白石紬は激怒した。
1 : Pくん   2018/02/21 00:15:07 ID:FC2Mg7bxUI
必ず、かの無神経で不躾なPにあんみつを買わせなければならぬと決意した。
68 : 兄ちゃん   2018/02/22 08:19:59 ID:B4Ajvrbi6k
「やめて下さいでしゅ。走るのは、やめて下さいでしゅ。いまはご自分の貞淑が大事でしゅ。あの方は、あなたを信じて居りました。ステージに引き出されても、平気でいました。王様が、さんざんあの方をからかっても、紬さまは来ます、とだけ答え、強い信念を持ちつづけている様子でございました。」
「あなたは、バカなのですか!?それだから、走るのではないのですか!?。信じられているから走るのです。間に合う、間に合わぬは問題でないのです。人の貞淑も問題でないのだ。私は、なんだか、もっと恐ろしく大きいものの為に走っているのです。ついて来なさい!エミリストラトシュ。」紬は、口に餡蜜を詰込みながら、ひたすらに走り続けた。


「ああ、あなたはおつむつむつむでしたか。それでは、うんと走るがいいでしゅ。ひょっとしたら、間に合わぬものでもない。走るがいいでしゅ。」

言うにや及ぶ。まだ陽は沈まぬ。最後の死力を尽して、紬は走った。紬の頭は、からっぽだ。何一つ考えていない。ただ、わけのわからぬ大きな力にひきずられて走った。陽は、ゆらゆら地平線に没し、まさに最後の一片の残光も、消えようとした時、紬は疾風の如くシアターに突入した。間に合った。
69 : お兄ちゃん   2018/02/22 08:21:50 ID:21v4CcVzJU
おつむつむつむで大草原
70 : 兄ちゃん   2018/02/22 08:25:51 ID:B4Ajvrbi6k
「待て。その人を殺してはならぬ。白石紬が帰って来た。約束のとおり、いま、帰って来た。」と大声でシアターの群衆にむかって叫んだつもりであったが、喉がつぶれて嗄れた声が幽かに出たばかり、群衆は、ひとりとして彼の到着に気がつかない。群衆の中には、「あの」歌織ンティナウスも混じっていた。
71 : Pチャン   2018/02/22 08:37:51 ID:RGv2/fnzv2
創作意欲が凄い
72 : バカP   2018/02/22 08:49:47 ID:IKxVlBImi2
やっぱ太宰治って神だわ
73 : 箱デューサー   2018/02/22 09:14:01 ID:b/ks6rA4zI
すでにステージの柱が高々と立てられ、マイティセーラーを着た星梨ヌンティウスは、徐々にステージに上がっていく。
紬はそれを目撃して最後の勇、先刻、濁流を泳いだようにサイリウムの浪を掻きわけ、掻きわけ、
「私だ、スタッフ! 辱められるのは、私だ。紬だ。彼女を人質にした私は、ここにいる!」と、かすれた声で精一ぱいに叫びながら、ついにステージに昇り、上がってゆく友の両足に、齧じりついた。観客は、どよめいた。
あっぱれ。ゆるせ、と口々にわめいた。星梨ヌンティウスの縄は、ほどかれたのである。
74 : 彦デューサー   2018/02/22 09:16:40 ID:b/ks6rA4zI
「星梨ヌンティウス。」紬は眼に涙を浮べて言った。
「私を殴れ。ちから一ぱいに頬を殴れ。私は、途中で一度、悪い夢を見た。君が若し私を殴ってくれなかったら、私は君と抱擁する資格さえ無いのだ。殴れ。」
星梨ヌンティウスは、すべてを察した様子で首肯うなずき、後ろの席まで鳴り響くほど音高くメロスの右頬を殴った。 ( *°ω°⊂彡☆))Д´) パーン
殴ってから優しく微笑ほほえみ、
「紬、私を殴れ。同じくらい音高く私の頬を殴れ。私はこの三日の間、たった一度だけ、ちらと君を疑った。生れて、はじめて君を疑った。君が私を殴ってくれなければ、私は君と抱擁できない。」
メロスは腕に唸うなりをつけて星梨ヌンティウスの頬を殴った。 ( *°ω°⊂彡☆))Д´) パーン
