖精「あのね、あなたも私のものにしたいのよ」



瞬間、室温が下がったような気がした。
可憐の背筋にひどく冷たい汗が伝う。

可憐「……そんなことできるの?」

妖精「試したことはないわ。でも、試す価値はある。所詮、あなたたちは人間で、私は妖精。ふふふふふふ」

可憐「言葉を選んでいる暇はないわね。さっさと昴から出て生きなさい、おとぎ話はもう終わりよ!FairyTaleじゃいられないの!」

妖精「Angelタイプのくせに! あなたじゃ私を止められないわっ! あのまつりとかいう継承者だって欺いてみせる! 私はここの、学園の支配者となり、千鶴ちゃんをお姫様として迎えるのよ!!!」
252 : 時間と体力ないよー   2021/08/01 22:18:45 ID:cCXjBTz5ZM
残りは明日の夜か、遅くとも明後日には
ネタバレになりますが、前にレスをいただいたあの子はこの場に登場します

(妖精攻略の)ご意見・ご想像、未回収の伏線諸々、募集中です!
読んでくださればわかるとおり、忘れていたことについても無理やりどうにかぶちこめたらうぶちこみます!

何卒エピローグまでお付き合いください!
253 : 変態インザカントリー   2021/08/02 19:52:29 ID:IpefGal2po
お待ちしております!
254 : プロヴァンスの風   2021/08/02 22:00:35 ID:DqNLf5U2Ws
続きを投下していきます
255 : プロデューサーはん   2021/08/02 22:01:56 ID:DqNLf5U2Ws
前回のタイトル、最後とは言え話数表記が急に日本語になるのも変なので、こっちに差し替えておきますね

256 : Pちゃん   2021/08/02 22:02:18 ID:DqNLf5U2Ws
狭い教壇、空き教室の前側が2人の舞台となった。観客はいない。
可憐と妖精の距離がまた一歩、縮まる。
どのようにして、昴に憑いている妖精が可憐をも支配下におくのか、見当もつかない。
熱い接吻でもするのかしら―――張りつめた空気の中で可憐はそんなことを思う。
じりじりと。迫る妖精に浮かぶ不敵な笑み。知っているはずの少女に貼りつく知らない表情。
ああ、ライヘンバッハの滝で宿敵と対峙しているようだわ、と可憐が現実逃避にも等しい空想に吸い込まれてしまいそうになった、その時。
妖精が動いた。

その細く美しい指先があと数ミリというところで可憐の首に絡みつく、その狂気を遅れて感じた刹那、妖精の動きが止まった。
驚愕の相を露わにする妖精の瞳は可憐を見ていない。後方、いきなり開いた出入り口、そこにいる人物に視線は釘つけとなったのだ。

「すべて思い出しましたわ」

二階堂千鶴がそこにいた。
257 : 魔法使いさん   2021/08/02 22:02:30 ID:DqNLf5U2Ws
二階堂千鶴がそこにいた。


千鶴だけではない。病み上がりのためなのか、肩を貸してもらっている。昴の同級生である舞浜歩に。

妖精「千鶴ちゃん……どうして、ここに」

千鶴「言いましたでしょう、すべて思い出したと。その子、昴から出ていきなさいな。もう終わりにしましょう」

妖精「嫌だっ!!」

可憐「まるで悪戯を先生に見つかった生徒ね」

妖精「黙れ!」
258 : プロちゃん   2021/08/02 22:02:52 ID:DqNLf5U2Ws
歩「あー……えっと、実はアタシ、状況をうまく飲みこめていないんだけどさ、昴であって昴じゃないってのは、なんとなくわかるよ」

