【SS】はてしないTHE iDOLM@STER
1 : 765歌劇場P◆9RCctPo346c   2024/02/18 22:46:11 ID:kVGxoUcuNw
SSを書いたので投下します。
いくつか注意点があるので、まずそちらから書いていきます。
524 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:12:03 ID:AkPpxCOt/.
 春香達が、トップアイドルとまではいかなくとも、すでに有名になっていて、自身はその後輩という、念願だった「輝きの向こう側」の物語に相応しいシチュエーション。とはいえ、それを楽しもうという気持ちを、今の百合子が持ち得るはずもなかった。読者ならぬ登場人物の身になってしまった以上、まずはとにかく、このパラレルワールドに適応して、生きていかなければならない。
 幸いなことに、学校の友人たちとやりとりしたメールや写真は、百合子の記憶とほぼ一致していた。この世界は、自身が芸能活動を始めていること以外、現実と変わらないらしい。アイドルスクールに通いだしてからの日もまだ浅いようで、歌やダンスが拙くとも、何とかごまかせるかもしれないと思えた──あとは合宿に参加するメンバーと、うまく関係を作れたら……

「……百合子さん、お待たせ……」
「えっ……」

 声のしたほうを向くと、そこにいたのは、ピンク色のパーカーに膝丈のデニムスカート姿、小ぶりなキャリーバッグを引っ張り、眠たげな表情を浮かべた女の子──杏奈ちゃんだ! 
525 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:12:43 ID:AkPpxCOt/.
 顔を見たのは初めてなのに、はっきり分かる。「MILLION LIVE!」の最後で春香たちが見えたときと同じだった。

「……んと……どうしたの?」
「あ……ごめん、ちょっと考え事してて」

それ以上、言葉が出てこない。怪訝そうな表情を浮かべる杏奈と、しばらく無言で見つめ合ってから。

「い、行こっか、杏奈ちゃん」
「……うん」

2人並んで歩き出す。新宿駅といえども、早朝の人出はそう多くない。キャリーバッグを転がす音が妙に響く中、杏奈が話しかけてくる。
526 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:13:32 ID:AkPpxCOt/.
12人? 13人のはずじゃ、と一瞬思った百合子だったが、すぐにその理由を思いついた──律子さん、「MILLION LIVE!」だとアイドルだったけど、竜宮小町のいる世界なんだし、またプロデューサーになってるかも。

「……百合子さん……何か、あったの?」
「えっ?」
「……いつもより、無口な感じする、から……」

杏奈の言葉に、百合子はひやりとした。この世界にとって、自身は別次元からやってきた異邦人だ。その事実をうっかり漏らしでもしたら──白い拘束具を着せられて、監視カメラで24時間モニタリングされる精神病院に入院させられたりとか、表舞台に出てこない政府機関に拉致されて、サングラスをかけた黒服がガラス窓の向こうで見つめる中、マッドサイエンティストの研究材料にされたりとか!?
 ぼろを出したら、一巻の終わり。身震いした百合子は、とにかく言葉を絞りだした。

「まだちょっと眠くて。昨日、合宿のこと考えてたら、目が冴えちゃって……ふわぁ……」
「……そう、なんだ」
「杏奈ちゃんは、眠れた?」
「……うん……平気」

なんとか普通のやり取りに持ち込みながら、胸の内では溜息をもらす。「MILLION LIVE!」で一番仲が良く、描写も多かった杏奈との会話ですら、これでは。先行きに不安を抱えながら、百合子はホームへ下りるエスカレーターに足を踏み出した。
527 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:14:25 ID:AkPpxCOt/.
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528 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:14:42 ID:AkPpxCOt/.
「わぁ……」
「なになに? 何か見えた?」
「いえ、景色がどんどん流れて行って……新幹線って、本当に速いんですね!」
「はれっ? 星梨花ちゃん、新幹線乗ったことなかったの?」
「はい、初めてです」
「意外やなあ。旅行とか、よく行ってるんちゃうん?」
「旅行はいつも、飛行機かパパの車なんです」

通路を挟んだ席にいる3人の賑やかな声を、百合子は開いた本に視線を落としながら、聞いていた。こちら側の、2人掛けシートを向かい合わせにして座っている、自身を含めた4人は、ずっと静かだった。隣の杏奈は、車窓に目もくれず携帯型ゲームに没頭しているし、その向かい側にいる、杏奈と同い年でウェーブがかったロングヘアの少女、北沢志保も、スマートフォンを操作している。ちらりと目を上げると、正面の席では、今回のメンバーでは最年長の佐竹美奈子が、旅程表とにらめっこしていた。百合子が再び本に集中し、ページをめくろうとしたとき。

「百合子、何読んでるん?」

声のしたほうへ首を巡らすと、通路越しの隣席から上半身を乗り出した、大阪生まれのムードメーカー、横山奈緒に、手元を覗き込まれていた。
529 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:15:44 ID:AkPpxCOt/.
「エンデの『はてしない物語』です。読んだことありますか?」
「ないけどな、一つだけ分かること、あるで」
「えっ?」
「それ、大きすぎ。合宿に持ってくには向いてへんやろ」
「ま、まあ、そうかもですけど……」

朝、着替えて部屋を出るとき、百合子は本棚の下から2段目にあったこの本を手にしていた。外箱入りのハードカバー、600ページ近い厚み。奈緒の言葉通り、持ち出すのに向いているとは言えない。それでも、ファンタージエンへ飛び込んだバスチアンの描写が、きっと自身の参考になるはず、と思えば、キャリーバッグに押し込むしかなかった。

「東京の中学校でも、夏休みの宿題に読書感想文あるんやろ? 可奈、いけるほう?」
「わ、私は、ちょっと苦手かな……」
「わかるで。星梨花は?」
「苦手じゃないですけど、時間かかっちゃいます」
530 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:16:11 ID:AkPpxCOt/.
奈緒は3列シートの真ん中に座る矢吹可奈、窓側の箱崎星梨花にも会話を広げていた。読書に戻っていいものか迷う百合子の耳に、今度は美奈子の声が届く。

「その本、面白い?」
「あ、はい」

正面に向き直りながら返事をすると、美奈子が優しげに微笑んでいた。

「まだ少し時間あるから、読んでて大丈夫だよ。名古屋が近づいたら、声かけるから」
「はい、ありがとうございます」

バックダンサーに選ばれた7人のうち、百合子を含む5人はまだ中学生だったので、高校生の美奈子と奈緒が、必然的にリーダーの役回りを担ってくれていた。百合子としては、2人についていけばとりあえずは大丈夫そうだと感じる一方、他のメンバーが中2の杏奈、志保、可奈、中1の星梨花で、自身のみ中3というのは、なんとも悩ましかった。年少グループの中では一番上のお姉さんという、微妙な立ち位置で、いったいどう振る舞うのが正解なのか。さっぱりわからないまま、百合子はとにかく、「はてしない物語」を読み続けた──これからどうすればいいのか、ヒントがあるかもしれないんだし。
531 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:16:54 ID:AkPpxCOt/.
 新幹線を下りた後、在来線を乗り継ぎ、さらに路線バスに揺られ、合宿所の民宿に到着したときには午後になっていた。7人に割り当てられた1階の大部屋で荷物を解いた後、少し開いた時間に、百合子は「はてしない物語」を、全体の折り返し地点、バスチアンがファンタージエンへと足を踏み入れたシーンまで進めていた。
 バスチアンは「月の子(モンデンキント)」と出会い、できるだけ多くの望みを持つようにと告げられる。望みこそが、ファンタージエンを救う源泉になる、と。バスチアンは当惑した。背が低く太っていて、顔色の悪い弱虫は、どう考えても救世主に相応しくない。しかし、「月の子(モンデンキント)」の瞳を覗き込むと、そこに映っていたのは、誇り高く毅然として、ほっそりと上品でありながら、力強さも感じさせる美少年だった。それが今の彼自身の姿だと理解したとき、バスチアンは悟る。ファンタージエンは、彼自身の望みが実現する世界なのだ。
532 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:17:23 ID:AkPpxCOt/.
 ここまで読む中で、百合子は忘れていた細かい部分も思い出し、続きがどうなるのかもだいたい分かるようになっていた──バスチアン、美少年になったら、太っちょだったことを忘れちゃうんだよね。それで、このあとも望みが叶うたびに、その前がどうだったのかの記憶が無くなって、最後は現実世界のこと、ほとんど全部忘れちゃって……って、もしかして私も!?
 元の世界に戻れなくなるかもしれない。今さらながらの思いつきに動揺した百合子は、不安を打ち消せるようなロジックの組み立てに挑んだ──確かに、トップアイドルになった後の春香さん達を見たいって望んだのは私だし、それっぽい世界が実現してる。でも、バスチアンと違って、望み通りになっても、元の世界のことや、5冊の「THE iDOLM@STER」の内容、忘れてないよね。それに、バスチアンだって、結局は現実に帰れたんだし。きっと大丈夫……なはず!
533 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:18:13 ID:AkPpxCOt/.
 いまいち説得力に欠ける気もしたが、百合子はとにかく納得することにした。そして、次のページをめくろうとした、そのとき。