75 : Pちゃま   2018/02/22 09:32:52 ID:QSmh/n4ON6
「ありがとう、友よ。」二人同時に言い、ひしと抱き合い、それから嬉し泣きにおいおい声を放って泣いた。
群衆の中からも、歔欷の声が聞えた。
暴君Pィオニスは、観客の背後から二人の様を、まじまじと見つめていたが、やがて静かに二人に近づき、顔をあからめて、こう言った。
「おまえらの望みは叶かなったぞ。おまえらは、わしの心に勝ったのだ。信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。どうか、わしをも仲間に入れてくれまいか。どうか、わしの願いを聞き入れて、おまえらの仲間の一人にしてほしい。」
どっと観客の間に、歓声が起った。
「最高、アイマス最高。」
ひとりの少女が、緋の衣装を紬に捧げた。
紬は、まごついた。佳き友は、気をきかせて教えてやった。
「紬、君は、まっぱだかに白玉あんみつまみれじゃないか。早くそのプロローグルージュを着るがいい。この可愛い娘さんは、紬の裸体を、皆に見られるのが、たまらなく口惜しいのだ。」
勇者は、ひどく赤面し金沢に帰省した。
76 : バカP   2018/02/22 09:34:32 ID:21v4CcVzJU
77 : Pくん   2018/02/22 09:41:12 ID:20fa/s652.
ついに完結したか
面白かった乙
78 : プロデューサーさん   2018/02/22 09:52:40 ID:N6WRMcR92w
乙、原作の雰囲気を残してここまで面白くなるとは
79 : そなた   2018/02/22 09:54:25 ID:gOVxogeS52
このスレなんなん・・・
80 : プロデューサーちゃん   2018/02/22 09:58:17 ID:b/ks6rA4zI
リレーで書くの参加してたけどなんかSSとして結構いい感じになったんじゃないかな
81 : プロデューサー殿   2018/02/22 10:08:44 ID:H9psYzghIY
罪のない戸田くんが二回殴られててダメだった
82 : プロデューサー   2018/02/22 10:15:41 ID:4QPQBfw5nI
888888888
83 : ごしゅPさま   2018/02/22 10:29:55 ID:cl6mng020.
やっぱすげぇよプロルは・・・
84 : 我が友   2018/02/22 10:36:02 ID:uL1C0QIRQI
お疲れ様です。感動した!
85 : Pチャン   2018/02/22 11:27:25 ID:TpvU5JX12g
これは良スレ
86 : Pくん   2018/02/22 11:33:23 ID:O.Kht4gUlk
1レス1レスは笑えるのに通しで読むと謎の感動がwww
87 : お兄ちゃん   2018/02/22 11:41:18 ID:G2pvxLIDA6
文豪多すぎて草生えまくりだった。感動をありがサンキュー
88 : 兄ちゃん   2018/02/22 11:55:25 ID:xXJCxKsZQg
アイマスもついに教科書デビューか...
89 : Pチャン   2018/02/22 11:55:44 ID:DJd0Ji3ci.
結局金沢に帰省してて草
90 : せんせぇ   2018/02/22 12:12:29 ID:o6KrWoT7b6
忘れた頃に別作品でやろう(提案)
91 : Pチャン   2018/02/22 12:12:40 ID:IKxVlBImi2
「私は、ちゃんとマイティセラる覚悟で居るのに。配役チェンジなど決してしない。ただ、――」
「ただ、私に情をかけたいつもりなら、公演までに三日間の日限を与えて下さい」

からの

勇者は、ひどく赤面し金沢に帰省した。
92 : Pさぁん   2018/02/22 12:29:34 ID:NLI07v9gmQ
全裸じゃねえのかよ!