千鶴「わたくしがこの旧棟の秘密を、あなたたち妖精のことを知ってしまったのがいけないのですわ。選ばれた者以外、関わるべきではなかった」

妖精「千鶴ちゃんだったら、その選ばれた者になれるよ。私が選んであげる。あの内巻き娘なんかよりずっといい!」

歩「って、言っているけど……?」

千鶴「ごめんなさい。わたくしはあなたとは生きられない」

どこまでも真摯に応じる千鶴。彼女が妖精と直に対話したことがあったかはわからない。可憐の見立てではあくまで妖精は千鶴のことを遠巻きに眺めていたに過ぎない存在だった。昴に憑りつく以前から千鶴に接触していたのなら、まつりが警戒しないわけがない。
すべてはあの日、おとぎ話の継承者であり管理者たるまつりが不在の旧棟で、千鶴が大切な後輩と共にいるのを目にした妖精のあまりに人間らしい感情。
嫉妬から起きた事件だったのだろう。
259 : そなた   2021/08/02 22:03:07 ID:DqNLf5U2Ws
妖精「嘘……なんで…そんな、そんなのってひどいよ」

妖精が膝から崩れ落ちた。涙を流すその姿は痛ましい。
だが、それは借り物の身体だ。返してもらわねばならない。
昴に涙は似合わないものね。

この状態の妖精を問いただすのは難しいと判断した可憐は、まつりと連絡を取ることを考える。
忙しい身であるのはわかるが、この状況をどうにかできそうなのは、彼女しかいない。
こんなことだったら、妖精の祓い方を訊いておくべきだった。今更そう思っても、まさしくあとの祭りであった。
260 : EL変態   2021/08/02 22:03:23 ID:DqNLf5U2Ws
妖精「ふ、ふふふふふふふ」

可憐たちがまつりに連絡しようとしていると、妖精が不気味に笑い出した。
やれやれ、と可憐は嫌な予感を嗅ぎ取る。まだエンディングを迎えられないみたいね。

妖精「わかった。そうよね、私じゃダメよね。所詮は住む世界が違うもの」

可憐「そうね。……落ち着きなさい。たぶん今、あなたが考えていることは、最悪なことよ」

あの日、この妖精がしたことを考えれば、何をしようとするかは予想がついた。ついてしまった。

妖精「あなたたちにとってはね」

すっと、妖精は窓際へと移動する。窓がひとりでに開く。
―――ここは3階よ?! 特に描写がなかったけれど!
焦る可憐たちを見て愉しそうに、いや、哀しそうに妖精は笑った。
261 :   2021/08/02 22:03:39 ID:DqNLf5U2Ws

妖精「千鶴ちゃん、さよなら。私はこの子を……道連れにするわ!」

千鶴「!!」

可憐「そんなことさせないっ」

千鶴に歩が肩を貸している今、瞬時に動けるのは可憐しかいなかった。

歩「篠宮さん!!」

千鶴「いけませんわ!!」

妖精のもとへ、ちがう、大切な友人のもとへと駆けだした可憐に千鶴と歩が叫ぶ。
身を挺して庇って、生きていられる高さではない。
262 : EL変態   2021/08/02 22:04:32 ID:DqNLf5U2Ws
可憐「どりゃぁあああああ!!!」

美しい少女から雄叫びといって差支えない声があがった。
窓から飛び降りようとしていた妖精は逆に教室の中に引っ張られ、そしてそのまま可憐の繰り出した背負い投げをもろに喰らった!
※スタント起用 誰も怪我しないように撮影しました

千鶴「え?」

歩「す、昴ぅ!!!!」

可憐「ほんと、最悪だわ………」

昴「きゅ、きゅー……」


かくして妖精は可憐によって物理的に祓われた。
この技こそ退魔の背負い投げ――――前の学校で不良生徒相手にやむを得ない事情で繰り出さざるを得なかった必殺技なのだった。

そして可憐の転校理由でもあった。


エピローグにつづく
263 : エピローグは明日の夜を予定   2021/08/02 22:08:19 ID:DqNLf5U2Ws
妖精の攻略法、いくつか考えましたが、ここにきてまどろこしいのも嫌だなーと思って、これにしました。
可憐の身体能力が高いのは物語冒頭で明かされているし、初期設定であったし、転校の理由にもできたし!