(タタッタタタッタッ)

入り乱れた足音のあとに、ふすまが開き、閉まる音も続く。顔を上げると、浮足立った奈緒と可奈が部屋に入って来たところだった。

「来たで!」

奈緒の一言で、部屋の空気が変わる。
534 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:18:54 ID:AkPpxCOt/.
「みんな、準備はいい?」

 美奈子の呼びかけに、皆がごそごそとする中、百合子も「はてしない物語」を閉じ、外箱に入れる。直後にふすまがノックされ、朗らかな男の声が続いた。

「765プロだけど、入ってもいいかな?」
「ど、どうぞ」

 美奈子の返事に、ふすまが開く。そこに立っていたのは、眼鏡をかけた優男──プロデューサーさんだ!
 いよいよ「輝きの向こう側」に進んだアイドルのお話が始まる。百合子は顔の筋肉が強張るのを感じながら、立ち上がった。
535 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:19:14 ID:AkPpxCOt/.
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536 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:20:31 ID:AkPpxCOt/.
 プロデューサーに案内された、廊下との仕切りのない談話室で、百合子は他の6人とともに、奥側の窓を背にして並び立っていた。自身の呼吸音がやけに大きく聞こえるし、心臓もばくばくしている。何か一口、飲んでくれば良かった、と思ったとき、廊下に眼鏡をかけた女性が現れた。百合子は、それが律子だともちろん分かったし、やはりこの世界ではアイドルでなく裏方らしいとも直感した。

「こっちよ。入って、座って」

 振り返った律子の呼びかけに、春香が、美希が、千早が、他のアイドルたちも姿を現わし、次々と部屋へ入って来る。百合子は、その様子を視界に捉えてはいたが、誰とも目を合わせないようにしていた。口の中はからからだった。

「あの、そんなに緊張しなくていいから」
「みんな本業は同じスクールに通うアイドル見習いだけど、今回は特別にダンサーとして協力してくれることになったの」

 プロデューサーの苦笑交じりの声も、律子の説明も、妙に遠く感じる。

「はい、自己紹介」

 律子に促され、全員が並んでいる順に名乗っていく。
537 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:21:06 ID:AkPpxCOt/.
「佐竹美奈子です!」
「横山奈緒です!」

 ──あ……私の番!?

「な……七尾百合子です!」

 ぎりぎりで我に返って、なんとかやり過ごす──ちょっと噛んじゃったけど、大丈夫だった?

「北沢志保です」
「箱崎星梨花です」
「望月杏奈、です」
「やっ、矢吹可奈です!」
538 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:21:41 ID:AkPpxCOt/.
最後の可奈が言い終えたあと、

「よろしくお願いします!」

 全員で声を揃え、頭を下げる。

(パチパチパチパチ)

「よろしくお願いします」

 拍手の音に続いて、春香達の声も聞こえた。顔を上げたとき、百合子はようやく、765プロのアイドルをきちんと見ることができた。ソファに座る春香と千早、真と雪歩。廊下との境の段差に腰掛ける響。その左に伊織、右に美希とやよいが立っていた。
539 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:22:06 ID:AkPpxCOt/.
「よろしくね」

 春香が微笑みながら、一番近くにいる可奈に話しかける。

「はっ、はいっ! 頑張ります!」

 大声で返事をする可奈の様子を窺いながら、百合子は少し安心した──私だけ挙動不審、ってことにはならなそう。良かった……って言っていいのかな?
540 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:23:28 ID:AkPpxCOt/.
 顔合わせの後、用意してもらったトレーニングウェアに着替え、別棟のレッスン場へと移動した百合子たちは、765プロのアイドルと一緒に、合宿の基本方針やスケジュールについて、プロデューサーと律子から説明を受けた。亜美、真美、あずさ、貴音の合流は今晩で、真と雪歩も数日後に一時離脱するといった、売れっ子ぶりを示す話に、体育座りで膝をかかえた百合子は、この世界が自身の望んだ「輝きの向こう側」の物語の舞台だということを、改めて感じていた。

「まだ全員そろってはいないけど、みんなで作った貴重な時間だ。有意義に使おう!」
「はい!」

プロデューサーの締めの言葉に、アイドルもバックダンサーも、声を揃えて返事する。ここは百合子も大声で和した──うん、挨拶と返事はしっかりしよう。それだけでも、だいぶ不審者っぽさは減るはず。

「合宿中はビシバシいくから、覚悟しなさいね」
「望むところだぞ」
「あんたのしごきには慣れてるわよ」

律子の猛特訓予告に、響と伊織が応じる。続けて律子は、春香を指名した。
541 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:24:20 ID:AkPpxCOt/.
「春香」
「へ?」
「リーダーとして、一言お願い」
「は、はい」

 立ち上がった春香を、真と雪歩がはやし立てる。

「よっ、頼んだよリーダー!」
「春香ちゃん、頑張って!」
「えへへ……うわわっ」

 前に出ようとして転びかけた春香は、なんとかこらえると、照れ笑いを浮かべながら百合子たちのほうに向き直った。

「あはは……え、えーと、一言、一言……」
542 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:25:26 ID:AkPpxCOt/.
「意気込みとかあるでしょ?」
「そ、そうだね……えっと……」

 伊織に促された春香は、少し考えてから、話し始めた。

「まず、こうしてみんなで協力して、合宿を実現できたことが嬉しいです。今回のアリーナでのライブは、過去経験したことない、大きな規模のライブだよ。私達にとって、大きなステップアップになると思うし、大切な思い出にもなると思う」

 春香の言葉は、どんどん熱を帯びていく。

「何より、応援してくれる多くのファンの人たちのためにも、力を合わせて、最高のライブにしよう!」
「おー!」

 春香の呼びかけに、765プロのメンバーは全員立ち上がって、腕を突きあげる。百合子はその光景を陶然と眺めていた──すごい! 春香さん、すごい!
 百合子の想像していた「輝きの向こう側」を軽々と超える、圧倒的な説得力を感じさせる春香と、そんな春香を当然のように受け止める美希や千早達。しかもそれが、本の中ではなく、目の前で繰り広げられている。あまりにも刺激的だった。
543 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:26:47 ID:AkPpxCOt/.
「みんなー! いつもの、いくよー!」

 号令をかけた春香を起点に、円陣が組まれる。

「ほら、アンタたちも!」
「は、はい!」

 伊織に誘われて、百合子達も立ち上がり、輪に加わった。

「じゃ、いくよー? 765プロー!」
「ファイトー!」

 春香の声に掛け声に、765プロのアイドル達は声を揃えて応える。
544 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:27:00 ID:AkPpxCOt/.
「ファ、ファイトー」

 戸惑いながらも追随するバックダンサー陣。百合子は内心の興奮のまま、気合いの入った雄たけびを上げそうになったが、寸前で雰囲気を察し、皆に合わせた遠慮がちな声にして、その場を乗り切った。
545 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:27:16 ID:AkPpxCOt/.
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546 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:27:51 ID:AkPpxCOt/.
「うーでもー、あーしもー、うーごかーないー、上腕三頭筋がー、大腿四頭筋がー!」
「可奈、その歌やめてくれへん? 余計しんどなるわ」
「ここ、一人部屋じゃないのよ」