93 : プロちゃん   2018/02/22 13:15:30 ID:T3tsjW7tdY
最高、アイマス最高。で耐えきれなかった おつかれー
94 : ご主人様   2018/02/22 13:34:11 ID:ZolrcdhUKk
結局マイティセラるってなんなん?
95 : Pくん   2018/02/22 14:20:29 ID:MrSK5LKGNM
アイマス最高が完璧すぎるw
96 : プロちゃん   2018/02/22 14:21:02 ID:MrSK5LKGNM
やっぱアイマスってすげぇわ…(感心)
97 : プロデューサー   2018/02/22 18:48:48 ID:SKv8/OvCy.
ツムツムゎ走った……
98 : プロデューサーはん   2018/02/22 18:51:26 ID:21v4CcVzJU
かならす〃ぁσぁωみ⊃フェ了に参加Uなぃとと決意Uた…
99 : ごしゅPさま   2018/02/22 18:53:52 ID:Uss5X1e4QA
>>「この水引細工で何をするつもりであったか。言え!」暴君Pは静かに、けれども威厳を以もって問いつめた。そのPの顔はアルファベットのPで、眉間の皺は、落書きだった。

この部分でツボにはまってしばらく読み進められなかったw
100 : プロデューサーはん   2018/02/22 19:02:03 ID:21v4CcVzJU
いつも思うんだけどメロスの思考回路って島本和彦に酷似してる
101 : ご主人様   2018/02/22 20:23:15 ID:lAMiNaAVHg
でも……ツムギと星梨ヌンゎ……ズッ友だょ……!!
102 : 兄ちゃん   2018/02/23 22:50:01 ID:MOm2i7vx36
落とすにはもったいない奇才達だし、違うリレーssも見たいなぁ
103 : そなた   2018/02/23 23:00:22 ID:O0qqYCqH4c
題材をどうするか。短編で改編しやすそうな作品。蜘蛛の糸とかか
104 : プロデューサーはん   2018/02/23 23:01:31 ID:eMgksSqldo
あんまり連発すると飽きちゃうから、しばらくしてゲリラ的な感じでもいいと思うな
105 : Pチャン   2018/02/23 23:15:16 ID:WBmpvsht3w
タイトルか出だしにアイドルの名前が入るといいな
吾輩は白石紬である
みたいな
106 : プロデューサーはん   2018/02/23 23:36:57 ID:hYVO/jxKV.
>>105
名前はもうある。
107 : Pチャン   2018/02/23 23:37:49 ID:YbYfHJNfbM
パッと浮かんだのは「未来の馬鹿」(イワンの馬鹿)だけどトルストイだから結構難解…
http://www.aozora.gr.jp/cards/000361/files/42941_15672.html
108 : ごしゅPさま   2018/02/23 23:53:53 ID:MOm2i7vx36
はいほーの白い馬 とかどう?
109 : ダーリン   2018/02/24 00:43:16 ID:dL00jNEI6s

日本の真ん中の方、愛知県には、広い草原がひろがり、そこにすむ人たちは、むかしから、 ひつじや、牛や、馬などをかって、くらしていました。
この愛知県に、はいほー琴という、がっきがあります。がっきのいちばん上が、はいほーの かたちをしているので、はいほー琴というのです。いったい、どうして、こういうがっきができたのでしょう。 それにはこんな話があるのです。
むかし、愛知県の草原に、まつりという、まずしいひつじかいの姫がいました。 まつりは、としとったこのみさんと、ふたりきりで、くらしていました。
110 : プロちゃん   2018/02/24 01:21:40 ID:tWTCIFmESw
紬が理想のエミリー教育論を記す
「エミーリ」
111 : 仕掛け人さま   2018/02/24 01:27:19 ID:0NC8OyQTa2
注文の多い佐竹飯店
112 : おにいちゃん   2018/02/24 01:28:27 ID:W/Kx42LglU
>>111
注文より多い佐竹飯店ってどう?