エピローグ、もしかすると安価ないかもです
(最終安価、作りたい気持ちもあるにはあるんですけど)

最後の最後までお付き合いくださいませ!!
264 : ご主人様   2021/08/03 23:29:34 ID:5CI3xf.xPA
遅くなりました!
安価なしです!
エピローグ投下していきます!
265 : 夏の変態大三角形   2021/08/03 23:30:04 ID:5CI3xf.xPA
旧棟での妖精祓いから1週間後
東棟 屋上


可憐「………」

朋花「こんなところにいたんですね~」

可憐「天空橋先輩?どうしてここに……」

朋花「それはこちらの台詞ですよ~?ふらりふらりと彷徨っているので、探すのに苦労しました~」

可憐「何か私に用ですか」

朋花「ええ、遅くなりましたが千鶴のことでお礼を言いたくて~」

可憐「礼を言われるようなことなんてなにも」
266 : ごしゅPさま   2021/08/03 23:30:17 ID:5CI3xf.xPA
朋花「でも、貴方がいなければ千鶴は人ならざる者の花嫁となっていたと聞きましたよ~?」

可憐「そこだけ切り取ると、素敵なお話に聞こえなくもないですけどね。そういった小説や漫画だったら掃いて捨てるほどあるんじゃないですか」

朋花「可憐さん、貴女―――」

可憐「なんですか」

朋花「やさぐれていますね」

可憐「……べつに」

朋花「昴ちゃんのことで、ですね~」
267 : せんせぇ   2021/08/03 23:30:33 ID:5CI3xf.xPA
可憐「………」

朋花「聞きましたよ~。千鶴が転落したあの日から、貴女が旧棟ですべてを解決した1週間前までの日々、その時間の記憶が消えてしまったのだと」

朋花の言うとおりだった。昴の記憶が消えた。
可憐の退魔の背負い投げによって、すなわち妖精を祓ったことで、憑いていた頃の記憶をすべて消し飛ばしたと解釈すればいいのか、それとも妖精の最後の悪あがき、可憐に対する報復であるのか。
妖精、むしろ魔物と化す寸前であったあの子がいなくなった今では確かめようがない。
可憐と過ごした日々をきれいさっぱりに忘れていた昴。
元来、可憐は友人を作るのが上手ではない。前の学校においても、もしもっと可憐が周囲の人間と友好関係を築くことができていたのなら、例の不良生徒との突然の対峙もなかったのかもしれない。
可憐が転校するきっかけとなったいざこざについては詳しく語るつもりはない。
結論として、本来の可憐というのは刺々しい薔薇のようなもので、その美しさも強かさも、他人を魅了するが実際に触れることは躊躇してしまう、そんな存在であった。
そういうわけで、彼女がこの学園で得た友人というのは貴重であり、大切であり、失くしたくないものだった。
268 : 下僕   2021/08/03 23:30:45 ID:5CI3xf.xPA
朋花「私としては、また最初からやり直せばいいと思いますよ~?」

可憐「香りが違うんです」

朋花「……香り?」

可憐「はい。あの日、何気なく写真部を見学しにいって、私を惹きつけたあの子の香り。それが今はしない」

朋花「それは、えっと、つまり人ではない者が憑いていたからこその香りだったと?」

可憐「おそらくは。今の昴は私の知る昴であって、昴ではないんです」

朋花「今の昴ちゃんからは貴女が好むような香りはしないんですか~?」
269 : そこの人   2021/08/03 23:30:58 ID:5CI3xf.xPA
可憐「……わかりません」

朋花「そうですか~。私からすれば、やっぱりただやさぐれているように見えますね~」

可憐「――っ」

朋花「ふふっ、存外、貴女は傷付きやすいところがあるのでしょう~、貴女自身がそれをこれまでは意識していなかっただけで」

可憐「……そうなんでしょうか」

朋花「そんな子犬のような眼差しを向けられてしまうと……。幸い、ここには誰もいません。泣きたいのであればいくらでも泣いていいんですよ~?この聖母が抱きしめてあげましょうか~?」

可憐「いえ、そんなことをすれば、そこで見守っている豊川さんが妬いてしまうでしょう」

朋花「え?」
270 : ハニー   2021/08/03 23:31:16 ID:5CI3xf.xPA
ガタガタと可憐の声に反応して、屋上の出入り口に音が鳴る。扉がほんの少し開いている。
扉のすぐ後ろにいて聞き耳を立てていたのだろう。