 畳に倒れ伏した可奈のでたらめな歌に、重ねられた布団へ上半身を投げ出した奈緒と、スマートフォンをいじっている志保が、つっこみを入れる。初日のレッスンが全て終わり、大部屋に戻った百合子たちは、くたびれ切った身体を、思い思いの方法で休めていた。壁際に座り込んだ百合子も、疲労感は相当なものだったが、それでも気力を奮って、「はてしない物語」の続きを読んでいた。
547 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:28:28 ID:AkPpxCOt/.
 バスチアンはファンタージエンで、次々と望みをかなえていった。巨大なライオンを手なずけ、英雄たちの集まる競技大会で優勝し、素晴らしい詩を作って、人々の称賛を欲しいままにする。そしてついには、ファンタジーエンの帝王の座を望むようになるのだが、そのときのバスチアンは、すでに現実世界の記憶の大半をなくしていた。
 百合子は再び不安になってきた。バスチアンは記憶がなくなっても、それに気づかない。当然ながら、人は何かを忘れているとき、そのことを自覚できないわけで──ひょっとしたら私も、気が付いてないだけで、何かの記憶をなくしてたりするのかも?
 これから、どうすればいいのか。百合子は確信を持てないながらも、ひとまずバスチアンを反面教師にしようと思った。多くを望まず、端役として地味にやっていく。
548 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:29:00 ID:AkPpxCOt/.
 考えてみれば、格別難しいことでもなさそうだった。もともと春香達の活躍するお話を読みたかったわけで、自身を主役にするつもりなど、さらさらない。実際、今日のレッスンを思い返してみても、百合子たちバックダンサー組は、765プロのアイドル達に技術体力双方で差を見せつけられる、いわば引き立て役になっていた──「MILLION LIVE!」でダンスが得意だった美奈子さんや奈緒さんもきつそうだったし、杏奈ちゃんもハイテンションになるスイッチ、入らなかったよね。これってつまり、主役は春香さん達って私が思ってるから、そんな感じの世界になってるってことで。だったら、このまま普通に、余計なことしないようにすれば、たぶん大丈夫……

「765プロっていいなぁ。なんか、信頼で結ばれてるっていうか……」
「別にそういうの、関係なくない? プロの人って、もっとドライなのかと思ってた」

 可奈と志保、「MILLION LIVE!」でも仲の良かった2人の会話をBGMに、百合子は「はてしない物語」の、残り少ないページをめくった。
549 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:29:26 ID:AkPpxCOt/.
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550 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:30:24 ID:AkPpxCOt/.
 連日のハードなトレーニングを何とかこなしていき、合宿も佳境に入った一日、レッスンがメディア向けに公開された。テレビカメラや芸能記者に取り囲まれる765プロのアイドル達を、百合子は杏奈や星梨花と一緒に、邪魔にならないよう、座って眺めていた。その後、取材陣に見守られる中、全員でのレッスンが始まった。

「ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ、シックス、セブン、エイト! ワン、ツー、スリー、フォー……はーい、ちょっとストップ! 全体を意識して! もう1回!」
「はい!」
「じゃ、同じところから。ワン、ツー、スリー、フォー……」

 手拍子を取る律子の指導に、百合子もみんなと一緒に大声で返事をして、また踊り始める。ただ、やはりいつもとは勝手が違った。ターンするたび、どうしても周囲が目に入る。テレビカメラ、一眼レフカメラ、ガンマイク……見たこともない、本格的な機材を手にする人々。事前にプロデューサーから、特に意識をせず、練習に集中するようにと言われてはいたが、気になるのは止められない。しっかりやらないと、と思いながら身体をひねったとき、床についた足が外側によじれる。

「あ、あっ!?」

 次の瞬間、百合子は尻もちをついていた。
551 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:31:44 ID:AkPpxCOt/.
「あ……真、救急箱!」
「わかった!」

 律子と真の声が聞こえる中、百合子は何とか立ち上がるが……

「痛っ!」
「だめよ、動いちゃ」

 左足首がズキリと痛み、ふらつきかけたとき、背後から肩を支えられた。振り向くと、すぐ近くにあずさの顔があった。あまりにも綺麗で、少しどきっとする。

「こっちに」

 促されるまま、レッスン場の隅に移動し、腰を下すと、救急箱を持った真が小走りでやってきた。
552 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:32:38 ID:AkPpxCOt/.
「あずささん、これ」
「ありがとう。百合子ちゃん、痛いのはどこ?」
「……足首です、左の」

 真から受け取った痛み止めスプレーを、あずさは数回振ってから、靴下越しに吹き付けてくれる。ひんやりとした感触が、痛みのある場所に広がった。

「靴、脱いで。靴下も」
「は、はい」

 あずさと入れ替わるように座った真からの指示で、百合子は素足になる。

「足首、動かせる?」
「はい……っ!」
「こことか痛い? ここは?」
553 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:32:59 ID:AkPpxCOt/.
真の手が、患部をチェックしていく。

「大丈夫です」
「痛いの、ここだけ?」
「あっ……はい」
「そっか。たぶん、軽い捻挫だと思う。テーピングしておくよ」

 慣れた手つきでテープを引き出す真と、それを見守るあずさ。

「……すみません、ありがとうございます」

 百合子は小さくそう言うのが精一杯だった。
554 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:33:15 ID:AkPpxCOt/.
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555 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:33:55 ID:AkPpxCOt/.
 大事をとって、その日の後のレッスンがすべて見学になった百合子は、脱落した情けなさを感じると同時に、これも「輝きの向こう側」の物語の要素なのかもしれない、と考えていた。主人公の前に立ち現れる、乗り越えるべき困難。お話を盛り上げる、王道の展開。「THE iDOLM@STER SP」では美希、「THE iDOLM@STER 2」では冬馬が、ライバルとしてその役割を担っていた──今回は、私達バックダンサーがやる感じ? もちろん、ライバルは無理だけど、足手まといとして春香さん達を困らせる感じで。でも、最後には全部解決して、アリーナライブを成功させるとか。
 ただ、あくまでも脇役でいたい百合子からすると、準主役とも言える美希や冬馬の立ち位置に自身を置くなど、考慮の外だった。自身以外の誰かがお話の中心になってくれたら、と思いながら、百合子はレッスン中の6人をよく観察した。
556 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:34:32 ID:AkPpxCOt/.
 飲み込みが早いのは、やはり高校生の美奈子と奈緒だった。リーダー格でもあるし、この2人が問題を起こす展開は考えにくい。残りの4人はどうだろうか。最年少の星梨花は、体力的には厳しそうに見える。ただ、素直で真面目な優等生という、トラブルの原因にはなりにくいパーソナリティの持ち主だ。となると、杏奈、可奈、志保のうちから──でも、杏奈ちゃんだと、私もセット目立っちゃうかもしれないから、ここは可奈ちゃんと志保がいいかな。特に可奈ちゃん、こうやって外から見てると、ダンスが遅れてること、多いし。
 本を読んでいるとき、描写されなかったことや先の展開を考えてみるように、百合子は目の前の光景から想像を広げていた。それは日頃からの癖というだけで、特別なことではなかった。こうだったらいいのに、と気軽に思う程度で、真剣に実現を望んでいたわけではない。そのはずだった。
557 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:34:56 ID:AkPpxCOt/.
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558 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:35:38 ID:AkPpxCOt/.
 合宿が終わって1か月ほど後。百合子達は、春香、千早、あずさの3人が出演する、商業施設でのミニライブに、バックダンサーとして出演した。アリーナライブに備え、本番のステージに慣れるためにも、というプロデューサーの配慮だったのだが……

「ほんまもんのステージって、音も大きいし暑うて、なんか凄かったわ」

 ライブ後の楽屋の雰囲気は、完全にお通夜だった。いつも明るい奈緒が、顔を伏せてしまっている。

「頭が真っ白になって、全然、練習通りにいかなかったですね……」

 百合子も同調せざるを得なかった。本当にぼろぼろだった。

「大丈夫なのかな、私達」
「ほ、本番までまだ時間あるんだし、みんなで一緒に頑張れば、きっと大丈夫だよ」

 美奈子の不安げな声に、可奈が明るく言う。今回のステージで、可奈は星梨花と接触し、転倒している。一番悔しい思いを抱えているはずだ。それでも、精一杯の空元気で、弱音を吐く年上の3人に気を遣ってくれている。百合子は、ありがたくも申し訳ない心持ちだった。しかし、違う受け止め方をするメンバーもいた。
559 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:36:36 ID:AkPpxCOt/.
「あなたが一番出来てないんじゃない」

 そう言ったのは志保だった。

「えっ?」
「みんなでとか、一緒にとか言う前に、自分のことをどうにかしなさいよ」

 戸惑い気味の可奈を睨み、志保は容赦なく言葉を続ける。

「志保!」

 奈緒が咎め、美奈子も無言で立ち上がる。

「……やめようよ」

 一触即発の雰囲気に、杏奈が割って入る。
560 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:37:15 ID:AkPpxCOt/.
「そこまで言わなくてもいいんじゃない?」