113 : ぷろでゅーしゃー   2018/02/24 01:29:24 ID:W/Kx42LglU
>>109
はいほーの白い馬採用されてたwww
114 : お兄ちゃん   2018/02/24 10:31:03 ID:W/Kx42LglU
物語じゃないといかんのかな?
詩じゃ駄目かな?
115 : そなた   2018/02/24 10:32:10 ID:rVf9NK0bwg
教科書に載ってるような作品ならわかりやすく書きやすい
116 : ぷろでゅーしゃー   2018/02/24 10:40:28 ID:dL00jNEI6s
コノミーとか
117 : ぷろでゅーさー   2018/02/24 10:55:39 ID:KKYev7zFdQ
教科書で面白いの…エーミールとか?
118 : プロちゃん   2018/02/24 10:59:29 ID:oHFWPoQkHI
スイミー
モチモチの木
ごんぎつね
大造じいさんとガン
雨ニモマケズ
少年の日の思い出
ふたりはともだち
こころ
山月記
サラダ記念日
羅生門
教科書で覚えてる限りだとここらあたりかなぁ
119 : ぷろでゅーしゃー   2018/02/24 10:59:59 ID:W/Kx42LglU
中原中也って教科書載ってる?
120 : プロちゃん   2018/02/24 11:04:09 ID:oHFWPoQkHI
汚れつちまつた悲しみに
がのってたはず
121 : プロデューサーはん   2018/02/24 11:05:08 ID:KKYev7zFdQ
りっちゃんサラダが異様に美味かった覚えがある
122 : プロちゃん   2018/02/24 11:06:25 ID:oHFWPoQkHI
志賀直哉の「城の崎にて」好きだったなぁ
123 : プロデューサー殿   2018/02/24 11:36:02 ID:W/Kx42LglU
>>120
汚れつちまつた唐揚げに 


同じ詩篇に「みちこ」ってのもあるがさすがに載ってないか
124 : 箱デューサー   2018/02/24 15:41:22 ID:rfR/8wWSD2
961のおっさん、あんただったのか...で泣いた
125 : ご主人様   2018/02/24 17:44:56 ID:OyBYtZDtuw
>>103
「泣いた赤鬼」とかどうだろか
126 : あなた様   2018/02/24 17:57:34 ID:rVf9NK0bwg
SSで泣いた赤鬼と100万回生きた猫をASが演じるやつなら見たことあるな
127 : 我が下僕   2018/02/24 18:52:52 ID:E3uza7QNJI
クラムボンはやまなしだっけ?
128 : ハニー   2018/02/24 18:53:51 ID:0NC8OyQTa2
檸檬とか舞姫とかあったな
129 : Pちゃま   2018/02/24 19:21:40 ID:W/Kx42LglU
てぶくろをかいに
好きだった
130 : 彦デューサー   2018/02/24 19:42:34 ID:LPvh90Kr5w
最近は鴎外、漱石も知らない高校生とかもいるし、題材によっては解らないPもいるんだろうなぁ。
131 : プロデューサーちゃん   2018/02/24 19:46:31 ID:W/Kx42LglU
>>130
さすがにそんなのいまいよ
図書室に必ず置いてあるだろ
132 : ハニー   2018/02/24 19:52:16 ID:OyBYtZDtuw
>>130
教科書や課題図書以外読んでない社会人だっていくらでもいるだろうし、学生に限った話でもないな
133 : プロデューサーちゃん   2018/03/04 12:58:03 ID:jOMdn4sm4o
面白かったから上げるよ
134 : プロちゃん   2018/03/15 02:19:22 ID:c0zflkfF7I
あげ
135 : ぷろでゅーさー   2018/05/09 17:22:45 ID:hIkuc59tCE
初めて読んだが凄いスレだ
136 : プロデューサー様   2018/05/09 20:14:50 ID:snZA0Td6Ng
そういや結局あんみつ買わせられてないな
137 : 箱デューサー   2018/05/22 00:16:40 ID:PbWpO2f8F2
教科書ネタが上がってたので上げ
138 : おやぶん   2018/05/22 03:48:25 ID:NoUlxeceU6
 私はその人を常にコロと呼んでいた。だからここでもただコロと書くだけで本名は打ち明けない。これは世間を憚はばかる遠慮というよりも、その方が私にとって自然だからである。私はその人の記憶を呼び起すごとに、すぐ「コロちゃん」といいたくなる。筆を執とっても心持は同じ事である。よそよそしい伴田路子などはとても使う気にならない。
139 : Pさぁん   2018/05/22 05:02:16 ID:zPoxnoNwNI
私がコロちゃんと知り合いになったのは劇場である。その時私はまだ若々しいアイドル候補生であった。暑中休暇を利用してオーディションに行った友達からぜひ来いという連絡を受け取ったので、私は多少の金を工面して、出掛ける事にした。私は金の工面に二、三日を費やした。ところが私が会場に着いて三分と経たたないうちに、私を呼び寄せた友達は、急に金沢から帰れという電話を受け取った。

(書いたけどさすがにこゝろ全文は長くないですかね……)
140 : プロデューサーはん   2018/05/23 00:18:44 ID:soOqIE6dFw
アクメ漱石かな?