可憐「香りには敏感なんです」

朋花「この私でさえ気づかなかったというのに、なるほど、たしかに貴女は名探偵ですね~」

可憐「まさか。今じゃ、ただの拗ねている大型犬みたいなものですよ」

朋花「………昴ちゃんとちゃんと話してみては?」

可憐「前向きに考えておきます」

朋花「ふふっ、千鶴を通じて朗報をお待ちしていますよ~。では、私はこれで。急用もできたので~」

可憐「お手柔らかに。可愛い後輩でしょうから」

朋花「ふふふっ、そうですね~」
271 : レジェンド変態   2021/08/03 23:31:46 ID:5CI3xf.xPA
朋花が去ると可憐はまたひとりで空を眺めた。
快晴。梅雨明け宣言はなされていないが、どうせ数日後には明けていましたと遅れての宣言がされるに違いない。
なんだか疲れちゃったなと可憐は座り込む。背中を預けられる壁があるところまで移動した。
思えば、昴のこと以外でも展開のあった1週間だった。
なかでも、39万ドルもの臨時収入があったというまつり先生が、園芸部員たちのために温室等の設備やその他諸々に投資したのは忘れようがない。
依頼の報酬といっていたが、いったいどんなことを成し遂げたらそんな大金を得られるのか。
あと、もう一つ。あの中庭には旧棟の妖精たちを鎮める魔法や儀式に用いるような植物を代々育てているそうで、そのせいもあって一般生徒ではなく業者によって管理されてきたのだという。
まつり先生に自分のしたことを明かした舞浜歩からの情報だ。お咎めらしいお咎めはなかった代わりに、今度からまつり先生の副業(?)を手伝うことになったとも聞く。
歩は「命がいくつあっても足りなさそうなんだよな……」と苦笑いしていた。


あと、どこから聞きつけたのか知らないが菊地先輩からは、乙女武闘部に誘われている。
旧棟とはべつの意味で得体のしれない部だ、今のところ断っているが、見学だけでもいってみようか。
兎にも角にも、これからのことはゆっくり考えればそれでいい―――。
272 : プロデューサー殿   2021/08/03 23:32:15 ID:5CI3xf.xPA
どれぐらい時間が経ったのだろう、数分か、数十分か。
目を覚ました可憐はついうっかりこんな外で居眠りしていたことに気がついた。
そして、すぐそばにいる少女の存在に。

昴「あっ」

可憐「へ? す、昴!?」
273 : 貴殿   2021/08/03 23:32:27 ID:5CI3xf.xPA
昴「ち、ちがうんだ、オ、オレ……ほら、いつの間にか梅雨っぽくなくなって、空が綺麗なものだから、近くで撮りたいなーって、それで偶然、ここが施錠されていないことがわかって、それで、あの……つい綺麗だから撮っちゃったんだ」

可憐「撮ったって―――もしかして私の寝顔!?」

昴「ご、ごめん!」

可憐「消しておいて。それは記録するものじゃないわ」

昴「……どうしても?」
274 : プロデューサー様   2021/08/03 23:32:39 ID:5CI3xf.xPA
可憐「逆に訊くけどどうしても残したいわけではないでしょう?」