 百合子も、何とかしたいという思いから、できるたけ穏やかな調子で、志保に話しかけた。そのとき。

「どうしたの?」

 楽屋の入口から声がした。振り向くと、声の主のあずさと、心配そうな表情を浮かべた春香がいた。

「あ、いえ、なんでも……」

 答えた奈緒の目は泳いでいる。ひとまず場は収まったものの、気まずい空気は漂ったまま。いたたまれない気分の百合子だったが、それとは別に、心にさざ波が立つのも感じていた──これって、ひょっとして私のせい? 合宿のとき、可奈ちゃんと志保が足手まといになるのを想像したから? まさか…… 
561 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:37:33 ID:AkPpxCOt/.
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562 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:38:22 ID:AkPpxCOt/.
 その日以来、7人の関係はぎくしゃくしたものになり、スクールでのレッスンも、以前のようにはいかなくなった。しばらくすると、可奈が姿を見せなくなる。百合子も他のメンバーも何度かメールを送ったが、返信は無かった。こうなると、さすがに黙っているわけにもいかず、美奈子が代表して765プロと連絡を取ることに。結果、バックダンサーは765プロの預かりとなり、アリーナライブまでのレッスンを、全てアイドル達と合同で行うことになった。そのままでは見込みがないと、プロデューサーに思われたのかもしれない。
 合同レッスンが始まっても、可奈は来なかった。リーダーとして春香も気にしているようで、ある日のレッスンの休憩時間、壁際に座っていた百合子達のところへ、携帯電話を片手にやってきた。

「ちょっといいかな? 今日も可奈ちゃんは……」

 春香は一番近くにいる百合子を見ていた。あまり目立ちたくないとは思うものの、この情況では答えるしかない。

「はい、連絡はしているんですけど……」
「そうなんだ……もう結構経つよね?」

 携帯電話の画面に目を移す春香。可奈との連絡を試み、返信を待っているようだった。
563 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:39:03 ID:AkPpxCOt/.
「可奈、諦めるんやろうか?」
「練習、辛そうだったしね」

 奈緒と美奈子が、お互い目を合わせないまま言い交わす。

「戻って来ないなら来ないで、仕方ないんじゃないですか?」

 汗を拭きながらの志保の言葉に、百合子は心をちくりと刺された気がした──志保、「MILLION LIVE!」のときは、可奈ちゃんと仲良しだったじゃない? なのに、なんで……やっぱり、私のせいなの? 私、こんな展開が見たかったわけじゃないのに……

「み、みんな、憶測で言うのはやめようよ。もしかしたら、何か来れない理由とか、あるのかもしれないし……ほら、学校で補習受けてるとか……ね?」
564 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:39:28 ID:AkPpxCOt/.
 自責の念にかられた百合子は、何とかしようと頑張ってくれている春香の顔を見られなかった。
565 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:39:55 ID:AkPpxCOt/.
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566 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:41:21 ID:AkPpxCOt/.
 アリーナライブ当日まで2か月を切っても、可奈の件は、解決の兆しすらなかった。また、この時期から、本番を想定してセットリスト順に連続で踊る、それまで以上にハードなレッスンが始まった。精神面でも体力面でも厳しい状態で、本も碌に読めず、学園祭や中間テストなどの学校生活にまで影響が出るほど、百合子は追い込まれていた。そんな中、バックダンサー組に対し、春香から話し合いの提案があった。レッスン場にアイドルも含めた全員が集まり、めいめい腰を下したところで、前に立った春香は、まず百合子達に問いかける。

「この中で、ダンスを今の振り付けのままで頑張りたいって人、どのくらいいるのかな?」

 真っ先に奈緒と志保の手が上がり、遅れて美奈子も加わる。杏奈と星梨花は下を向いたままだった。6人の右端に座っていた百合子からは、皆の様子がよく見えた──どうしよう? 私、どうしたら……
 結局、百合子は最後に手を上げた。春香達にこれ以上迷惑をかけられない、という気持ちが優先された感じだった。結果として、4対2。今の演出を続けたいという意見が、多数となる。

「正直にありがとう」

 そう言った春香は、しかし、可奈の話も聞いてから決めたいと、結論を持ちこそうとする。それに対し、志保が異を唱えた。
567 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:42:11 ID:AkPpxCOt/.
「今はそんなこと言ってる場合じゃないんじゃないですか? 私たちも、プロとしてステージに立つからには、みんなライバルだと思っています。自分の出来るだけのことは、ステージで出し切りたい」

 目を伏せて、淡々と、よどみなく。

「先輩たちは違うんですか?」
「それは……」

 最後に顔を上げて問いかけた志保に気圧されたように、春香は口ごもってしまう。しばしの沈黙の後、杏奈が立ち上がった。

「あっ、あの……天海さん……こ、これ……」

 差し出したされたスマートフォンを受け取る春香。その表情が変わる。

「これって……」
「……ごめんなさい、急にメールが来て……どうしていいか分からなかったから……レッスン終わってから、相談しようって思ってたんですけど……」
568 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:43:36 ID:AkPpxCOt/.
 ただならぬ雰囲気に、百合子も他のダンサーも立ち上がる。

「これ、可奈ちゃんのメールなの?」
「は、はい……間違いないです」
「で、でも、なんだか印象が違う感じで……」

 杏奈とやり取りする春香の、明らかに動揺した様子で、可奈のメールがどんな内容なのか、見当はついた。百合子は胸をえぐられるような衝撃を受けた──なんで……なんで可奈ちゃんが諦めちゃうの!? こんなの、認められるわけないじゃない! 私が望んでるお話は……
 百合子ははっとした。望みのままを実現させていたら、バスチアンのようになってしまうかもしれない。現実世界に戻れなくなる可能性も……一瞬の躊躇の間に、志保の声が響く。

「天海さん、もう迷うこと、ないんじゃないですか? あの子を待つ必要は、もうなくなったんだから」
「……ごめん、あの、少しだけ、もう少しだけ、考えさせて欲しいの」
「もう少しって、いつまで待たされるんですか!? 結論なんて、ほぼ出てるじゃないですか! 少なくとも、勝手に諦めて辞めていった可奈のことを、気にかける理由はないはずです!」
「ちょ、ちょっと!?」

 響が止めるのも聞かず、志保は春香への訴えをやめなかった。
569 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:44:31 ID:AkPpxCOt/.
「もう時間が無いんです! 今、進める人間だけでも進まないと、みんなダメになりますよ!?」
「結論を出すにしても、諦めた理由を、ちゃんと可奈ちゃんに確かめてからだよ」
「……話にならないです。なんであなたがリーダーなんですか?」

 どんどん険悪になっていく春香と志保の応酬に、百合子は耐えられなかった──志保、もうやめて! 春香さんもそんな辛そうな顔、しないでください! 悪いのは私なんだから! この世界がこんなふうなのも、可奈ちゃんが来なくなっちゃったのも……言わなきゃ! 全部、私のせいなんだって!
 百合子が2人の間に割って入ろうとした、その瞬間。
570 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:45:04 ID:AkPpxCOt/.
「ストーップ!」

 大声で先んじたのは、伊織だった。

「志保、今のはさすがに言い過ぎよ。アンタの意見も、焦る気持ちもわかるけど、それは言って欲しくない言葉だわ。それから、春香もよ」

 平静だからこその強さで志保を制した伊織は、春香にも釘を刺す。

「そろそろリーダーとして、みんなをまとめていく覚悟を決めて。もうあまり時間はないわよ」

 伊織の仲裁で、いったん嵐は収まった。しかし、感情が乱れたままの百合子は、ほとんど泣きそうだった──私が……私のせいで……私……
571 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:45:33 ID:AkPpxCOt/.
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572 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:46:16 ID:AkPpxCOt/.
 その週末。仕事の入っていた春香と千早以外のメンバーは、レッスン後の打合せが長引いた関係上、泊まりの流れになった。翌日も午前中からレッスンというスケジュールだったので、まとまっていたほうがいい、という事情もあった。最終的には、大人数を受け入れられる雪歩と伊織の家に分かれて厄介になると話が決まり、百合子は杏奈、星梨花とともに、雪歩宅へとお邪魔することになった。他に、真、やよい、真美、貴音も一緒だった。

「すいません、遅くなったとはいえ、みんなで泊めていただくなんて……」

 バックダンサー3人の中で最年長の百合子は、降り出した雨の音を聞きながら、座布団の上で居住まいを正し、挨拶した。広い敷地に、素人目にも逸品と分かる柱や床板を用いた日本家屋。雪歩の部屋も、花の飾られた床の間や皮張りのソファなどがしつらえられ、普通の中学生でも自然と背筋を伸ばしてしまうような空間だった。