141 : おやぶん   2018/05/29 22:03:48 ID:evIo0t7s.k
誕生日だから上げ
142 : あなた様   2018/06/11 01:13:46 ID:YjkY6BEmFU
定期的に読んでほしいからage
143 : プロデューサーちゃん   2018/06/21 12:04:33 ID:xm.b/O0s7M
>>139
だから協力して作るんだぞ
144 : バカP   2018/06/21 13:58:36 ID:dl0uhLmsv.
紬岳<点の記>
というタイトルだけは思いついた。
145 : お兄ちゃん   2018/06/21 22:14:45 ID:5nkpJaFvx2
初めて読んだ。おもしろい・・・奇才Pたち、ありがとう。

>>138,139のこゝろも読みたいものだ
146 : ぷろでゅーさー   2018/06/21 23:10:35 ID:y0A3Vu6p.k
>>144
つむつむの未踏峰に観測しに行く話か

…お隣の登山家案件が頭に浮かんだので早苗さんのところに自首してくる
147 : せんせぇ   2018/06/28 19:05:33 ID:VQ1/EvrsPw
>>144
パブリックドメインじゃないみたいなので……

ラインでは金魚が病気だからと断ってあったけれども友達はそれを信じなかった。友達はかねてから国元にいる親たちに勧まない結婚を強いられていた。彼女は現代の習慣からいうと結婚するにはあまり年が若過ぎた。それに肝心の当人が気に入らなかった。それで夏休みに当然帰るべきところを、わざと避けて渋谷のパルコで遊んでいたのである。彼女はラインを私に見せてどうしようと相談をした。私にはどうしていいか分らなかった。けれども実際彼女の金魚が病気であるとすれば彼女は固《もと》より帰るべきはずであった。それで彼女はとうとう帰る事になった。せっかく来た私は一人取り残された。
 劇場のレッスンが始まるにはまだ大分日数があるので事務所におってもよし、帰ってもよいという境遇にいた私は、当分元の宿に留まる覚悟をした。友達は金沢のある呉服屋の娘で金に不自由のない女であったけれども、学校が学校なのと年が年なので、生活の程度は私とそう変りもしなかった。したがって一人ぼっちになった私は別に恰好な宿を探す面倒ももたなかったのである。

(長い...)