昴「でも……無防備に眠る篠宮さん、綺麗だったよ?」

可憐「~~~っ」

昴「あっ、もしかして照れているのか? その表情、いいな。1枚撮っていい?」

可憐「よくない!」

昴「えー」

可憐「えー、じゃないわよ」
275 : 魔法使いさん   2021/08/03 23:32:55 ID:5CI3xf.xPA
昴「あのさ、篠宮さん」

可憐「なに」

昴「いろいろありがとな。オレ、全然覚えていないけど、なんとなく、うん、篠宮さんにはいっぱいお世話になったっていうか、いっしょに過ごした、そんな気はするんだ」

可憐「でも、覚えていないのよね」

昴「うっ……それはそうだけど」

可憐「はぁ……まぁ、いいわ。ええ、もうなんだか、意地を張っていたのが馬鹿みたい」

昴「篠宮さん?」
276 : Pチャン   2021/08/03 23:33:11 ID:5CI3xf.xPA
可憐「私は今の昴の香りも好きよ」

昴「!?!?」

可憐「だから、その『篠宮さん』っていうのやめなさい。これからは可憐と呼んで」

昴「い、いきなりだな」

可憐「私としてはこの数日、考えていたことだけどね。もう一度、昴とお友達になれるかどうかって」

昴「……そっか」

可憐「うん」

昴「な、なぁ、可憐」

可憐「……うん」
277 : 夏の変態大三角形   2021/08/03 23:33:24 ID:5CI3xf.xPA
昴「へへっ、なんだか気恥ずかしいな」

可憐「すぐに慣れるわ。私もそうする」

昴「そういうものかな?」

可憐「そういうものよ。で、まだ何か言いたいことあるみたいだけれど?」

昴「ああ。可憐、写真部に入らないか?」

可憐「え?」

昴「実は部長からも『誘ってみればいいじゃない』って言われていて……」
278 : 下僕   2021/08/03 23:33:41 ID:5CI3xf.xPA
可憐「ふうん、写真部に入ったら、昴の寝顔撮り放題? 図書室の寝台特急さん♪」

昴「ええっ!? あの話も知っているのか!? 撮り放題って、そ、そんなことないけど……1枚ぐらいなら」

可憐「ま、いいわ。前向きに検討してみるわね」

昴「お、おう。あと、もう一ついい?」

可憐「なに?」

昴「記念に1枚。えっと、オレたちの新しい関係に? ちゃんと記録残しておけば、たとえまた忘れたって、思い出せるかもって」

可憐「そうね、もっと2人で写真を撮っておけばこうはならなかったのかも……ううん、考えたってしかたない、か」
279 : そなた   2021/08/03 23:34:06 ID:5CI3xf.xPA
昴「撮っていいかな?」

可憐「………」

昴「可憐?」

可憐「んー、やっぱダメ。代わりに――――」

昴「えっ―――」

ぎゅっと。
可憐が昴を抱きしめる。唐突な抱擁に唖然とする昴。
280 : Pはん   2021/08/03 23:34:31 ID:5CI3xf.xPA
可憐「フレグランスは写らない」

昴「!」

可憐「昴、この香りをよく覚えておくのよ。記録じゃなくて記憶に強く刻み付けなさい。………いい?」

昴「う、うん」

可憐「忘れたら嫌だからね。そんなの……ダメなんだからね」

昴「可憐? ………泣いているのか?」

可憐「ち、ちがうわ。ちょっと花粉症気味なだけ」


昴を抱きしめたまま、涙が零れ落ちないよう、可憐は澄み切った空を見上げた。すっかり夏の空だ。
ふふっ、推理するまでもないわね。
この夏は忘れられない夏になる――――――
281 : 下僕   2021/08/03 23:35:01 ID:5CI3xf.xPA
765プロ劇場ドラマⅢ
『フレグランスは写らない』


282 : プロデューサーさま   2021/08/03 23:40:58 ID:5CI3xf.xPA
ご愛読・ご協力ありがとうございました!!

あれ?これはどうなった?みたいな部分もあるかと思いますが、そのあたりは何卒お許しを
(主に反省点を)語りたいことはアホほどあるんですが、だらだらと書いてもみっともないので、1点だけ
昴の一人称、「オレ」も「私」も使ってこなかったのは、半分は偶然でした
昴を最初から黒幕めいた何かにする気はなかったってことです
ただ、3話過ぎたあたりからは何かに使える伏線になるかなとは考えていました(双子ネタとか)

本当にお付き合いありがとうございました
(需要関係なしに?)次回も8月中にスタートしたいなーと思っていますので、ご愛読・ご協力してくださると嬉しいです
283 : プロデューサーちゃん   2021/08/04 00:07:18 ID:tYSdkG6Tis
おつかれさまでした!
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