「そんな、気にしないで? お泊り会みたいで、私は嬉しいよ?」
「うっうー! この前の合宿を思い出しますー!」

 座卓の反対側で雪歩とやよいが笑い合う。
573 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:47:14 ID:AkPpxCOt/.
「合宿かー。みんな、あのときより、ずいぶん上達したよね?」
「ええ、真、頼もしきことです」

 ソファでクッションを抱えた真も、いつも通り品のある貴音も、優しく微笑みかけてくれる。ただ、今の百合子には、雪歩達の気遣いが心苦しかった。春香と志保の言い争いの後、百合子は結局、自身の秘密を誰にも言わなかった。全てを告白し懺悔しても、理解されるはずもない。それどころか、余計な混乱を引き起こすだけだろう。冷静になってみると、はっきりそう分かった──でも、それならどうすればいいの? 可奈ちゃんのこと、私達のこと、何も解決してないし、このままじゃ、アリーナライブも大失敗になっちゃうし……
 百合子は、並んで座っている杏奈と星梨花を、横目でちらりと見た。2人とも下を向いてしまっている。ダンスについていけていない負い目を感じているのだろう。

「ん? みんなどうしたの? 超ハードな練習で疲れちった?」
「あ、はい……あっ、いえ……」

真美の声に顔を上げたものの、答えに窮する星梨花。その気持ちを察し、百合子は会話を引き取った。

「あの……私たちどうしたらいいのか……」
「えっ?」

 雪歩達の視線が、一斉に自身へと集まる。一瞬怯みかけるが、目を伏せてやり過ごすと、百合子は言葉を続けた。
574 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:48:08 ID:AkPpxCOt/.
「このまま、一緒に続けていいのかなって……天海さんや皆さんが困ってらっしゃるのって、私たちが遅れているから、ですよね? 皆さんの時間を無駄にしているんじゃないかと思って、だから……」
「待って!」

 真の声がして、百合子はいったん言葉を止めた。

「ボクたち、無理なんてしてないよ?」
「ええ、無駄なことなど、なにも……」
「私も、みんなでやった方が、頑張れるっていうか……」
「そうだよ!」

 貴音、やよい、真美も同調する。

「でも、私たちのせいで、ご迷惑を……」
「あっ、あのっ!」
575 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:49:08 ID:AkPpxCOt/.
 再び話を遮られた百合子が視線を向けると、今度は雪歩が、座卓に手をつき、腰を浮かせていた。

「私は、いっぱい頼って欲しいよ? 私じゃ頼りなくてだめだめかもだけど……」

 座りなおした雪歩の声は、静かで、しかし力強かった。

「あのね、私も最初、うまく出来なかったから、気持ち、すごくわかるの。でもね、誰かが一緒に頑張ってくれることに、凄く励まされたんだ。その人達に応えたいから、自分が強くならなきゃって、思えるようになったから……」

 隣の杏奈の、胸の前で両手を握る動きが、視界の端に映る。そうしたくなる気持ちは、痛いほど分かった。尊敬するアイドルの、真摯な心情の吐露。恐れ多さと、もったいなさと、ありがたさに、百合子の心も震えていた。

「だからね、迷惑とか、考えないで。今はただ、どうしたいかだけ考えて欲しいかなって……」

 どうしたいかだけ考えて欲しい。雪歩の言葉を、百合子はその夜、客間に用意してもらった布団の中で嚙み締めていた。バスチアンの轍を踏まないよう、なるべく望みを持たずに過ごしてきたが、どうやら覚悟を決めるべき時が来たらしい──私がこの世界を作ったなら、最後まで責任持たなきゃ、だよね。私はどうしたいの? 「輝きの向こう側」の物語、どういうエンディングにしたい? 今こそ考えなさい、私!
576 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:50:01 ID:AkPpxCOt/.
 翌朝、起き出したとき、百合子の心は決まっていた──春香さんが可奈ちゃんと志保を仲直りさせて、ライブも大成功! それで、みんなで大団円、ハッピーエンドになる! 私が望んでいるのは、そういうお話!
 ずいぶん身勝手で他力本願な気もするが、もともと百合子が読みたかったのは、「輝きの向こう側」へ進んだ春香達の物語だ。どうしたいのかをひたすら考えた末の結論が、「春香さん達の活躍を見たい」になるのは、自然な成り行きとも言えた──ここが本当に、ファンタージエンみたいに、望みのかなう世界だとしたら。私が本当に望んでいることなら、きっと……
 降り続く雨の中、皆で765プロの事務所に向かうと、伊織の家に泊まったグループが先に到着していた。すぐに千早も顔を見せ、最後に春香がやって来る。その春香は、開口一番、今日はレッスンを中止し、可奈を迎えに行くと宣言した。
577 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:51:15 ID:AkPpxCOt/.
「昨日ね、可奈ちゃんと電話したんだ」
「可奈ちゃん、なんて?」

 雪歩の問いかけに、春香は少し間を置いてから答えた。

「『辞めたい』……きっぱり断られちゃった」

 重たい空気の中、百合子の隣で、志保が口を開く。

「でも、それならなぜ?」
「声がね、震えてたの。可奈ちゃん、なんだか凄く無理してるみたいに聞こえたんだ。少なくとも、嫌なもの放り出してほっとしてるような、そんな風には思えなかったの。だから……」
578 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:51:40 ID:AkPpxCOt/.
「待ってください」

 そう言うと、志保は春香の前へと進み出た。

「やっぱりそこなんですか? そんな風に思えなかったことが、そんなに大事なんですか?」

 春香が無言でうなずく。

「全員のライブの練習より何よりも、一人の『かもしれない』を確かめることが、大事なんですか!?」

 再びうなずく春香。

「まずは、可奈ちゃんの気持ち、確かめてからだよ」
579 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:51:59 ID:AkPpxCOt/.
 声色、表情、姿勢。有無を言わせぬ春香の迫力に、志保だけでなく、その場の全員が呑まれたようになる。百合子も、息を殺して成り行きを見守るしかなかった。

「行きましょう」

 沈黙を破ったのは、伊織だった。

「それがリーダーの、アンタの思いなら」
580 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:53:32 ID:AkPpxCOt/.
 ほとんどのメンバーが、可奈の自宅周辺に直接向かう中、百合子は伊織、志保と共に、スクールとその周辺を見てまわった。しかし、特に手がかりらしい手がかりもなく、結局は他のメンバーと合流するため、電車で移動することになる。その車内で、伊織のスマートフォンに、律子からのメールの着信があった。

「律子、今からプロデューサーとアリーナの下見に行くらしいわ」

 伊織に告げられ、百合子は小さく息をのむ。アリーナ。登場人物としての自身にとっては、努力の成果を示すべきステージ。読者として考えるなら、物語がクライマックスを迎えるであろう場所。いずれにしても、ライブ本番までに残された時間は多くないと、改めて突きつけられた気がした──でも、きっとうまくいく、よね? 私が望んでいるんだから……春香さんも、可奈ちゃんのために動いてくれたんだし!
 可奈の家の最寄り駅で電車を降り、改札を出たとき、百合子は星梨花に電話し、情況を聞いた。可奈は見つかっていないが、家の近所の土手にいる可能性があるので、春香や千早と一緒に、今から行ってみる、ということだった。電話を切り、伊織と志保にあらましを伝え、3人で走る。現場に到着したとき、可奈は発見され、橋の真ん中で皆に囲まれていた。
581 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:54:12 ID:AkPpxCOt/.
「なんで……私のことは気にしないでって……」
「うん……でも私、電話で可奈ちゃんと話してても、やっぱり信じられなかったから。アイドルって、そう簡単に諦められるものじゃないって思ったから……そういうものだって、思いたいの」

 パーカーのフードを目深にかぶって俯く可奈に、春香は傘もささず、雨に打たれながら語りかけていた。百合子は、千早や星梨花の後ろから、その様子を見守った。

「私だって、私だって、諦めたくない。でも、もうだめなんです……」

 そう言って、可奈がフードを外す。春香の驚きの声が上がる。何がどうなっているのか、距離のある百合子には、よくわからない。

「アンタ、そんな体形だったかしら?」
「ちょ、ちょっと、ふっくらしたね……」
「まさか、これ気にして逃げたん?」

 少し前に立っている伊織と、可奈を挟んだ反対側にいる真美と奈緒の言葉で、なんとか事情が飲み込めた──可奈ちゃん、そういうことだったんだ……
582 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:54:47 ID:AkPpxCOt/.
「私だって、出来ることなら、一緒にステージに立ちたかったんです。でも、私だけダンス全然下手っぴで、足手まといになっちゃって……」