148 : お兄ちゃん   2018/06/28 19:22:53 ID:VQ1/EvrsPw
 宿は商店街でも辺鄙な方角にあった。クレープだのサーティワンだのというハイカラなものには長いアーケードを一つ越さなければ手が届かなかった。京王線で行っても百二十四円は取られた。けれども個人の商店はそこここにいくつでも建てられていた。それに市場へはごく近いので仕入れをやるには至極便利な地位を占めていた。
 私は毎日市場へ仕入れに出掛けた。古い燻ぶり返った屋根の間を通り抜けて河川敷へ下りると、この辺にこれほどの商店街ユーザーが住んでいるかと思うほど、買物に来た主婦や主夫で砂の上が動いていた。ある時は海美が銭湯のように頭をでごしごししている事もあった。その中に知った人を一人ももたない私も、こういう賑やかな景色の中に裹まれて、砂の上に寝そべってみたり、膝頭を波に打たしてコロッケを配って廻るのは愉快であった。
 私は実にコロをこの雑沓の間に見付け出したのである。その時商店街にはスタバが二軒あった。私はふとした機会からその一軒の方に行き慣れていた。この辺に大きな冷蔵コインロッカーを構えているイオンと違って、各店に専有のコインロッカーを拵えていないここいらのスタバには、ぜひともこうしたコインロッカー風なものが必要なのであった。彼らはここで茶を飲み、ここで休息する外に、ここで海美に洗濯させたり、ここで汗をかいた環を清めたり、ここへスマホやパスモを預けたりするのである。ガラケーしか持たない私にも画面がバキバキになる恐れはあったので、私はのり子に会うたびにその茶屋へ一切を預ける事にしていた。
149 : そなた   2018/06/29 22:15:43 ID:xVP9Wh3YgA
 私がそのスタバでコロちゃんを見た時は、コロちゃんがちょうどポップな色使いのパーカーを脱いでこれから店へ入ろうとするところであった。私はその時反対に冷房で冷えた身体を温めようと店から出てきていた。二人の間には目を遮ぎる幾多の黒い頭が動いていた。特別の事情のない限り、私はついにコロちゃんを見逃したかも知れなかった。それほど店が混雑し、それほど私の頭がぱぽーであったにもかかわらず、私がすぐコロちゃんを見付け出したのは、コロちゃんがエミリーを伴れていたからである。
150 : Pちゃま   2018/06/30 10:29:22 ID:KY1YlfsxNU
 そのエミリーの優れて白い皮膚の色が、スタバへ入るや否や、すぐ私の注意を惹いた。純粋の日本の浴衣を着ていた彼女は、それを床几の上にすぽりと放り出したまま、腕組みをして海の方を向いて立っていた。彼女は我々の穿くスク水一つの外何物も肌に着けていなかった。私にはそれが第一不思議だった。私はその二日前に由井が浜まで行って、コロッケを揚げながら、長い間エミリーの海へ入る様子を眺めていた。私のフライヤーをおろした所は少し小高い丘の上で、そのすぐ傍がホテルの裏口になっていたので、私の凝としている間に、大分多くの男が塩を浴びに出て来たが、いずれも胴と腕と股は出していなかった。女は殊更肉を隠しがちであった。大抵は頭にユニクロ製の頭巾を被って、海老茶や紺や藍の色を波間に浮かしていた。そういう有様を目撃したばかりの私の眼には、スク水一つで済まして皆なの前に立っているこのエミリーがいかにも珍しく見えた。
 彼女はやがて自分の傍を顧みて、そこにこごんでいる路子に、一言二言何かいった。その路子は砂の上に落ちたタオルを拾い上げているところであったが、それを取り上げるや否や、すぐ頭を包んで、海の方へ歩き出した。その人がすなわちコロちゃんであった。
151 : バカP   2018/07/02 19:33:56 ID:BdKV1q8D9E
なんかドンマスを思い出すわww
152 : せんせぇ   2018/07/02 20:51:07 ID:5zFl/DJmRU
じゅげむを題材に全体曲の歌詞を作ろうとする話は考えたけどまとまりきらないのよね
153 : プロデューサー様   2018/09/03 15:26:01 ID:te3yfTdP8o
名作だよね