 雨のせいで視界が悪いのか、昼間にも関わらずライトをつけた車が通り過ぎる。

「なんとかしなきゃって思ったんです。自分で、なんとかしなきゃって。一人でもできるようにならなきゃって。だって、私、天海先輩にサインまで貰って、応援してもらったのに、全然うまくできないから……ストレスでお菓子、いっぱい食べちゃって、こんなみっともない……」

 聞いているのが苦しくなるほど、悲痛な声。顔を覆って泣きじゃくる可奈に、春香は、千早から傘を受け取り、開いて差しかけながら。

「でも、諦めたくないんだよね?」

 一瞬の間の後、可奈が微かにうなずいたように見えた。

「よかったー……」

 そう言ったときの春香は、心底ほっとしたようだった。
583 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:55:33 ID:AkPpxCOt/.
「じゃあ、大丈夫だよ! 一緒に、ステージに立とう!」
「で、でも、私もう、こんなんで……衣装だって入らないし、きっと、余計迷惑かけちゃいます」
「そうじゃなくて、どうしたいか、だけでいいんだよ」

 ──春香さん、雪歩さんと同じことを……
 百合子がそれ以上考えるより早く、伊織の声がした。

「じゃあ、確かめに行く? アリーナへ行けばわかるかもよ?」
「ええ」
「もしもし、律子…さん? あのね、今からそっちに行くから、よろしくなの」

 千早がうなずき、美希が電話をかけるのを見ながら、百合子は戸惑っていた──アリーナに? どうしたいかを確かめにって、どういうこと? 
584 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:55:51 ID:AkPpxCOt/.
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585 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:56:32 ID:AkPpxCOt/.
 学校の体育館の何倍もあるフロア。左手から正面、さらに右手へとU字型に続く、2階層の観客席。ひたすら高い天井と、そこから吊り下げられる大型ビジョン。アリーナのステージ上で、百合子は見える物全てに圧倒されていた。

「前やった会場とは、規模が違うね……」

 誰に言うでもなく、思いを素直に口にする。

「ここにお客さん入ったら、どうなっちゃうんだろう……」

 同じような気持ちになっているだろう美奈子の言葉に、百合子は、目の前に広がる空間がファンでいっぱいになっている様を想像した。地鳴りのような大歓声、数えきれないペンライト、みんなの笑顔……それらは本当に聞こえ、見えた気した。
586 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:57:28 ID:AkPpxCOt/.
「私……」

 背後から、可奈の呟きが聞こえる。その声に反応したように、突然、春香が駆け出した。向かう先は、仮組されている花道。えっ、と百合子が思う間に、一番前までたどり着いていた春香は、大声で叫んだ。

「後ろの席まで、ちゃーんと見えてるからねー!!」

 マイクなしでも会場全体に広がる反響。それが消えてから。

「はあ、広いなー」

 感に堪えないといった風の声を漏らし、春香が振り向く。そして、少し照れたような笑顔を浮かべながら、話し始めた。
587 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:58:00 ID:AkPpxCOt/.
「私ね、いつも、一番後ろのお客さんまで、声、届けようって思ってるの。ソロでも、全員のライブでも、全部。それで、その度にね、ステージって広いなーって思うんだ。でも同時に、私ひとりじゃない、って思うの」

 ステージ上の誰もが、身じろぎ一つしない。百合子も、春香の一言一句を聞き漏らすまいと、耳に神経を集中させていた。

「えっと、うまく言えないんだけど……あのね、私の今いる場所は、今までの全部で出来てるんだってことなの。伊織、真、雪歩、やよい、響ちゃん、貴音さん、あずささん、亜美、真美、美希、千早ちゃん、律子さん、プロデューサーさん、小鳥さん、高木社長……他にも、たくさんの人と出会って、私はアイドルとして、今、ここに立ててるんだって思う。誰か1人でも欠けてしまったら、たどり着けなかったんだなって。出会って、今、一緒にいるってことは、私にとってそれくらい大事なことなの」

 春香の言葉が、百合子の胸の奥に突き刺さる。1人でも欠けたら、たどり着けない──私、今、物凄く大切なこと、教わってる。
588 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:58:53 ID:AkPpxCOt/.
「奈緒ちゃん」
「はっ、はいっ!」
「美奈子ちゃん」
「え……」

 少し間を置いてからの春香の呼びかけに、奈緒は慌て、美奈子は戸惑った感じで、それぞれ反応する。

「星梨奈ちゃん、杏奈ちゃん」

 2人の答える声は、百合子の立ち位置までは届いてこなかった。

「百合子ちゃん、志保ちゃん」

 自身の番が来たとき、百合子は返事をしようとしたが、喉も舌もまともに動かず、結局何も言えなかった。志保も黙ったままだった。
589 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/23 23:59:35 ID:AkPpxCOt/.
「ね? 可奈ちゃんも同じだよ!」

 背後にいる可奈の、しゃくりあげる様子が、耳に伝わる。

「私たちは、今ここにいて、それぞれ目標も考え方も違ってて、それでもこのライブのためにみんな集まったの。それが今なんだよ。誰か1人でも欠けちゃったら、次のステージには行けない」

 言葉を切り、春香は首を横に振った。

「もしかしたら、もっといい方法があるのかもだけど……でも、私は天海春香だから」

春香は、一人一人に目を合わせるよう、視線を動かしていく。

「私は今、このメンバーのリーダーだけど、その前にやっぱり私だから、全員で走り抜きたい。今の全部で、このライブを成功させたいの!」
590 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/24 00:00:34 ID:Z3p7IAsH4o
 ──春香さん……
 百合子は頭が真っ白になっていた。「THE iDOLM@STER」の読み手として、この「輝きの向こう側」を産み出した張本人として、そしてアイドル天海春香の後輩として。今までの全てが胸に迫り、感情が溢れ、泣きそうになる。
591 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/24 00:01:41 ID:Z3p7IAsH4o
「……きたい」

絞り出すような声。百合子の振り向いた先には、下を向き、肩にかけられたタオルを強く握りしめている可奈がいた。

「……一緒に、行きたいです……私も、一緒に……」

そう言いながら、可奈は両手で顔を覆った。それでもこぼれ落ちる大粒の涙が、ステージを濡らしていく。
592 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/24 00:02:43 ID:Z3p7IAsH4o
「諦めたくない! アイドル、諦めたくないんです! 一緒にステージに立ちたい!」
「可奈……」

奈緒が呟くのと同時に、星梨花が可奈のもとへ駆け寄る。

「可奈ちゃん! 私も、諦めずに頑張ることにしたんだよ!」

少し遅れて、杏奈も。

「杏奈も、最後まで走るから! 一緒に……」

肩を震わせ続ける可奈と、レッスンで苦しんでいた星梨花と杏奈。3人の様子を見て、百合子は本能的に自身の役回りを悟った──あの子たちの「どうしたいか」を守らなきゃ! 私、お姉さんなんだから!
593 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/24 00:03:34 ID:Z3p7IAsH4o
「みんなで、元のフォーメーションのままでもいけるように、なんとかやってみるから……」

 夢中で進み出て、美奈子と奈緒、そして志保の目を順番に見ながら訴えかけるものの、途中で言葉が出てこなくなる。それでも、奈緒と美奈子には、言わんとすることが伝わったようだった。

「そんなん、私かて、周り見えてへんかったし……」
「お互い協力しなきゃいけなかったのに……」

そして志保には、伊織が歩み寄ってくれていた。

「アンタはどうなの?」
「え?」
「春香も可奈も、どうしたいかを言っただけだもの。言いたいことがあったら、言うべきよ」
594 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/24 00:04:06 ID:Z3p7IAsH4o
伊織と志保が客席のほうを向く。百合子もつられたように首を動かした。

「そのために春香はあそこで待ってる」

伊織の言うとおり、花道にたたずむ春香は、じっと志保を見ていた。百合子は春香の視線を追うように、再び志保と伊織のほうを向いた。しばらくの間があったあと、志保が首を横に振った。

「あるはず、ないです。このステージは、今立っているこの場所は、私が思っていたよりも、ずっと、重たかったから……」

百合子は口に手を当て、嗚咽が漏れそうになるのをこらえた──可奈ちゃん、志保、みんな……ありがとう!! 先輩たち、春香さん、本当に……ありがとうございました!!
595 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/24 00:04:30 ID:Z3p7IAsH4o
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596 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/24 00:05:30 ID:Z3p7IAsH4o
 アリーナの外に出ると、雨はあがっていた。出入口付近に敷かれたタイルは濡れていたが、雲の切れ間から差す日に照らされ、輝いていた。鳥の声も聞こえる中、百合子達バックダンサーは春香達に挨拶するため、一列に並んだ。最初に口を開いたのは、いつも通り、美奈子だった。