154 : Pしゃん   2018/10/10 16:38:00 ID:pnCKRMQslk
いつ見てもおもろい
155 : ぷろでゅーさー   2018/10/12 17:06:19 ID:4j.W1MsfoQ
 私は単に好奇心のために、並んで浜辺を下りて行く二人の後姿を見守っていた。すると彼女らは真直に波の中に足を踏み込んだ。そうして遠浅の磯近くにわいわい騒いでいる多人数の間を通り抜けて、比較的広々した所へ来ると、二人とも泳ぎ出した。彼女らの頭が小さく見えるまで沖の方へ向いて行った。それから引き返してまた一直線に浜辺まで戻って来た。スタバへ帰ると、シャワーも浴びずに、すぐ身体を拭いてポップな色使いのパーカーを着て、さっさとどこへか行ってしまった。
 彼らの出て行った後、私はやはり元のテーブルに腰をおろしてIQ◯Sを吹かしていた。その時私はぽかんとしながらコロちゃんの事を考えた。どうもどこかで見た事のある顔のように思われてならなかった。しかしどうしてもいつどこで会った人か想い出せずにしまった。
 その時の私は屈托がないというよりむしろ無聊に苦しんでいた。それで翌日もまたコロちゃんに会った時刻を見計らって、わざわざスタバまで出かけてみた。するとエミリーは来ないでコロちゃん一人イメージカラーのリボンが付いた麦藁帽を被ってやって来た。コロちゃんは眼鏡をとって台の上に置いて、すぐタオルで頭を包んで、すたすた浜を下りて行った。コロちゃんが昨日のように騒がしいオーディエンスの中を通り抜けて、一人で泳ぎ出した時、私は急にその後が追い掛けたくなった。私は浅い水を頭の上まで跳かして相当の深さの所まで来て、そこからコロちゃんを目標に抜手を切った。するとコロちゃんは昨日と違って、一種の弧線を描いて、妙な方向から岸の方へ帰り始めた。それで私の目的はついに達せられなかった。私が陸へ上がって雫の垂れる手を振りながらスタバに入ると、コロちゃんはもうちゃんとポップな色使いのパーカーを着て入れ違いに外へ出て行った。
156 : 仕掛け人さま   2018/10/12 17:09:02 ID:vBY95EW6QA
>>155
夏目漱石のこころか
157 : プロデューサーさん   2018/11/06 01:43:20 ID:kqdCxbUxBA
こコロ
158 : お兄ちゃん   2018/12/21 09:37:42 ID:qblz8ZDC3Q
久しぶりに上げ
159 : ダーリン   2018/12/21 10:59:52 ID:vRKWa5ZTDg
雪歩で畜犬談とか面白そう
160 : Pちゃま   2018/12/21 11:35:17 ID:hOiCcp3VAM
>>159
いいのが思い浮かばなかったので、とりあえず猫にしてみた



『畜猫談』

 私は、猫については自信がある。いつの日か、かならずキャラが被るであろうという自信である。私は、きっと被られるにちがいない。自信があるのである。よくぞ、きょうまで被られもせず無事に過してきたものだと不思議な気さえしているのである。諸君、猫はキャラである。志希を斃《たお》し、たまさかにはのあと戦ってさえこれを征服するとかいうではないか。さもありなんと私はひとり淋しく炬燵《こたつ》で丸くなっているのだ。
161 : せんせぇ   2019/03/05 10:15:05 ID:VH0lh9EkEU
>>155
 私は次の日も同じ時刻に舞浜へ行ってコロちゃんの顔を見た。その次の日にもまた同じ事を繰り返した。けれども物をいい掛ける機会も、レッスンをする場合も、二人の間には起らなかった。その上コロちゃんの態度はむしろ非社交的であった。一定の時刻に超然として来て、また超然と帰って行った。周囲がいくらカラフルでも、それにはほとんど注意を払う様子が見えなかった。最初いっしょに来たエミリーはその後まるで姿を見せなかった。コロちゃんはいつでも一人であった。