「じゃあ私たち、このままスクールに寄っていきます」
「うん。今日はありがとう」

 春香の返事に、百合子は美奈子より早く反応する。

「いえ、私たちの方こそ、ありがとうございました」

 ありがとう。この言葉を、百合子はとにかく言いたかった──ちょっと出しゃばりかもだけど、でも言えてよかった!
597 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/24 00:06:21 ID:Z3p7IAsH4o
「これからみんなで挽回していきます」
「よーし、まずは元気付けに、おいしいもの、ごちそうするよ?」
「それは今の可奈にはあかんて」

 百合子の後に続いた奈緒と美奈子の掛け合いに、皆がどっと湧く。そして、笑い声がひとしきり収まったあと。

「あの……天海さん」
「うん?」

 声をかけた志保と、かけられた春香が、お互い歩み寄る。向き合う2人を見ながら、百合子は初めて気が付いた──春香さん、志保より背、低いんだ。
598 : ダーリン   2024/02/24 00:06:53 ID:Z3p7IAsH4o
「どうしたの?」
「色々と言葉が過ぎたと、反省しています。すみません」

 志保が頭を下げる。

「え、いいよ、いいよ」
「……私には、天海さんのような考え方、まだ出来ないと思います。でも……」
「ううん」

 首を振り、春香は微笑んで言った。

「考え方は人それぞれでいいと思う。ライブ、一緒に成功させよ!」

 そのときの志保がどんな表情だったのか、後ろから見ていた百合子には分からなかった。ただ、少しして軽くお辞儀をしたその姿は、これまでになく柔らかいものに思えた。そして。
599 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/24 00:07:48 ID:Z3p7IAsH4o
「天海先輩!」
「……それじゃ」

 可奈の声を潮に、志保は踵を返し、百合子達の位置へ戻ってくる。一方、可奈はその様子を目で追いながら、入れ替わるように、春香の前へと歩を進めた。

「あ、あの、天海先輩。私、もう絶対諦めるなんて言いません! みんなと一緒に頑張ります!」
「うん!」
「それで、やっぱり思ったんです。私、やっぱり春香ちゃんみたいなアイドルになりたいって!」

 シンプルな可奈の望みは、意外なほど百合子の胸に響いた。アイドルになりたい──可奈ちゃんだけじゃないよね。杏奈ちゃんも星梨花ちゃんも、美奈子さん、奈緒さん、もちろん志保も。それに、この「輝きの向こう側」の物語に出てくる、登場人物としての七尾百合子も。みんな、アイドルを夢見て、今、ここにいて……じゃあ、現実の七尾百合子は? 読みたかったお話を実現させた私は、次に何を望むの?
600 : THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!◆9RCctPo346c   2024/02/24 00:08:38 ID:Z3p7IAsH4o
「……春香ちゃん?」
「あ、す、す、すいません!」

 奈緒のつっこみに慌てる可奈。その様子を前にしながら、百合子の脳裏には、ステージ上で想像した光景が蘇っていた──ペンライト、綺麗だったな。あれが、アイドルの見る景色なんだとしたら、私、いつか……あれ?
 突然、百合子の世界は大きく揺らいだ──立ち眩み? 危ない!

「あはは……じゃあ、私も、頑張る!」

 春香の声が遠ざかっていく。倒れる、と思った、次の瞬間。百合子の視覚と平衡感覚は、正常を取り戻した。しかし、瞳孔を通る光によって作られた絵面は、理解の範疇を超えていた。
601 : はてしないTHE iDOLM@STER◆9RCctPo346c   2024/02/24 00:09:00 ID:Z3p7IAsH4o
────
602 : ???◆9RCctPo346c   2024/02/24 00:10:18 ID:Z3p7IAsH4o
 眼前に広がる空間の、下側三分の一には白い雲が、上側三分の二には青い空が、それぞれどこまでも広がっている。その間を、まっすぐ、延々と続く虹色の道に、百合子は立っていた。振り仰いだ天の高みには、星やUFOの形、「めざせ! トップアイドル!!」の文字などが、飛行機雲で描かれている。視線を手前に移すと、「765PRO Live THEATER」と書いてある、一本足の看板が立っていた。

「ここ……」

 どこ、という疑問を口にすらできないほど、百合子は困惑していた──さっきまでアリーナの出入口のとこだったよね? 可奈ちゃんやみんなは? 春香さん達は?
603 : ???◆9RCctPo346c   2024/02/24 00:11:34 ID:Z3p7IAsH4o
 首を左右に巡らせても、雲と空があるばかり。ただ、背後に何かあるのは見えた気がした。左足を引き、腰をひねって半身になった百合子は、その何かが、2、3メートル離れて虹色の道を塞ぎ立つ、自身の背丈の倍ほどもありそうな、大きな扉だと知った。両開きで、上の方が半円状の、ファンタジーゲームのお城や教会にありがちな形、色は赤く、枠と装飾に銀色の金属が嵌められていて、縦に長い取手もついている。そこまで見て取ったとき、百合子は忽然と、全てを悟った。

「……どうして……」

 百合子の呟きには、納得できない気持ちがよく現れていた──このタイミングで、現実に帰るなんて! 「輝きの向こう側」のお話、まだ終わってないのに……
 百合子はふと耳を澄ました。誰かに呼ばれているような気がする。

「……りこちゃーん……」

 微かだったけれども、今度は間違いなかった。声のした方向、扉とは反対側に顔を向けなおすと、虹色の道の彼方に、小さな人影が見えた。
604 : ???◆9RCctPo346c   2024/02/24 00:12:38 ID:Z3p7IAsH4o
「百合子ちゃん、待ってー!」

 だんだん大きくなる声と姿。走って来るのが春香だというのは、すぐに分かった。

「はぁ、はぁ……百合子ちゃ、うわぁっとっと……」
「は、春香さん!?」

 「765PRO Live THEATER」の看板のところまで来た春香が、脚をもつれさせる。慌てて駆け寄った百合子の前で、春香はなんとか転ばずに踏みとどまると、息を切らしながらも顔を上げた。

「えへへ……」

 照れ笑いを浮かべる春香が身にまとっているのは、深緑色を基調とした、鼓笛隊やカラーガードを思わせるシルエットの、見たことのないステージ衣装だった。
605 : ???◆9RCctPo346c   2024/02/24 00:14:06 ID:Z3p7IAsH4o
「良かったー、間に合った!」
「え、間に合ったって……」
「だって百合子ちゃん、もう帰るところだったんでしょ?」

 ──「幼ごころの君」の春香さん!
 百合子の脳裏に、「MILLION LIVE!」の最後のシーンが蘇る。目の前にいるのは、あのとき、自身に呼びかけてくれた人。そう認識できた途端、百合子は自然と、胸の内を口にしていた。
 
「あの、春香さん……私、帰らなきゃダメなんですか?」
「え?」
「私だって、この世界に来てから、ずっと頑張ってきたんです。だから、可奈ちゃんの気持ちもよく分かるっていうか……」
606 : ???◆9RCctPo346c   2024/02/24 00:15:14 ID:Z3p7IAsH4o
 言っているうちに、だんだん気持ちが高まって来る。

「私も、みんなと一緒にステージに立ちたいです! 帰りたくな……」
「だ、ダメだよ百合子ちゃん! そんなこと望んだら、元の世界に戻れなくなっちゃうよ?」
「……あ……」

 慌てたように手を振る春香の警告を受け、百合子はひやりとした。帰りたくないと望んで、それがかなったとしたら──でも、「輝きの向こう側」の物語、最後まで見れないなんて……
 葛藤する百合子を労わるように、春香の言葉は続いた。

「ありがとね、百合子ちゃん。百合子ちゃんのおかげで、私達、まだ道が続いているんだって分かったんだよ。これからも、進み続けられるんだって」
「春香さん……」

 ──そっか、私、役目は果たせたんだ。
 春香達を前に進ませる。誰に言われたわけでもないが、それが自身の責務だと百合子は感じていた。だから、春香の言葉に安堵したのだが、それとは別に、バックダンサーへの未練は残っていた。
607 : ???◆9RCctPo346c   2024/02/24 00:16:04 ID:Z3p7IAsH4o
「春香さん、私、あのステージで、見えたんです」
「うん」
「アリーナが、ファンの人達でいっぱいになってて」
「うん」
「みんな嬉しそうで、ペンライトの光が、まるで星の海みたいで」
「うん!」
「だから、やっぱり私……」
「なら、大丈夫!」