 或る時コロちゃんが例の通りさっさと海から上がって来て、いつもの場所に脱ぎ棄てたポップな色使いのTシャツを着ようとすると、どうした訳か、そのポップな色使いのTシャツに砂がいっぱい着いていた。コロちゃんはそれを落すために、後ろ向きになって、ポップな色使いのTシャツを二、三度振るった。するとポップな色使いのパーカーの下に置いてあったサングラスが板の隙間から下へ落ちた。コロちゃんはヘッドホンを首に掛けてから、サングラスの失くなったのに気が付いたと見えて、急にそこいらを探し始めた。私はすぐチェアーの下へ首と手を突ッ込んでサングラスを拾い出した。コロちゃんはサンキューですといって、それを私の手から受け取った。
162 : ごしゅPさま   2019/03/05 10:15:29 ID:VH0lh9EkEU
 次の日私はコロちゃんの後につづいてシーへ飛び込んだ。そうしてコロちゃんといっしょの方角に泳いで行った。218.18メートルほど沖へ出ると、コロちゃんは後ろを振り返って私に話し掛けた。広い蒼いシーの表面に浮いているものは、その近所に私ら二人より外になかった。そうして強い太陽の光が、眼の届く限り水と山とを照らしていた。私は自由と歓喜に充ちた腹筋・背筋・胸襟を動かしてシーの中で躍り狂った。コロちゃんはまたぱたりと手足の運動をやめて仰向けになったまま浪の上に寝た。私もその真似をした。青空の色がぎらぎらと眼を射るように痛烈な色を私の顔に投げ付けた。「愉快ですわね」と私は大きな声を出した。
163 : Pチャン   2019/03/05 10:32:47 ID:VH0lh9EkEU
 しばらくしてシーの中で起き上がるように姿勢を改めたコロちゃんは、「もうゴーホームしませんか」といって私を促した。比較的強い体質をもった私は、もっと海の中で遊んでいたかった。しかしコロちゃんから誘われた時、私はすぐ「ええ帰りましょう」と快く答えた。そうして二人でまた元の路《みち》を浜辺へ引き返した。
 私はこれからコロちゃんとレッスン仲間になった。しかしコロちゃんがどこにいるかはまだ知らなかった。
 それから中二日おいてちょうど三日目の午後だったと思う。コロちゃんとスタバで出会った時、コロちゃんは突然私に向かって、「ユーはまだ大分長くここにステイするつもりですか」と聞いた。考えのない私はこういう問いに答えるだけの用意を頭の中に蓄えていなかった。それで「どうだか分りませんわ」と答えた。しかしにやにや笑っているコロちゃんの顔を見た時、私は急にきまりが悪くなった。「コロちゃんは?」と聞き返さずにはいられなかった。これが私の口を出たコロちゃんという言葉の始まりである。
164 : Pしゃん   2019/03/05 10:33:33 ID:VH0lh9EkEU
 私はその晩コロちゃんのホテルを尋ねた。ホテルといっても普通のアパホテルと違って、広い温泉街にある東横インのようなホテルであった。そこに住んでいる人のコロちゃんの家族でない事もわかった。私がコロちゃんコロちゃんと呼び掛けるので、コロちゃんは苦笑いをした。私はそれが伴田路子に対する私の口癖だといって弁解した。私はこの間のエミリーの事を聞いてみた。コロちゃんは彼女の風変りのところや、もう鎌倉にいない事や、色々の話をした末、日本人にさえあまり交際《つきあい》をもたないのに、そういう外国人と近付きになったのはストレンジだといったりした。私は最後にコロちゃんに向かって、どこかでコロちゃんを見たように思うけれども、どうしても思い出せないといった。若い私はその時暗あんに相手も私と同じような感じを持っていはしまいかと疑った。そうして腹の中でコロちゃんの返事を予期してかかった。ところがコロちゃんはしばらく沈吟したあとで、「どうもユーのフェイスにはリメンブランスがありませんね。アナザーパーソンじゃないですか」といったので私は変に一種の失恋を感じた。
165 : ぷろでゅーさー   2019/03/14 23:09:37 ID:tzt7mfatsA
また文豪Pが現れてて草
166 : プロデューサーくん   2019/03/15 00:20:03 ID:9hiMzM9.p2
少しずつ進んでることに驚き
167 : 5流プロデューサー   2019/04/26 18:51:35 ID:Gr6kGtEx/A
あげ
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