 突然の大声に、百合子はまじまじと春香の顔を見た。そこには、満面の笑みが浮かんでいた。

「百合子ちゃんも、進んで! 今は別々の道でも、私達、きっとまた会えるから!」
「……えっと、それはどういう……」
「だって、ステージに立って、いろいろ感じたんでしょ? そしたら、なりたいものとか、やりたいこととか、できたはずだよ!」
608 : ???◆9RCctPo346c   2024/02/24 00:17:42 ID:Z3p7IAsH4o
 ──なりたいもの? やりたいこと?
 春香の言っていることが、わかるような、わからないような。戸惑いの中、百合子は、春香の視線が自身の背後へと移っているのに気づいた。

「でもね、百合子ちゃんが上がるべきステージは、この世界じゃなくて……」

 振り返った先で、赤く大きな扉が、音もなく手前に開き始める。そこから、黄金色の柔らかな光があふれ出し、周囲の空や雲を照らしていく。荘厳としか言いようのない光景に、百合子は目を奪われた。

「あの先にも、765プロの未来があるから。ね?」
「は、はい!」
609 : ???◆9RCctPo346c   2024/02/24 00:18:19 ID:Z3p7IAsH4o
 春香の言葉に背中を押され、百合子は半ば夢心地で、光へと踏み出した。上がるべきステージ、765プロの未来。何を言われているのか、よく理解できないのは、さっきと同じだった。それでも、春香の言うとおり、自身も進むべきだと、百合子は直感していた。

「大事なのは、『どうしたいか』だよ! 忘れないで!」

 その声を背中に聞いたのは、扉を通る瞬間だった。振り向きざま、微笑む春香が一瞬見えた後、百合子の視界は金色に染まった。

「本当に、ありがとうございました!」

 心の底からの叫びが、春香に届くよう願いながら、百合子は光の中へと沈んでいった。
610 : はてしないTHE iDOLM@STER◆9RCctPo346c   2024/02/24 00:18:37 ID:Z3p7IAsH4o
────
611 : THE iDOLM@STER MILLION LIVE! THEATER DAYS◆9RCctPo346c   2024/02/24 00:20:11 ID:Z3p7IAsH4o
「百合子、起きろー! 百合子ー!」

 誰かに呼ばれ、肩を揺さぶられている。

「ん……お父さん?」
「また、こんなところで寝て……ちゃんと起きたら、下りてきて、夕ご飯の支度、手伝ってくれよ」
「あ、うん……」

 両腕の上に突っ伏していた顔を上げると、父親が部屋から出ていくところだった。その後ろ姿をぼんやりと見送る間に、意識がはっきりしてきた百合子は、室内を見まわした。扉、クローゼット、ベッド、本棚、机。腕を乗せたローテーブルは、ベッドと本棚の間に置かれ、お尻の下にはお気に入りのクッションがある。窓の外の明るさは、カーテン越しにも分かったが、直接入り込む日差しはなかった。
612 : THE iDOLM@STER MILLION LIVE! THEATER DAYS◆9RCctPo346c   2024/02/24 00:20:56 ID:Z3p7IAsH4o
 百合子はゆっくり立ち上がると、机に向かった。充電中のスマートフォンに手を伸ばすと、画面に浮かび上がった時刻は17:32、日付は7月の3連休の最終日だった。机上には他に、本も一冊、置かれていた。 冬馬とバス停で出会った、遠い昔のように思える日、しかしカレンダー上では前日に買った、お気に入りのヒロイックファンタジーシリーズの最新刊。「輝きの向こう側」の物語の中では、時間的にも気持ち的にも余裕がなく、手つかずのままになっていたそれを手に取り、百合子は実感した──私、戻って来たんだ!
613 : THE iDOLM@STER MILLION LIVE! THEATER DAYS◆9RCctPo346c   2024/02/24 00:21:22 ID:Z3p7IAsH4o
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614 : THE iDOLM@STER MILLION LIVE! THEATER DAYS◆9RCctPo346c   2024/02/24 00:23:43 ID:Z3p7IAsH4o
「行ってきまーす」

 制服に身を包んだ百合子は、家の中に向かって一声かけてから、ドアを閉めた。連休明けの、火曜日の朝。現実世界では、もちろん765プロの合宿などない。学校に行く、ごく普通の日常が、そこにあった。
 前日の夜、食事の準備をする間も、食べているときも、そのあとのお風呂でも、戻った自室でも、百合子は春香の言葉の意味を考え続けた。なりたいもの、やりたいこと。いろいろ思い浮かべる中で、一際強く、何度も心に描き出されたのは、アリーナのステージで見えた幻影だった。あの景色を、本当に目にすることができるなら──私、アイドルになりたいの? 「THE iDOLM@STER」を読むまでは、ほとんど興味なかったのに? だいたい、なりたいからってなれるものでもないし。でも、大事なのはどうしたいかだって、春香さんが……
 結論は出なかった。ただ、立ち止まったままでいるつもりもなかった。「進んで」と春香に言われていたし、そうでなくとも、レッスンを重ねてきた身体がうずうずし、早く何かをしたくてしかたなかった。
 百合子は腰のところから手を回し、背負った通学用リュックに触れてみた。そして、一昨日買った本がそこにあると、ナイロン越しに確かめると、改めて心を決めた──今日のホームルームで、立候補しなきゃ。夏休み明けの学園祭で、これの朗読劇をやります、って。
 アリーナとは規模がまるで違うし、頑張ったダンスを披露できるわけでもない。とはいえ、お客さんの前に立つのは一緒だ。春香からも、現実世界に上がるべきステージがあると示唆されたし、せっかくのチャンス、逃すわけにはいかない。
615 : THE iDOLM@STER MILLION LIVE! THEATER DAYS◆9RCctPo346c   2024/02/24 00:26:23 ID:Z3p7IAsH4o
 百合子は歩きながら、春香が他に言っていたことも思い出していた──また会える、って、本当かな? でも……

「765プロの未来は、ここにある」

 呟いた百合子は、空を見た。快晴とまではいかないものの、十分に晴れている──この現実が、「THE iDOLM@STER」の中の世界じゃないって、言い切れる? こうやって私が空を見てるのも、誰かが読んでいる本に書いてあることかもしれないじゃない? もし、その誰かが、いつか、今のお話の続きを読みたいと望んでくれたら……
 ありきたりな想像だとは思った。それでも百合子は、見上げた青空のはるか向こうに、このお話の読み手がいるように感じられた。今、もしかすると、目があっているかもしれない。百合子は、見つめる先にあなたがいると信じて、そっと呼びかけた。

「私の新しい物語、創ってくれますか?」
616 : 765歌劇場P◆9RCctPo346c   2024/02/24 00:29:21 ID:Z3p7IAsH4o
完結です。
ここまで読まれた方、ありがとうございました。
推敲と校正が終わって、保存先が決まったら、URLを貼りに来たいと思います。
それでは。
617 : 兄(C)   2024/02/24 02:55:31 ID:FGfQ7bGUU6
>>616
大作完結乙でした!URLは
【定期】アイマスSS書きたい人を支援する・作者情報交換スレ 2
にも貼ってくださいね!
618 : プロデューサーちゃん   2024/02/24 11:26:57 ID:RwqiuQv1gA
>>625 >>626
の間抜けてませんか?
内容が飛んでいる気がしたので
619 : ミスター・不純物   2024/02/24 11:27:52 ID:RwqiuQv1gA
>>525 >>526
でした
620 : 765歌劇場P◆9RCctPo346c   2024/02/24 14:29:47 ID:Z3p7IAsH4o
>>617
乙ありがとうございます。
URL貼り付けも忘れないようにします。
621 : 765歌劇場P◆9RCctPo346c   2024/02/24 14:31:49 ID:Z3p7IAsH4o
>>618
>>619
抜けてますね、コピペミスです。
ご指摘ありがとうございました。
622 : 765歌劇場P◆9RCctPo346c   2024/02/24 14:34:17 ID:Z3p7IAsH4o
>>525>>526の間に、以下の3行が入ります。

「……765プロの人達、どんな感じ、なのかな?」
「あー……どうなんだろ?」
「……杏奈、初めての人と話すの、苦手だし……12人もいるから……」

失礼しました。
623 : 765歌劇場P◆9RCctPo346c   2024/02/26 23:56:00 ID:8d5RCglLn.
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=21666329

上記サイトに保存しました。
少し変えてある部分もあります。
よろしければご覧ください。
それでは。
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